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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間皇帝と騎士
212/380

三大貴族報告会

 ゴールド・ゲニウス・ナイツが、“昏酔の魔女”を強襲して数日後____。


 作戦を終えたフェンダーと、スカーマリスから帰還したマサノリがクラースに呼ばれ、いつも三人が集まる宰相の政務室奥の小部屋に集結し、ここ数日の出来事の報告会を行っていた。

 そこでの報告によると、ボロスが最後に起こした爆発は“昏酔の魔女”を全焼させたという。

 幸い、建物内に居た帝国兵士たちはフェンダーに守られ、無事だった。

建物外も、ゴールド・ゲニウス・ナイツが展開されていて、厳戒態勢だったため、“昏酔の魔女”の近隣の建物を数軒燃やしただけで済み、レムザン通りの住民は避難させていたため人的被害は無かった。

 ただ、ボロスは自分を含む他の魔族全ての“証拠”を残すことなく、建物ごと消し去ってしまった。

 これに対してクラースは、証拠が残っていないのを逆手にとって、この騒動を“闇組織ビルゲインの粛清”と主張して、帝国内に魔族が潜入していたという不名誉な事実を隠蔽した。

 余談だが、帝国の裏社会で絶大な権力を持っていたビルゲインが壊滅したことで、必要悪が無くなり、新勢力の大頭などで治安の悪化が懸念されていたが、ビルゲインの“昏酔の魔女”の大破を、帝国貴族による“見せしめ”と誤解した組織が多かったため、今のところ目に見えて問題となる動きは出てはいない____。



「____では、残る問題は例の黒幕だけか」

「そうですね。ボロスは恐らく黒幕の部下だったでしょう。全ての証拠を燃やしました。カスミが記憶を覗けることを知っていた可能性が高いです」

「ああ、奴の行動を見るに間違いない」

「では、振り出しに戻ったか?」

「いや、もう黒幕の特定は済んだよ」

「ほう?」

「そうなのですか?」


証拠がすべて燃えたというのに、黒幕の特定ができたと言うクラースに、マサノリとフェンダーは目を見開いた。


「証拠が燃えてしまったが、ビルゲインは以前からマークしていたから、構成員は全員分かっている。そいつらを調べさせたところ、その中に魔族の動きと連動している人物が一人いた」

「誰ですか?」

「こいつだ、リデル・シュグネイア。“リデル”という名で娼婦として店で働いていた」


そう言って、クラースは資料を二人に渡し、更に話を続けた。


「在籍名簿や出勤記録は燃えてしまったが、こいつは人気娼婦で、軍の中でもファンが多かった。オーマもその一人だ」

「ほう?」

「オーマもですか・・・」


ならば、オーマと接触して精神属性の魔法を掛けるのは容易だっただろう。


「そしてこいつは、オーマがタルトゥニドゥから戻った後に店に来たのを最後に行方不明になっている」

「・・・カスミが魔王の情報をオーマに渡したタイミングということか」

「それだけでは無い。こいつのファンの連中に話を聞いたところ、こいつは時たま、故郷に帰省すると言って店に居ない期間があるのだが、その期間も魔族の動きと合致している。例えば、港湾都市ベルヘラでの魔獣事件が起きた時も、タルトゥニドゥ探索の時も、こいつは店に・・いや、帝都にいなかった」

「なるほど。闇組織を作り、店の一店員になりすまして裏から組織を操り、自分自身は自由に動いていたという訳か・・・」

「それに、この黒幕はカスミと同じ精神属性を扱えるのですよね?もし、店に来た兵や貴族を相手にしていたら・・・」

「情報収集は容易だろうな。娼婦はどんな職業のどんな立場の人間と二人きりになっても不自然じゃない。被害に遭ったのはオーマだけじゃないだろう・・・こいつは頭が良い」


だが、だからこそ黒幕の動き全てと辻褄が合い、犯人はリデルしかいないと確信できたとクラースは後付けした。


「それで対応はどうする?」

「カスミに動いてもらう。もう帝国には近づかないだろうし、追跡するにしてもカラス兄弟が追跡できないならバグスじゃ無理だ。フェンダー、すまないが、年が明けたらカスミに協力してやってくれ。この女の相手は、カスミかお前でなければ無理だろう」

「それは・・・皇帝陛下の警護はどうなりますか?」


フェンダーは心配するような表情でクラースに訴えた。


「勿論、お前が居ない間は私とマサノリの二人が交代で行う。マサノリ、構わないな?」

「ああ」

「そうですか・・・それならば引き受けましょう」


自分の代わりにお二人が警護を引き受けるのならば____とでも言う様に、フェンダーはクラースの頼みを引き受けた。

 そうして、“内心とは裏腹に”安心して見せたフェンダーは、その内心を二人に悟られたくなくて、さっさと話題を変えた。


「この事・・・オーマには伝えますか?」

「いや、伝えるつもりは無い」


クラースはきっぱり答えた。


「そうなのですか?あの女が再びオーマに接触してくる可能性はゼロじゃないはず、網を張っておいた方が良くないですか?」


当然の疑問をフェンダーは口にする。その質問に答えたのはマサノリだった。


「いや、フェンダー、この女をオーマで誘うのは無理だ。この女は間違いなく、今回のスカーマリス遠征に乗じて、准魔王の一人を狩っている」

「確か・・ジェイルレオとかいう獣人ですよね?」

「そうだ。そしてその目的は、ジェイルレオの持つ強力な魔道具を手に入れるためだと推理できる。それをどう使うのかは大体でしか予想できないが____」

(大体は予想がつくのだな・・・)


