いざ、スラルバンへ
屍となっていたオーマは、ユイラに回復してもらうと伝言を受けて、城へと入り、クラースの下へと訪れる。
休暇中での急な呼び出し____。
オーマは、ここへ来る道中で、クラースに何を言われるのか大体察しがついていた。
「すまないが、今すぐにでも君達にはスラルバンへと行ってもらいたい____」
____察していた通りだった。
「ターゲットに関する情報が入ったのですね?」
「そうだ。ココチア連邦にバークランドの残党が加わって、その中にフレイス・フリューゲル・ゴリアンテの存在を確認した」
「ッ!?フレイスがココチア連邦に!?」
「ああ。この事態は帝国の南部攻略に多大な影響が出ると予想される」
勇者候補の中でもフレイスはサレン同様に真の勇者の本命とあって、クラースの口調は苛立ちも混じった真剣なものだった。
今のクラースとは会話したくないオーマは、オーマ自身、フレイスの名が出て緊張が走ったのもあり、クラースの話が終わるまで余計な口は挟まないと決めた。
「最も恐るべき事態は、ココチア連邦がボンジア公国とスラルバン王国の代理戦争にフレイスを投入して、スラルバンを手に入れ、更にはスラルバンに居るベルジィ・ジュジュも傘下に入れる可能性だ」
ココチア連邦にボンジア公国とスラルバン王国が加わり、更にフレイスとベルジィという二人の勇者候補がいれば、間違いなく帝国にとって最大の敵が誕生するだろう。
国力は帝国の方が上で、勇者候補同士の戦いに関しても、人数差でこちらが有利だが、真の勇者筆頭候補のフレイスに、先日の晩餐会でカスミに聞いたベルジィの幻惑の力の事を考えると、そう単純計算で語れるものではなく、敗北も十分に有りえるだろう。
クラースの、フレイスが動く前にベルジィと二か国の戦争をどうにかしたいという考えに、オーマは反乱軍としても完全に同意だった。
ココチア連邦はココチア連邦で手を組むのが難しい国だ。ココチア連邦の勢力が拡大するのは嬉しくない。
「今、ココチア連邦を刺激したくはない。そのため、表立っては援軍を南部に送る事はできない。君には勇者候補を含む精鋭部隊で、ベルジィが居るであろうバージアに潜入してもらう。とはいえ、ココチアが動くことも想定して、サンダーラッツもいざという時すぐにスラルバンに行けるようにしておけ、以上だ。質問は?」
正直、今のクラースとは会話をしたくなかったが、部下の命も掛かっているので、聞けることは聞いておくべきだとオーマは口を開いた。
「ベルジィがバージアに居るというのは間違いないと聞いておりますが、バージアの何処に居るのかは判明していないのでしょうか?バグスに調査は____」
「____させた。が、失敗した」
「・・・・・」
「オーマ、ベルジィの能力については?」
「・・・先日の晩餐会で、カスミ様より幻惑の勇者と同じ力を持つ者と聞いております」
「そうだ。恐らく、その力の所為だろう。バグスも任務を終えたと帰還したが、報告内容は全てデタラメだった。万が一の事を考え、カラス兄弟にはやらせなかったが、二人を行かせても結果は変わらないだろう」
「・・・・・」
帝国最精鋭の隠密部隊であるバグスが役に立っていないと聞いて、オーマの背中に冷たいモノが流れる。
「ベルジィの幻惑の力を突破して、彼女の居場所を特定するには、勇者候補のサレンとヤトリの力が必要だろう。そういった意味でも、この件に君達にしか任せられない」
「畏まりました。直ぐに精鋭部隊を編成してスラルバンへと向かいます」
「可及的速やかに任務を遂行せよ。これまでの様な立派な戦果を期待する」
「ハッ!了解しました!」
そう言ってオーマは直ぐに城を後にした。
クラースの方もココチアへの対応に追われているのか、いつもの様にオーマのことについて考察する間もなく仕事に戻った____。
オーマはクラースから出撃命令が出たその日の内に主なメンバーに状況を説明し、準備させた。
そして、翌日には精鋭部隊の一同が、帝都の城門に集まっていた。
集まったメンバーは、サンダーラッツの幹部から、団長オーマ・ロブレム、副長ヴァリネス・イザイア、砲撃隊長クシナ・センリ、工兵隊長ウェイフィー・フィットプット、遊撃隊長フラン・ロープ、突撃隊長ロジ・レンデル、重歩兵隊長イワナミ・ムガ。
勇者候補は全員で、不死身の勇者ジェネリー・イヴ・ミシテイス、閃光の勇者レイン・ライフィード、静寂の勇者サレン・キャビル・レジョン、烈震の勇者ヤトリ・ミクネだ。
