表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
198/358

悪女の狩り(4)

 ジェイルレオをタイムリミットギリギリのところで補足で来たミクネは、躊躇することなく奥の手を使って全力で強襲、一気にジェイルレオを削り切って勝負を決めて見せた。


「ぐ・・・ぐあ・・・ああ」


ミクネのトラップ魔法の風の牢獄に捕らわれて、ジェイルレオは虫の息になっている。


「まったく・・・手間取らせやがって・・・ふぅ」


ジェイルレオの捕獲を完了したことで、ミクネはようやく緊張から解放され、一呼吸入れた____


「____それを待っていましたわ」

「え?」


_____プスッ


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、振り返ると、ミクネの肩口に針が刺さった。

 瞬間、ミクネの視界が歪む。それと共に力も抜けて、崩れ落ちそうになる。

ふら付いて揺れる視界に飛び込んできた女性のシルエットと、先程の声で、犯人が何者か分かったミクネは、同時に何をされたのかも理解した。


(ハツヒナ!?___神経毒か!?)


 ハツヒナに神経毒を撃たれたのだと悟り、何とか潜在魔法で肉体(神経)を強化して、崩れ落ちるのを堪える。


「へぇ・・・よく堪えられましたわね。私が扱える毒の中で最も強力な毒ですのに」

「ハ・・ツ、ヒナァ!!・・・やってくれたなぁ!!」

「あら、嫌ですわ。その言い方では、私が貴方を襲うと思っていたように聞こえますわ」

「あたり・・・前だ!!」


 ミクネはずっと前から、帝国を危険視していた。

だから帝国の誰かに襲われる可能性は考えていたし、その中でもハツヒナの事は特に警戒していた。


(くそ!よりにもよって!)


 准魔王という強敵。アマノニダイの村が襲われるかもという焦りと緊張。これらの要素も混じって、ミクネは防ぎようがないタイミングでハツヒナに襲われた。

 ハツヒナの立場から言えば、ミクネが警戒している事を知っていたので、ミクネが防げないタイミングを待っていたのだが・・・。


「フフッ、この大戦中なら必ずチャンスはあると思っておりましたわ」

「・・・・・」


 ミクネはハツヒナの事を呪い殺せそうな表情で睨む。

 それと同時に頭の中では、ハツヒナがこの場に居る事に疑問が有った。

ハツヒナのそばにはサレンが居たはずだ。

もし怪しい言動が有ればサレンも警戒するはず・・・そう簡単には、ここに来れないはずだが____


「ど・・どうやって来た?」

「“何故来た?”とは聞かないのですね。・・・別に簡単ですわ。あちらでの戦いのどさくさで、やられたフリをして戦場を離れたのですわ」

「・・・・」


 サレンと准魔王が居る戦場で、そんな事が簡単にできるものだろうか___?

ミクネのそんな疑問は顔の出ていたのだろう、ハツヒナはクスッと笑って答えを教えてくれた。


「毒薬で仮死状態になったのですわ。そうすれば探知魔法でもバレませんから。私は致死性の高い毒より、そういった毒の扱いの方が得意ですの。暗殺用なんかの致死性の高い毒なんて、バグスに言えば幾らでも手に入りますから。だから戦闘用というより、拷問用の毒の錬成を鍛えていますの・・・ああ、“調教用”と言った方が良いかしら?」

「____クズが!」


“調教”というのが何を意味しているのかは分からなかったが、ろくでもない事だというのは肌で感じ取れた。


(こんな奴に___!!)


 怒りのボルテージが上がっているミクネは、思う様に体が動かせない状態でありながら、魔法術式を展開して反撃に出ようとした。


「まあ!すごい!その状態でも術式が展開できますのね♪」


驚いた口調とは裏腹に、ハツヒナには余裕があった。


「でも・・よろしいのですか?ミクネ?“あれ”を放っておいて」

「え?・・・あ!」


 言われて、ハッとジェイルレオの存在を思い出す。

ミクネがジェイルレオの方を振り返ってみると、ジェイルレオはミクネのトラップ魔法から解放されて、逃げ出そうとしていた。


「くっ!くそ!!」


 逃してはならないと、咄嗟にミクネは、準備していた魔法をジェイルレオに向けて発動してしまった____それは完全にハツヒナの術中だった。


_____トストストス


「がっ!?」


 再びハツヒナに針を撃たれる。

今度は堪え切れず、ぐらりと視界をひっくり返して地面に倒れしまった。

 針を撃ったハツヒナは、慎重にミクネの様子を観察しながら、近寄って来た。


「ふむ・・・もう動けない様ですわね・・・ここまでしなくてはならないとは・・・フフッ、本当に調教のし甲斐が有りますわ♪」


 ミクネの様子を見て、完全にミクネを捕らえたと確信したのだろう、これからミクネに行う事を想像して恍惚とした表情を見せ始める。

そのハツヒナの表情は、いつもミクネが嫌悪感を抱く表情で、人とは思えぬ表情、人を見ているとは思えぬ表情・・・・“人間ではない何かが、自分をエルフとして見ていない表情”に感じるものだった。


