ベルジィとゴットン商会3
ネリス達ゴットン商会と遅い昼食を終えて解散したベルジィは、帰りの道中で人気の無い所に入ると、幻影魔法でソノアからノワールへと姿を変えた。
そして、ジデル達との会話で昂った欲望を満たすため、足早にライオン・ケイブへと向かうのだった____。
「いらっしゃいませー♪って・・あら?ノワールさん?」
「どうも」
「どうしたの?新作は流石にまだ入っていないけど?」
「あ、はい。新作ではなく、ちょっと別のジャンルを買い足しに・・・」
「へぇ、どんなの?よければ参考までに聞かせてくれない?仕入れる事ができそうなら仕入れるから」
「えっと・・・“海賊に襲われた商人の男が、海賊から助けてくれた義理堅い傭兵に恋をする”って設定です」
「何か、ピンポイントね・・」
「そういった系統のシチュエーションであればいいです」
「はぁーなるほどね。分かった、覚えておく。じゃあ、ごゆっくり♪」
「ありがとう」
それからノワール(ベルジィ)は18禁コーナーで、噛り付く様にBL本を物色し始めた____。
「はぁ・・まったく成果が無いな・・・」
「まあ、初日ですから」
「そうですねぇ・・・それなりの魔力を持つ魔導士の方は居ましたが、ベルジィさんと思われる方は一人も居ませんでしたね」
サレン、ミクネ、イワナミのベルジィ探索組は、ベルジィ探索初日の今日、住民区域をグルっと見て回って商業区域へと戻って来ていた。
結果は全くと言っていいほど何の成果も無かったが、初日でまだこの都市の地図を頭に入れている段階なので、三人にそこまで落ち込んだ様子は無い。
「サジェン様、リリネ様、これから如何なさいますか?」
「そうですね、まだ宿に戻るのは早い気がします。もう少し続けますか?」
「おう。サジェンの魔力がまだ問題無いなら私は大丈夫だぞ」
「私も平気です。まだ行けます」
「では、少しだけ商業区域も見て回りますか?」
「はい。住民区域と違って、商業区域は店の中まで見れますから、その分時間が掛かるでしょうし___」
「なら、決まりだな」
「では、手近な所から行きますか・・・あの店なんてどうでしょう?」
そう言うとイワナミは、一つの書店を指さした。
「・・・ライオン・ケイブ?聞いた事ない店だな」
「この都市固有の書店でしょうか?」
「まあ、何だっていいか。本屋なら直ぐに済むだろうから、さっさとやってしまおう」
そう言ってミクネはズンズンと進んで行き、二人も後に続いた____。
「いらっしゃいませー♪」
三人が店に入ると、店主の明るく軽いノリの声が迎えてくれた。
そして三人は、店内を一通り見て回る・・・。
それは、ミクネが探索魔法を使っているので、ゆっくり行われたが、数分ほどで終わろうとしていた。
だが、途中でまだ奥へと続くコーナーがある事に気が付いた。
「あ、あそこは、まだ奥が有りますね」
「へぇ・・外からじゃ分からなかったけど、意外に広いんだな。観てみよう」
そう言いながらサレンとミクネは、店の奥の一角へと入って行く・・・。
「ん?あれは・・・」
イワナミはその一角の入り口に在る18禁と書かれたマークが目に入った。
「あ・・こ、このコーナーは・・・お、お二人共!」
奥のコーナーの商品に察しがついて、二人を止めようとしたイワナミだったが、大きな声を出すのは失礼だと思って躊躇して小声になってしまった。
その結果____
「きゃ、きゃああああああ!?」
「お、おお!?な、何じゃーーー!?」
「あ・・・やっぱり」
人間社会の18禁コーナーのマークの意味を知らないエルフの二人は、中の商品を見て絶叫した_____。
(うるさいなぁ。人が真剣に物色しているというのに・・・って、あれ?あの人達、確かゴットン商会の・・・)
その声は、そのコーナーで商品を物色していたノワールにも当然聞こえていた。
「あ、あわあわあわ・・・」
「こ、ここはー・・・」
「お、お客様!どうなさいましたか!?」
店主も、どうしたのかものかと駆けつけて来た。
「ああ、騒いでしまい申し訳ありません。この二人は、その・・・少し世間に疎いところが有りまして、このマークの意味を知らずにここに入ってしまったのです」
「え?ああ、そうですか・・・えっと、一応確認なのですが、お二人は____」
「あ、はい。私達はベルヘラで海運業をしているゴットン商会の者です」
「バージアには最近来たばかりだ。だから見かけた事ないだろうが、別に怪しまないでくれ。騒いですまん」
マークの意味が分かっていないため、店主の確認したい内容もエルフの二人には分かっていなかった・・・。
「あ・・そう、ベルヘラからね・・・えっと、そういう意味ではなくー・・・」
言いながら店主は、イワナミに目で“貴方は分かっていますか?”という視線を送った。
