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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第五章:幻惑の勇者ろうらく作戦
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幻惑の勇者ろうらく作戦会議2

 ソノア・エリクシールでの騒動があったその日の夜。

ゴットン商会ことサンダーラッツ一同は、レインとユイラも戻って来たので、再び魔法探知阻害を掛けたオーマの部屋に集まり、第九回勇者ろうらく作戦会議を開いて、途中経過の報告会を行っていた____。




 「____何だぁ?じゃー、あの怪しい気配は、他の皆も感じていたのか?」

「はい。私達はライオン・ケイブという本屋で、です」

「おう。サレンとイワで店の中で話していたら、半端じゃなく禍々しい気配を感じた。スカーマリスで会った准魔王以上だったぞ」

「こっちもだ。ウェイフィーちゃんとジェネリーちゃんとで酒場でデートしていたら、異常な気配を察して背筋が凍ったような気分になった」

「うん。やばかった。後、デートじゃない」

「はい、前触れも無くいきなりでした。後、デートじゃなありません」

「・・・二人共~、わざわざ否定しなくてもよくない?」


「「よくない」」


「____クスン」


ウェイフィーとジェネリーに全否定されて落ち込むフランを無視して、オーマ達はこの件について考える。


「何なんだ?ミクネが准魔王以上だと言うなら、気配の正体は恐らくベルジィだと思うが、状況に何の共通点も無い」

「そうね。時間、場所、人、数も全部バラバラ」

「唯一の共通点は商業区域内ってだけですね」

「それが分かっただけでも進歩では?」

「でも、確証はないですよね?」

「現段階じゃ決めつけ。良くない・・・」

「そうですよね。探索組のミクネさん達がその気配と出会っているのに探し出せないとなると、それが分かっていても____」

「正体に行きつくのは困難だな」

「他に何か共通点や法則性でも有れば良いのですが・・・」


「「うーん・・・」」


本当はもう一つ、とんでもない共通点が有るのだが、一同が気付けるものではなかった。

 皆が感じた気配は、勇者候補の子達も脅威に感じることから、ベルジィに関係するものだと皆が推理する。

そして、その気配の意味や法則性について皆で意見を出す中、フランが不穏な考察を提示した。


「な、なあ?ベルジィちゃんの幻惑の力って、魔法を掛けられている事に気付く事すらできない可能性が有んだよな?ならさ____」

「・・・もしかして、もう既に我々はベルジィの影響下に居ると言いたいのか?」

「その可能性はあるだろう?」

「だとするなら、どうすれば?」

「もしそうなら、普通にもう無理」

「手の打ちようがないのですよね」


フランの仮説は驚くべきものだが、現状では否定も肯定も出来ないものだったため、その場のほぼ全員に緊張が走る____。

 だがオーマは、これをはっきりと否定した。


「いや、もし、俺達の正体がバレていて、ベルジィに攻撃されているなら、死んでいるか、バグス同様に帝都に戻っているはずだ」

「そうよね。それに私達や他のメンバーはともかく、サレンの力の下に居るミクネやイワが、ベルジィの影響を受けているというのは、ベルジィの力が未知数とは言え考えにくいわ」


オーマ同様にフランの仮説に疑問を持つヴァリネスも補足を加える。


「確かに・・・」

「魔法そのものが通用しませんもんね」

「だが、あの気配は、恐らくベルジィのモノだろう。その上で考えると、攻撃ではなく、ただ探りを入れられているという可能性は有る」

「どういうこと?団長?」


 フランの仮説を否定した上で、今度はオーマが自分の推理を披露し始めた。


「ベルジィの立場を考えた場合、そう言えると思うんだ。彼女は、ほぼ間違いなく一人でこの戦争を止め続けているだろう。何故なら、バグスが一度探っている。バグスならベルジィ自身を見付け出せなくても、協力者くらいなら見付け出せていただろうからな。その上で疑問なんだが、これまでも状況を変えようと、スラルバンもボンジアも、帝国も連邦もこの地にスパイを送り込んでいたはずなんだ。なんなら他の勢力だって介入しようとしていただろう。そんな連中をどうやって一人で排除していただろうか?」

「だから幻惑の力だろ?」

「フラン、団長が言っているのは、その幻惑の力を具体的にどう使用して来たのか?って事だと思いますよ」

「その通りだ、クシナ。俺が思うに、彼女はこの街に新たにやって来た人間は、全員調べているんじゃないかと思うんだ。ベルジィの幻惑の力、さすがにずっとこの街中や戦闘区域に影響を与え続けることは出来ないだろう」

「確かに、そんな事ができるなら、戦争そのものを終わった事にする幻惑を掛けて終戦させえているはずだもんね。彼女の力も、一定の範囲と一定の時間内はずよ」

「加えるなら、幻惑を掛ける人数だけじゃなく、質も考えなきゃいけないんじゃないか?」

「質?」

「個人の魔法耐性だよ。能力の高い魔導士ほど魔法耐性が高い傾向にある。彼女は、攻撃対象が幻惑の力が及ぶレベルの相手かを見極めなきゃならないんじゃないか?それに加え、彼女の顔が俺達でも分かっているという事は、スラルバンはもちろんボンジアでもある程度顔が知られているという要素がある」

