ベルジィとゴットン商会4
ベルジィ探索初日、オーマより商人として情報収集を命じられていたフラン(商人役)、ウェイフィー(商人役)、ジェネリー(傭兵役)の三人は、朝は市場で聞き込みをして、昼からは市場で知り合った人達と交流を深めて任務を遂行していた。
それから日が暮れて夜になると、商業区域の繁華街の酒場で、この街に住む住人や、シルクロードを利用している商人達と世間話をして情報を集める事にした。
そして今は、この“ミリアン・コール”という酒場で意気投合したカルータという名の商人と、お酒と情報を交わしいるところだった_____。
「はーん。じゃー、やっぱり両国の戦争が終結したわけじゃないんだな」
「そうだ。単に戦闘が行われていないだけだ。だからお前さん達も、この街で商売するなら気を付けろよ?下手に軍属の人間と関わってスパイ容疑でもかけられたら面倒なことになるぞ」
「ひゃー・・・そりゃ怖い。気を付けないとな」
「でも、何で停戦しないんだろうね」
「そうですね。ベルヘラの我々のところまで噂が届いていますから、冷戦状態は長いのでしょう?なら停戦協議の一つでもあって良いと思うのですが・・・」
大体の事情を知っている三人だが、今は商人の一団として話を合わせつつ、素朴な疑問を口にするだけだ。
「原因が分かんねーんだと」
「分からない?意図的に止めているわけじゃないのか?」
フラン(フラップ)がそう言うと、商人の男はギロリと周囲に睨みを利かせて、耳をそばだてている者がいないのを確認すると、三人に身を寄せるようジェスチャーして、ヒソヒソと話し始めた。
「それがなぁ・・噂じゃスラルバンの宮廷魔導士の仕業らしいぜ?」
「スラルバンの?」
「え?じゃー何で冷戦になるの?」
その辺りの事情も知っている三人だったが、もちろん知らぬふりだ。
「“元”だよ“元”。スラルバン王宮を去った魔導士が妨害しているって話だ」
「え?たった一人でか?」
「どうやって?」
「さあな。詳しくは知らないし、首を突っ込む気も無いが、王宮で取引した商人がそう言っていたぜ」
「「ふーん・・・」」
「ねぇ?何の話?」
「うお!?ジュネッサ・・・」
フラン達がカルータと身を寄せて話していると、妖艶さと上品さを合わせた色気を放つ女性が話し掛けて来た。
この酒場“ミリアン・コール”のオーナーである“ジュネッサ・ミリアン”に姿を変えたベルジィだった。
「四人でヒソヒソして・・・何かの悪だくみぃ?」
「いや、ちげーよ」
「そう?なら、気を付けた方が良いわよ?さすがに酒場で四人も身を寄せ合っていたら目立つわよ?」
「アハハハハハ!そうだな!おい、フラップ!この話は終わりにしようぜ」
「ああ、俺らも悪目立ちはゴメンだ」
「ねぇ、カルータ?こちらの方々は?」
「ああ、こいつらは、ゴットン商会の連中だ。ベルヘラで海運業を生業にしているらしいが、このシルクロードでも商売するためにやって来たそうだ」
「どうも、ゴットン商会のフラップと申します」
「フェイです」
「お二方の護衛をしております、傭兵のミスティです」
「はじめまして。この店のオーナーのジュネッサと申します」
そう言ってジュネッサ・・・もとい、ベルジィは少し妖艶さを出して挨拶した。
ベルジィがこのテーブルの四人に声を掛けた理由は、もちろんゴットン商会の人間に探りを入れるためだ。
ついでに、“例の二人の関係”もしれたら良いなと思っていたりする・・・。
「おいフラップ、ジュネッサには手を出すなよ?」
「おお?何だいカルータのとっつぁん。とっつぁんの青春相手かい?」
「いや、俺ぁとっくにフラれたよ。ひでー女だ」
「あら、人聞きが悪い。今は特定の方とはお付き合いしたくないと言っただけなのに____」
「おいおい、子供扱いは止めてくれジュネッサ。こいつらに社交辞令が分からない奴だと思われる」
「あら、ごめんなさい」
「でも、カルータさんが狙ってないなら、何故フラップ様が口説いてはいけないのですか?ああ、別にフラップ様にジュネッサさんを口説いてほしいわけではないのですが・・・」
「え?他の女の子を口説いてほしくないって・・ミスティちゃん、まさか___」
「あ、いえ、そういう事では無いです」
「あ、そう・・・・」
いい加減フランの扱いに慣れて来たジェネリーだった。
「ライバルが多いんだよ。スラルバン軍にも居るが、何よりシルクロードで一番規模の大きいキャラバンの幹部達にも狙っている奴がいてな、ジュネッサ絡みでもめ事も起きた事が有る。ここで商売していくなら、この街に来たばかりという立場を理解して立ち回った方が良いぞって話だ」
「はぁ、なるほどなー」
