ベルジィ・ジュジュが戦う理由
「ありがとう、ソノアさん!」
「どういたしまして、じゃーね」
少女を家まで送り、ソノア・エリクシールの店主は一人になり、道を歩く・・・来た道ではない。
途中までは来た道だったが、寄り道するつもりらしく、途中でソノア・エリクシールとは逆の方向に曲がった。
そうして暫く歩いていると、お酒が飲める店や、娼婦が立ちんぼしている繁華街に出た。
「おー!ジュネッサじゃねーか!元気か?」
繁華街を歩いていたソノア・エリクシールの店主は、一人の男に突然“ジュネッサ”と声を掛けられた。
「あら♪バギー、お元気そうね」
ジュネッサと呼ばれたソノア・エリクシールの店主は、その事を気にする様子もなく、少し妖艶な雰囲気を出して挑発的な声で男に返事した。
「ジュネッサ、何でここに居るんだ?ひょっとして、わざわざ俺に会いに来たのか?」
「フフッ♪自信家ね。でも違うの。ただ店に忘れ物しただけ」
「なんだよ~・・・なあ?これだけ店に通ってんだ、そろそろ付き合ってくれてもいいだろう?」
「ありがとう。店に来てくれるのも、口説いてくれるのも嬉しいわ」
「ホントか!?だったら____!」
「でも、その口説き方じゃダメよ。たくさん店に通ったからって理由で貴方と付き合ったら、貴方より店に通っている他の人達に恨まれるわ」
「ぬ・・・」
「そう口説くなら一番お店に通ってね♪そうでないなら、別の機会に他の口説き方で来て頂戴。じゃあね♪」
そう言って男を躱すと、ジュネッサと呼ばれたソノア・エリクシールの店主は自身の経営する居酒屋へと消えて行った。
「くそ・・・あの女、舐めやがって・・・でも、いい女だよなぁ。あの茶髪の前髪から覗く透き通った水色の瞳の流し目なんか、めちゃ色気がある。紫色の“いかにも”ってエロい服装なのに気品もあって、あのポニーテールから覗くうなじも・・・はぁ、マジでいい女だぜ・・・」
躱された男は、彼女の後姿を眺めながら、そう呟いていた____。
ジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は、自分の店に入った後、すぐに裏口から出ていく。
そしてまた、スタスタと物静かに歩き出す。今度の方向も“ソノア・エリクシール”とは違う方向だった。
暫く歩いて、日がしっかり沈んだ頃に、ジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は、一軒の書店、“ライオン・ケイブ”という店に辿り着いた。
そして、何故か一呼吸おいてから、覚悟を決めた様に店に入って行った____。
「あー、ごめんなさーい。もう店仕舞いなんですー」
ジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主が店に入ると、棚整理していた店の女店主が、人の気配を感じ取ったのか、入って来た客の姿も見ずにそう声を出した。
「すいません。ノワールです。今晩は」
「ああ!なんだ、ノワールさんだったの?だったらいいわよ。いらっしゃいませ!」
店に入って来たのが超常連客だと分かると、ライオン・ケイブの店主は態度を一変させて、ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主を迎え入れた。
「いいですか?」
「もちろん!長年通ってくれているノワールさんなら、大歓迎よ♪」
「ありがとうございます♪」
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は上機嫌になり、“白銀”のポニーテールをフリフリと揺らして喜んだ。
それから、顔を赤らめ、もじもじした仕草を見せながらライオン・ケイブの店主に質問した。
「あ、あの・・・その、それで聞きたいのですけど・・・」
「ん?何ですか?」
「きょ、今日、ラルスホームズ商会の人達が来たとか・・・それで、その・・・」
その話を聞いて、ライオン・ケイブの店主は全てを察して、ニヤリと意味深な表情を見せた。
「ああ・・・そういうこと。“いつもの”やつね。うん新作が入荷しているわよ。見る?」
「は、はい!はい!はい!み、見ます!!」
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は、先程以上に嬉々とした表情を見せて興奮気味に返事した。
「プッ♪はいはい。じゃ―、ちょっと待ってて」
その様子を見たライオン・ケイブの店主は、ニヤついた表情のまま、店の奥へと消えて行った_____。
ライオン・ケイブの店主は、数分かけて、本の束を持って倉庫とカウンターを往復して、数十冊ほどの本の山をカウンターに並べた。
「はい!これが、今回入荷した新作の全部よ。どうぞごゆっくり~♪」
