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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間センテージの行く末
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センテージの行く末

 一旦、時はドネレイム帝国と西方連合の戦争後まで遡る___。


 ファーディー大陸西方(ラルス地方)の西南にセンテージ王国という国が存在する。

ポーラ王国とも隣接しており、ドネレイム帝国と西方連合の戦いにも参加していた。

 センテージは、南に在るエルス海という海に面しており、海運業で栄えている。

 そして、センテージの都市の中で、海運業の中心となっているのが港湾都市ベルヘラだ。

 港湾都市ベルヘラは、エルス海に浮かぶワンウォール諸島とも交流があり、その物流はセンテージ王国の首都センテ・ジニルより活発で、センテージ王国で一番の収益がある都市だ。

エルス海を挟んでセンテージの向かい側の南地方(サウトリック地方)の物品も、陸路では大陸中央を支配下に置くドネレイム帝国に阻まれるが、エルス海の海路によってワンウォール諸島を経由して入って来る。

 観光地としても有名で、ラルス地方の人々は身分に関係なく、美味しい海産物や、サウトリック地方の品が手に入るため、多くの人が訪れる。

ある意味、センテージ王国で首都より重要といえる。


 そんな港湾都市ベルヘラは、今日も港を中心に賑わいを見せている。

 だが、センテージ王よりこの都市を預かっている領主、プロトス・ライフィードは心労の疲れが顔に表れ、暗い表情をしていた。


「そうか・・・ドネレイム帝国の脅威はそれほどか」

「プロトス公の代役を任せて頂いたにも拘わらず、このような結果になってしまい・・・申し訳ございません」


 先の、ポーラ王国を中心とした西方連合の一軍として、プロトスに代わって出兵したセンテージの将、ボーゲルは同じく暗い表情を浮かべながら深々と頭を下げた。


「いや、貴公は良くやってくれた。仮に私や他の将でも結果は変らなかっただろう」


部下に対する労いではなく、本心でそう答える。


 このベルヘラはセンテージの要所。ドネレイム帝国はもちろん、連合に参加したとはいえ周辺国に対しても無警戒でいいわけではない。

また、エルス海には海賊もいて、ラルス地方が帝国によって戦火にまみれてから、その動きが活発になっている。

ベルヘラが海運業で栄えているのは、ワンウォールとの交流があるからと説明したが、その信頼関係はベルヘラがエルス海の海賊からワンウォールを守ることで保たれている。

そのため、センテージが海賊に対処することは、ワンウォールとの友好を保つ上で絶対必要なことだった。

他にも様々な事情から、センテージの名将で知られるプロトスは、ベルヘラから離れられなかったのだ。

 そこで、ポーラへ出兵する際、指揮官はプロトスではなく、ボーゲルに任命されたのだった。

ボーゲル自身は名将プロトスの代役を果たせず、敗戦したことに肩を落としているが、プロトスはボーゲルを責めようとはしない。戦いの報告を聞けば、責められるはずがなかった。

生きて帰ってきただけでも誉めてやりたい気持ちだった。


「それで、センテージ王は何と?」

「はい。先の大戦の敗北を聞き、帝国との併合も視野に入れて今後の対策を検討するそうです」

「併合・・・事実上の降伏だな。そうか・・・・報告ご苦労だった。今日はゆっくり休んでくれ」

「はい・・・失礼します」


 重い足取りで静かにボーゲルが退室した後、プロトスは大きく息を吸い、背もたれに寄りかかってから深く吐いた。


「だが、やむを得ないのか・・・・・」


 帝国との併合_____。

事実上の降伏のそれに、この国で生まれ育ったプロトスはもちろん難色を示す。


「できれば、願い下げたいところだが・・・・」


現状、打つ手はないだろう。帝国によって西方連合が打ち破られた以上、各個撃破は時間の問題でしかない。


「・・・あの子が力を上手く扱えていたなら、違っていただろうか?」


 プロトスの頭の中で、最愛の娘の勇姿が浮かぶ。

西方連合の戦の報告では、帝国に人材、計略、装備と人数以外すべての点で劣り、その人数も裏切りによって覆されて大敗したとある。


 だが、それでも、もしかしたら、と思う事がある_____。


 もし、最愛の娘が自身の力を完璧に使いこなし、戦場に立てていたならば、あるいは___と。

数万人の大戦で、たった一人の女の子が何だというのだろう?

誰もがそう思う。名将プロトスも、もちろん理解している。

だが自分の娘には、親の贔屓目抜きで、もしかしたらと思わせる才能がある。

数万人規模の大戦をたった一人で覆せる才能が・・・。


「いや、今更だな。仮にあの子が伝承に伝わる“閃光の勇者”の再来であっても、力を使いこなせないのでは意味がない。それに、もう勝敗は決したのだ」


 自分の考えを敗者の言い訳だと吐き捨て、プロトスは再び政務に戻る。

だが、頭の片隅には娘に対する淡い期待がいつまでも残るのだった______。

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