オーマvsハツヒナ(1)
オーマもハツヒナも、お互いにこの戦いに乗じて相手を抹殺する事を考えていた。
そして、それがお互いに示されると、オーマの返事を皮切りに、両者は激突した_____。
戦い開始、先に動いたのはハツヒナだった。
ハツヒナは軽やかなステップを踏んで、速攻魔法で銀の刀を錬成しながら、オーマとの距離を詰める。
素早い踏み込みだったが、オーマはこの動きに自身の得物であるハルバードを合わせる。
「フッ!」
「ッ!」
オーマのハルバードによる剛撃が振るわれる___。
だが、ハツヒナの方も自身の刀をこの攻撃に合わせ、コマのように回転して受け流した。
「ッ!?」
自身の目の前で、くるくる回るハツヒナはスキだらけに見えたが、オーマはしゃがみ込んだ。
ハツヒナは回転ざまに、口から小さい針を飛ばしていた。
暗くて分かり辛かったが、ハツヒナと戦う事を想定していたオーマは、これに反応できていた。
そして、自身の得物が活かせる間合いにするため、バックステップで距離をとる。
だがハツヒナの方も、オーマのこの動きに反応して、距離を詰めるためステップを踏む。
スピードはハツヒナの方が上だったのか、ハツヒナは難なく距離を詰める事ができて、そのまま流れる動きで抜刀術を繰り出す。
オーマはこれをハルバードの柄で受ける_____軽かった
「ッ!?」
ハツヒナの攻撃に違和感を抱いたオーマは、それとほぼ同時に魔法術式を展開した。
ハツヒナの主武器は刀だ。だが、それだけがハツヒナの攻撃手段じゃない。
RANK2の金属性は、多種多様な金属を多種多様な形で錬成できる。
本人の格闘センス次第で、攻撃の間合いも態勢も選ばない。
いつ、どんな態勢で、どこから攻撃してくるか分からないので、常に相手の動きを警戒しなくてはならない。
長年ヴァリネスと共に戦場を渡り歩いてきたオーマは、その事を良く分かっていた。
「___チッ!」
ハツヒナは術式を展開したオーマ見て舌を鳴らす。
オーマは攻撃態勢になっていない____ならば、防護魔法によるカウンターだろう。
普段のハツヒナなら、構わず切り込んで攻撃に出るのだが、相手がオーマとなると話が変わってくる。
理由は、オーマが雷属性の使い手だからだ。
雷属性は、魔法防御がしっかりしてないと、攻撃を受けた際に感電してしまうため、不十分な態勢で切り込むのは危険だ。
ハツヒナは攻撃を諦めて距離をとった。
____バチィイイイン!!
案の定、ハツヒナが離れた瞬間に、オーマの体全体から電気が放出された。
ハツヒナは距離を取る。そして、オーマは追撃することなく態勢を立て直す。
両者の攻防は、ここで仕切り直しとなった。
戦闘開始わずか3秒の高速な攻防だったが、両者ともに本気ではなく、相手の力量の探り合いだった。
怒りと殺意十分に始まった二人の殺し合いだったが、両者とも戦いに関しては慎重だった。
理由としては、お互いに相手を憎んではいるものの、その戦闘力には一定の評価をしているというのが有るが、それだけが理由ではない。
一番の理由は、相手の持っている能力が油断できないものだからだ。
ハツヒナの主な能力は、RANK2の金属性とRANK3の薬物属性だ。
様々な薬物を錬成できる薬物属性は、当たれば勇者候補のミクネさえ一時的に戦闘不能にできるもの。
そして、毒を打ちこむのは、金属性で錬成した武器を使い、どんな距離からでも、どんな態勢からでも可能だ。
そんな攻撃で、一撃でも食らえば毒で動けなくなり敗北必至なのだから、ハツヒナは恐るべき魔導士だろう。
オーマは警戒せざるを得ない。
だが、警戒せざるを得ないのはハツヒナも同じだ。
オーマの持つ雷属性も、まともに食らえば感電して動けなくなり、一方的に追撃されてしまう超攻撃的な特性を持っている。
お互いの能力は、味方のフォローが無いこの一対一の状況において、一撃で勝負が決まってしまうものだ。
ゆえに、両者共に攻撃より防御に重きを置いて、相手のスキを窺う戦い方をしていた____。
仕切り直してからの次のラウンドも、ハツヒナから切り込みオーマが迎え撃つ。
「フッ!」
「はぁあ!!」
_____ガギギギギギン!!___ガギィイン!!
再びハツヒナが切り込んで接近戦を始め、何合か刃を合わせる___。
だが、またも両者は突破口を見出せず、再び距離をとって仕切り直しとなった。
(埒があきませんわね・・・)
お互いが防御重視の接近戦では、勝負は決まらないと判断したハツヒナは、今度は戦法を変えることにした。
「ストーン・ウォール」
「ッ!?」
ハツヒナは土属性魔法を発動し、3メートルほどの高さの石の柱を、辺りに複数造り始めた。
それから流水のような動きで柱の影を移動して、オーマの死角へと入っていく。
(石柱・・・こちらを翻弄するため?・・・いや、それだけじゃない!)
