ベルジィとゴットン商会2
ソノアと食事するという事になり、ネリス一行はソノアに案内された店へと入る。
ソノアに案内された店は、ソノアの宣言通り、この街で高級な部類に入る店だった。
だが、代表役を務めるヴァリネスは気にするどころか、“良い度胸だ!!”といった態度を見せて笑い、太っ腹な商人を演じて見せた。
もちろん帝国の予算だからできる事だ。自腹だったらこうは行かない。逆のリアクションを見せていただろう。
そういう訳で、ネリスは高級店をご馳走する事を躊躇うどころか、“日頃の恨み!!”とでも言うかの様に、自分達も高級な料理を注文して遅めの昼食を楽しんだ____。
「オルス団長の雷鳴の戦慄団はスゴイですよね」
「え?そうですか?」
コース料理を平らげて、デザートとお茶を楽しみながら雑談する中、ソノアからオルスの傭兵団の話題が投げ込まれた。
ソノアがこの話題を選んだ理由は簡単で、ゴットン商会の事は、商人たちの話と役所の審査で大体裏が取れたが、一緒に居る傭兵団については、まだ何も分かっていないからだ。
これまでのやり取りと、ゴットン商会の裏が取れた事で、悪い一団ではないと感じてはいるが、それでも裏は取りたいとベルジィは考える。
傭兵は商人同様に____いや、商人以上に警戒しなくてはならない相手だ。
商人に雇われたことにして、国家とは関係の無い傭兵のフリをして潜入してくるスパイは多いのだ。
ゴットン商会のネリスが知らないだけで、実は裏で他の勢力と繋がっている可能性は確認が必要だろう。
特に、オルス達の様に高い能力を持っている傭兵団なら尚更だ。
「セリナさんにラシラさん・・・通信魔法が扱える者が二人も居る傭兵団なんて、この辺りじゃ聞いた事もありません」
「偉そうですが正直に申し上げまして、自分達が傭兵団の中でもレベルの高い部類に入るのだと自覚する事が有ります。これは、最初に立った戦場のおかげなのかもしれません。」
「最初の戦場?」
「はい。私は北方の生まれで、そこで戦災孤児になって傭兵稼業を始めたのですが、私が最初に参加した戦はドネレイム帝国とバークランド帝国の戦でした」
「ああ、あの___」
かの二大軍事大国の戦争は、当然このサウトリック地方にも広まっていて、ベルジィの耳にも入っている。
「・・・どちら側に付いていたのですか?」
「どちら側でもあり、どちら側でもありません・・・」
「・・・・・」
「・・・軽蔑しましたか?」
「い、いえ!そんな事はないです」
ただ単に、帝国との繋がりが有るのか、有るならどれくらいなのかを知りたくて探った質問だったのだが、曲解されてしまった。
傭兵ならケースバイケースでどっちの陣営に着いても不思議ではないし、それに____
「戦災孤児なのでしたら、相当な若さで戦場に立たれたのでしょう?なら、何よりも先ず、生き残る事が大切だったはずです」
ベルジィは相手に合わせるでもなく、同情するでもなく、客観的にそう答えた。それが本心だ。
ベルジィはBL以外の事は、かなりクレバーな性格をしている。
「お心使い感謝いたします」
「いえ、本心ですからお気になさらず」
「ありがとうございます。まあ、そういう訳でして、当時、最先端とも言うべき戦場に居たので、気が付けば自分もそこで加わった仲間も、それなりの実力者になっていたらしいのです」
「?・・“らしい”とは?」
「北方から離れるまで、そう実感する事ができなかったのです。ドネレイム側もバークランド側も兵の質が高く、私達には殆ど活躍する場が有りませんでした。なので、偉そうに北方で活動していたと言いましたが、そこで請け負っていた両国からの仕事は、決して褒められるものではありませんでした。我々が、北方ではなく大陸の基準で強者だと実感したのは、新たに仕事を見つけるため、帝国が西方での活動を強めたと聞いて、ラルス地方のベルヘラに来てからです。最初の仕事で海賊と戦った時に、ずいぶんな評価を頂きました」
「すごかったんですよ!商船を襲った何十人もの海賊を薙ぎ倒して!」
オルスの会話に、ジデル(ロジ)が興奮気味に乗っかって来た。
その様子に、ソノアは驚くと同時に一つの疑問を抱いた。
「ジデルさん・・・まるで、見て来たように言うのですね・・・」
「え?・・・あ!?」
