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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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同じ事を考えていた二人

 緊張感のある冷たい空気が漂う中、ハツヒナはうんざりといった様子で溜め息を付きながら口を開いた。


「本当に・・・貴方は・・この暗い森でどうやってここに来られましたの?・・・憎たらしい」

「お前に説明する必要なんかない」

「・・・本当に」


オーマの口答えに、ハツヒナの瞳が凍る。

そして、下がっていた周囲の空気は更に下がり、氷の牢獄かと思うほどの冷たさと閉鎖的な空気になっていった。



 この暗い森でオーマが二人を探し出せたのは、正直、運によるところが大きかった。

 オーマはウェイフィーと別れた後、急いで元来た道を戻り、そこからジェイルレオの逃走経路を辿ってサヤマ湖に向かっていた。

そこで偶然、ジェイルレオの死体を発見したのだ。

一瞬、ミクネかハツヒナが仕留めたのかとも思ったが、ジェイルレオの死体を調べてみると、そうではないと直ぐに分かった。

 ジェイルレオは凍死していた。犯行は氷属性の魔法によるものだった。

ミクネもハツヒナも氷属性は扱えないため、二人の仕業ではない。

そこでオーマは、ジェイルレオは二人から逃げ延びて、その先で何者かに殺されたのだと理解した。

 その何者かも気にはなったが、それは一旦置いておいて、オーマはジェイルレオの周囲を捜索するでもなく、サヤマ湖に行くこともしないで、ジェイルレオの足跡を辿ることにしたのだった。

そして、二人を発見した____。



 「____で?」

「あ?」

「“あ?”ではありませんわ。それで?私の邪魔をしてどうしようというのです?まさか・・・殺し合います?」

「それは・・・・」


 言われてオーマは、ハツヒナの言っている意味を理解し、少しだけ躊躇した。



 ハツヒナは第一貴族。そして現在のオーマは、第一貴族のクラースから特務を命じられている身だ。

お互いに私情で手を出せる者同士ではない。

その二人が殺し合いをするという事が、帝国にとってどういう事になるか?それの意味するところが分かっているのか?と、ハツヒナの言葉にはそんな意味が含まれている。

 無論オーマは、いつか帝国と対立し、第一貴族と戦うつもりでいる。

だが今は、“本当は”時期尚早と言わざるを得ない_____。



 緊張感のある空気が漂う中、ハツヒナは再びうんざりといった様子で溜め息を付きながら口を開いた。


「ふぅ・・・本当に憎たらしいですが、特別です。今すぐこの場を離れ、口裏を合わせるというのなら見逃して差し上げます」

「ミクネを見捨てられるわけないだろ」

「二人の仲を邪魔するなと申し上げているのです」

「無理矢理襲っておいて“二人の仲”とか言うな」

「ふぅー・・・何故そんなにミクネにこだわるのです?」

「何故って___」

「ここで貴方が去っても作戦は成功するのですよ?」

「ッ!?」

「さ・・作戦?」


 ハツヒナが“作戦”という言葉を口にして、オーマは驚き、ミクネは訝しげな表情を浮かべた。


(こいつマジか!?ミクネの前だぞ!?)


だが、オーマの動揺を他所に、ハツヒナの口は止まらなかった。


「貴方がミクネを籠絡せずとも、私がここで落としてしまえば良いのですわ。クラース殿には私から言っておきます。だからここで貴方が立ち去っても問題にはなりません。任務は完了します。貴方はこれ以上ミクネに骨を折る必要は無くなるのですよ?」

「任務・・・籠絡・・・」


 ミクネはハツヒナが話している内容と断片的なキーワードで凡そ見当がついたのだろう、驚いている様子だったが、傷ついているのか怒っているのかまでは表に出ておらず、それ以外の感情は読み取れなかった。

そのことが気まずく、オーマのその気まずさは不快感となってハツヒナに向いた。


(こいつ・・マジか・・・平然とバラしやがった。どういうつもりだ?)


