四高の絆祭(後半)
オーマとサレンが二人で祭りを楽しんでいる頃、サンダーラッツ幹部と勇者候補達は、二手に分かれて祭りに参加していた_____。
「はぁ~~~・・・・」
「また溜め息ですか?レイン」
「何度目だ?せっかくの年に一度の祭りなんだ。落ち込むのは後にしたらどうだ?」
今朝からずっとこの調子のレインに、クシナとイワナミが、今日何度目かの励ましを試みる。
「貴方にもまだまだ伸び代はあるのですから、これからですよ」
レインが落ち込んでいる理由は、数日前の勇者候補同士の総当たり戦での結果に納得していないからだ。
「そうだ。ジェネリーは帝国の軍学校。ヤトリとサレンはエルフだ。三人とも魔術を学ぶ上で、この大陸でも最高の環境で育っている。そう言った意味ではレインが一番伸び代があるだろう」
「それに、成績に納得がいかないと言いますが、あのミクネに勝ったのでしょ?すごいじゃないですか」
「その通りだ。正直、勝つとは思っていなかった」
「イワはミクネに賭けていましたからね」
「俺まで落ち込ませたいのか?クシナ?お前も外したろ?」
「そんなつもりじゃ・・・」
余談だが、勇者候補の総当たり戦を行うにあたって、サンダーラッツ幹部たちは、誰が一番勝ち星を上げるかで賭けをした。
その中で、イワナミとヴァリネスは一番攻撃力の高いミクネに賭けた。
クシナとフランは不死身の力を持つジェネリーに賭け、ロジは最速のレインに賭けた。
ウェイフィーだけが、“友達だから”という理由で、サレンに賭けて当てていた。
オーマも賭けたかったが、オーマが一人を選ぶと揉めそうだったので止めておいた。
「でもクシナさん、イワナミさん。私、ジェ・・ご主人様に負けたんですよ?」
「くっ・・・」
自分の名を出されてジェネリーは眉を吊り上げた。
因みにだが、レインが落ち込んでいる理由をもう少し詳しく書くと、勇者候補の総当たり戦でジェネリーに負けたことに落ち込んでいた。
「何だ?その言い方だと、私に負けたのが恥みたいじゃないか!」
「はい」
「なっ!?」
「だって、ご主人様はただタフなだけで、私達の中で一番弱いじゃないですか」
「なっ!?」
ジェネリーが内心で一番気にしている事だった。
「ちょ・・・レイン、言い過ぎですよ」
「いいのです。クシナ隊長。事実ですから・・・」
「ジェネリー?」
「私自身、パワーとタフネス以外は思う様に成長していない気がしているのです。特に技術面では、肉弾戦も魔術戦も三人に敵いません」
そう言って、今度はジェネリーが落ち込んでしまった。
因みに、本人は技術面が成長していないと言っているが、そんなことは無い。
技術や他の面も常人と同じか、それ以上の速度で成長してはいるのだ。
ただ、得意な面が異常な成長をしているから実感しづらいようだ。
「ちょ、ちょっとジェネリー、貴方まで落ち込まないでください。せっかくの祭りですよ?ね?ほら、イワも何か言って____え?」
「はぁ・・・だが、ジェネリー嬢はパワーとタフネスは異常に成長している。俺のサンダーラッツでの存在意義が・・・」
「___って!貴方もですか!?」
クシナ自身、実は祭りを楽しみにしていたのに、ジェネリーに連られてイワナミまで落ち込んでしまい、いよいよ祭りどころではなくなってしまう。
だが、それでも人が好いクシナは、三人を置いては行かず、祭りの菓子などを買い与えながら三人を慰めるのだった_____。
オーマとサレン達がいるメイン通りから外れた所には広場があって、イベントコーナーとなっており、様々な出し物や大会が開かれており、ヴァリネス、ロジ、フラン、ウェイフィー、ミクネのグループはそこに居た。
そしてヴァリネスは、“恒例”の飲み比べ大会に参加していた。
「___っしゃーー!!どうだ!?」
大ジョッキの酒をングングと喉を鳴らしながら一気に飲みきったヴァリネスは、空のジョッキを机に叩きつけて叫んだ。
「んぐんぐ_____ぐっ・・・も、もう無理・・・」
「勝負あり!!今年も優勝は軍人のヴァリネス・イザイアに決定だぁーーー!!」
「「うおーーーー!!」」
審判がヴァリネスの勝利宣言をすると、わっと割れる様な歓声と拍手が鳴り響く。
「すっげー、ヴァリ本当に優勝したじゃん!」
「当然」
「まあ、副長だからな」
「何だ?二人共反応薄いな」
