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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間皇帝と騎士
213/377

祭りと生贄とオーマ(前半)

 FD920年12月初旬、ファーディー大陸は冬を迎える準備に入る。


 冬の間は、戦争は滅多に行われない。人間やエルフだけでなく、魔族でさえもだ。

 冬の寒い気候や時期にこそ真価を発揮する魔物も居るが、その一方で、寒さに弱い獣人や冬眠する魔獣なども居るため、群れや部族単位での戦闘は可能だが、軍の編成はしづらくコスパが悪い。

 帝国もそうだ。

必要とあらば、冬の時期でも侵攻するが、やはり、基本的に冬の戦争は兵の士気とコスパが悪い。

 そのため、スカーマリス遠征は、オーマ達のろうらく作戦と、黒幕の魔族捜査の終了と共に、冬越えのため一旦終了となり、スカーマリスを預かるジョウショウは、ナタリア城の防備を固めつつ、冬明けの進軍に備える事になる。


 そしてオーマ達は、冬が本格的になる前に帝都に帰還するよう命じられる。


 12月初旬でのドネレイム帝国領は、中央も東部もまだ雪こそ降らないが、気温は下がっており、朝と夜は身を震わせることになる。

とはいえ、北の極寒の地であるリジェース地方で遠征を行ってきたサンダーラッツからすれば大した寒さではなく、自国内の軍事移動など問題にならない。

 唯一、西南のベルヘラ出身のレインが寒がりで、オーマの寝室に入り込んだため一悶着あって、オーマが戦以上に疲弊したことを除けば、一同は無事帝都へ帰還したと言える。

 そして疲弊したオーマに待っていたのは、予想通りのクラースからの呼び出しであった_____。




 「・・・・・嫌だなぁ・・・・・」


 西方連合との戦以後、ろうらく作戦のため、結構な回数クラースの政務室を訪れているオーマではあるが、一行に慣れる様子は無かった。

かと言って、逃げることは勿論のこと、反乱軍の今後のため、生返事で受け流すことも許されない。

 オーマは、いつもクラースに呼び出されると湧き上がる逃げ出したくなる気持ちを叱咤して、クラースの政務室のドアをノックした____。


「入れ」

「失礼します」


 クラースのいつもの冷たい返事に、心を冷やしながらオーマは入室する。

 いつもの様に入室し、いつもの様に机を挟んでクラースと対面する。いつもと同じ動作だが、いつもと同じ様に緊張してしまう。

そして、いつもと同じ様に緊張しながら定型文を読み上げる。


「失礼します!雷鼠戦士団団長オーマ・ロブレム、ヤトリ・ミクネの攻略を終え、お呼びにより参上しました!」

「ご苦労。あのヤトリ・ミクネを相手に作戦が成功して何よりだ。それに、スカーマリスでは貴君も雷鼠戦士団も目覚ましい活躍だったとジョウショウから聞いた。今回は本当によく働いてくれたな」


 本心なのか、それともこの後の伏線なのか、クラースの方はいつもより上機嫌なトーンだった。

オーマは、相手が相手なだけに、嫌な予感を抱きつつも、いつもの様に謙遜で返すことにした。


「ジョウショウ閣下がその様なお言葉を・・私の方こそ、ジョウショウ閣下の采配に感服しており、有意義な勉強をさせていただきました」

「そうか、それは大変結構。貴君の様に有望な人物の成長は帝国にとっても有意義だ。・・・それで、どうだ?ヤトリ・ミクネの様子は?」

「はい・・・。気を許した相手には弱いのか、それともこれまで孤独だったためか、随分と懐いておりますし、大人しく従順です」


オーマは事前にミクネと打ち合わせた通りの設定を言葉にした。


「ほう?意外だな。帝国に対しては?印象は変わったか?」

「正直に申し上げまして、今だ帝国自体には気を許している様子はありません。ですが、その態度は以前ほど潔癖という訳でもないので、徐々に慣れていくのではないかと思われます」


____と、これも打ち合わせ通りの設定で回答した。


「そうか・・・いや、あのヤトリ・ミクネの性格を考えれば、それでも十分な成果だな。やはり、この作戦は貴君に任せて正解だった」

「大変恐縮にございます。今後とも、帝国のため、この作戦に全身全霊でもってあたります」

「結構。この作戦には帝国だけでなく、人類の未来も掛かっている。その意気で頼む」

「はっ!」

「さて・・・では、これからのことだが____」

「はい」


 クラースがいよいよ本題に入ったと感じて、オーマは気を引き締めた。だが____


(・・・何だ?)


