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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第五章:幻惑の勇者ろうらく作戦
230/378

バージア潜入

 「ここがバージアか・・・確かに、他の立ち寄ったスラルバンの都市の中じゃ大き目だな」

「ふぅー、ようやく着いた」

「“ようやく”ですか?確かに予定はオーバーしましたが、そんなに日数は掛かっていないと思いますよ?」

「そうなんだけどさぁ・・道中、特にスラルバン王国に入ってからは砂漠が続いて、似たような景色ばっかりだったろ?飽きちゃって・・・」

「確かに、同じ様な景色が続いて、時間や日数の感覚も変になりましたね」

「砂漠の旅は初めてだったからな」


 帝都からバージアに向けて出発したオーマ達一行は、ヴァリネス・レイン・ミクネの三名を除くメンバーが10日程でここバージアの入り口に到着していた。

当初は一週間でバージアに着く予定だったが、全員が砂漠の初体験という事で到着にズレが出てしまった。


「砂漠の縦断は大変でしたね・・・帰りもこうなるのかと思うと・・・」

「しんどい」

「この地域は3月に入れば、乾季が終わって暑季になるそうです。暑季になると直ぐに暑くなるそうですよ」

「しんどい」

「だが、極寒のリジェース地方の行軍よりはマシだろう」

「うーん、個人的に肌が弱い私には、こちらの方がきついです」

「同じく、肌カサカサ」

「スキンケア商品が欲しいです」


旅の疲れと乾燥で、女性陣からは美容の心配が出始めた。


「サレンは大丈夫か?」


バージアに着いたオーマは、それらを他所に真っ先にサレンの心配をした。


「はい。ただ、魔力の回復薬がもうすぐ底を尽きそうです」

「そうか、回復薬はともかく、サレンの体調に問題無いなら良かった」

「ありがとうございます、オーマさん♪」



 前回のベルヘラでの潜入作戦とは違い、今回、オーマは偽る身分を傭兵にはしなかった。

冷戦状態の戦闘区域に傭兵として訪れれば目立つし、最悪どこかの勢力に雇われて戦争に介入しに来たと思われる可能性が有る。

これは、ココチア連邦を刺激することにもなり、クラースも言っていた様に危険だ。

それに、気が付かない内にベルジィに幻惑の力で攻撃される恐れもある。

今回のターゲットのベルジィ・ジュジュの力は、自分達が攻撃されている事にすら気付けぬ可能性が有るというのが恐ろしい所だ。

 そこでオーマは、ベルジィにもココチア連邦にも目を付けられない様に、商人の身分でバージアに潜入する事を考えた。

更に、才能もある程度開花させているだろうベルジィ相手には、今までの隠密行動では通用しない可能性も考慮して、オーマはサレンにスラルバンの領土に入ってからずっと静寂の力を使ってもらい、商人役のメンバーの魔力を隠蔽してもらっていた。

 その方法は、サレンの静寂の力を宿したお守りを持たせるという方法だ。

 サレンは、この短い期間の間に源属性の練度を、STAGE5(発生)からSTAGE6(付与)まで届こうかというくらい魔法技術を上げていた。

12月中、遊んでいただけではないというのもあるが、ここまで成長した一番の要因はやはり、准魔王シーヴァイスとの死闘が大きいだろう。

ここまで源属性を成長させたサレンは、静寂の力を物に付与できるようになっていた。

ただ、完全にSTAGE6まで届いていないので、付与効果は永続的という訳ではない。なので、効果時間が切れたらその都度、魔法を掛け直す必要が有る。

それは、かなり魔力を消費する行為だったが、そのおかげで商人役の者たちは、完全に魔導士であることを隠すことができていた_____。



「旅が思ったより時間掛かって、回復薬の消費も激しかったですからね」

「どこかで購入しないと」

「スキンケア用品も」

「あー、分かった分かった。クシナ、ミクネからは?」

「はい。この街の手前までレインの魔法で来て、そこから歩いてくるので、後一時間ほどかかるそうです」

「じゃー、ユイラ、ジェネリー、俺達はここでヴァリネス達を待たなきゃいけないから、二人は宿を探してきてくれ。ついでにお勧めの薬剤店なんかも聞き込みして来てくれると助かる」

「分かりました」

「了解です」

「いい品が有ると良いですね、ジェネリー」

「フフ、そうですね。商人が行き交う都市だから、きっと良質な品が有ると思います」

「ぼったくりも多いでしょうね」

「そうですね、注意していきましょう」


二人はそんな会話をしながら、宿を探すため街の中へと入って行った____。






 「兄様!」

「オーマ!」

「お待たせー」

「おー、ご苦労だった三人共、どうだった?」


 ユイラとジェネリーが別行動を取ってから約一時間後、ヴァリネス・レイン・ミクネがオーマ達と合流した。

 今回、商人としてバージアに潜入するにあたり、その身分を裏付けるために、ヴァリネス達には別行動を取ってもらっていたのだ。


「うん、ばっちり!上手く話がまとまったわよ。はい、これがその証明になる書類。これで私達は正式にゴットン商会の人間になれるわ」

「はい。この書類を持って役所に届け出すれば、この都市で商売だってできますよ」


 今回、商人としてバージアに潜入するにあたり、オーマは偽装工作として、かつてベルヘラで出会ったゴットンの力を借りることにした。

商人の身分の偽装は帝国でも出来るが、帝国との繋がりが有ると怪しまれる可能性も有る。

新しく事業団体を立ち上げるにしても、出来たばかりの何のキャリアも無い組織では信用されない。

 そこで、ベルヘラとワンウォールで長く海運事業をやっているゴットンに頼んで、ゴットン商会に籍を置かせてもらい、“ゴットン商会のシルクロード進出のためにバージアを訪れた”という設定を作ろうとしたのだ。