「あ、はい。二人とも成人しています」
イワナミは当然理解していたので、直ぐに返答する。すると店主も、安堵の表情を見せて納得した。
「あ、そうですか。それでしたら結構です。では、店内はお静かにお願いいたします」
「はい。よく言って聞かせます」
「申し訳ありませんでした」
「いや、そんな事言ったって、こんなのが目に付いたらビックリするだろう!?」
冷静になって素直に謝ったイワナミとサレンと違い、ミクネはまだ興奮していた。
「リリネ様、落ち着いてください。どこの書店にも“大人向けの”こういった商品は置いてあります」
目立つのを避けるべきと考えるイワナミは、やんわりとミクネを諫めようとする。
「それは分かっている。さっきのマークもそういう物だと、ワムガと店主の会話で分かった。でも、私が言いたいのは、そこじゃない」
「では、何なのですか?」
「私が驚いたのは・・・“アレ”だ!」
「“アレ”?」
そう言ってミクネはズビシッ!とこのコーナーの一角を指差した。
サレンとイワナミが、その一角に並べられている商品を見てみれば、その本の表紙は全て男性同士が半裸で抱き合っているものだった・・・。
「ひゃ!?」
「あ、あれ、男同士だぞ!?な、なんで____!?」
「ああ・・・」
それに対して、サレンは小さく驚きを見せたが、イワナミは何でもないと言ったリアクションを見せた。
「ボーイズラブというジャンルですね」
「ワムガさん、ご存じなのですか?」
「ええ、噂で、ですが・・・確かドネレイム帝国に落とされたオーレイ皇国にも流通していたはず・・・」
「そ、そうなのですか?」
「は、初めて見たぞ・・・」
「え?ベルヘラで海運事業をしているなら、ワンウォール諸島もご存じですよね?これらのBL本はワンウォール諸島が発祥なのですが・・・」
「「え!?」」
店主にそう指摘され、一瞬三人に“しまった”という空気が流れたが、直ぐにサレンが切り返した。
「すいません。私とリリネは見習いで・・・まだそういった事に詳しくないのです」
「そ、そうそう!まだ新人でオーナーにも子供扱いされていて、雑用しかさせてもらえてないんだ」
「ああ、そうですか・・・まあ、とにかく、ここにある本はエリス海から渡ってきているものです」
「そ、そうですか、では、いつか私達もこういった商品を扱う日が来るかもしれませんね?リリネ?」
「そ、そうだな勉強になったなぁ・・・あはははは」
二人の見た目が幸いして、怪しまれずに済んだ。
商品を見ながら聞き耳を立てていたベルジィも特に気にする事も無かった。
「しっかし、BLか・・・こういった物も世の中にはあるんだな・・・」
「まあ、人それぞれです。女性同士が___というのもあります」
「うっ・・・そ、そうだな・・・」
女性同士と聞いて、ハツヒナの事を思い出したミクネは、背中に冷たい汗を流す。
そのせいか、ミクネにとっては同性同士というのは抵抗が有るようだった・・・・。
「・・・・・・」
だが、サレンの方は興味が沸いたのか、BL本の表紙を興味深そうに眺めていた・・・。
「何だ?サジェン。興味あるのか?」
「え!?あ、あ・・いや、私は別に・・・」
「____!?」
言われてサレンはビクン!と反応した____そして、何故かベルジィも反応していた。
「サジェン様、何冊か購入されますか?」
「い、いえいえ!だ、大丈夫です!もう、からかわないでくださいよワムガさん!」
「からかっているつもりは無いのですが・・・別に法には触れてないのですし、買ってみては?」
「___!!____!!」
ベルジィは商品を見ているフリをしながら、コクコクと頷いていた・・・。
「うちのサン・・・雷鳴の戦慄団でも好きな者がおりますよ?・・・多分ですが」
「そ、そうなのですか?」
「誰だよ?」
「確認したわけではないですが、恐らくラシラは好きだと思いますよ。オルス団長とジデル様のやり取りに顔を赤くしていることがありますから」
「ああ、確かにあの二人は時々、“デキてんのか?”ってくらいイチャついているときあるもんな」
「ちょ、ちょっとリリネさん、それは___」
____ホモォオオオオオオオオオオオ!!
「「へっ!?」」
何やら危険な空気が漂って、三人の時が止まった_____。
(な、何だ!?今の!?魔族!?)
(わ、分かりません!で、でも凄まじいオーラを感じました!)
(まさかベルジィさんの幻惑の力でしょうか!?)
(でも、魔力反応は無いぞ!?)
(と、とにかく!お二人共、直ぐに周辺を探しに行きましょう!)
(おう!)
(分かりました!)
ベルジィの放った腐のオーラに、三人は警戒しつつ、周囲を探るため店を出て行った。
店に一人残ったベルジィは、瞳を怪しく光らせていた____。




