後ろめたくて(2)
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
ミクネが用意してくれた食事を平らげ、お茶を飲んで一息つく。
ミクネが作ったのは、“雑炊”という東方地方の米を使った一般的な料理で少し薄味だったが、疲弊して食欲も湧かない今のオーマにはちょうど良い味付けで、腹が減っていないにも拘らず、全て平らげる事ができた。
「しっかり食べれたな。良かった」
「味付けが絶妙だった」
「そうか?今は濃い味付けは嫌だろうと思って薄口にしたんだ。正解だったな♪」
「そ、そうか・・・ありがとう」
元々の味付けではなく、ミクネの気遣いだったらしい____。
ミクネの意外に気づかいが出来る様に驚き、それが嬉しくもあるが少し気まずい。
理由は言わずもがな、ハツヒナの暴露が心に引っ掛かっているからだ。
気を使われ過ぎると、後ろめたさが前に出て来て、気まずい気持ちになる・・・。
(____いっそ自分から切り出そうか?)
気まずい思いに耐えられず、オーマはそんな事を考えてしまう。
そして____
(いや、だから、どう説明するんだよ・・・)
____と、直ぐに冷静に戻る・・・・頭の中でこんな事を繰り返している。
そんな堂々巡りが続くもどかしい時間が、目が覚めてから続いていた____。
この件に関しては、話をするべきなのだろうが、どう切り出せば良いものか・・・更には、どう説明すれば良いのかもオーマには分からなかった。
きっと、どう説明しても、後ろめたい気持ちを拭い去ることは出来ないだろう。
だが、それで済むならマシかもしれない。
騙されたと敵意を持たれて、ミクネと対立することになりはしないだろうか?
(ミクネと戦うのは、嫌だなぁ・・・)
勇者候補の一人、“戦巫女”ことヤトリ・ミクネとの対立____
今現在のミクネの魔導士としての成熟度を考えると、まだ成熟していない時期に戦った“氷結の勇者”フレイス・フリューゲル・ゴリアンテ、“閃光の勇者”レイン・ライフィードとの戦い以上の死闘になるだろうこと間違いなしだ。
だがオーマがミクネと戦いたくない理由は、そんな事では無かった。
(そういえば、ヴァリネスが言ってたっけ・・・)
“あの子との相性はそう悪くない”とヴァリネスが言っていた。
そう悪くないどころか、これまでの時間、特にベーベル平原以降では、ミクネは今までの勇者候補の誰より接しやすく、やり易いと思った・・・・・人見知りが発動しない任務中だけだが。
それでも、今までの勇者候補の中で一番気が合うと思った。
一番気が合って尊敬できる人物とは戦いたくないものだ_____と言うよりかは、嫌われたくないものだ。
(だけどなぁ・・・)
状況的に厳しい気がしている・・・。
オーマは答えが出せず、話を切り出せない。
二人きりでそんな調子なら、当然気まずい空気となっていく・・・。
「・・・大丈夫か?オーマ?」
「えっ!?」
となれば、当然ミクネから声が掛かるに決まっていた。
「どうしたんだ?やっぱり美味しくなかったか?」
「い、いやいやいや!そんなことは無い!マジで美味しかった!」
「じゃー、体調か?」
「え。あ・・ああ。ま、まあ疲労は有るが、そこまででもない」
と、オーマは反射的に返事してしまい、後悔した。
(くそ、疲れているって言って寝ちまえばよかった・・・)
逃げるチャンスがあったのにバカ正直に答えてしまった。
「だったら____」
「ん?」
「・・・後悔しているのか?」
「えっ!?」
____心の中を読まれた!?・・・などと一瞬本気でボケてしまった。
「ハツヒナと戦った事・・・後悔しているのか?」
「あ?ああ・・・いや、して無いよ」
全然違う内容だったので、“何だ、そんな事か”といった具合でオーマはあっさりと返した。
