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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間皇帝と騎士
211/378

ビルゲイン包囲網(3)

 レムザン通りの娼館、“昏酔の魔女”にてビルゲインの包囲作戦が行われている。

 そして、ボロス達魔族側は、フェンダーを筆頭にした皇帝近衛騎士団に簡単に追い詰められてしまい、ボロスは戦闘開始して早々に切り札を使わざるを得なくなっていた____。




 「出し惜しみはせん!勝負!」

「助かる。長引かせたくは無いのでな」


 ボロスは人の姿を止めて、魔族としての姿を見せる。

筋骨隆々の巨躯、それに似合う蝙蝠羽を広げ、頭部には羊の様なねじれた角をはやしている。


「・・・・上級悪魔のグレーターデーモン?」


 フェンダーはボロスの正体を口にする・・・が、疑問符付きだった。

フェンダーが疑問を持った理由は、ボロスの魔力はフェンダーがこれまで見て来たグレーターデーモンのどの個体よりも高く、最上級魔族と比肩できるほどだったからだ。



 これは、ボロスが魔王大戦で死にかけてリデルに拾われた際に、リデルから魔力を分けてもらえた事と、ビルゲイン創設以降、リデルと共に魔力を鍛えて来た賜物である。

恐らく、長い魔族の歴史でも、一体のグレーターデーモンがここまで強くなったケースは無い。

そのため、相手がフェンダーでなかったら、ここまで追い詰められてはいなかっただろう。

いや、他の第一貴族だったなら、敗北すら有り得た。ボロスはそれほど強い。

 フェンダーも、内心で“こいつと戦うのが自分で良かった。他の者では被害が出ていたな”と思った。



 本来の魔力で、ボロスは魔法術式を展開する。

かなりの魔力だが、フェンダーにはそれ自体の魔力に動じる様子は無かった。

だが、ボロスの魔力に反応して部屋の仕掛けが発動すると、フェンダーの顔色が変わった。


「魔力増幅型の結界!?だが、これは____!?」


 仕掛け自体に驚くべきことは無い。術者の魔力を増幅させる結界など、よくあるものだ。

フェンダーが驚きと警戒で眉間のしわを寄せたのは、その魔力の増幅量だ。

わざわざこの部屋に逃げ込んで敵を迎撃しようというのだから、正面玄関に在ったものより強力な結界なのは予想できた。

 だが、その増幅量はフェンダーですら予想外なほどボロスの魔法術式を強化している。

ボロスの魔法を強化している結界の効力は尋常ではなく、術式の規模と増幅される魔力から最上級魔族・・・いや、勇者候補達の一撃に匹敵する程のものと思われた。


「これほどの結界が・・・」

「これは少々特別でしてね」


 このVIPルームの結界がフェンダーを警戒させるほど強力なのは、このVIPルームの結界はリデルが作ったものだからだ。

 長年・・・魔王大戦から今日まで、第一貴族やバグス達の目を欺き続けてきたリデルの隠術結界。

これをボロスがリデルから許可を得て、自身の魔力を増幅させる結界に改良したものだった。

切り札として最上級魔族のリデルが長年強化し続けてきた結界をベースにしたものは、ボロスや他の魔族達がこの日のために用意した結界とは雲泥の性能差があった。

ボロスは、リデルの置き土産を切り札に、フェンダーに襲い掛かろうとしていた。


 これに対して、フェンダーも魔法術式を展開し、ボロスの攻撃を待ち構える____。


「破邪研匠、鎧袖一触・魂!」


フェンダーは先程攻撃で使用した対魔法の金属で、鎧を錬成した。


「コンプリート・インセネレイション!」


そして、ボロスの方は自身最強の魔法を結界で増幅して発動した____。


 ボロスが魔法を発動すると、リデルの結界が連鎖反応を起こして部屋の中を地獄の窯へ変えた。

部屋の温度は約1000℃。マグマに匹敵する。

 全てを呑み込み、全てを消し去る炎がフェンダーに襲いかかった___


_____ズゥゴォオオオオオオオ!!


________________________________________。





 「・・・・・・そ、そんなバカな!?」


 視界が歪むほどの温度の中、倒れることないフェンダーを視界に捉えたボロスの動揺はすさまじかった。

 動けない?燃え尽きている?____いや、違う。

フェンダーは全くの無事で、悠然と歩きながらボロスとの距離を詰めてきている。

