祭りと生贄とオーマ(後半)
酒場レッドベア_____。
帝都に帰還して、オーマがクラースに呼び出されている頃、サンダーラッツの幹部たちは帰還後の仕事をあらかた終えて、いつもの様にデネファーの店の地下に集まっていた。
因みに、通信兵の三人は兵士達の相手をしており、勇者候補の四人はミクネに新居(レイン、サレンと同じくジェネリーの屋敷)の案内しているため、この場には集まっていない。
「はあ・・・戦が終わったら、さっさと戻されるんだもん。ちょっとくらい観光させてくれたっていいのに」
「副長の言う通りだ。どうせ冬の間は戦はしないんだから、休暇にしてくれたっていいじゃねーか」
「そうそう」
「今我々が行っている作戦には季節は関係ないでしょう」
「でも魔王誕生まではまだ時間が有るんでしょ?ちょっとくらい良いじゃない」
「まあまあ、そうは言っても、今はゆっくりできて居るじゃないですか」
愚痴るヴァリネスとフランを、イワナミとクシナの真面目組が宥める。
「はあ・・・東方のお米で出来たお酒飲んでみたかったなー・・・」
「いや、副長メチャメチャ飲んでた」
「そうだっけ?」
「ウェイフィーの言う通りですよ。忘れたんですか?副長?」
ナタリア城を攻略して数日、傷が癒えた頃には冬が本格化する前に帰還せよとのお達しがあったわけだが、その際に、ヴァリネスはミクネに無茶を言ってアマノニダイの高級なお酒(大吟醸というらしい)をお土産として用意して貰っていた。
そして、その全てを帰還の道中で飲みきっていた・・・・。
「足りないのよ!ミクネの奴!“大量に”って言っておいたのに!!」
「いや、大量だった」
「荷車一台追加する羽目になったんですよ?副長のお酒の所為で」
「というか、勇者候補をパシリにないでください」
「てか、よくあの子をパシリに出来るな・・・」
「あら?慣れればカワイイ子ですよ?ミクネは」
「フラン、ビビってる?」
「へ?クシナとウェイフィーは怖くないのか!?」
「「全く」」
「うそ・・・・」
ミクネは女子に意外と人気が有り、オーマとロジ以外の男子が話し掛けるのにビビっている間に、女性陣は帰りの道中で意気投合していた。
「だからさぁ・・・場所にしても、こんな地下の陰湿なところで安酒を飲むんじゃなくて、東方の温泉で、お酒を飲みながら、春までゆっくり~ってね・・・」
「悪かったな。景色の悪い所で安酒飲ませて」
「うげっ!?デ、デネファーさん・・・・」
テーブルをバンバンさせて愚痴っていたヴァリネスの後ろに、いつの間にやら店主のデネファーが立っていた。
「デネファーさん・・・いつの間に」
「さすが元団長。気配に気づけなかった」
「ふん!お前らがダレ過ぎなんだよ。で?ヴァリネス、この店が何だってぇ!?」
「あ、あっははっははっは!デ、デネファーさん。冗談よ!本気にしないで!私この店大好きよ♪」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・いや、あの・・・ほんとスンマセンでした」
デネファーさんに暫く睨まれ、心が折れたヴァリネスは素直に白旗を上げた・・・。
「ふぅ・・・まったく、人の店でほぼタダ同然で酒を飲んでおいて随分だな。そんなに嫌なら他所へ行け」
「だからゴメンって、デネファーさん。最近は気兼ねなく話せる機会と場所が減っていて、つい調子に乗っちゃったのよ」
「まあ、その気持ちは分かる」
「反乱軍になってからは、そうですね」
「ふん・・・」
特にハツヒナを暗殺してからは、サレンかミクネの様に隠術魔法に長けた者が居ないと、おちおち飲み会をする気にもなれないでいた。
「だからストレス溜まっちゃって、だから本当にゴメンね?デネファーさん」
「はあ・・・ったく、しょーがねーな」
付き合いが長く、なんだかんだヴァリネスに甘いデネファーは、ヴァリネスを許すのだった。
「だが、ストレスが溜まって飲み食いしたいってんなら、もうすぐ祭りが有るじゃねーか。参加できないのか?」