それに対してミクネは、少しだけ顔を赤らめて微笑んだ・・・。
オーマに自覚は無かったが、結果としてこの態度が、“ミクネのために帝国の第一貴族と戦ったことに全く後悔は無い”というのをミクネに雄弁に伝えていた。
オーマは、ハツヒナの所為で作戦の事をミクネに知られて、気まずいという事しか見えておらず、他の事はまるで見えていなのだ_____甲斐性無しである。
だが、それが勘の鋭いミクネには、かえって良かったのかもしれない。
「なら、オーマ。話してくれないか?」
「え?」
「オーマが第一貴族の連中に命じられた“作戦”ってやつだよ」
「ヴぇ!?」
それしか見えていないオーマは、いきなりその話を切り出されて動揺する事しかできなかった。
「後ろめたい気持ちが有るのは何となく分かっている。でも私はオーマの言ったこと信じるからさ。話してくれないか?」
「ミクネ・・・」
「最初から私を帝国と戦う仲間に誘うつもりだったのだろう?」
「え!?そ、そこまで分かるか!?」
「プッ・・・だってオーマ最初に私と会った時に、“俺はコイツと一緒に帝国と戦える自信がこれっぽっちも無い!!”ってキレたじゃないか」
「ヴぁ!?」
言われて、オーマはようやくミクネとの初対面の記憶を蘇らせた。
(そーーーだった!!そういえば、俺もうっかり口を滑らせていたんだった!!)
最初に暴露したのは自分だった事を思い出し、気まずさは更に増して、顔を覆いたくなってくる。
だが、その甲斐あって、オーマは今の自分の視界の狭さに気が付いた。
(じゃー、ミクネは今まで俺達が帝国の反抗勢力と見ていたって事か・・・・あ、そういや作戦会議でヴァリネスが言ってたわ・・・)
ミクネと行動する様になってから、あまりにノリが有っていたので、その事も忘れていたし、ミクネの態度からも気が付かなかった。
オーマ自身はそのことに自己嫌悪したが、その事を忘れていたおかげで、勘の鋭いミクネがオーマに気を許すようになっていったというのも有るのだから、今回は特に運が味方してくれたのだろう。
変に意識していたら、ミクネは心を開いていなかった可能性が有るのだから_____。
ミクネは、今までずっとそういう目で見て来て、今回の事で確信を得たという事なのだろう。
そして、その上でミクネはオーマを信じると言ってくれているのだ。
それは、つまり____
(・・・・・)
オーマの中である種の期待が生まれる・・・・・そして決心する。
(どちらにせよ、説明しない訳にはいかないもんな・・・)
ならば、信じるからと聞いてくれる今が最も良いタイミングなのだろう。
邪魔も居ない、状況としても“あり”だ。
ミクネを仲間に誘うなら、今が一番だと判断する。
「分かった。全部話すよ」
そうしてオーマは、ミクネに事情を話し始めた____
オーマなりの言葉、オーマなりの誠意で・・・嘘はもちろん言わない。話を取り繕ったり、盛ったりと言ったこともしない。
ただそれでも、“嫌われたくない”、“自分の事を少しでも知ってほしい”という気持ちで、最初から細かいところまで正直に話す。
ろうらく作戦を言い渡されたところからではなく、“救国の英雄”となった後から、“ドブネズミ”になるところ___自分の中で、帝国の見方が変わったところから全てだ。
オーマは、ミクネに対しての後ろめたい気持ちを、少しでも拭い去りたかった。
全てを話して楽になりたかったという事である。
相手によっては、くどくどと言い訳がましいと思われ、逆効果になる可能性もあるが、オーマは止まらなかった。止められなかった。
オーマはミクネに甘えている。オーマ自身で、それを自覚できてしまうほどだ。
だからだろう、そんなオーマの言葉に嫌な一つ顔せず、話を聞いてくれるミクネは聖母のようで、オーマはそのミクネの母性に引き付けられるのだった____。