 なりふり構わなくなって開き直ったのか、ここでの調教でミクネを言いくるめる自信が有るのか分からないが、ターゲットである本人が居る前で、堂々と作戦の事を話すハツヒナ・・・。

オーマは何とも言えない気持ちになり、上手く言葉を作れなかった。


「・・・・・そういう問題じゃない」

「そういう?・・・では、どういう問題ですの?」

「っ・・・・」

「オーマ・・・・」


オーマはしまったと思い、更にそれを表情に出してしまい、それにもしまったと思った。


「・・・・貴方にとってミクネは、他の勇者候補と同じターゲットではないというのですか?まさか本当に惚れましたか?・・・それとも____」

「・・・・・」

「・・・・・」

「____帝国を裏切るおつもりですか?」


「「ッ!?」」


“裏切る”というキーワードが出て、三人の間に沈黙が流れた____。



 オーマの気持ちは、一言で言ってしまえば、ハツヒナの言った事全てだ。

帝国と戦うためにミクネの力を欲しているのは勿論、エルフとしても今は好感を持っているし、異性としてもヴァリネスの様に飾らずフレンドリーなノリに魅力を感じている。

ただ、今命令されている作戦や、自身の反乱計画、それに他の勇者候補の事を考えると、ミクネに対する気持ちには打算も働いているため、後ろめたい気持ちもある・・・・。



 オーマは言葉を出せない。いきなり作戦の事を聞かされたミクネも言葉が出ない・・・。

そのため___という訳ではないが、沈黙を破ったのはハツヒナだった。


「やっぱりですか・・・・・分かっていましたわ」

「え?」

「・・・・・」

「貴方が裏切る可能性も織り込み済みなのですよ、こちらは。この作戦を逆手にとって、勇者候補という軍単位、国家単位の戦力を持つ者達を味方にして、帝国に反旗を翻す・・・貴方は一度、クラース殿に消されそうになっていますから、この状況は貴方が野心を抱くのに十分ですもの。そんな貴方が、素直にこちらの命令に従ってくれると思うほど、我々は愚かではありません」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 帝国はオーマの思惑も想定済みという訳だった。だが、それが分かってもオーマに驚きは無かった。

クラースのことは、最初から自分を信用しているとは思っていなかった。

それくらい傲慢な方がクラースらしいとさえ思ってしまう。

ハツヒナの話はむしろ納得できるものだった・・・。


 ただし、それはクラースの話に対してであって、ハツヒナの言動に対してではない。


 ハツヒナの話を聞いて、オーマの中である疑念が生まれた。

オーマは自身の予感に従って、ハツヒナの言葉に意識を集中する____。


「____ですのでバレても気にしなくて良いのですよ?クラース殿は気にしません。あの方は最初から貴方を信用していませんから。支配者とは、自分に対する反旗すら利用して人を支配するものです。だからミクネの事は諦めて、ここを立ち去ってくださいな。この事は忘れて差し上げますから」


 ____立ち去れない。

もともと立ち去る気も無いが、立ち去ってはならないとオーマの勘が告げている。

“こいつに背中を見せるな!”____と。


「・・・何故そんな話をしている?」

「はい?それは貴方にこの場から立ち去ってほしいからに____」

「____嘘だな」

「・・・・・」


 先程まで話をしながら得意気になっていたハツヒナの顔から表情が消えた____。


「クラースの名前を出して、奴の思惑まで喋って良かったのか?そんなの第一貴族でも許されないだろう?」

「・・・・」

「奴の思惑を勝手に喋るのは第一貴族でも許されないはず・・・お前、俺を生かして返す気ないだろう?」

「・・・・」


 先程まで和らいでいた空気が再び冷たくなっていく____。


「俺のことは魔族に殺された事にして、この場でミクネを手懐けて、その実績で自分が俺の代わりに作戦を引き継げばいい・・・そう考えたろ?」

「・・・何故、その様に考えていると?」

「同じ考えだからだ・・・」

「?」

「俺も、お前が魔族に殺されたことにして、ここでお前を殺してしまえばいいって思っていたからな!」

「へぇ・・・・・」

「オーマ・・・」


 冷たくなっていた空気が、今度は燃え盛りそうなほど熱くなっていく___オーマとハツヒナの二人が、戦闘態勢に入った事を示している。


 無表情で冷たかったハツヒナに、挑発的な笑みが表れる。


「では・・・殺し合いますか?」

「望むところだぁあ!!」


 今度こそオーマは躊躇することなく答えた_____。

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