表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間皇帝と騎士
218/378

四高の絆祭(前半)

 四高の絆祭、当日____。


 この日、帝都は第二区画(公共区画)と第三区画(住居区画)の門を全開放し、祭りが開催された。

第二区画から第三区画まで続く大通りには、国内の大道芸人たちが、この日のためにと練習してきた歌や踊り、特技を披露したり、有志参加の仮装パレードも行われたりしている。

そして、その道の両脇には、所狭しと様々な類の出店が並んでいる。

 この祭りのスゴイところは、これらのパレード、大道芸人達のギャラ、出店の費用、その商品、全てが政府負担であることだ。

つまり、庶民は今日一日、飲み放題食い放題、イベント参加し放題という訳だ。

 そうなると、例えば美味しい出店などに人がごった返しそうだが、そこも対策がされている。

開けた場所で大食い大会や酒盛りの場を設け、賞金を出すなどして人を誘導し、人が一か所に集まらないように工夫してある。

 そのため、帝都内外の大勢の人が参加している祭りでありながら、上手く交通整理ができていて、人混みに慣れていないサレンでも気楽に祭りに参加できて、出店を散策できていた____。


「オーマさん!アレ何ですか!?美味しそうです!」


 サレンはオーマの袖をつかみながら、一軒の屋台を指差した。

オーマがサレンの指差す方を見ると、クリームと果実をパンで挟んでいる食べ物が売っていた。


「あれ?ああ、ホイップサンドか。それなら、そこの屋台じゃなくて、この先に在る屋台にしよう」

「何か違いが有るのですか?」

「ああ、そこの屋台の店は、普段バタークリームをホイップクリームと言って売っている店だ。価格も少し高くてぼったくりだ」

「へー・・・」


そう言ってオーマは、サレンを連れて美味しいホイップサンドを出している店へと案内する。


「オーマさん詳しいですね。やっぱりオーマさんと一緒で良かったです」

「そうか?でも、あの店がぼったくりだってのは、他の連中も知っている事だぞ?」

「むー・・でもオーマさんとは特別です」

「ふーん、そうか」

「むー!オーマさん!」

「え!?」

「今は私とデートですよね!?」

「え?あ、ああ・・・もちろん」

「また気の無い返事・・・私と居るの楽しく無いですか?」

「い、いや、そんな事は___」

「そんなに他の子とが良かったですか?」

「ええっ!?い、いや、違う違う!そんな事は無いって!!」


どうやらサレンに酷い誤解をさせていたらしく、オーマは慌てて弁明した。


「今は気持ちがここにあらずだったのは、本当、ごめん。その事は謝るよ。でも、それは他の子が気になっていたからじゃないって」

「・・・・・」

「今日の夜の事を考えて、緊張していただけなんだって・・・」

「今日の夜・・・晩餐会のことですか?」

「ああ」


今日の夜、帝都第一区画(貴族区画)の皇室で晩餐会が開かれ、オーマはそこに招待されている。


「そこで、初めて現皇帝と会うし、第一貴族の連中・・・方々とも、お会いする事ができる・・・」


帝都の郊外なので、文章の後半は小声で変な文章になってしまったが、サレンには通じていた。


「まあ、第一貴族の方々がどういう方かは、今はもう分かっていますので、オーマさんの苦労は分かります。同情もします。でも、だからこそ私も頑張りますから今は楽しみましょう!」

「お、おう・・・ありがとう」

「むー!」

「い、いや、これはノリが悪いとかじゃなくて・・・」

「・・・なくて?」

「・・・て、照れだよ」


カワイイ子に面と向かって自分とのデートを頑張るなんて言われては、受け身が取れるオーマではなかった。


「ふむ・・・じゃー、許してあげます」

「いや、本当に悪かった、サレン。俺も頑張って夜の事を忘れて、楽しむことにするよ」


そんなオーマでも少しは成長したのか、異性に対して、“素直な気持ちを口にする”くらいのことはできるようになっていた。


「はい♪お願いします。私もせっかく“勝って”オーマさんと二人きりになれたのですから、楽しい時間にしたいです」

「はは、そうだな」


サレンが“勝った”喜びを表す一方で、オーマはまたも乾いた態度になってしまった。


 サレンが言う“勝った”というのは、この祭りの数日前に行った勇者候補同士の戦闘訓練の事だ_____。




 クラースより正式に休暇を貰ったサンダーラッツだったが、反乱を前に全ての日を休むのは良くないと、訓練は行っていた(一部の人間____ヴァリネスとフランはそうは思わないで、不満を垂らしていた)。

 特に、対帝国の切り札であり、まだ成長途中である勇者候補達の強化は必須と言ってもいい。

だが問題なのは、四人とも成長過程でありながら、現時点で人間の魔導士から逸脱した強さで、相手をするのはサンダーラッツ幹部たちでも手に余るということだ。

 そこで、ジェネリーが言い出したのが、勇者候補同士での鍛錬だった。

ジェネリーとしては、以前ベルヘラでレインに一方的にやられたことに対するリベンジとして言った事だったが、オーマは実力が拮抗している者同士の方が切磋琢磨できるだろうと、これをOKした。

まだ勇者候補が一人二人だったころならばいざ知らず、今は四人いるため、例えば一対一での勝負をしても残り二人が制御役になってくれるので、事故にはならないとも考えた。

 そして、オーマはこれを了承するとともに、四人に「本気でやれ」と言った訳だが、これが引き金になった。

“どうすれば訓練で本気が出せるか?”

