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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間皇帝と騎士
223/380

皇室晩餐会(フェンダーとの初対面)

 ベルジィ・ジュジュの幻惑の力____。

 集団に対してさえ惑わせることのできる、このチート能力・・・・その“集団”の規模とはどれ程か?

一つの戦闘地帯にその力を及ぼせることは判明しているわけだが、それでは納まらない可能性が有るのが勇者と魔王という存在だ。

オーマは、カスミが魔王の予言に在る、“疫病”と呼べる現象を起こせそうな人物にベルジィの名を上げた理由をここで理解する。

 そうしてベルジィの事や、スラルバンとボンジアの情勢など、次の作戦について考えていると、晩餐会どころではなくなりオーマは会場に入れずにいた。

 すると、そのオーマの緊張にもこの会場にも相応しくない、軽いトーンでオーマに声を掛ける者が現れた。


「おう!オーマ♪」


ヤトリ・ミクネだった。

ミクネは、正装しているオーマやカスミと違い、普段の袖なしの着物まま、軽い足取りで現れた。


「・・・何と言うか、スゲーな。ミクネ」

「んあ?何が?」

「フフッ♪相変わらずですね、ミクネ♪」

「げっ!?カ、カスミ・・・」


ミクネは、オーマのそばに居るカスミに気付くと、ミクネと会えて喜ぶカスミとは逆に、露骨に嫌な顔をした。


「カスミ、何してんだ?何でオーマと一緒にいる?オーマをモルモットにするつもりか?」

「人聞き悪いですね。オーマ殿をモルモットにしたい気持ちは・・・無くは無いですが____!?」


_____ドンッ!!


 カスミがそう言うや否や、ミクネはこの場の事などお構いなしに、カスミに魔法をぶっ放した。

だが、カスミも予想していたのか、しっかり防護魔法を発動して防いでいた。


 「・・・・・」


 突然カスミに魔法を放ったミクネに、オーマはドン引きした。

それから心の中で、“そういえば、こいつの性格はこうだった・・・”と、忘れかけていたミクネの性格を思い出したりしていた。

 今は自分の陣営に居るので、“止めなくては”とも思うが、カスミの放った魔法は、冗談で済まないレベルのオーマにとって危険な魔法だったので、迂闊には入れない。

自分の事をモルモットにしたい気持ちが有ると言ったカスミにもドン引きしていて、助ける気になれないというのもある・・・・。


 「本当に相変わらずですね、ミクネ」

「オーマに何かしたら殺すぞ?まあ、何もしなくても、いずれ殺すがな」

「あら、厳しいですね」

「当り前だ!国を捨てて帝国に付いた裏切り者!」

「ふむ・・・そうとも言えるのでしょうか?私としては、自分の使命を優先したまでなのですが・・・」

「じゃー、もし、帝国とアマノニダイが戦争になったら、どっちに付く?」

「帝国ですね」

「即答しやがって・・・・今、殺すか?」


 そう言ったミクネは更に殺気を強め、先程以上の魔力を練り上げて魔法術式を展開する。


「___ッ!」


 カスミでも警戒で表情が変わる程の魔力____。

オーマも、さすがにヤバイと思い、ミクネを止めようとした。

が_____


「____ヤトリ様、御戯れはそこまでにお願いいたします」

「ッ!?」

「あら・・・」

「いつの間に・・・」


オーマどころかミクネでさえ気付かぬ間に、白髪の騎士がミクネの背後に立って、ミクネの肩を掴んでいた。


「フェンダー・・・」

「フェ、フェンダー様・・・」

「こいつ・・・(何で背後に!?この私が肩を掴まれるまで気付けなかった!?)」

「カスミ様、ヤトリ様、お二人共ご壮健で何よりです。ですが、戯れが過ぎるのは、この会場とご来賓の方々の警護を務める私としては看過できません」


穏やかで落ち着いたフェンダーの口調。

殺気も闘気も無い凪の状態にもかかわらず、フェンダーからは言い表せぬ迫力が出ており、オーマとミクネに緊張を走らせた。

オーマとミクネが困惑と緊張と警戒で反応できずにいると、カスミが助け舟として穏やかな口調で返事した。


「はい。失礼しましたね。フェンダー」

「て、てめー・・・」


オーマはカスミの助け舟に気付いたが、ミクネは気付かず、フェンダーに敵意を向けたままだった。

だが、フェンダーの方は冷静で、ミクネの態度を気にする様子は無かった。


「お連れのオーマ殿も困っている様子ですよ?」

「あ?え?あ、い、いや・・・」

「チッ・・・分かったよ」


そう言うとミクネは、肩に置かれたフェンダーの手を払う代わりに術式を解除した。


「皆さま、そろそろ会場に入られてはいかがでしょうか?」


