サウトリック地方の状勢
ファーディー大陸南部はサウトリック地方と呼ばれている。
サウトリック地方の特徴として、乾燥帯が広がっていて砂漠が多いことが上げられる。
特に、大陸中央の大国ドネレイム帝国と、サウトリック地方の南部の大国ココチア連邦を隔てる様に、サウストラ砂漠という大きな砂漠が在る。
スラルバン王国は、このサウストラ砂漠に建国された国だ。
殆どが砂漠地帯なため、元々は小さな市町村が穀物を育てる農業、羊やラクダを使った遊牧で質素堅実に生活を送っていただけだった。
だが、中央でドネレイム帝国、南部でココチア連邦という国が台頭してくると、この両国間を行商人が行き来して交易が盛んになった。
当時、一豪族でしかなかった初代スラルバン王はこれに目を付け、サウストラ砂漠にあったオアシス都市をまとめ上げ、行商人がサウストラ砂漠を渡れるようにするための経路、通称“シルクロード”を作って経済発展を遂げ独立、スラルバン王国を建国した。
商人が利用する大陸中央とサウトリック地方とを結ぶ物流経路は、ラルス地方を経由するエルス海の海運ルートと、サウストラ砂漠のシルクロードしかない。
東側は、チオラ山脈という広大な山岳地帯に阻まれている上、そのさらに東にはアマノニダイのアマズルの森であるため、エリストエルフと交流の無い人間に利用することは出来ない。
そして、商人達が利用できる、中央と南部の交易ルートが二つしかないという事実が、スラルバン王国とボンジア公国の対立を生むことになるのだった・・・。
スラルバン王国とボンジア公国は、ドネレイム帝国とココチア連邦に上下で挟まれながら向かい合う様に存在している。
北、ドネレイム帝国。西、ボンジア公国。東、スラルバン王国。南、ココチア連邦と言った具合で、地図で見ればダイヤモンド状になっている。
シルクロードで経済発展を遂げたスラルバン王国に対して、ボンジア公国は西のエリス海を使った海運事業で経済発展した国だ。
両国としては、相手の交易ルートが無くなるor自国が手に入れられれば、中央と南部の交易を独占できるという状況。
そんな状況ゆえ、どちらからという事なく、お互いに相手国の交易に難癖をつけたり、事件を起こしたりして嫌がらせを始める。
スラルバン王国とボンジア公国の両国の関係は、一度として友好的になる事なく悪化の一途を辿って行った・・・。
そしてここに、ドネレイム帝国とココチア連邦の思惑が加わる_____。
ココチア連邦は、ボンジア公国と同じく、エリス海を使ったラルス地方との交易ルートを持っている。
ボンジア公国と連携、もしくは吸収出来れば、南部の海運事業を独占でき、さらにセンテージ、特にベルヘラを落とせれば、西部の海運事業も手中にしてエリス海を支配できるようになる。
余談だが、このためにココチア連邦は昔、センテージとワンウォール諸島の連合艦隊に海戦を挑んだ事があり、これを撃破した事でレインの父プロトスの海戦手腕が世に知れ渡る結果になった。
更にココチア連邦は、スラルバン王国を滅ぼす、もしくは圧力を掛けてシルクロードを閉じることが出来れば、商人たちは自分達の交易ルートを使うしかなくなり、自国を発展させつつ帝国を弱体化させることもできる。
これに対してドネレイム帝国は、ボンジア公国を手に入れれば、シルクロードを残しつつ、エリス海の覇権を取る足掛かりができる。
そういった訳で、ドネレイム帝国とココチア連邦の両国は、お互いに自国が大陸の覇権を取るため、ドネレイム帝国はスラルバン王国の、ココチア連邦はボンジア公国の後ろ盾となり、これがきっかけでスラルバン王国とボンジア公国の戦端が開いたのだった。
このため、スラルバン王国とボンジア公国の戦争は、ドネレイム帝国とココチア連邦の代理戦争と呼ばれている。
今回、オーマ達の作戦の舞台となるバージアは、スラルバン王国の南西に位置しており、ボンジア公国とココチア連邦とも接地している地域で、サウトリック側のシルクロードの入り口となっている。
そのため、ボンジア公国から軍事攻撃されるだけでなく、ココチア連邦からも行商人の関所通過の取り締まりを強化されたり、経済制裁の対称にされたりして、スラルバン王は一度この地を手放すことも考えた。
