ベルジィとゴットン商会5
オーマ達がバージアに潜入して数日。
いつもの様に、サレン、ミクネ、イワナミのベルジィ探索組と、フラン、ウェイフィー、ジェネリーの情報収集組は街に出て各々の任務を遂行している。
そんな中、ヴァリネス達商売組は、ここ数日で一通り商人達への挨拶回りを終えて、後は商品の入荷待ちとなり、暇な時間ができたので、ソノア・エリクシールを訪れていた。
ソノアとは、この街に来た当初から馬が合い、街の治安事情にも商売事情にも詳しいため色々と相談に乗ってもらっていた所為か、その後も時間ができれば店にお邪魔するようになっていた。
そして、そんなヴァリネス達一行を、ソノアは快く迎えてくれていた____。
「では、今日あたり本部と連絡を取りに行ったレイフィードさん・・・でしたっけ?戻ってくるのですね」
「うん、そう。多分ね」
「どんな物を扱うのです?露店などを開いて商売もするのですか?」
「自分達の店を出すかは、まだ検討中よ。でも出すにしても、暫くはここの商人たちと交渉して、ベルヘラの物品とスラルバンの物品を右へ左へ___って感じね。あ!そうそう、この辺りってキャラバンの護衛とかで、結構魔導士も多いじゃない?だからベルヘラから魔力の回復薬を大量に入荷するんだけど、ソノアの店に置いてくれない?」
「え?」
「ソノアの薬より効果は弱いけど」
「あはは・・・それじゃー、無理ですよ」
「そうですよ、ネリス様。さすがに図々しいですよ」
「いや~、もしかしたらと思って、ダメ元で言ってみたんだけど。やっぱり?」
「ふぅ・・・バージアに来てこれだけ世話になっている方ですのに・・・」
「本来なら、お礼として何か贈り物をしてもいいところですよ」
「ふーん、そうねぇ・・・ソノア?何かベルヘラやワンウォールで欲しい物ある?」
「___BL本」
「は?」
「あ、いえ、ゲフンゲフン。何でもないです」
「そ、そう?」
「何か今、禍々しいオーラを感じた様な____」
「き、気のせいですよ!気のせい・・えーと、正直なところ、あまり、西方の特産品には詳しくないので、何か薬品を作る上での薬草などの素材が頂けたら嬉しいですね」
自分の欲望を抑えてベルジィは、泣く泣く薬剤師らしい返答をした。
ソノアのその返答に、ヴァリネスは満面の笑みを浮かべて了承した。
「分かったわ♪西方の・・・ゴレスト神国にもツテがあるからダークエルフの住むオンデンラルの森にある薬草なんかもプレゼントしてあげるわ」
「本当ですか!?すごく嬉しいです!」
ベルジィにとって、このネリスの提案は一人の魔導士として素直に嬉しいものだった。
「うん。その代わりー・・もし、新薬ができたらレシピを売ってくれない?」
「レシピをですか?」
「そう!一人で店をやっているから生産は追い付かないんでしょ?ならレシピを売ってほしいのよ。どっちにしろ西方の薬草は中々手に入らないんでしょ?」
「そうですねぇ、西方の・・特にオンデンラルの森の植物はツテが無いですから、それでもいいですよ」
「本当!?よっしゃーーー!!」
ソノアからオーケーを貰うと、ヴァリネスは本気で喜んでいた。
(い、いいのでしょうか?勝手にオンデンラルの森の品を持ち込む約束なんてして・・・)
(サレンはどう思うだろうな・・・)
(副長けっこう楽しんでますか?)