フェンダーは内心で少しだけ劣等感を抱いた。


「____言えることは、この女はもう我々の前に姿を見せる気は無いという事だ」

「な、何故そう言い切れるのですか?」


 リデルがジェイルレオを狩ったという事実が何故、自分達の前に姿を見せる気が無いことに繋がるのか分からず、フェンダーは再び劣等感を抱きながら質問した。

すると、今度はクラースが答えた。


「ジェイルレオの死体を放置したからだ。カスミが記憶を除けることを知っており、他の准魔王が捕縛された事を知った上で、死体を処理せずにいたという事は、この女はもう自分の正体を知られても構わない・・・あるいは既に我々に知られていると思っているという事だ。ならば、この女が姿を見せる可能性は極めて低い。有るとすれば、オーマを餌にした場合ではなく、勇者を餌にする場合だ」

「そうだな。勇者候補の誰かを適当に選んで、本物の勇者という事にして情報を流して____これでも五分の確立だが、これ位でしかこの女を釣ることは出来ないだろう」


 クラースとマサノリが難しい顔をしながらそう語る。

つまりは、このリデルという女はクラースとマサノリの包囲網を振り切ったという事だ。

その事に、二人と同等の策略家を見たことが無かったフェンダーは内心で震えた。


「だが、一応時期を見て仕掛けてみるか・・・」

「今すぐにではないのですか?」

「我々を振り切ったばかりのこのタイミングで仕掛けたなら、罠だと言っている様なものだ。それに、年末の恒例行事にオーマを参加させるだけでなく、南で早急にやらねばならん事も有る」

「?」

「南・・・ココチア連邦か?」

「そうだ。そのためにスラルバン王国とボンジア公国の戦争を、早期に終結させる必要が出て来るかもしれん」


 今現在、大陸南部のサウトリック地方では、ドネレイム帝国とココチア連邦の間にあるスラルバン王国とボンジア公国という国同士が戦争状態にあり、スラルバン王国にはドネレイム帝国が支援を行い、ボンジア公国にはココチア連邦が支援しており、ドネレイム帝国とココチア連邦の代理戦争になっている。

 これへの早急な対処と聞いて、マサノリが訝しげな表情でクラースに質問した。


「クラース、その件は急ぐ必要は無かったはず・・・ココチアで何があった?」


 マサノリの理解では、この両国の代理戦争は勇者候補の一人、ベルジィ・ジュジュが妨害していると思われ、まともな戦闘が行われていない。

その代わりに人的被害も出ておらず、小康状態になっていた。

確かに、いずれ決着をつける必要はあるが、他の事を優先しても良かったはずである。


「ああ、実はココチア連邦に送った密偵から怪しい情報が入った」

「?どんな情報だ?」


クラースの言う“怪しい”の意味が分からずに、マサノリとフェンダーは眉を八の字にした。


「ココチア連邦は今、我々に対抗するべく大急ぎで軍を強化・拡大している。その中で、他国からの敗残兵なども受け入れて軍に取り込んでいる」

「我々に対抗して軍を拡大するのは想定済みでは?他国の兵を受け入れるのも連邦国家なら特に不思議ではないと思うのですが?」

「その中にお前を警戒させるほどの人物がいるのか?」

「・・・その連邦軍に加わった他国の軍の中に、バークランドの旗を掲げた一団が居たそうだ」

「!?・・・まさか」

「ああ、その旗はフレイスの師団のものだったそうだ」


「「ッ!?」」


 “フレイス”というキーワードが出てマサノリとフェンダーの二人は、殺気が出るほどの警戒心を露にした。


 フレイス・フリューゲル・ゴリアンテ____。

ドネレイム帝国最大の敵だった北方の大国、バークランド帝国の最強の騎士にして、オーマ達北方遠征軍が最も苦戦した相手でもある。

何より帝国の魔法研究機関のウーグスの公式見解として、サレンに並んで“本物の勇者可能性が高い”という評価を受けている勇者候補。

 サレンでさえ、ゴレストとオンデールを率いた場合、帝国の全戦力を投入しても勝てる保証が無いとカスミは言っていた。

ココチア連邦はこの大陸で唯一残った帝国に対抗できる勢力で、当然ゴレストとオンデールを合わせた軍より規模も質も高い。

そんなフレイスとココチア連邦が組んだとなれば、魔族と同じ・・あるいわそれ以上の帝国の脅威となる。

そして、もしこれが事実なら、スラルバン王国とボンジア公国の戦争は、これまで以上に重要な意味を持つようになるだろう。


「現在、早急に事実確認を行う様に指示してある。年明けには事実かどうかわかるだろう」

「事実だった場合どうなさるので?」

「・・・オーマにやってもらうしかあるまい。ココチア連邦にいるフレイスも、スラルバン王国に潜伏していると思われるベルジィ・ジュジュも作戦のターゲットだからな・・・」


そう言ってクラースは話を切り上げ、三人の会合は終了した____。

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