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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
幕間皇帝と騎士
209/380

ビルゲイン包囲網(1)

 ドネレイム帝国の首都ドネステレイヤ。その公共施設や商店が並ぶ第二区画。その中央通りからオーマ達が遠征軍宿舎に向かう途中の繁華街、レムザン通り____。


 高給の遠征軍人の財布を狙って、酒、賭博、風俗などの店が並ぶ、帝都のもう一つの“顔”であり、いつもなら夜でも・・いや、夜にこそ賑わう繁華街なのだが、11月末の今日は死んだように静かだった・・・。


 だが、人が居ない訳ではない_____。


 この通りは現在、戒厳令が敷かれ、娼婦、男娼、博徒、酔っ払い軍人といった、いつもこの通りに顔を見せる者達は居ない。だが、その代わりに、重厚な鎧をその身に纏った帝国軍兵士達が、明かりもつけずに、この通りを歩いて___動いていた。

 重厚な鎧を身に纏っているというのに、足音は一切なく、気配も無い。隠密部隊バグスさながらの隠密行動だ。

更には、街の灯は一つ残らず消されてほとんど暗闇だというのに、その兵士達は迷うどころか隊列を乱すことすらない。

これらの動きだけで、この兵士達が精鋭だというのが分かる。

 そして一方で、そんな精鋭の兵士の隠密行動を、その兵士と同等の薄い気配の隠密行動で物陰から見ている一人の男がいた。

このレムザン通りに店を構える娼館、“昏酔の魔女”のボーイだった。

 ボーイは、レムザン通りに展開されている兵士達の配置と人数を確認すると、直ぐに店に戻り、オーナーのボロスに報告した______。


「ボロス様、報告いたします。このレムザン通りに展開している帝国兵は凡そ500。この店の前には約30人が配置されております」

「30?随分少ないな・・・かと言って、こちらを舐めているという訳でもないだろう」


 戒厳令を敷いてまでレムザン通りの捜索を行うというのだから、第一貴族にはある程度の確信が有るはずだ。

ならば、こちらが魔族だというのを想定しているはずなので、それなりの戦力を用意するだろう。

それでこの少人数だというのなら____


「どれ程の精鋭だ?」

「はい。兵士達の鎧の胸部に、皇帝の家紋が・・・」

「皇帝の近衛騎士師団か!?では、指揮を執っているのは____」

「三大貴族のガロンド家の現当主、フェンダー・ブロス・ガロンドでした」

「ッ!!・・・そうか・・フェンダーか・・・・・」


相手の正体を知り、ボロスは目を見開き観念したかのように、その名を呟いた。



 皇帝を護る近衛騎士師団、“金色の守護騎士団ゴールド・ゲニウス・ナイツ

ドネレイム帝国の皇帝を守護するために組織され、帝国の最精鋭の兵士が配属される、大陸最大最強の軍事大国ドネレイム帝国の最強の騎士団である。

つまりは今現在において、大陸最強の騎士団でもある_____。

 そして、その団長にして、皇帝の警護を務める帝国三大貴族のガロンド家の当主、フェンダー・ブロス・ガロンドは、智謀こそ同じ三大貴族のクラースやマサノリに劣るものの、戦闘力においてはこの二人さえ凌駕しており、若くしてドネレイム帝国最強の騎士となった人物である。



「これほどの戦力とはな・・・恐るべきだな、帝国は・・・」


 帝国最強の騎士団、最強の騎士を相手に、ボロスは額から戦慄の汗を流す。

 元々、この戦いは勝ち戦ではない。

リデルが、カスミがオーマに教えた“神の予言”が本物かどうかを確かめるための時間稼ぎ・・・つまりは囮だ。

死亡・敗北は想定内である。

 だが、それでも相手がこれほどとは思わず、ボロスは正直恐ろしいと思ってしまった。



 力を信奉する魔族は、バルドールの様に魔族という種を絶対とする者だけではなく、シーヴァイスの様に自分より強いと分かる相手には種族問わず評価する者も多い、ボロスもそうだ。