「じっくり・・・ゆっくり・・・丹念に調教して差し上げますわ、ミクネ。フフッ、長い夜にしましょうね♪」

「・・・・・クズがぁ!!」


ハツヒナの全てが悍ましくて、腐さずにはいられなかった。


(ちくしょう!!・・・オ、オーマ!!)


 ミクネは心の中で、オーマの名を叫んだ_____。






 ハツヒナの乱入で、ミクネのトラップ魔法から脱出できたジェイルレオは、一目散に逃げだしていた。

魔道具は尽きているため、残りカスしかない自身の魔力を振り絞り何とか走っていた。

それでも並の人間と大して変わらぬ速度のため、ミクネやハツヒナが追って来ていたら簡単に追い付かれていただろう。

だが二人共追ってくる様子は無い。


「な・・何だったんじゃ、あれは・・・だが、もう、何でもいいわい」


 アマノニダイと帝国との間に確執でもできたのだろうか?

一瞬、そんな事を考えたが、直ぐにやめる。


(今更じゃ・・・)


 今のジェイルレオにとっては、どうでも良い事だった。

ジェイルレオは、この戦いで完全に心が折れて、帝国やアマノニダイに対して敵対心が無くなっていた____。




 「ハァ・・・ハァ・・・こ、ここまで来れば大丈夫かの・・・ふぅ」


ミクネ達と十分に距離を取れたと思うところでペースを落とし、疲弊した体を休め始める。


「どうしたものかのぉ・・・」


息を整え、魔力の回復を始めながら、フラフラと重い足を引きずりつつ、この後について考え始める。

 ただ敗走しただけならともかく、心が折れたのならば、ジェイルレオに准魔王を名乗る資格は無いだろう。

さすがにジェイルレオも、そこまで面の皮を厚くはできないし、何よりジェイルレオは帝国とは金輪際関わりたくないと思っている。

そのため、准魔王の肩書など、こうなってはジェイルレオに無用な責任を負わされるだけのものでしかない。

最早スカーマリスに居る意味すらないだろう・・・。


「・・・タルトゥニドゥにでも行くかのぉ・・・あそこならスカーマリスよりはマシじゃろうし・・・」

「あら♪そんな所より、もっと良い場所へ連れて行ってあげるわよ♪」

「____ッ!?誰じゃ!?」


 誰かが居る気配も無いのに突然声がして、ジェイルレオは鞭で打たれたように反応し身構えた。


「アッハハハハハハ!無理しないで♪ジェイルレオ。もう力なんか残っていないでしょ?」

「ぬ!?」


 緊迫した空気とは裏腹な明るい声が届く。

ジェイルレオがその声のした方を怪訝な表情で見ていると、スゥッと浮かび上がる様に一人の淫魔が現れた。


「!・・・・リ、リデルか?」


 目の前に現れたのは、約100年前に魔王軍の幹部として肩を並べた同僚だった。

敵ではなかったことに少し安堵したジェイルレオだが、頭の中では引き続きクエスチョンマークが並んでいた。


「・・・な、何故お主が?どうして?」

「ええ、ちょっとシーヴァイスに頼んでね」

「シーヴァイス?奴とお主は繋がっておったのか?」

「まあね。何故かと問われれば、魔王軍の為、次の魔王様の為____って事になるかしら?」

「?」


 何と言うか、こちらに理解させる気が無い口調に感じる____。

リデルの話はいまいち要領がつかめない内容で、結局、頭の中の疑問は晴れなかった。


(まあ・・詳しい事情はシーヴァイスに聞けば分かるじゃろう)


そう思い、シーヴァイスと合流するため、道案内を頼もうとしたところで、リデルが先に口を開いた。


「魔王様のためにジェイルレオ、貴方を殺すわ」

「・・・・・はあ!?」


 リデルの思わぬ発言に、ジェイルレオの思考は止まるのだった____。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