「確かに、お綺麗ですもんね」
「モテそう」
「あら♪ありがとう♪お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃないですよ。ね?フラップ様?」
「ん?・・・あー、まあ、そうだなぁ」
「手ぇ出すなよ?」
「出さねぇって、とっつぁん」
「?」
強がりでなく、本当にジュネッサに興味がなさそうなフランに、ジェネリーは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「フラップ様?どうされたのですか?」
「え?」
「いつもでしたら、美人相手には積極的じゃないですか、“他の誰が狙ってようと関係無い!”って感じで」
「い、いや、別に・・・」
「プッ♪」
「フェイ様?」
「ミスティ、フラップは多分、ジュネッサにビビってる」
「ギクッ」
「ビビってる?」
「ジュネッサ、ナナイに似ている」
「ああ、そう言われると・・・」
ナナイとは、サンダーラッツ通信兵のナナリー・ユジュの潜入任務用の偽名である。
「良い店。懇意にさせてもらう」
「ですね♪」
「えーと・・・それはどういう意味かしら?」
懇意にしてくれるのは、商売としても情報収集としてもありがたい事だが、ベルジィにはいまいち三人のやり取りと、その意味が分からなかった。
「フラップは直ぐに女を口説くから、ゆっくりお酒が飲めないときがある」
「はい。周りに迷惑を掛ける事が有って、恥ずかしい思いをするときがあるんです。でも、ナナイさんが居る時は大人しくしているのです」
「だからフラップが、ナナイに似ているジュネッサにビビっているなら、他の女に手を出さなくなるから、楽しくお酒が飲める」
「はあ・・・男性の方に怖がられるというのは、何とも言えませんが、懇意にしていただけるなら嬉しいですわ」
「お~~い、フェイちゃんミスティちゃーん、そりゃないぜー・・・は!?もしかして俺が他の女に手を出すことにヤキモチ_____」
「「違う!!」」
いつもの調子に戻ったフランに、いつものツッコミが入った。
「クスクス・・・なんか良いですね」
その三人のやり取りに、ジュネッサは笑顔を見せながら羨ましいといった態度を見せていた。
「そうですか?」
「別に楽しくない」
「そうですか?でも、傍から見ていてずいぶん仲好しに見えますよ?特に、ミスティさん」
「ええ!?私ですか!?」
「はい。だって、フラップさんとフェイさんは雇い主ですよね?」
「「あっ!」」
商人と、その商人に雇われている傭兵という設定を忘れていつものノリになっていた三人は、内心で慌てた。
「ま、まあ、確かに、他所に比べたら良好な関係だわな」
「そ、そうですね。正直こんなにリラックスできる雇い主は初めてです」
「仲好し」
否定すると怪しまれると判断した三人は、仲好しな間柄という方向で行くことに決めた。
「一番の理由は、オーナーがオルスを気に入っているって事だな」
「オーナーってネリスさんかい?」
「いや、ネリス様は支部長だよ。オーナーはゴットン様だ。ゴットン様がオルスの強さにホレ込んだんだ」
「ネリスが惚れこんでいるのはジデル」
「プッ♪アハハハハ!そうですね」
「そしてジデルが惚れこんでいるのはオルス」
「「アハハハハハ」」
ジェネリーが笑ってくれたことに気を良くしたウェイフィーは、更に冗談を続けてフランとジェネリーを笑わせ、仲好しなムードを作った。
ウェイフィーの意図を察した二人は、これに乗る。
「恋の三角関係ですね、フフ・・・」
「そうかぁ?俺はオルスとジデルはデキてると思うぜ?ネリス様は一方通行だよ。あはははは____」
____ホモォオオオオオオオオオオオ!!
「「へっ!?」」
ただならぬ負のオーラ(本当は腐のオーラ)を感じて、三人に緊張が走った。
「な、なんだ!?今のは!?」
「危険・・ヤバイ」
「とにかく出ましょう!お二人共!私から離れないで!」
「そうだな。とっつぁん、悪ぃな」
「え?あ、ああ・・・」
「ジュネッサ、これお代」
「_____」
そう言ってテーブルに金貨を散りばめると、三人は慌てて店の外へと出て行った_____。
「な、何だったんだ?なあ、ジュネッサ?」
「・・・・・・」
「・・・ジュネッサ?」
「何?」
「え・・あ、いや・・何だったんだろうな、って・・・」
「急用でも思い出したんでしょ」
「そ、そうか・・・」
唖然としているカルータに対して、ジュネッサは冷静だった。
(イイ・・・イイわ!!・・・・オル×ジデは____アリね!!)
ウソでした。めっちゃ興奮してました_____。