「スラルバン王がバージアを放棄すると言い出すまで、戦場に居たわけですし、そうでしょうね」

「でも、それが?何が言いたいのですか?団長?」

「正体が分からない相手だから想像しづらいが、ベルジィもリスクを背負っているだろうって事だ」

「なるほど。幻惑の力にも効果範囲、効果時間、効果対象レベルがあると」

「そして軍属の者には顔が知られているから、一度でも失敗して姿を見られたら潜入を継続できなくなる」

「単独行動なら、それは顕著だろうな」

「そうだ。なら、幻惑の力を使うにしても、慎重に相手を分析する必要が有るんじゃないか?力を使って排除すべき相手かどうか。使うとしたらどれくらいの規模と威力が必要なのか____ベルジィはその辺を見極める必要が有って、今はその段階なんじゃないか?」

「それがあの気配だって言いたいの?」

「いや・・・そうとは断言できんが、俺達はまだベルジィの幻惑の力の影響下ではないだろう」

「なるほど」

「ほーん・・・」


オーマの推理に、言い出したフランを含め、全員が納得の様子だった。

皆のその表情を見て、オーマは更に自分の推理を続けた。


「そして、ベルジィが力を使う前に、見極めを必要としているなら、商業区域に集中するのも納得だ。この区域が一番人通りの激しい場所だからな」

「そうか、本屋はともかく、酒場や生活必需品がある薬剤店は色々な人が来ますからね」

「では、その二か所は特に見張られていると?」

「見張られているとは限らないぞ、クシナ」

「ん?待ってくれよ。それじゃ_____」

「・・・その店の店員が?」

「可能性は有る____」

「なんだよ。じゃー、やっぱり、いきなり大当たりだったんじゃねーか!」

「まだ、そうとは決まっていないですよ、フランさん」

「でも仮にそうだとするなら、どうすれば?どっちがベルジィさんなのでしょう?」

「どっちの可能性も有るぞ、薬剤店は昼間、酒場は夜だ」

「そうですね。幻影属性で姿をいくらでも誤魔化せるのなら、両立できるでしょうね」

「色々な人が集まる薬剤店と酒場で、収入源を確保しつつ街を見張る」

「そして怪しい奴には更に探りを入れて、必要なら幻惑の力で排除・・ってか?」

「頭いい」

「それだけじゃない。芯も強い。余程の覚悟が無いと、一人でそんな生活は続かないはず・・・」

「魔法の才を除いても、一級品の人材ね。どうする?団長?」

「どうするも何も、ソノア・エリクシールとミリアン・コールを中心に商業区域を探る」


ベルジィ探索は難航しているが、オーマは少ない情報から何とかベルジィの能力と居場所を推理し、次の行動の指針を立てる。

現状では確証の無い部分の多い推理だったが、それもベルジィ相手では仕方が無い事だろう。

オーマは皆に得意気に推理を披露する姿とは裏腹に、ベルジィという魔導士の力に、今までとは違った恐怖心と警戒心を抱いていた・・・。


「でも、ソノア・エリクシールに対しては、既にミクネ様が調べてますよね?」

「じゃー、ジュネッサか?」

「いや、ソノアの可能性もまだ残っている。ベルジィの隠蔽能力がミクネの索敵魔法を上回っている場合だ」

「なっ!オーマ!私の力を疑っているのか!?」

「ミクネの力を疑っているんじゃない。ベルジィの能力を警戒しているんだ」

「まあ、並の魔導士ならともかく、同じ勇者候補に上がる者なら、その可能性も有りますね」

「クシナ~・・・」

「すいません、ミクネ。でも団長の仰る様に、警戒すべきです。特に今回は」

「だな」

「賛成」


魔導士ベルジィの力に、これまでとは違う特別な警戒心を持ち始めているのは、他のメンバーも同じ様だった。


「でも、そうなったらベルジィさんの正体を暴けるのはサレンさんだけになりますね」

「じゃー、店に行ってソノアとジュネッサに掛けてみるか?」

「いや、まだ二人と決まったわけでは無いですよ」

「もし、二人に掛けて違ったら、恐らく二度とベルジィの姿を捉えることは出来ないでしょうね」

「なら、例の気配が出た時が勝負か」

「危険な賭け」

「静寂の力を使うなら、一回で確実に見付け出さなきゃな」

「でも、それで見付け出せたとして、その後は?その方法じゃー、見付け出せても友好的ってワケにはいかないだろ?」

「敵対する可能性すらある」

「いや、こちらの正体がバレて無ければ、ゴットン商会の人間を護るために怪しい気配の正体を突き止めたかったと言えば言い訳になるだろう」

「サレンの正体にしても、商人に見せかけた隠密の傭兵と言えば筋は通るわ」

「なるほど。じゃー決まりか?」

「ああ、ソノア・エリクシールとミリアン・コールを中心に全員で行動してベルジィを誘き出し、例の気配が出たらサレンの力でベルジィを見付け出す」

「危険ですが、それしかないですね」

「そうですね。ここ数日まるで成果がありませんでしたから」

「だな」

「よし!では明日から数日間、各所で網を張る。いいな?」


「「了解」」


____と、一応これまで成果が無いものの、何とか次の作戦を考えサンダーラッツは実行に移す。

だが、ソノア・エリクシールかミリアン・コールにベルジィが居るという推理自体は良かったが、肝心の“例の気配”の意味を理解していなかったため、数日間各所で網を張るものの、例の気配を察知する事ができずに、この作戦は失敗したのだった_____。

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