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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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甘酸っぱい空気には・・・

 ミクネにこれまでの事を全て話終えて、オーマはミクネが入れてくれていたお茶でのどを潤す。

 話し始めた頃は入れたてで温かかったお茶は、すっかり冷めていた。

そうして、オーマが一息ついていると、ミクネの第一の感想が飛んできた。


「____プッ、バカ正直だなオーマは」

「え?」

「自分の打算、偽善、後ろめたさまで全部話すんだからな」

「う・・・・」

「でも、まあ、話を全部聞いて、オーマが私に対して抱えている後ろめたさも何となく分かった・・・けど、そう卑屈になるなよ」

「ミ、ミクネ・・・」

「初対面の時から全く打算が無いとも思っていなかった。オーマ、私を世間知らずの生娘かなんかだと思ってないか?」

「うっ・・・」


 ミクネに図星を突かれる。

 見た目と性格で世間知らずに見えるミクネだが、人間でいえば成人している年齢だし、立場も国の要職である。

物事に対して現実的な考え方は持っている・・・・・暴走はするが。

知ってはいるオーマだったが、その見た目とキャラでついつい忘れてしまっていた・・・・暴走するし。


「オーマが現実的な考えをしている事を酷いとは思わないし、本気で帝国と戦うつもりで私を誘ってくれるなら、むしろそうでないと困る。その上で私に正直に話してくれて嬉しかった」

「き、気にしていないのか?」

「いや、まあ・・気にはしているけど、薄々気づいていたし。それに____」

「?」

「あの時、ハツヒナと戦ったのは、間違いなく私のためだろう?」


 確かにオーマがミクネに対して、全て打算で動いていたというのなら、あの場でハツヒナとは戦っていないはずである。というよりお互いの立場を考えれば戦えないだろう。

打算で動いていたからこそ、採算の合わない行動は本心なのだと分かる。

あの時ハツヒナと戦う決断したのは、本心でミクネのためであると・・・


「だから、信じることが出来るよ、オーマの事」

「ミクネ・・・・」

「ハツヒナと戦わなかったり、違うタイミングでオーマ達の作戦の事を聞いたりしていたら、どうなるか分からなかったけどな」

「そ、そうか・・・」


つまりは、ミクネに事が知られる時期やタイミングによっては、今回の作戦は失敗していた可能性が有るという事だ。

ミクネがハツヒナに襲われたあの状況、あのタイミングだからこそ、だったのかもしれない。

ミクネとの距離を縮めるきっかけになったのもハツヒナであることを考えれば、結果としてハツヒナは今作戦の最大の功労者と言える。


(だからって、ミクネやウェイフィー達を襲った事を許すつもりは無いが・・・・)


それでも一応、心の中でハツヒナに感謝しておくのだった_____。



 心の中で、ハツヒナに“ありがとう、地獄で元気でね♪”と感謝した後、オーマは改めてミクネと向き合う。

事情を知られ、詳細は全て話した。

その上で、ミクネがこれまでの事を許してくれるのなら、後やるべき事は一つだけである。


「そ、それで・・・ミクネ」

「あん?」

「そ、その・・・これからの事なんだが____」

「ああ・・・」

「・・・ミクネも俺達の反乱軍に加わってくれないか?」


___そう。後残るはミクネの意志確認だけである。

オーマは改めてミクネと向き合い、ミクネを反乱軍に誘った。


「ああ、いいぞ。ようやく出会えた帝国の反抗勢力だ。それがオーマ達なら願ったり叶ったりだ」


ミクネの返事は即答だった。


「本当か!?」

「もちろんだ。オーマ、私は待っていたんだ、こういう日を・・・。周りの者達は帝国と対立する勇気どころか、あいつ等の野心に気が付かず危険視する事すらしていなかった。正直、“何でこんな間抜けな連中の為に、孤独になって戦わなくちゃならないんだ!!”って思ったこともある」

「ミクネ・・・」


オーマが吐き出したからだろうか?それとも、仲間が出来て孤独な戦いが終わり、気持ちが楽になったからだろうか?今度はミクネが吐き出し始めた。


「それでもやっぱり・・・国を・・皆を見捨てる事なんて出来ない・・・。でも、どうする事も出来なかったんだ・・・」


嫌がらせをするので精一杯だったと、ミクネは最後にぼそりとこぼした。

オーマはそれを先程のミクネ同様に、黙って聞いていた。


「・・・でも、オーマの反乱軍には他の勇者候補や、他国の勢力・・特にラルスエルフも居るし、打算があったとはいえ、オーマは私の為に命懸で第一貴族と戦ってくれたんだ。だから、共に帝国と戦うのに不足は無い!よろしくな!オーマ!」

「あ、ああ!よろしくな!ミクネ!」


 ミクネはオーマ達の反乱軍への加入を決めてくれた。

それだからと言って、ミクネに対する後ろめたさが完全に消せるほどオーマは器用な人間では無いが、それでも罪悪感は薄くなったし、帝国に勝つ可能性も上がった事で、明るい未来が見えて来て、オーマの心は軽くなった。


(予定とは少し違うが、結果オーライだ!)