この辺りの設定は、当事者全員(海賊や海軍、人質になった商人など)と口裏を合わせる事が出来ないため、万が一、その辺りの人間がここに来て話が食い違ってしまう可能性を考えて、詳しくは語らないようにする方針だった。
それを、まるで当事者かの様な言い方をしてしまい、ロジは“しまった!”という反応を見せた。
だが、ヴァリネスが高速で____それはもう、愛するロジのために光の速さでカバーに入った。
「あー、うん。ソノア、ジデルくんは実際に見てたのよ」
「え?」
「でも、その海賊の事件は、ベルヘラ海軍から口外が禁止されててね。だから、今のジデルくんの発言は忘れてあげてくれない?」
「ああ、そういう・・・ええ、構いませんよ」
ネリスの発言で意図を察したベルジィは、事情は知りたいが巻き込まれたくはないので、その発言で納得した。
「まあ、そういう訳で、その件をきっかけに、オルス達をうちでお抱えにしたってわけ」
「なるほど・・・」
「す、すいません。ネリス様・・・」
「気にしないで、幸い聞いていた人が話の分かる人だったし」
「ジデルはオルス団長が好きですからねぇ」
「____ッ!?」
「セ、セリナさん、それは___」
「だって、今もオルス団長について熱くなっていたじゃないですか」
「そ、それは、海賊を退治しただけでなく、人質も助け出して、すごいなって思っただけで・・・」
「ちょ、ちょっと!?何でジデルくんが____」
_____ホモォオオオオ!!
「「へっ!?」」
何やら危険な空気が漂って、ゴットン商会一同の時が止まった_____。
「・・・どうしました?」
「え、あ、いや・・・」
「ソノア?今、何かただならぬ気配を感じなかった?」
「そうですか?私は何も感じませんでした」
「そ、そう?アンタたちは?」
「今、何となくネリス様に匹敵する程のドス黒い欲望のオーラが発せられた気が・・・」
「ああ、俺も感じた・・」
「そうよね___って、こら!私に匹敵ってなんだ!」
「ジデル様はどうですか?」
「え?ボクは特に何も・・・」
色恋と色欲に疎いジデルでは、気付くはずもなかった・・・。
「そ、それで!」
「ひゃい!?」
バンッ!とテーブルを叩いて、ソノアはやや興奮気味にジデルに詰め寄った。
「び、びっくりした・・・」
「急に何?ソノア」
「あ、いえ、すいません。そ、それでジデルさんは、どど、どれくらいオルスさんの事がす、すすす好きなのですか?」
「え!?ど、どれくらいって言われましても・・・すごく憧れていて、“一生この人に付いて行こう!”って思っています・・・」
「一生!?」
すごい勢いでソノアに詰められた所為か、ロジは顔を赤らめながら、思わず設定ではなく本心で答えてしまった。
「ちょ、あ、あの・・ジデルさん____」
“設定を忘れているぞ”と言おうとしたオーマだったが、思いのほか照れてしまい、良い言い回しが思い浮かばず、顔を赤くしてテンパってしまった_______のをベルジィは見逃さなかった。
_____ホモォオオオオオオオオ!!
「な、何!?また!?」
「一体どこから!?」
「気を付けろ!魔族が潜んでいるかもしれない!」
再び放たれたベルジィの負の・・・腐のオーラに、ロジ以外の三人がいよいよ警戒心を強めた。
そして、オーマとヴァリネスはアイコンタクトを始める。
(何だったんだ・・・魔族か?それとも、ひょっとしてベルジィ・ジュジュが近くに居るのか?)
(かもしれない。サレンとミクネも連れて来るべきだったわ。どうする団長?)
(ミクネ達を呼んでいる暇は無い。ベルジィと決まったわけではないが、俺達だけで探してみよう。副長、切り上げてくれ)
(ええ、分かったわ)
ソノアを巻き込むわけにはいかないと、オーマにこの場を切り上げる様に指示されると、ヴァリネスは首を縦に振って了解した。
「ソノア、ごめんなさい。私達、日が暮れる前に大手に商人とは今日の内に顔を出しておきたいの」
「ああ、そうですね。私も今日中に買い足しておきたい“素材”がありますから、今日はこの辺で」
「ええ、今日は本当にありがとうね」
「いえ、こちらこそ。また、何時でも店に来てください」
「ありがとう。じゃあね♪」
そう言って、そこでオーマ達とベルジィは、お開きになるのだった_____。