これは、ベルヘラ領主のプロトスにも協力してもらうと、元々オーマ達“雷鳴の戦慄団”を気に入っていたゴットンは喜んで協力してくれた____。


「ありがとう、レイン。体調は大丈夫か?」


 オーマはサレン同様に、雷融合の魔法を使って、帝国からベルヘラを経由してバージアに来るために多量の魔力を消費したであろうレインを気遣った。


「はい!ダメです!元気がなくなりました、兄様」


レインは元気一杯にそう答えた____。


「・・・・・」

「・・・どうしました?兄様?」

「いや・・・メチャクチャ元気だなと・・・」

「そんな事ないです。疲労困憊です。回復が必要です」


レインは元気一杯に疲労を訴えた_____。


「・・・・・」

「回復が必要です」


レインは元気一杯に(略)____。


「わ、分かった分かった。でも、回復薬は切らしているから、今から商店街で____」

「お待ちを_____」


_____買い物して来る。と言って街に入ろうとしたオーマを、レインは袖をムンズと掴んで離さない。


「____どういう事だ、レイン」

「回復が必要です、兄様」

「いや、だから今買って____」

「ギュッ、ってしてください」

「______」

「頭ナデナデもです」

「______」


どうやら、疲労を理由にイチャイチャしたいという事らしい・・・。


(ま、まあ?減るもんじゃないし?)


しっかり気苦労で気力が減っているのだが、それは努めて無視して、ろうらく作戦の実行者としての責任を・・・と思いつつ、それなりにウキウキしながらレインにハグを_____


「_____ギュッ」

「_____」

「_____」

「_____ムギュッ」

「_____」

「_____」

「ギュウウウ・・・」

「う_____」

「・・・何してやがるのです?サレン?」

「回復です」

「は?」

「______」

「私もずっと魔力を消費して来ましたから、回復が必要です」

「・・・どいてください」

「嫌です」

「サレン。貴方は先月も祭りなどで兄様と一番デートしていますよね?ここは私と代わるべきです」

「嫌です」

「_____」

「_____」

「か、勘弁してくれ・・・」

「サレン!ずるいですよ!私が最初に提案したんです!割り込みです!」

「いーえ!私が先にここに居たのですから、私が先です!」

「それは、私は任務があったから_____」

「うるさいぞ!二人共!」


_____ガガン!


 ヒートアップしたレインとサレンを、ミクネは問答無用で張り倒した。


「ミ、ミクネ・・・」

「まったく、潜入任務で騒ぐなバカ者」

「むー・・・」

「ぶー・・・」


まさかのミクネからの正論で、二人は黙るしかなかった。


「ヒュー♪ミクネ、やるじゃない♪」

「フフン♪」

「ああ、てっきり他の女の子と一緒になって騒ぐのかと思った」

「意外」

「フフン♪その通り、私は実は気遣いのできる女なのだ」

「三歩下がれる女ってやつか?」

「その通りだイワ。・・・どうだ?オーマ?」

「へ?」

「私は三歩下がれる慎み深い女なのだ。どーだ?」

「・・・・・」


____ザッザッザッ


「私は三歩下がれる女だ。オーマ」

「三歩前に出て来ているが?」

「慎み深いだろう?」

「猛プッシュしているが?」

「プッシュしているんじゃない。ただの事実確認だ。知ってほしいだけだ」

「だ、だから、それが____」

「私は三歩下がれる慎み深い女だろう!」


ミクネは胸を張って、バーン!と主張した____。


「何を言っているのですか、ミクネ?」

「ミクネさん、“慎み深い”って言葉の意味ご存じですか?」


ミクネの態度に、息を吹き返したレインとサレンが噛み付き始める・・・。


「あ、あうあうあ・・・」


ミクネも加わったいつものパターンに、甲斐性無しのオーマの気力はガンガン削られた。


「大丈夫ですか?団長?」

「ロ、ロジ・・・」

「あ、あの皆さん。ここは街の入り口ですし、団長も長旅で疲れています。宿を探しに行ったユイラさんとジェネリーさんもそろそろ戻ってくるでしょうし、その件は一息ついてからにしましょう・・・ね?」

「ぬ・・・」

「は、はい」

「そうですね」


ロジがそう言うと、三人は渋々了承した。


「ふぅ・・・助かった。ありがとう、ロジ」

「団長のためなら、これくらいは何てこと無いですよ」

「ロ、ロジ・・・」


ピカ―っと光る聖母の後光に、オーマは感涙した。


「いや、大げさだろ」

「聖母でも相手にしているのでしょうか?」

「え?ロジくんは聖母よ?」

「ふ、副長・・・」


____等と、サンダーラッツ一行がいつもの調子で雑談していると、宿を取ったユイラとジェネリーが帰って来た_____。




 「ソノア・エリクシール?」

「はい。この街一番の薬剤店で、魔力の回復薬なんかも置いてあるそうです」

「ここからだと宿屋より近いですが、如何いたしますか?」

「そうなの?なら、宿に向かう前に立ち寄りましょうか?団長?」

「そうだな。じゃー、皆!今からその薬剤店に寄る。ベルジィは薬物属性を扱えて薬剤師として街に居るかもしれないから注意が必要だ。サレン、ミクネ、済まないがもう一仕事頼む。残りの回復薬を使い切って構わないから、店に行ったら、サレンはミクネに魔法探知阻害の魔法掛けて、ミクネは店の中で索敵魔法を頼む」

「分かりました」

「おう!」

「よし、じゃー、今から俺の言う事をよく聞いてくれ_____」


そう言ったオーマは、街に入る前に、自分達の身分・役職・立場・この街に来た動機などの細かい設定の最終確認を行い、それから目的の薬剤店へと足を運んだ_____。

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