これに、サンダーラッツを呼ぶ可能性を考慮して、サンダーラッツの指揮はシマズ・マズマとナナリー・ユジュに任せるため、今回はユイラ・ラシルが通信兵として参加し、合計12人の精鋭部隊で出撃となる。
「はぁ・・・なんだよ、結局休み返上じゃんか」
「仕方ないですよ、フラン。ココチアにフレイスがいるなら事態は急を要しますから」
「まさか、あの女とまた戦う事になったりしないよな?」
「ゼロじゃないですよ。気を引き締めないと」
「めっちゃ嫌」
「ベルジィという方はどうなのでしょうね?」
「分からん。彼女のバージアに執着している理由次第じゃないか?」
「現地に行ったら、先ずはその辺りから調べた方がいいですかね?」
「そうね。情報なしで本人に接触するより、できる限り情報を手に入れてから接触したいわね・・・」
「でも、スラルバン王宮時代の情報もあまりないのですよね?」
「秘密主義ってか?」
「なら逆に探る事ができれば、事態を好転させる情報が手に入るかもしれませんね。そういう人って、大きな隠し事をしている場合が多いですから」
「どちらにせよ、あんた達に頼ることになるわ」
そう言ってヴァリネスは、勇者候補たちに顔を向けた。
「お任せください!」
「何だ?レイン。気合入っているな」
「いや~、正直ベルヘラで育った私には、この帝都でも肌寒く感じていまして・・・この時期に南方へ行けるのは願ったりです」
「はぁ・・そんな理由か・・・」
「あ!何ですかご主人様!?その態度!?いいじゃないですか!モチベーションは人それぞれです!やる気の無いご主人様よりマシでしょう!?」
「な!?誰がやる気がないって言った!?」
「あれ?違うのですか?何かいつもより静かだったので____」
「別にやる気が無い訳じゃない。ただ・・私は不器用だから、こういう潜入任務が得意ではないのだ・・・」
「あー、そういえばベルヘラでは灰色になっていましたね」
「ユイラさん!それは言わない約束!」
「ハハッ、すいません。でもあの時は入団したてで初任務でもあったわけですし、しょうがないですよ。今は腹芸も上手くなっていると団長も言っていましたし、今回はきっと大丈夫ですよ!」
「そ、そうでしょうか?あ、いえ、弱気じゃいけませんね。今回こそ必ずお役に立って見せます!レインには負けません!」
「むっ!?望むところですよ、ご主人様!」
「二人共気合入っているわねぇ・・・でも、今回の潜入任務で期待しているのは、あんた達じゃなくて、そっちのエルフコンビなのよ」
「「え?」」
「ありがとう、ヴァリネス」
「フフン♪まあ、そうだろう」
「そ、そんな・・・」
「ヴァリ姉様!?どういうことです!?」
「いや、どうって・・だって二人の方が、隠密得意じゃない」
「まあ、そうだな」
「二人はエルフである事だけじゃなく、持っている能力も隠密任務向きですもんね」
「だから今のところ二人は、いざという時の戦闘要員かしら?」
「ぐぬぬ・・・」
「り、了解です・・・」
二人の気合がカラ回った様は少し可哀想だったが、全ての命運がかかった任務であるため、オーマもヴァリネスと同意見だった。
「____さて、そろそろ行くか?」
「そうね。じゃー、団長。号令お願い」
「ん・・・皆、我々はこれから作戦のため、スラルバンのバージアに出発する。先日渡した資料でも分かる通り、今回のターゲットのベルジィ・ジュジュはかなり危険な力を持っている。その上、本人の秘密主義もあって、その性格もあまり分かっていない。反乱軍に加えるのは、困難が予想される」
「「・・・・・」」
「だが、俺達はこれまで、多くのピンチを乗り切って、反乱軍の勢力拡大を成功させている!今回も皆で力を合わせれば必ず成功するだろう!協力してくれ!」
「はい!頑張ります!」
「乗り掛かった舟ですから」
「団長の仰る通り、今回も成功しますよ」
「必ず反乱軍にベルジィちゃんを加えよう!」
「そして、打倒帝国ですね!」
「いや、シルバーシュ含めて、独立が先だレイン」
「両方同時にやれますよ!オンデールとゴレストも!」
「アハッ♪いいなあ!この雰囲気!私は帝国を倒すために、こんな仲間が欲しかったんだ!」
「俺も、ミクネの様な人物は歓迎だよ。・・・晩餐会では冷汗欠いたがな」
「ん?何か言ったかオーマ?」
「何でもない!じゃー、皆!出発だ!」
「「おう!」」
前回の作戦で、攻略の難しいミクネを仲間にして、スカーマリスの准魔王と戦い、籠絡にも戦闘にも実力をつけたサンダーラッツ一行は、幻惑の勇者ベルジィ・ジュジュに対しても自信にあふれていた。
そうして一同は、次のターゲットの居るバージアに向けて出発するのだった____。