そして、その言葉だけを残してライオン・ケイブの店主は、棚整理の仕事に戻って行った____。
「・・・・・・」
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は、無言のまま本の束を眺めている・・・。
その瞳は爛々としていて、宝を見つけた冒険者のような表情だ。
どうやら、言葉が出ないほど感動しているらしい・・・。
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主が宝とする本____。
それらは、厚みもサイズもバラバラだったが、全ての本に共通している事があった。
全ての本の表紙に、半裸の男達が絡み合っているイラストが使われているのだ・・・・・。
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は表紙のそれらを見て、今度は恍惚とした表情を出したまま、本を一冊取り、中身の吟味を始めた_____。
「ありがとうございました~♪」
たっぷり一時間以上かけて本を吟味したノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は、先程の表紙の本を10冊ほど購入して店を後にした。
それらの本を、“わが命ここに在り!!”といった感じで大事に抱えながら、スタスタと普段の倍の速度で家路へと急ぐ。
更には、誰にも見つかりたくなかったのか、それとも一刻も早く家路に着くための近道なのか、人目を避けて路地裏へと入って行った。
だが、どうやらそれが良くなかった____。
「おう!待て女!金目の物を出せ!」
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主の前に、一人のガラの悪い男が現れた。
オアシス都市バージアは、シルクロード利用者の事を考えて警備を強化していて、スラルバン王国の中では治安の良い方だが、日も沈んだ時間帯に警備の薄い路地裏を女性一人で歩けばこうなってしまう。
のだが_____
「・・・・・」
「ほう?素直だな。結構結構♪」
「・・・・・」
「ん?お前・・・よく見ればいい女だな・・・へへ。おい、ちょっと“奉仕”の一つでもしてくれよ」
「・・・・・」
「そうだ。大人しく従えば、悪いようには死ねぇ。ゲヘヘヘへ♪」
____と、男は何故か一人でそんな事を喋りつつ、ズボンを下ろし始めている。
ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は、男を無視してスタスタと歩いて行く。
いや、無視しているという訳でもない様子_____
「私の幸福な時間に水を差した愚か者め・・・許さん____!」
___と、そう小声でボソッと呟いた瞬間、
「ぎゃぁあああああああああ!!?」
男は絶叫した____。
「な、なんだ!この化け物ぉ!!う、うわぁああああああ!!やめてくれぇええええええ!!」
「どうしようかな・・・私の幸せな時間を奪っているし、相手は強盗だし・・・・うん」
「うばぁああああああ!!」
男は何を見ているのか分からないが、一人で勝手に錯乱し、一人で勝手に全裸になって体中爪を立てて掻きむしり始め、体を血で赤く染め始めた。
そして、ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主が家路に着く頃には、男は血だらけになって動かなくなっていた_____。
「____ふぅ」
自宅のソノア・エリクシールに帰ってくると、ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主は二階に上がって、リビングのテーブルに本を丁寧に置いて一息ついた。
そして次の瞬間、彼女の姿が“またも”変わった____。
ストレートの黒い髪に、赤いスクエア・アンダーリムのフレームの眼鏡をかけていて、薄緑とベビーピンクのサリーを着た女性だ。
顔は、ノワールと名乗ったジュネッサと呼ばれるソノア・エリクシールの店主のときと似て、涼しげ・タレ目・母性を感じる瞳なのだが、少しやぼったくて暗い印象もあるが、整っていて美人なため、陰湿な感じはしない。
この女性は、今日の夕方店に来た少女が言っていた女性でもある。
名前だが、恐らく予想がついているだろう。その通り____。この女性こそ、ベルジィ・ジュジュだ。
この世界に一つしかないBL書籍を取り扱っている店、“ライオン・ケイブ”を守るためだけに、宮廷魔導士としての地位を捨てて王宮を去り、一人でスラルバン王国とボンジア公国の戦争を冷戦状態にした腐女子の勇者候補である_____。