だが、ここでもクラースの様子はいつもと違い、オーマは違和感を抱く。

本題を切り出したクラースの口調は、いつもの様に冷静を通り越した冷徹ではなく、少し明るい口調に感じるものだった。


「今月と来月は、作戦を行わなくてよい。ゆっくり休んでくれ」

「は!?良いの?あ、いえ、も、申しわけありません。・・・よ、よろしいのですか?」


 クラースの意外な言葉に、オーマは相手を忘れて素の口調が出てしまった。

クラースの方は気にする様子もなく、その理由を話し始めた。


「ああ。ここまで作戦は本当に上手く行っている。私の想定以上だ。だから、この期間はゆっくりするといい。何より、これから冬に入ることに加え、残ったターゲットの二人に関しては不透明な部分が多く、今すぐに実行部隊の君を行かせるのは危険と判断した。もう少しバグスに情報を集めてもらってから向かってもらうつもりだ。次のターゲット攻略は二月頃になるだろう」

「そ、そうですか・・・」


恐らく理由の後半が本音だろうが、それでも意外な言葉に困惑は治まらず、何とか返した返事は気の抜けたものだった。


「この期間は行事も多いから、攻略した勇者候補との絆を深めるのにも良い機会となるだろう」


 12月と1月は、どこもそうだが恒例行事が多い。帝国は特にそうだ。

その理由は、帝国は軍事国家のため、冬以外の時期は行事を入れづらいからだ。

他の時期に民が楽しめる様な行事を開いた場合、遠征中の兵士が不満を持つかもしれない。

 これを踏まえ、帝国では冬にこそ、兵士などの平民が楽しめる行事(国がイベントや酒、ご馳走を用意して振る舞う祭り)があるのだ。

 正直、オーマ達も毎年楽しみにしていて、内心で今年は作戦のため参加は出来ないだろうと落ち込んでいた。

それが、クラース自身から許可を貰えて、オーマは懐疑的な気持ちを残したままだが、それでも少しテンションが上がっていた。


 だが結局、これからのクラースの言葉で、上がったテンションは冷めていくことになる。


「それに、貴君を“四高の絆祭”の皇室晩餐会に招待しようと思っていてな」

「え!?し、四高の絆祭にですか!?」


今日のクラースは、オーマにとって意外な事だらけだ。オーマはまたも緊張を忘れて驚いた。



 四高の絆祭シコウのキズナサイ_____。

 帝国の建国の中心となった、ドネレイム家、エネル家、トウジン家、ガロンド家の四家の絆を祝う祭りで、“高貴な四家が、気高き思想の下、高徳な絆を結び、最高の国を建国した”ことからこの名がつけられた。

 帝国が一年を通して行う行事で、最も重きを置いている権威ある祭りだ。

その規模も予算も全ての帝国行事で一番で、美味しいお酒とご馳走が振る舞われるので、平民の中でも人気がある。

 そして、その皇室晩餐会に参加できるのは、建国に携わった四家を中心とした一部の第一貴族、最重要同盟国のアマノニダイの一部の高官と、四家にその活躍が高く評価されて招待された者だけで、平民は勿論のこと、第二貴族でも簡単には参加できない、名誉あることだ。

因みに、帝国の平民が参加した例は無い。今回オーマが参加すれば、平民で初という事になる。




 「わ、私の様な者が参加してよろしいのでしょうか?」


 正直、第一貴族たちの夜会に参加するのは気苦労しかないオーマだが、まだ、帝国に対して忠誠心があった頃、当時の皇帝からこの祭りの大切さを聞かされていたのも有って、オーマでも本当に恐縮してしまった。


「もちろんだ。勇者候補の籠絡に限らず、センテージとの外交や、ゴレストとオンデールとの外交でも成果を上げた貴君は、この晩餐会に参加して皇帝陛下にお面通りする権利がある」

「!?」


 皇帝陛下へのお目通り____。これもまた、そう簡単には許されない、名誉あるものだ。

オーマは、“救国の英雄”となった時に一度だけ先代皇帝に面会する機会を得た事が有る。

そして、貴族たちに抹殺されかけた・・・・それほどの、貴族たちからも嫉妬され危険視されるほどの名誉だ。


 オーマは息をのんだ____興奮と恐怖で。


 興奮を覚えた理由はそのままで、四高の絆祭の皇室晩餐会に参加して、皇帝に会えるという事。

帝国に反旗を翻したオーマだが、自分の正義を持つ切っ掛けになった先代皇帝に対してはまだ忠誠心が残っているし、現皇帝に対しても、オルド師団長の話ではクラースの傀儡にされているというので、同情も有る。

そのため、この機会を名誉と思うと同時に、皇帝が本当に傀儡になっているのか本心を確かめるチャンスが有ると思うと、参加意欲が高まった。

 そして、恐怖した理由は、このクラースの招待の真意が分かっているからだ。

 四高の絆祭の皇室晩餐会に招待されるのは、四家に高い評価された者だけだ。

オーマを切り捨てるつもりでいるクラースが、オーマに対してそんな評価はしているはずがない。

だからこそ、“切り捨てる相手なのに名誉を与える”ではなく、“切り捨てるつもりだからこそ名誉を与える”のだと分かる。


(俺を生贄にするための準備か・・・)


 オーマに勇者候補達を口説かせて死んでもらい、英雄として祭ることで、口説かれた勇者候補達を帝国に縛るというクラース達の思惑____このためにオーマに拍を付けるつもりなのだろう。

“先代皇帝に救国の英雄として評価された後に落ちぶれたものの、再び英雄的な活躍をして見せた”___という、死んだ後に英雄として祭れるようにするためのシナリオ作りのはずだ。


 オーマは自分の抹殺計画が、第一貴族たちの中で着々と進んでいるということに恐怖しながらも、招待を断わることなどできなかった_____。

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