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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第五章:幻惑の勇者ろうらく作戦
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ベルジィの企て1

 オーマ達は全くベルジィの手掛かりがつかめない状況ながらも、少ない情報で何とかベルジィの居場所や彼女の能力を推理した。

だが、そうして網を張ってみたものの、ベルジィを見つける事ができなかった。

 ____いや。それどころか、ここ数日のゴットン商会の行動を見ていたベルジィは、ゴットン商会を再び怪しむようになっていた_____。




 「うーん・・・」


オーマ達の作戦が失敗ばかり続いていたある日の夜、そのオーマ達の様子に疑問を抱き始めていたベルジィは、ソノア・エリクシールの二階で一人考え事をしていた。


 基本的にベルジィの夜の時間帯は、夜の店ミリアン・コールにオーナーとして出勤している。

だが、店には二日に一回のペースでしか出勤しておらず、出勤日ではない今日は休みだ。

出勤の無い日はいつも、大好きなBL本を読んで過ごすのだが、今日はゴットン商会の事が気になって手が付いていなかった。


「ゴットン商会の人達・・・何者なのかしら?」


 最初、店にやって来た時は強く警戒していた。

人数、年齢、魔力とも、商人と傭兵というには怪しいと判断していた。

だが、後に組織の裏が取れて人柄も見えて来ると、信用できそうな一団だと思えた・・・・BL本の入荷も期待できそうで歓迎するつもりだった。


「でもなぁ・・・」


 最近のゴットン商会の言動を見ていると、ただの商人と、それに雇われた傭兵とは思えないときがあり、ベルジィは疑念を抱くようになっていた。


「よく見るとネリスさんは、戦士じゃないかってくらい体格も良いし、勘が鋭かったりするんだよねぇ・・・まあ、商人にも勘は大事だけど」


 他にもベルジィは、雷鳴の戦慄団なる傭兵団の一行にも疑問を持っていた。

理性的で統率が取れている・・・取れ過ぎている。まるで軍人だ。大抵の傭兵団はもっと粗野で粗暴だ。

特に、オルスからは幼少期に戦災孤児になって傭兵で叩き上げただけとは思えない知性と教養を感じていた。


「何処かで真っ当な教育を受けてきたはずなのよねぇ・・・」


 だが、仮にネリスやオルスが何処かの勢力のスパイなら、政治と関与していないゴットン商会の籍を持っているのは不思議な事だ。

ゴットン商会自体は、商人たちから聞いても裏が取れ、役所で書類審査も通っている、歴とした事業団体だ。

なら、わざわざカモフラージュのために政治と係わりの薄い商会を隠れ蓑に選んだという推理が成り立つが、その場合_____


「____かなり厄介よね」


 それが意味するところは、絶対に自分達の正体を知られたくないという事と、このスラルバンとボンジアの情勢にそこまで手間をかけるメリットが有り、そういう商人をこの情勢のためだけに抱える力を持っている勢力という事になる。

つまり_____


「ドネレイム帝国かココチア連邦よね・・・」


____という仮説が成り立つのだ。

 そう推理したベルジィの背中に冷たい汗が流れる・・・ベルジィとはいえ、この二か国を相手にする場合は、かなりのリスクを背負うことになるからだ。


「あの二か国の精鋭相手じゃ、私の力が通用する保証が無い・・・」


ベルジィは、ネリス達ゴットン商会の人間に対して、自分の力を使う事に慎重になっていた。

前回の作戦会議で、オーマが推理したベルジィの能力についての考察は、実はわりと的を射ていたのだ。



 ベルジィの持つ幻影属性と薬物属性を組み合わせた幻惑の力____。

その効果は恐るべきものではあるのだが、カスミが評価し、オーマ達が恐れるほど、ベルジィ自身のこの能力に対する自己採点は決して高くない。

 先ず、対象が幻を見た時に、視覚だけではなく、それ以外の感覚でも、それを実体として認識させるため、幻覚症状を引き起こす毒と、感覚と神経を侵す毒を盛らなければならない。