 フェンダーはミクネに掃われた手を会場の入り口の方へと向けて、三人をエスコートする。

エスコートされ慣れていないオーマが少し戸惑っていると、フェンダーは爽やかに声を掛けてくれた。


「皇帝陛下もオーマ殿に会いたがっております。どうぞ」

「え!?お、俺、あ・・・じ、自分にですか?」


 冷静に考えれば来賓への世辞なのだろうが、フェンダーの雰囲気に呑まれてしまっていたオーマは、素直に言葉を鵜呑みにしてしまった。

ミクネも隣で、“本気にするなよ・・・”と、やや呆れ気味の表情だった。

だが、フェンダーの方は自分の言葉にウソは無いと言わんばかりに、ニコッと笑顔を向けた。


「はい。配下の父君であるオードリー様が救国の英雄と称した貴方に、陛下は大変興味を抱いており、オーマ殿に会うのを楽しみにしておりました」

「そ、そうなのですか・・・?」

「はい」


そうきっぱり言ったフェンダーの瞳は真っ直ぐで、オーマには嘘をついているようには見えず、思わず照れてしまった。


「それにヤトリ様のことも」

「あ!?わ、私もか!?」

「はい。ヤトリ様の噂は陛下の耳にも届いております」

「ふん!どうせ、いけ好かない____」

「大変愛国心の強い、素晴らしい方だと仰っておりました」

「____え?う、ウソ?そ、そうなのか・・・?」

「はい」

「・・・・・」


そうきっぱり言ったフェンダーの瞳は真っ直ぐで、ミクネには嘘をついているようには見えず、思わず照れてしまった。


「そ、そうか・・・ま、まあ、そこまで言うなら、せっかく来たんだ。皇帝にも会ってやろうじゃないか」


ミクネはこれに加えてツンデレも発動した_____。


「ありがとうございます。では、会場にご案内しましょう。カスミ様も」

「はい」


そう言ってフェンダーは今度こそ、会場へと三人を案内した____。


(フェンダー・ブロス・ガロンド・・・・・何か、他の第一貴族とは違うな・・・)


フェンダーに案内されながら、オーマは初めて会話した三大貴族の一人、フェンダーに対してそんな感想を抱いていた。


(やばいくらい強いってのは一緒だが)


何と言うか、他の貴族と違って濁っていない様にオーマには見えていた。

そう、まるで____


(本物の騎士って感じだ・・・)


オーマはそう思いながらも“それでも第一貴族だろ”と、疑惑は捨てずに取っておいて、それでもフェンダーからプロトスやデティットからも感じた高潔さを認めざるを得ず、複雑な感想を抱くことになった・・・。


(オーマ!オーマ!)


オーマがフェンダーから少し離れて後ろを歩いていると、ミクネが小声で声を掛けて来る。


(どうした?)

(オーマ、こいつ・・フェンダーだっけ?やばいぞ)

(ああ・・・それは俺も感じていた)

(悔しいが、多分、私より強い・・・)

(ミクネ・・・)

(クソ、これでこの国には、最低でも二人は私より強い奴がいる事になる・・・ムカつく)

(二人?もう一人は?)

(・・・そこのババアだ)


そう言うとミクネはカスミを睨みつけた。

オーマの感想は、“やっぱりか・・・”だった。


(てか、ミクネの奴、カスミが自分より強いと知ってて、この場で喧嘩売ったのかよ・・・)


相変わらずの無茶をする子だった____。


「フフッ♪」

「?」


オーマがそんな事を考えていると、カスミが何かを言いたげに笑っていた。


「オーマ殿、フェンダーとは初対面ですか?」

「え?あ、はい」

「どう感じましたか?」

「そうですね、何と言いますか・・・“これぞ誠の騎士”と言った印象の立ち居振る舞いと、強さを感じました」

「ええ、そうですね。彼は素晴らしいです」

「素晴らしい?カスミ様がその様に仰るのは初めて聞きました」

「そうですか?・・そう言えばそうですね。フェンダーも私にとって、陛下同様に面白い存在なのですよ」

「面白い?」

「ええ、この帝国で唯一、私より強い魔導士ですから」

「!?」


カスミはあっさりとそう言った。

オーマはこの言葉は嘘ではないと直感し、先程のフェンダーの立ち振る舞いも含めて、フェンダーの“帝国最強の騎士”という前評判が嘘ではないのだと理解した。


「だから嬉しいのですよ。私より強い人間など、今までに一人しか出会った事が有りませんでしたから。最高の研究対象です」

「一人?一人居たのですか?」

「ええ・・・“英霊の勇者”リッツァーノです」

「あ・・先代の勇者・・・」


カスミが、自分より強い存在として先代の勇者の名前が出したことに、オーマは納得すると共に、カスミやフェンダーの強さが先代の勇者と比肩できるレベルである事に背筋を凍らせるのだった____。

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