“四人が本気になった場合、誰が一番強いのか?”

そんな会話から始まり、お互いのプライドとそれへの挑発も相まって、“この個人の総当たり戦で、一番勝ち星を挙げた者が、祭り当日オーマを独占できる”という話になってしまったのだ。

 そうと決まって行われた四人の総当たり戦は、全員がモロマジで凄まじいものだった。

今思い返しても、オーマは背中に冷たい汗が流れてしまう。

四人が力を出せる様にと、第四区画(農業区画)のいつもの演習場で行ったのが幸いだ。

軍の宿舎に在る訓練場だったら死人が出ていただろう。


 その戦いの内容と勝敗だが、先ずはジェネリーとレイン。

二人の戦いは序盤から終盤までレインが押していたが、ジェネリーが最後の最後で自爆技(ベルヘラの時にレインに回避された技)を今度こそ成功させて、自身はその不死身の力で蘇り勝利した。

 そうしてレインには勝利したジェネリーだったが、ミクネに対しては大敗することになってしまった。

ミクネとの一対一も、レインとの一対一の時と同様に、ジェネリーが押される展開となった。

ただレインの時と違うのは、レインがジェネリーを押せていたのは、雷属性を活かしたスピードが理由で、つまりはレインの能力だ。

 これに対して、ミクネの場合は、ミクネの実戦経験値によるものだった。

 能力はいずれ限界が来る。だが、経験にはそれが無い。

つまり、レインの時の様に、魔力の枯渇や隙が出来るまで耐えるという展開が通用しない。

更には、ミクネの振動による魔法攻撃は、四人の中でも頭一つ抜ける破壊力だ。

結果、ミクネは魔力が枯渇したり体力が限界にきて隙が出来たりする前に、ジェネリーの魔力と体力を削り切ってしまったのだ。

 この二つの試合の結果を見ると、ミクネとレインの戦いはミクネに分がありそうに思うが、そんなことは無かった。

 この二人の一騎打ちになると、今度はレインのスピードが活きて勝敗を分けることになった。

レインの雷の速度は、ミクネが今までに経験したことが無い速度だったため、攻防でミクネの戦闘経験値が役に立たなかった。

そして、ジェネリーほどのタフネスを誇る相手も削り切る自慢の攻撃力も、当たらなければ意味が無かった。

ミクネの技はレインに悉く躱されてしまい、その回避行動も魔力を制御した必要最小限の動きで行われたため、技を出すミクネの方が激しく消費してしまう結果になった。

 そうして激しく消耗し、油断したミクネに閃光が走った____。

雷と化したレインの一撃が決まり、レインに軍配が上がった。

 こうして、ジェネリー、レイン、ミクネの三人は、各々の個性で一進一退の戦いを繰り広げたわけだったが、唯一、サレンだけが全勝を治めたのだ。

 決め手はやはり静寂の力。

一人に対してなら信仰魔法も潜在魔法も封じることが出来るという力は、一対一において、他の勇者候補達のチート能力以上のチート能力だった。

決まれば敗北必至____。

三人ともこれは理解していて、何とかサレンにこの力を使わせまいとしたが、サレンには通用しなかった。

 サレンは静寂の力を持つと共に、基本属性を四つ扱える。

ジェネリーは炎と土、レインは風と雷、ミクネは風と召喚魔法で雷を補えるだけだ。

いや、これでも普通は十分なのだが、四属性を扱えるサレンに対しては戦術幅に開きが出てしまい、サレンは三人に対して静寂の力を使うチャンスをものにできた。

 結果は、他三人が1勝2敗となる中、サレンが3戦3勝してオーマとのデートを勝ち取ったのだった。




「じゃあ、気を取り直して、パレードを見に行きましょう♪」

「分かった。だったら、お勧めの芸人が居るぞ?」

「ホントですか?」

「ああ、毎年参加しているから、今年も居るだろう。行ってみよう」


そう言うと、今度はオーマからサレンの手を取って、歩き出した。


「あ・・・はい♪」


 こうしてサレンは、オーマが晩餐会に行くまでの間、二人で祭りを満喫するのだった____。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