(楽しんでいるな。あいつはシンプルに金儲けが好きだからな、商人役はピッタリだ)
(あはは♪そうですね)
____ホモォオオオ
「「!?」」
ノリノリで商人役をやるヴァリネスについて、オーマとロジがその後ろでヒソヒソと話ていると、先日の禍々しい気配が漂った。
「何だ!?またか!?」
「?」
ロジは相変わらずこの気配を察知できていなかった。
「以前、食事の席で感じた気配ですね。ですが、あの時ほど強くは感じませんね」
「何なのかしら・・・ねえ?ソノア?この街で魔獣やアンデットが目撃されているって事ないわよね?」
「え、ええ・・多分。そう言った魔族関連の事案なら、目撃情報があっただけでもバージア警備団から注意喚起がありますが、そう言った話は聞きません」
「そう・・・」
「ま、まあ、私達はこの街に来たばかりですし・・・」
「そうだな。見知らぬ土地で敏感になり過ぎているだけかもしれん・・・」
等と言いながらも腑に落ちない一行だったが、前回、この気配の元を探しに行ってみたものの、何も見つからなかったので今回は探しに行くこともせず、ミクネ達ベルジィ探索組がこの気配と出会うのを願うのみだった。
(ふぅ・・・危ない危ない。この人達は結構勘が鋭いから、腐のオーラが出ないように気をつけなくちゃ。でも・・グフッ♪グフフフフ♪あの二人、さっきは後ろで何をヒソヒソと話していたのかしら?ジデルさんは照れくさそうに笑っていたし・・・はぁ・・・尊い・・・グフフフ♪)
気をつけなくちゃと言いながらも、ベルジィはオーマとロジの挙動に悶絶していた・・・。
ベルジィが悶絶する中、一行が腑に落ちずに考え事をしていると、クシナの魔導通信機(帝国の人間とバレない様にデザインは変更してあるが中身は帝国製)に連絡が入った_____。
「___はい。ああ、ラシラですか・・・・・はい、分かりました。少し待って下さい。___ネリス様、レイフィード様がこの街に戻られました」
「そう、じゃー、まだソノアと商売の話がしたいし、ここに来るように言ってくれない?ソノア、構わない?」
「もちろんです」
「じゃー、そういう事で」
「了解です____ラシラ?私達は今、ソノア・エリクシールに居ますから____」
そうして、クシナがユイラにその事を伝えた後、数分ほどでレインとユイラが店にやって来た____。
「どーもー♪お邪魔します」
「失礼します」
「二人共、ご苦労様。行ったり来たりで悪いわね」
「大丈夫です!旅は好きですから。暖かい地域だったら、どこへでも行きますよ♪ネリス様」
そう言いながら、レインはヴァリネスに持っていた資料を手渡した。
「はい、これが入荷リストです。とりあえず、売れ残った物や現地で直ぐに手に入れる物から船で送ってくるそうです。高価で希少な物品は後々で・・・」
「そう。まあ、予定より早く頼んだから仕方ないわね。一先ずはこれでやり繰りしましょ」
ヴァリネスが入荷リストを眺めながらレインと話している中、オーマはユイラに話しかけていた。
「ラシラ、通信魔法を使って疲れたろ?ソノアさん、あそこの魔力回復薬を頂きます」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます、団長」
ユイラは、本当は別に魔力は枯渇していなのだが、オーマのこの配慮はむしろレインのためであると分かっていたので、素直にオルスの厚意を受け取った。
「今後も使うだろうから余分に買っておこう」
「そうですね」
「よろしいですか?ネリス様?」
「ええ、もちろんいいわよ。ソノア、お代はこっちで払うから」
「分かりました」
「ほら、ラシラ」
そう言って、オーマはユイラに回復薬を一本手渡そうとした____
「・・・・・」
____だが、ユイラは受け取ろうとしなかった・・・。
「ん?どうした?ラシラ?」
「い、いえ・・・何でもありません、団長」
「いや、なら何故受け取らない?」
「あー・・ちょ、ちょっと・・・」
オーマにそう言われるもユイラは、頑なにお腹を抱えたまま受け取らない。
ユイラがそんな頑なな態度だったためか、気が付けば全員の注目が集まっていた。
「ラシラさん、お腹痛いのですか?」
「い、いえ、ジデル様、そういうわけでは____」
「なら何隠しているの?」
「ギクッ」
「何だ?何かやましい事でもあるのか?」
「ま、まさか、店の物盗ったりして無いでしょうね!?」
「ええ!?さ、さすがにそれは困りますよ?」
「ち、違ッ・・・!」
「ちょっと、見せてみなさい!ラシラ!」
「な、何でもないです!」
「ラシラ、中身を確かめさせろ。俺達は窃盗団じゃない。ソノアさんにそれを証明しなくちゃならん。セリナ!」
「了解。ラシラ、動かないで。やましいことが無いなら問題ないでしょう?」
「あ、あ、セ、セリナ!だめぇええ!!」
クシナに腕を取られると、ユイラの服の中に隠してあったモノがバラバラと落ちて来た____。
「何?」
「本ですね・・・」
ユイラが隠していたのは五冊ほどの“薄い”本だった。
「何だよ、ただの本かよ・・驚かせやがって」
「まったく・・・どんな本かは知らんが、別に隠す様なものじゃ____あ?」
その五冊の本は、表紙が全て、男性が半裸で抱き合っている本だった_____。
「こ、これは・・・」
「あ、あうあう・・・」
「エ、エロ本?」
「BL本というヤツですね。ワンウォール諸島で買ったのでしょう」
「ワンウォール諸島ってこんなの売ってんの?」
「はい。メッカ、というヤツです。ラシラさん好きだったんですね」
「す、好きと言いますか・・・ワンウォール諸島で見つけたら、つい手が伸びてしまいまして・・・」
「興味本位で買ってみたのですか?ま、まあ・・・別に、好みはそれぞれですから」
「そうだな。ラシラ、別に恥ずかしがらなくていいからな?あんな態度じゃ、変な誤解を生む」
「そうです。隠すから余計に大事になるのですよ」
「あ、は・・・はい・・・」
「ごめんなさい、ソノア。店で騒いで迷惑___」
_____ホモォオオオオオオオオオオオ!!
「「ぎゃーーーー!!?」」
ゴットン商会の一同は、再び禍々しい気配を感じ取り錯乱してしまった。
だが結局、その気配の元がソノアだと気づくことは出来ないのだった______。