 ろうらく____とは呼べない形で、二人の間に甘酸っぱい空気は無い。

どちらかと言えば、“同じ目的で手を組んだ仲間”という表現がぴったりだ。

 だが、オーマは気にしない。

むしろ、甲斐性無しのオーマにとっては、この形での今くらいのノリの方が、気が楽だった。


 これまで、孤独になっても帝国に反抗してきたミクネが、この先で帝国側に付くことは有り得ないだろう。

ならば、無理にミクネを自分に惚れさせる必要など無いとオーマは考える。

そういう訳で、ろうらくは完了していないが、ミクネが帝国側に付く可能性も無く、オーマ達を仲間と思ってくれているのなら、オーマの中ではこれで大団円だった・・・。




「じゃあ、ミクネ?正式に仲間になったって事で、何か聞いておきたい事はあるか?」


 ミクネが反乱軍に加わったからには、これからすべきことは沢山ある。

オーマ達サンダーラッツの事をもっと知ってもらわなければならないし、反乱組織のデティット将軍やプロトス将軍の事など、現状を含めて話を整理しなくてはならないだろう。

オーマはそんな理由で、質問は無いかと聞いたつもりだったのだが、ミクネからの質問はオーマの予想外の角度だった。


「あ、仲間になる前に聞いておきたい事が有る」

「お、何だ?何でも聞いてくれ!」

「あー・・・」


遠慮しているのか、ミクネは顔を赤らめて躊躇っていた。


「どうした?何でもいいぞ?遠慮するな」

「じゃ、じゃあ、遠慮なく・・・コホン。・・・オーマが私に対して今回して来たことは、反乱軍に加えるという目的のためだけだった・・・のか?」

「へ?」

「だ、だから・・・私に対してしていた、ろ、籠絡?の作戦は全部が打算だったのか?少しくらいは私情があったりしないのか?・・・って」

「へ?」

「だ、だからぁ!私に対する気持ちに、恋愛感情とかは全く無いのかと聞いている!!」

「ヴぇ!?」


 顔を赤らめながら聞いてくるミクネに、オーマは視界が逆さになるほど動揺した・・・オーマにとって生まれて初めての、文字通り“気が動転する”という体験だった。


「きゅ、急になんだよ!ど、どうしたってんだ!?」

「別に、急にじゃない。ずっと気になっていたんだ。ハツヒナが作戦の事を暴露した時からな。最初は、これまでの事は全部嘘だったのかとか思ったけど、ハツヒナと戦った事しかり、全部が嘘じゃない気がしている」

「ぁ・・・・が・・・・」


____ミクネの勘は冴え渡っていた。


「どこまで気持ちが本気なのか知りたいんだ。ハツヒナが“本当に惚れたのか?”って聞いた時も、否定はしていなかったし・・・実際どうなんだ?」

「え、えーとぉ・・・は、ははは(笑)。ど、どうなんでしょうねぇ?」

「聞いているのはこっちだ!何でも聞いてくれって言ったじゃないか!少しくらい本気で口説いているところは無かったのか!?どうなんだ!?」


ズイッと顔を近づけて、期待する様な表情でミクネが詰めてくる。

オーマは動揺と、息が掛かりそうなほどの顔の近さで、どんどん脈が速くなっていき・・・・・限界を迎えた。


「バ、バババババカ言ってんじゃないよ!そ、そんな気持ち全く・・・あ、いや、全くというのは____って違ッ!」

「ほう?そのリアクションは脈ありと見た」

「見ないでください!」


天幕の中に甘酸っぱい空気が広がっていった_____。



 二人の顔を赤らめながらのやり取りは夜まで続いた。

更には、サンダーラッツの打ち上げでは皆に、「ツンデレるなよ団長(笑)」といじられるのだった_____。



_____烈震の勇者ろうらく完了。

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