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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
205/378

後ろめたくて(1)

 _____どれくらいの時間が経っただろうか?

ハツヒナを殴りながら遠のいて行ったオーマの意識が戻ってくる。


「____ッ、ミクネ!!」


 ガバッ!と脊髄反射の様に上半身を起こして、最初に出た言葉は一番心配だったミクネの名前だった。


「なんだ?オーマ」

「え!?」


 慌てて叫んだようなオーマに対して、ミクネからは何てことは無いといった落ち着いた返事が返って来た。

至って普通の返事だったが、オーマの意識はハツヒナとの切迫した状況で途切れているので、返事が返って来るとは思わず、驚いて一瞬固まってしまった・・・。

見れば、ミクネは無事な姿でオーマのそばに座っていた。


「ミ・・クネ?あ・・・ぶ、無事か?」

「ああ。私は無事だよ。おかげさまでな。オーマは大丈夫か?無理に起きなくてもいい。寝てて大丈夫だ。ここは安全だから」

「え?こ、ここ?」

「軍の野営地だよ」

「あ・・・・」


 言われて周囲を見渡し、そこでようやくオーマは自分が軍の天幕で寝ていたのだと気が付いた。


「え、あ、じゃ、じゃー・・あの・・・ハ、ハツヒナは?」


 まだ全く事態を呑み込めていないが、“軍”というキーワードがあったおかげで、奇跡的にハツヒナの名を出すときは周囲に聞かれないよう小声になった。

それを察してと言うわけでは無いだろうが、ミクネの返事も先程より静かなものだった。


「死んだよ・・・」

「!?」

「はは、目が覚めた時には混乱しているだろうと思ってたけど、そこも驚くんだな・・・ちゃんと説明するよ」

「あ・・ああ」


混乱しているオーマを治めるためだろう、ミクネは努めて穏やかな口調で、オーマが意識を失った後の出来事を話してくれた____。



 先ず、オーマとハツヒナの一騎打ちは、ハツヒナの死で決着が付いていた。

だが、オーマはハツヒナが死んだ後も無意識で動いていたため、攻撃を止めることが無かった。

ミクネは、こと切れたハツヒナを殴り続けるオーマを見て、オーマはもう意識が無いのだと気が付いた。

 オーマの異変に気が付いたミクネは、潜在魔法で毒から回復してくると、オーマの暴走を止めるため、サレンと連絡を取ろうとした。

だが、何度やっても繋がらず、やむを得ず実力行使でオーマを止めたそうだ。


「ごめんな、オーマ」


____と、ミクネは申し訳なさそうにしていたが、オーマはまったく気にしていなかった。


 力尽くでオーマを止めた後は、皆と合流するため、ミクネは再び通信魔法を飛ばした。

そして、シマズと連絡がついて正確な居場所が分かると、サレンも心配だったが、先にウェイフィー達と合流することにした。

 ウェイフィー達はずっと動けないままだったが、ジェイルレオが逃げる時に召喚したグレイハウンド達のおかげで、辺りからは獣一匹いなくなっていたため、ウェイフィーもシマズも、工兵隊の兵士達も全員無事だった。

 その後はヤスナガとも連絡を取る。

ハツヒナに加担していれば戦う可能性も有ると思っていたが、ヤスナガの開口一番のセリフが、「では、早くホウジョウ様と合流しましょう!」だったので、警戒しつつもハツヒナの話は出さずにヤスナガとツクヨミ偵察隊と合流し、サヤマ湖へと向かったそうだ。