 そして、そのボロスの“力”の評価は、様々な視点がある。

ボロスが今評価しているのは、フェンダーとゴールド・ゲニウス・ナイツの戦闘の“力”だけではない。

この作戦にフェンダーとゴールド・ゲニウス・ナイツを使うと決断し、指示を出した人物・・・クラースの“力”に対しても評価していた。

 クラースは、タルトゥニドゥやスカーマリスに黒幕がいないと見るや、迷うことなく自国を疑い、最強の駒を使って、帝都内を操作し始めた。

ボロスは、このクラースの判断“力”と行動“力”にも舌を巻いていた。

 魔族だろうと、人間だろうと、組織が大きく成れば決断と行動は遅くなる。

帝国の様に、力を持っていれば尚の事のはずだ。

 これまで、魔族社会と人間社会の両方で、多くのものを見て来たボロスにとって、ドネレイム帝国の第一貴族、特にクラースは本当の恐るべき相手だった。

魔族だろうと、人間だろうと、強くなり、力を得て偉く成れば、傲慢になり慢心する。

そのため、こういう場合に自国や自分達の事を疑うのは、力を持った権力者ほど難しい。

 だがクラースは、スカーマリスからの報告を受けると、迷うことなく直ぐに帝都内に捜査の手を伸ばした。

それも最強の騎士団を使ってだ。

この決断力と行動力は、魔族でも人間でも、そうできる事ではないというのは、ボロス自身良く理解している。


「やはり・・・リデル様の最大の障害は第一貴族だ」


 ボロスは自分で出した“リデル”という単語に覇気を取り戻し、額の汗を消して表情を引き締める。

賞賛してしまうほどの恐るべき相手でも、リデルのため、ひいては魔王のためならば引き下がるわけにはいかない・・・ボロスの忠誠心は本物だった。


「全員、配置に着け。先ずは潜入して来る敵部隊の先鋒を全力で叩き、奴らを牽制する。そのまま朝まで持ちこたえて脱出だ」


「「御意!」」


 町や区画の閉鎖など、たとえ第一貴族でも、そう何日もできるものではないはずだ。

ならば、日の出まで持ちこたえれば、脱出するスキもできるだろう。

囮役としてこの店に籠り、敵を引き付けた上で離脱。それから帝都の外へ逃げて自分達を追わせて、リデルから敵を離す____というのが、ボロスの考えた作戦だった。






 ボロスたちが潜入してくる相手を迎え撃つ準備を整え、配置についた頃、フェンダー指揮の潜入部隊も突入準備を完了していた。


「そろそろ時間だな・・・フゥ」


 フェンダーはそう呟きながら息を整える。

だが、深呼吸しても端正な顔立ちに似合うキリリとした眉は、八の字になったままだ。

普段のスポーツティで爽やかな雰囲気が、少し影を落としている。

別に緊張しているわけでは無い。ただ、フェンダーはまだこのクラースの作戦に納得できていないのだ。


「本当に帝国内に魔族が潜伏しているのだろうか・・・」


 フェンダーは、このドネステレイヤに魔族が居るという事に、今なお疑問を持ったままだった。

帝国の第一貴族としてのプライドから来るものだが、これは決して傲慢ではない。

 帝国は、建国からこれまで軍としての力は勿論、策謀においても他の勢力に劣っていた事は無い。

そしてフェンダー自身、クラースやマサノリの智謀を目の当たりにしているので、どうしても自分達の懐に敵が入り込んでいるとは思えないでいた。

 これまで、敵国のスパイなどの潜入を許したことも無い。

魔王大戦の混乱に乗じて_____と、言われれば否定はできないが、心のどこかで、“それでも帝国が油断するだろうか?”、“壊滅した魔族にそんな余力があったのか?”などと考えてしまっていた。

 とはいえ、クラースからの指示であり、確認しない訳にもいかないので、フェンダーは疑問を残しながらも、作戦を実行に移す。


「____突入するぞ」


 その場に居る兵士だけに聞こえる音量で指示を出し、フェンダーは兵を連れて駆け出した_____。




 「クリエイト・ウェポン」


 フェンダーは、RANK2の金属性で鋼の剣を造り出すと、目にも止まらぬ速さで娼館、“昏酔の魔女”の正面玄関の扉を切りつけた。

余りの軽さと速さで音も無く、斬撃が光る網となって店の扉に掛かると、扉は綺麗に細切れになる。

そのままフェンダーは、まるで扉をすり抜けでもしたかの様に、音も気配も無く風のように店の正面玄関に潜入した____。


「____ッ!?」


 店に入ったフェンダーは、そこで直ぐに立ち止まった。

細切れの木材と化した扉がカラカラと地面を鳴らす中で、何かを感じ取ったのだろう、目線だけを動かし周囲に注意を払う・・・。


「ふぅ・・・・何という事だ」


 入って間もない時間で、フェンダーは悟ったように悲しみ混じりの溜息を洩らした。

ボロス達は隠しているつもりだったのだが、フェンダーは店に入ってすぐに魔族の気配と魔術結界を察知していた。


「魔族の結界・・・・自分が甘かった。まさか、本当に魔族がこの都市に潜伏していたとは・・・・・」


作戦実行前まで、この事に懐疑的だったフェンダーだが、魔族が居ると分かると、直ぐに戦闘モードに切り替わった____。

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