だが今は、ベルジィ・ジュジュの介入によって戦闘行為が行われておらず、ボンジア公国の侵攻は止まっている。
激戦区であるはずのこのバージアが原因不明の膠着状態に入ったことで、他の国土が隣接している戦闘区域もまた、物資の流通に支障をきたす可能性を考慮して戦闘行為を控えると、両国は冷戦状態になったのだった。
バージアは大きなオアシスを中心に、大きく三つの区域に分かれている。
軍事基地のある軍事区域、住民が暮らす居住農村区域、シルクロードを利用する商人たちが立ち寄る商業区域の三つだ。
スラルバン王国に点在するオアシス都市の中でも、軍人と住民、行商人の三つが交わる都市は少ない。
そのため、スラルバン王国の中では、バージアは比較的大きな都市に分類される。
だが一番の特徴は、先にも述べた通り、ボンジア公国とココチア連邦とも隣接しているという点だ。
そのため、海路を使った西部からの物品がよく流通しているという特徴がある。
そして、これこそが今、この地域の戦闘行為を止めているベルジィ・ジュジュが、このバージアに固執する理由だった____。
バージアの商業区域にある薬剤店“ソノア・エリクシール”は、この都市一番の薬剤店として有名だ。
数多くの効果的な薬を扱っており、今日ももう日が沈みかけた店仕舞いの前だというのに、一人の少女が客として訪れた。
「ソノアさん!こんにちは♪」
「はい、こんにちは。いらっしゃいませ」
少女はソノアと呼んだ女性が好きなのか、その明るい挨拶からは、客と店主の垣根を超えて懐いている様に感じる。
少女の明るく無邪気な声とは対照的に、ソノア・エリクシールの店主の声は落ち着いていて知性を感じる声だ。
金色の長いウェーブをかけた髪を下げており、涼し気で落ち着きを感じる目は、少し垂れていて母性も感じる。
来ている服も、落ち着きと気品を感じる萌黄色のサリーという民族衣装を着ていて、全体的に“知性と母性を感じるお姉さん”に仕上がっている。
少女でなくても、思わず懐いてしまいたくなる魅力を持った姿だった。
「ソノアさん、いつものください」
「はい。お父様の持病のお薬ね。お使い出来て偉いわね。でも、今日はいつもより遅かったわね。もう日が暮れる時間よ?」
「あ・・・うん。ちょっと、ラルスホームズ商会の人達が来ていて、ラルス地方からの新しい品物が露店に並んでいたの・・・」
「へぇ・・・あ!うん。・・・そ、それを見ていたら、遅れてしまったのね。いいわ、じゃー帰りは私が送って行ってあげる」
「ほんと!?ソノアさん、ありがとう!」
少女は、ソノア・エリクシールの店主からの親切がというより、ソノア・エリクシールの店主と外を歩けることが嬉しい様子だった____。
「じゃあ、行きましょうか」
少女の注文の品を用意して、会計も済ませると、ソノア・エリクシールの店主は少女の手を引いて店を出ようとした・・・。
「あれ?」
「ん?どうしたの?」
「えっと・・そのまま出ても大丈夫?」
「え?」
「だって、同居している人が居るんでしょ?あの黒髪の眼鏡のお姉ちゃん。何も言わずに出て大丈夫?」
「あ?ああ!そ、そうね!そうだったわ。じゃー少し待ってて。彼女に留守を頼んでくるから」
「うん!」
ソノア・エリクシールの店主は、そう言って店の二階に上がり、「外出するから留守をお願いね」とだけ言って戻って来た。
「お待たせ。では、行きましょう」
「・・・・・」
「えっと・・・まだ何かあるの?」
と、ソノアと呼ばれる女性は少し困惑気味に少女に言った・・・・相手が少女とはいえ、これ以上は怪しまれたくないらしい・・・。
「暗いよね。あのお姉ちゃん。無視されたでしょ?」
「え、ええ!?」
どうやら返事が返って来なかった事で、少女に在らぬ誤解をさせたらしい・・・・実際は誤解でもないが・・・。
「ち、違うわよ。あの子の声が小さかったから聞こえなかっただけ」
「本当?喧嘩してない?」
少女は、大好きなソノア・エリクシールの店主が、あの黒髪の眼鏡の女性に嫌われたり虐められたりしていないかを心配している様子だった。
「してないわよ。大丈夫。あの子とは仲好しよ♪」
ソノア・エリクシールの店主は、少女からこれ以上追求されない様に優しくそう言って、再び少女の手を引いて、今度こそ少女を家に送って行くのだった_____。