これ自体は、ベルジィは水属性と樹属性を持っているので、霧にして散布したり、植物の花粉を利用したりして盛る事ができるので、苦労もリスクもあまりない。

だが、この様な範囲型の魔法で毒を撒く場合、魔法耐性の高い相手には通用しない事がある。

 具体的に言ってしまうと、現段階でのベルジィの幻惑の力では、スラルバンやボンジア、それとドネレイム帝国の一般兵くらいには通用するが、それ以上の相手には個人に集中しなければ通用しないのだ。

つまり、勇者候補はもちろん、オーマやヴァリネスと言った団長クラスどころか、フラン達部隊長クラスにさえ、直接幻惑の力を行使しないと通用しないのだ。

 実際、前回のドネレイム帝国のスパイ(バグス)が相手のときには、この方法が通用しないと判断していた。

更には、必ず複数人で行動していたので、一人一人に術を仕掛けることもできなかったので、先に彼らの飲み水に毒や魔法の耐性効果を下げる毒を盛るという手段を取る必要が有った。

スパイはそう簡単に地元の物を飲食しないので、かなり苦労したのを覚えている。

 能力は破格だが、やはりRANK3の上位属性二つを鍛えるというのは、サレンの源属性ほどではないが、たとえ勇者候補に上がるベルジィでも困難なのだ。

魔導後進国で独学による学習なら尚更だろう。

 毒さえ効けば、幻影魔法の効果範囲は広いので大きな効果を生み出せるが、その毒が誰にでも通用するというわけではなく、その力が通用する対象レベルも決して高くないというのが、現段階における勇者候補ベルジィ・ジュジュの幻惑の力の弱点だった。

 このため、ドネレイム帝国やココチア連邦の様な魔導先進国を相手にする場合、かなりのリスクが伴うのだ。

もちろん、普通に戦ってもベルジィは強いが、それだと結局バージアが戦火に巻き込まれることになる。


 「やっぱり、確認するべきね_____」


 もし、ネリス達が再びやって来た帝国のスパイだった場合、リスクを放置しても、それ以上のリスクを自分とバージア(ライオン・ケイブ)が負うことになってしまう。

誰か一人___。何とかゴットン商会の者達のスキを突いて、一人だけでいいので術を仕掛けたいところだ。


「誰がいいかしら?・・・先ず、商人たちはダメよね」


 ゴットン商会の誰をターゲットにするかを考え始めたベルジィは、先ず真っ先に商人の立場の人間を除外する。

普通に考えれば、高い魔力を有している傭兵よりターゲットにし易いと思われるが、この考えをベルジィは危険だと判断する。

何故なら、レベルの高い魔導士の方が、魔力を隠すのも上手いからだ。

ベルジィでも看破できない方法で魔力を隠している可能性は否定できない。

そのため、ゴットン商会の商人の立場の人間は“魔導士ではない”ではなく、“魔導士として未知数”でしかなく、幻惑の術を仕掛ける対象にするには、現段階においてリスクがある。


「だから傭兵団の五人の内の誰かよね・・・先ず、オルスさんとミスティさんは危険よね」


 団長のオルスは高い魔力に加え、こういった工作戦自体に耐性が有るようにベルジィは感じていた。

傭兵の叩き上げというのが本当かどうかは分からないが、それに近い経験はしているのだろう。

なら彼から感じる魔力=戦闘力と断言することはできない。

 そして、ミスティ___。

傭兵団のメンバーの中では若い方だが、一番高い魔力を有しているだろう。

本当の実力は分からないが、ベルジィは内心で“自分と互角かも?”とも感じていて、戦う場合は一番危険な相手と判断していた。

 となれば、残るはワムガ、セリナ、ラシラの三人の内の誰かという事になるが_____


「_____よし」


術を仕掛けるターゲットを決めたベルジィは、そのまま作戦も考え夜を過ごすのだった____。

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