「どうなんでしょ?」
「どーせ無理でしょ。きっと団長が胃を痛めて帰って来て、次のターゲットと行き先を伝えに来るわよ」
「来たぞ」
「「ぎゃーーーーー!?」」
愚痴るヴァリネスの後ろに、いつの間にやら城から戻って来たオーマが立っていた。
「だ、団長・・・いつの間に」
「さすが団長・・・気配に気づけなかった」
「ふん。お前らがダレ過ぎなんだよ」
「え?・・・そ、そうですか?」
「さすがに今度は違うでしょ」
「今度?」
「あ、いや、団長は気にしないで」
「団長の気配が薄かった」
「何があったんですか?・・・って、大体想像がつきますが・・・」
もういい加減、次で五人目になるので、どうせクラースからろくでもない事を言われて暗くなっているのだろうと、皆は察していた。
「いや、まあ、クラースにろくでもない事を言われたのは事実だが、皆が想像しているのとは、ちょっと違うな」
「?」
「次のろうらく作戦の事では無いのですか?」
「もしくは、それに絡めて無茶を言われたとか?」
「そうですね。フレイスの行方は分かっていないから、次はベルジィという人物でしょう。それなら___」
「スラルバン王国とボンジア公国の代理戦争に絡むってか?」
「え~~また戦争?」
「冬ですよ・・・今」
「南部なら冬でも温かいのでは?」
「いや、さすがに・・・」
「待て待て待て。全然違う。話を飛躍させるな」
皆が憶測で騒ぎ始めたのを、オーマは制止する。
「じゃーなんだよ、団長。何言われたんだ?」
「勿体ぶらずに教えなさいよ」
「こいつら・・・」
別に勿体ぶったつもりは無いのだが、皆に煽られて、オーマは少し拗ねた様な口調で皆に教えた。
「休みだよ」
「・・・・・・」
「・・・・は?」
「へ?」
「ど、どういう作戦ですか?」
「作戦じゃない。今月と来月は休みだ。休暇を貰えたんだよ」
「「えええええええええ!!?」」
その場の全員が、有り得ないと絶叫した。
オーマ自身、その驚きには同感なので、ここでは拗ねずに皆に事情を話した____。
「・・・なるほど」
「別にこちらを労って・・・という訳ではないんですね」
「なんだろう・・悲しいけど、そっちの方が安心する」
「そうだな。第一貴族が上っ面じゃなく俺達を労うなんて、逆に怖いもんな」
「ふーん・・・んで?それはそうだけど、休みは休みでしょ?開き直って遊べばいいじゃない?何で団長は凹んでんの?」
「それは____」
そしてオーマは今度、そのまま四高の絆祭に招待された事と、その意図も伝えた____。
「はあ・・・ろうらく作戦だけじゃなく、団長の抹殺計画も進んでいるのですね」
「まー、でも、分かっていた事じゃねーか、団長」
「そうよ。それに、それを阻止するために今動いているんだから、落ち込むんじゃないわよ」
「そうです、団長。団長のことは絶対にお守りしますから!」
「ロジ・・・くすん」
ロジの真っ直ぐな言葉に、オーマは感動して目に涙をためた。
「そうだよ。団長が落ち込んでたら、せっかくの休暇が満喫できねーじゃねーか」
「フラン・・・くすん」
フランの真っ直ぐな言葉に、オーマは悲しくて目に涙をためた。
「え?別に私は団長が落ち込んでても、休暇を楽しむわよ?」
「うーん・・・・」
ヴァリネスはヴァリネスだった____。
「はあ・・・もういい。拗ねるのもアホらしくなって来た」
「団長・・・」
「大丈夫だ、ロジ。実際、晩餐会には皆は参加できないし、その日に何かされるわけじゃない。気にせず英気を養ってくれ」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、クシナも気にせず、祭りを楽しんでくれ」
「「・・・・・」」
「・・・どうした?」
やはり自分達だけで、祭りを楽しむというのは、例え付き合いの長いメンバーでも気が引けるのだろうか?
「「イェーーーーイ!!」」
____んなわけなかった。
「なんだかなぁ・・・」
何か少し、言った事を後悔するオーマだった_____。




