ベルジィとゴットン商会1
オアシス都市バージアに到着して、基本方針も決めたオーマ達サンダーラッツ一行。
前日の飲み会が影響して、二日目を二日酔いで潰してしまい、本日三日目。
各メンバーは、任された役割をこなすため、別行動で街に繰り出していた_____。
「いやー悪いわねぇ、ソノア。早速付き合わせちゃって」
「そんなことないですよ。他の地域で商売している方々と懇意に出来るのは、私にとってもメリットがある事ですから・・・多少、ゴットン商会さんの品物を融通してくれたりしますよね?」
「あはははは♪そりゃーもちろん!親切な上に、良質な品物を作っている人とは私も仲良くやりたいもの。サービスするわよ♪」
「それでしたら、遠慮なさらず頼ってください」
「フフッ、ありがとう♪じゃー、お言葉に甘えさせてもらうわ。持ちつ持たれつって事で・・・」
「はい♪」
商いをする偽装工作組は、この街で商売する上で、早速すでにこの街で商売しているソノアを頼っていた。
今はバージアで商売する許可をもらうため、ソノアの案内の下、ゴットン商会に用意してもらった書類を持って役所に向かっている。
ソノア(ベルジィ)はヴァリネス(ネリス)の協力要請を、快く引き受けてくれたということだ。
(願ったり叶ったりだわ♪)
ベルジィは昨日と一昨日で、ゴットン商会について調べていた。
エリス海まで手を広げている商人たちに聞き込みをして調べた結果は_____“申し分なし!”だった。
ゴットン商会は、センテージでそれなりに大手の商会で、少しガメツイところが有るものの、ちゃんとしている組織だった。
だが、何よりベルジィにとって嬉しかったのが、BL本の発祥であるワンウォール諸島にもツテがある事と、政治には深く関与していないという事だった。
この事は、政治と戦争に係わりたくないベルジィにとっては大きなポイントだった。
貴族と癒着して政界に関与していた場合、どこの国の役人と係わりが有るのか分かったものではない。
もし、ドネレイム帝国の貴族たちともツテが有ったりしたら最悪だ。
ベルジィはドネレイム帝国が嫌いだ。
その理由は言わず物がな_____
(私の愛すべきライオン・ケイブのオースティア店(オーレイ皇国の首都)を潰した悪行・・・一生許さないわ・・・・)
といった理由で、帝国はスラルバンの後ろ盾になっているので、スラルバン国内では帝国をポジティブに感じている者が多い中、ベルジィに限っては元々政治に関心が無かった上、自分の愛する書店を潰されているため、嫌いを通り越して恨んでいた。
もし、スラルバン王国がドネレイム帝国に吸収されて、ライオン・ケイブのバージア店まで失くそうものなら、ベルジィは単身でも帝国と戦争するつもりでいる_____。
「あ、あそこが役所ですよ。行きましょう」
「ええ」
そういう訳で、政に関心が無く帝国が嫌いなベルジィにとって、それらと係わりが無い上でワンウォール諸島にツテがあるゴットン商会は最も懇意にしたい組織で、この街で商売したいという彼らを歓迎していた_____。
役所に入って数時間後、ソノアとゴットン商会の一行は、手続きを終えて役所から出て来た。
「ふぅ・・・ちょっと疲れたわ」
「思ったより時間が掛かりましたね」
商売をするため、役所に申請を出したゴットン商会。
一応、許可は下りたものの、大分時間を取られてしまった。
申請書類の作成。関税などの国が設けている税率の説明。納税方法の確認。その他、他の商人たちとの共営における注意事項の確認などと色々やったわけだが、一番時間を取られたのは、許可証を発行するための書類審査だった。
「ああ、もう!何だったのよ!あの役人!まるで私達が犯罪者か何処かのスパイみたいな扱いじゃない!」
「あはは・・・」
愚痴るネリスにソノアは苦笑いだった。
「仕方ないですよ。この時期では・・・」
「あー・・・それって、やっぱあれ?スラルバンとボンジアの?」
「ええ、やはりご存じでしたか・・・そうです。実質、停戦とも言えるくらいの冷戦状態で、今は商人達も問題無くシルクロードを利用できていますが、それでもやっぱり新規参入の方は、厳しく問い詰められます」
「はあ、そういう事・・・。なら、審査が通っただけでも良しとするべきなのね」
溜め息ながらもヴァリネスの納得の様子を見て、話が付いたと判断したオーマは口を開いた。
「これから如何なさいますか?ネリス様?」
「そうねぇ・・・セリナ、ラシラから連絡は?運搬作業はどうなっているの?」