この地獄の炎の中、フェンダーはダメージすら負っていない_____。


 この事実には、さすがのボロスも悲鳴のような声を上げてしまった。


「な、何故だぁ!?この火力で全く通用しないなど、有るわけが・・・!!」

「通じないよ。私の金属性魔法、破邪研匠、鎧袖一触には感・情・魂の三段階まで有って、段階ごとに魔法耐性が上がる。三段階目の魂で錬成した鎧は魔法の完全耐性を備える」

「っな!?だ、だが、仮に鎧に完全魔法耐性が有ったとしても、中身が無事で済むはずが____!?」


____そう。ボロスが言う様に、普通に考えてこの炎が充満している部屋の中では鎧が無事であっても中身が無事で済むはずがない。

鎧には隙間が有るし、何より温度までは遮断できないはずで、氷結魔法などを使用して温度を下げないと、蒸し焼きになるはずだ。

鎧に魔法の完全耐性が有っても、生きていられるはずが無い。

 ボロスは悲鳴を上げる様に疑問を叩きつけた。

 そんなボロスの疑問に答える義理は無いのだが、フェンダーは淡々とした口調で答えを教えてくれた。


「いや、今の私には鎧の隙間も無いし、温度を感じる事も無い。

「はあ!?“今の私には”だと!?貴様何を言って____!?・・・・・その言葉・・・段階がある魔法・・・まさか貴様・・・属性融合の技を使ったのか!?」


かなり困惑しているボロスだったが、フェンダーの言い回しで、辛うじて答えに辿り着いた。



 フェンダーはRANK2の金属性の魔術練度をSTAGE8(融合)まで修得している魔導士だった。

フェンダーの言う段階とは、属性との融合率を言っていて、普通に鎧を錬成して鎧をその身に纏うのが第一段階の“感”。肉体と融合させるのが第二段階の“情”。そして魂まで融合する“魂”が最終段階で、今のフェンダーは魔法の完全耐性の鎧を身に纏っているのではなくて、魔法の完全耐性を持つ鎧そのものになっているのだ。

 この魔法は、フェンダーがバグスの暗殺の仕事などを手伝う中で、“どうすれば完全に皇帝を守護できるのか?”

と考える中で出した答えで、まさに忠誠心のなせる業だった。

つまりフェンダーは、いよいよとなれば、自分自身が皇帝の最強の防具にして最強の武器となって皇帝の身を護る事ができるのだ。



「人間で・・・その若さで、属性融合だと・・・馬鹿な。それではまるで勇者ではないか!?」

「ああ。一応、私も候補の一人だ」

「ッ!?」


 RANK2、STAGE8とは、勇者候補のレイン・ライフィードとほぼ同等の魔導士という事だ。

そして、レイン程ではないにしろ、フェンダーもまだ三十手前だ。

この年齢で、このレベルに到達できるのは勇者となりえる才能と言って良いだろう。

 歴代の勇者の統計から、これまでの勇者は男性と女性で交互に誕生していて、この次の勇者は女性の可能性が高いのだが、あくまでも統計なので、フェンダーが勇者に成る可能性は無くは無い。

そのため、フェンダー自身が第一貴族なので、籠絡する必要が無いのでオーマ達には伝えていないが、第一貴族たちの中ではフェンダーも勇者候補に入っていた。


「フッ、フフフフフフ・・・なるほど。相手が悪かったという事ですね」

「そういう事だ。諦めろ」

「はい。そうします」

「?」


 ボロスは素直に受け入れた。

そして覚悟を決め、ボロスは自分の心臓に自分の爪を突き立てた_____。


「な!?どういうつもり・・・____!?」


ボロスの奇怪な行動に、フェンダーは眉を吊り上げて驚いた。

だが、ボロスが心臓を貫いた直後に、魔力が爆発的に増幅したことで全てを理解した。


「チッ!これはベヒーモスと同じ____!!」


 フェンダーは、ボロスが最後に自爆魔法を作動させたのを察して、一度舌を鳴らして急いでその場を離れる。

この自爆でもフェンダーはダメージを負うことは無いが、部下が無事では済まない。


 フェンダーが居なくなり、ボロスは部屋で一人、自身の最後の役目を終える前にリデルへ別れを告げた。


「リデル様、申し訳ありません。貴方様に拾われた命は、これまでにございます。ボロスは地獄でリデル様のご活躍と、魔王様の下で魔族が大陸制覇を成すのを願っております____」


ボロスは最後にその言葉を残して、娼館ごと自分含めた“証拠”を全て吹き飛ばした_____。

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