 サヤマ湖に到着して皆で周囲を捜索すると、数分ほどで魔力が枯渇して動けなくなっていたサレンを発見する。

そして、そこでサレンにハツヒナが敵指揮官に打たれ死亡し、ツクヨミも全滅したと聞かされた。

同時に、その時のヤスナガのリアクションで、今回の出来事にはツクヨミは関わっておらず、ハツヒナの独断専行だったと分かったそうだ。

そして、ミクネ、ウェイフィー、シマズの三人は、そのサレンの発言とヤスナガのリアクションを見て、“そういう事にしよう”と示し合わせたという。

 サレンと合流後、一日かけてナタリア城に到着すると、ジョウショウにはその示し合わせた通りの報告をした。

そのことにジョウショウは特に疑った様子は無かった・・・・・実際のところは分からないが。

そのため、ニジョウ・ウザネただ一人が騒いで、ハツヒナの捜索に出ることになったそうだが、特に疑われてはいないそうだ。

 その後は、ジョウショウに休息をとるよう言われ、今に至る____。



「じゃあ、俺はいつまで・・・三日か?」

「いや、この天幕で丸一日寝ていたから四日だ。ハツヒナと戦って気絶して四日経っている」

「そ、そうか。そんなに・・・・・うっ!?」


 言いながら立ち上がろうとしたが、体に力が入らなかった。


「無理するな。あんな状態でずっと寝ていたんだ。怪我だけじゃなく疲労も相当だろう。何かでのどを潤すか?」

「す、すまん。頂くよ・・・」


悪いとは思いながらも想像以上に体が重かったため、素直にミクネに看病してもらいながら、潜在魔法で傷を癒していく事にする・・・。



 ミクネにお茶を入れてもらって、のどを潤す・・・そうすると、少しだけ頭が覚醒してくる。

頭が働き始めると、現状やこれからの事が気になり始めて来るというものだ。


「今は?ここは帝国の野営地なんだよな?ナタリア城の攻略はまだ続いているのか?」

「いや。私達がここに着いた時には、もう戦いは終わっていた。今は事後処理中だ。ナタリア城も魔族が長い間住み着いていたから、中の施設にどんな仕掛けがあるか分からないからってまだ探索中だ」

「他の皆は?」

「兵士達には何人か被害が出たそうだが、サンダーラッツの幹部連中は皆無事だ」

「そうか・・・」


部下に被害が出たことにオーマは心を痛めたが、これだけの大戦で自分達が与えられた役割を考えれば御の字だろう・・・。



 「皆にオーマが起きたって連絡するよ」

「あ、ああ・・・でも皆も作業中だろう?後でいいんじゃないか?」

「それでもさ。皆、結構心配していたし、団長が参加できないからって祝杯も挙げていないんだ。“団長が目を覚ましてからにしよう”って」

「そ、そうなのか?」


そんな風に言われると、何だかむずがゆい____照れくさい。


「ヴァリネスだけ猛反対していた」

「そ、そうなのか・・・・」


ヴァリネスの事は今更なので、悲しいとも思わない。むしろ、“だろうな・・・”という感想だった。




 「___分かった、今夜だな。伝えとくよ。じゃあ」


オーマがそんな風にヴァリネスに呆れている間に、ミクネはメンバーとの通信を終えていた。


「オーマが目覚めて喜んでいたぞ、皆」

「そ、そうか?」


そこまで心配させたのだろうか?

だがどちらにせよ、そんな風に言われると何だかむずがゆい____照れくさい。


「これで今夜は酒が飲めるって。仕事のモチベーションが上がってた」

「そ、そうなのか・・・」


幹部たちの事は今更なので、悲しいとも思わない。やっぱり、“だろうな・・・”という感想だった。


「まあ、そういう訳だから、今夜には笑って酒が飲めるくらいには回復していなきゃな?私も手伝うから」

「ん?このままミクネが看病してくれるのか?」

「そうだ。・・・何だ?不満か?」


 “私じゃダメなのか!?”っと、いじけた様にムスッとした表情を見せるミクネに、オーマは慌ててしまう。


「い、いやいや!そうじゃないって・・・こういうのは、軍じゃ交代制だろう?それにミクネにも仕事があるんじゃないかなって・・・」

「んなもん無い。オーマ、忘れたのか?私だぞ?帝国の戦いの事後処理なんて手伝うわけないだろう」

「そうでした・・・って、なら尚の事、俺の看病なんてさせたら悪いじゃないか」

「何言ってんだ、オーマは特別だよ。私を助けてくれたわけだし、むしろ私が看病すべきだ」

「そ、そうか?」

「そうだ。だから、ジェネリーとレインとサレンの三人が、“誰がオーマの看病をするか?”で揉めているところに私も加わったんだぞ」

「そ、そうなのか・・・・」


そんな風に言われると、何だかむずがゆい____照れくさい。

 そして、気絶していて良かったと不謹慎にも思ってしまった。

だが、その場で意識があったら、胃に穴が開いていただろうから、そう思うくらいは勘弁してほしい・・・。


「よ、よくあの三人を言い負かせたな」

「ああ・・・それは、ヴァリネス達が何か知らんけど、私が看病すべきだと援護してくれたからな」

「そ、そうか・・・」


どうやら、メンバーは“作戦”を優先したらしい____。


「と、言う訳で、オーマが回復するまでは私が付いているからな。腹減ってないか?栄養のある美味い物作ってやるぞ?」

「そ、そうだな・・・じゃあ、頂きます」

「おう♪待ってろよ!」


明るい返事を返したミクネは、食事の支度をするため、いそいそと天幕を出て行った。

 正直、腹は減っていなかったが、ミクネと改めて二人きりとなり、緊張しているので、お腹以上に時間を埋めたかった。


(俺は・・・相変わらずだなぁ・・・)


仕事___軍事行動中なら、異性との会話も苦にはならないのだが、こういう状況になると未だに人見知りが出てしまう。


(それに、ミクネには聞かれちまったからなぁ・・・)


 ハツヒナの暴露の事を思い出す。

ミクネに作戦の事を聞かれたことを考えると、更に気まずい気持ちになるのだった_____。

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