「え?」
「ネ、ネリス様?」
「____ッ!」
ヴァリネスの失言に、オーマは慌ててフォローに入る。
「ネリス様、やはり長旅でお疲れですか?」
「え?」
「レイフィード様とラシラは、“今日”ベルヘラに向かったばかりです」
オーマはそう言いながらアイコンタクトで、“おい!ソノアはレインの能力を知らないんだぞ!”と注意する。
そう、レインの雷融合を知る者なら、サレン同様にレインも能力が向上しているので、ボンジアからエリス海に出るルートを使えば、ここから一日でベルヘラに行けると分かる。
更に、レインならベルヘラまで行かずとも、ワンウォールまで行けばベルヘラ海軍の駐屯地で通信魔道具が使えるので、早ければ今頃はもうゴットン商会と連絡がついて、商船の準備を始めた報告が来ても不思議ではない。
だが、レインの能力を知らなければ、ここから一日でベルヘラに行くどころか連絡をつける事さえ有り得ない話で、ヴァリネスの発言はおかしなものだろう。
ヴァリネスはオーマから注意されてそれを思い出し、慌てて誤魔化した。
「ア、アハハハハ・・・そうだったわ。ごめんなさい。審査が通ったから、今すぐ商売が始めたくなっちゃってー・・・テヘッ♪」
「フフフ・・・」
ベルジィはまだネリスと会って二回目だが、それでも何となくネリスにはおっちょこちょいなところが有る印象を持ってくれていたのか、怪しむ様子は無かった。
オーマはそれに少しだけ安心するも、念を押してフォローに入った。
「レイフィード様達は、今日出発してボンジアに入り、エリス海のワンウォール諸島にあるゴットン商会の支部に着くのは、二日後の夜くらいでしょう。なら、通信で連絡が入るのは、最低でも四日後になるはずです」
「そっか・・・じゃー、今の私達に出来ることは、そう多くはないわね」
「そうですね。各商会への挨拶回りくらいですか」
「なら、急ぐ必要もないし、お昼も過ぎているし、一先ず昼食にしましょう。ソノアはまだ時間有る?せっかくだし、ご馳走するわ」
「はい。是非、ご一緒したいです」
「オーケー。それでお店なんだけど、お勧め有る?私達まだ日が浅くて・・・」
「え?よろしいのですか?奢ると言われてお勧めを聞かれたら____」
「答えづらい?」
「いえ、行きつけではなく、高いお店に案内したくなります」
「プッ♪あははは!素直ね。でも、それでオーケーよ?」
「本当ですか?」
「ええ、持ちつ持たれつだからね?高い店を奢った分だけの見返りを期待できるのよね?」
「フフ♪そうですね」
「なら問題ないわよ。じゃー、これからも懇意にして行くわけだし、他の面子も紹介するわね」
そう言ってヴァリネスは、先ず、同じ商人役のロジを一歩前に出して紹介を始める。
「先ずはこの子、私の夫のジデルくん♪」
「へぇ・・ご結婚されていたのですね」
「え?」
「ネリス様!?」
「まったく・・・」
さすがにオーマとクシナから、目でツッコミが入った・・・。
「あー・・・ゴメン。違った・・・違くないけど」
「はい?」
「ああ、何でもない何でもない。改めて、この子はジデルくん。私の秘書で、夫と言ったのはそういう意味でよ」
「ああ、そういう事でしたか」
「ジデルです。これからゴットン商会と御贔屓にしていただけたら幸いです。よろしくお願いします」
「あ、はい。よろしくお願いします。こちらこそ贔屓して頂けたらと思います」
ペコリと可愛く丁寧にお辞儀してきたジデルに、ベルジィは“男だったんだな・・・”と思いながら頭を下げた。
「んで、こっちの男がオルス。ゴットン商会で雇っている傭兵団の団長よ」
「オルスです。雷鳴の戦慄団という傭兵団の団長をしております」
「ダサッ!」
「はい?」
「あ!い、いえ、何でもありません」
「そうですか、私もゴットン商会様と同様に、この地で名を売りたいと考えておりますので、傭兵としての力が必要でしたら遠慮なく相談してください」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
見た目の厳つさと傭兵という肩書とは裏腹に、丁寧にお辞儀してきたオルスに、ベルジィは“雷鳴の戦慄団ってダサい名だな・・・”と思いながら頭を下げた。
そして最後にクシナことセリナを紹介すると(特に印象的ではなかったので、省略___)一同は、遅めの昼食を取るため、ソノアに案内されて街へと向かうのだった____。