「だって、毎年見てる」
「そうなのか?さっき司会も、“今年も”って言っていたが、去年も出ていたのか?」
「“恒例”だよ、副長は。今年で四連覇だよ。ミクネちゃん」
「おお・・・マジか・・・生粋の酒好きなんだな。・・・てかさ、ヴァリって酒豪だってこと隠さないの?」
「ん?隠してないよ。何で?」
「だってヴァリって、酒も好きだけど、男も好きだろ?酒豪ってあんま男受けするイメージ無いんだが?」
「ああ、それは____」
「“あれ”が理由だよ。ミクネちゃん」
「あれ?」
フランがスッと指を指した方にミクネが顔を向けると、そこには笑顔満開のロジが居た。
「うわー♪すごいです!ヴァリネス副長!四連覇おめでとうございます!」
「え、そ、そう?でへへへへー♪」
「あー・・・」
ロジに褒められてデレついているヴァリネスを見て、ミクネは一発で理解した。
「で、でへへへへー・・って・・・すごいな」
「ロジが相手だからな」
「惚れた者の弱みってわけか」
「惚れたといえば、ミクネちゃんは大丈夫?」
「ん?」
「団長のこと。サレンちゃんに持ってかれたじゃん?」
「レイン悔しがってた」
「あー・・・」
総当たり戦の後、ジェネリーもレインも、勝敗の事もそうだが、オーマとの祭りデートをサレンに取られて悔しがっていた。
だが、ミクネにはそんな様子は無く、平然としていた。
この事にウェイフィーもフランも、“まだミクネは籠絡できていないのでは?”と、内心で疑っていた。
この質問に対してミクネは、そんな事かと気の無い返事をした後、不敵に笑って答えた。
「だって私は、夜にオーマと会えるからな」
「「え?」」
ミクネの回答に、二人は意外だという反応を示した。
「なんだ知らなかったのか?私も今夜の晩餐会に招待されているんだぞ?」
「え?ホント?」
「マジで?何で?だって勇者候補の子達ってまだ表には出せないから呼ばれないはずじゃ・・・」
「バカねー二人共」
フランとウェイフィーが困惑していると、ロジの煽てで天まで昇っていたヴァリネスが戻って来ていた。
「副長、理由知ってんの?」
「当り前じゃない。だってミクネはアマノニダイの巫女なのよ?」
「「あ、そーだった・・・」」
皇室晩餐会に参加できるのは、建国に携わった四家と一部の第一貴族、四家に評価されて招待された者、そしてアマノニダイの一部の高官だ。
当然アマノニダイの巫女はこれに入る。
そのため、ミクネは他の三人と違い、夜にオーマと会えるという訳で、一人余裕だったのだ。
「なるほど、そうか」
「そうだった」
「・・・お前達、私がアマノニダイの高官だって忘れてただろ?」
「うん。しっかり」
「少しは言い訳しろよ、ウェイ・・・」
「ごめん。でもミクのキャラ的に偉い人って感じなくて」
ウェイフィーは自分の感じた事を正直に言った____多少失礼である。
「ふん。まあ、私も自分で“高官”ってガラだと思ていないからな」
そう言って、ミクネは多少失礼な物言いのウェイフィーを許した。
「そ、そうそう!ミクネちゃんって、ウェイフィーちゃんと一緒で見た目が子供____」
「「ぁあ!?」」
フランは自分の感じた事を正直に言った____かなり失礼である。
「私に喧嘩を売るとは良い度胸じゃないか、ヒモ野郎___」
「フラン___殺す」
「___え?」
そう言って、ミクネとウェイフィーはかなり失礼な物言いのフランを許さなかった_____。
「_____ま、とにかく、そういう訳だから、今はヴァリ達と祭りで騒ごうってわけだ」
「ん、分かった。楽しもう、ミク。私のとっておきの店を紹介する」
「本当か!?ウェイ!?とっておきって何だ!?」
「この帝都で一番美味しい焼き肉屋。そこが出店を出しているから案内する」
「あ、それって・・・」
「ウェイフィーの実家じゃない。・・・確かに美味しいけど」
「旨いのか!?なら良いじゃないか!連れてってくれ!ウェイ!」
「ん。こっち___」
そう言って、ウェイフィーはミクネを自分の実家の店へと案内した。
そして、ミクネは夜までウェイフィーの実家の焼き肉屋で、ウェイフィーと肉を食べ、ヴァリネスと酒を飲み、ロジとおしゃべりをして、夜の晩餐会までの時間を皆と楽しんだ_____。
「いや、俺いねーじゃん・・・・・」
フランは、す巻きにされたままだった______。