この戦法はそんな単純ではないとオーマは判断し、警戒心を強める。
そして、ハツヒナを捕らえるため、石柱との隙間に意識を集中して視線を置いていたが、この視線をワザと外す_____このオーマの判断は正しかった。
____ドパァアッ!!
「____ッ!?やっぱり!」
石柱の間を移動していたはずのハツヒナは、突然オーマの右手側にある石柱の中から飛び出して来た。
ハツヒナは、石柱を移動しながら性質変化の魔法を使って、石柱の一部(オーマから見て死角の部分)を砂に変えていた。
石柱を障害物と相手に認識させてから、その中から飛び出して襲うトリックプレーだ。
だがオーマはこれ読んでおり、カウンターの態勢に入っていた。
(____ッ!?)
オーマがカウンターを入れようとした瞬間、ハツヒナの姿を確認して手が止まった。
ハツヒナはオーマの予想通り魔法の準備をしていたが、その属性は予想外で炎属性だった。
(炎?____ハッ!)
ハツヒナの意図を察したオーマは、直ぐに防護魔法の術式を展開しながらバックステップで距離を取ろうとした_____瞬間。
____ドゴォオオオオオン!!
凄まじい爆発が起きた_____。
(がぁああ!?・・・・これはベーベル平原のときの!)
実はハツヒナが石柱を変化させていたのは、暗くて分かりにくかったが砂では無くて火薬だった。
速攻の土属性魔法で石柱を造り、相手を翻弄しながら、その石柱の中身を火薬に変えていく。
それからオーマに襲い掛かる時に炎属性の魔法で着火____その火力は上級魔法並みだった。
一対一の戦いでは、普通に上級魔法を使おうとすると警戒されるし、スキも大きくなる。
一対一で魔導士が高火力を出すのは難しいのだが、ハツヒナは難なく、しかも普通に上級魔法を使うより少ない魔力でやってのけた。
「ぐぅううう!」
オーマはバックステップで距離を取ろうとしたものの、完全には爆発範囲の外に出ることは出来ず、ダメージを負った。
防護魔法は間に合わなかった?______そうではない。
オーマは、ハツヒナの炎属性の魔法術式を見た時にその作戦を察しており、防護魔法の本当の使いどころは爆発に対してではないと判断していたのだ。
「ハイロック・ウォール!」
____ドドドドド!
オーマが岩の壁を造ると、直ぐに銀色の針が突き刺さった。
(___やっぱり!)
銀色の針はもちろん毒針だ。
もし、爆発を防ぐために防護魔法を使っていたら防げなかっただろう。そしたら勝負は決まっていた。
オーマの判断は正しかった。
(___チッ!)
ハツヒナがこのトリックプレーを使ったのは、オーマの裏をかくためだけではなく、上級魔法よりスキなく省エネで行えるため、追撃の毒針を打ち込む余力を残しておけるからでもあった。
(こいつの性格からして、爆発は本命じゃないって思っていたぜ!)
もっと火薬の量を増やしたり、着火する前にオーマの態勢を崩してバックステップできないようにしたりすれば、もっと大きなダメージを与えられ、場合によっては即死させることもできたかもしれない。
だがハツヒナはそうしなかった。
理由はオーマが言うように、ハツヒナがそういう性格だからだ。
ハツヒナはサディストだ。だから憎いオーマをこの戦いでいたぶるつもりでいる。
そのため、即死させるではなく、毒針で生け捕ることを意識している。
生け捕りにしてから気が済むまでいたぶってから殺す____。
なんだったら、オーマの目の前でミクネを犯して両者の自尊心を砕くつもりでいた。
ハツヒナはそういう性格だ。
薬物属性も、暗殺用や回復用といった戦闘特化の薬ではなく、神経毒などの捕獲用、拷問用の毒の開発していることからも、その性格が伺える。
何より、私情より状況を優先するのなら、この大戦でミクネを襲ってはいないだろう。
ウェイフィー達を生け捕った事から、オーマはハツヒナの性格を把握しており、まだ優勢である今の状況なら、自分を生け捕りにするため、勝負の決め手には毒針を使うと踏んでいた。
(余裕かましやがって!だが、戦場じゃーそういうのが一番危険なんだぜ!)
一瞬の迷いが致命的になる戦場で、ハツヒナのこの性格は甘いと言わざるを得ない。
このハツヒナの性癖は付け入るスキになると判断したオーマは、今度は自分から攻撃に出た____。




