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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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悪女の狩り(3)

 ハツヒナに襲われたと聞いて、オーマが驚きのあまり固まっていると、ウェイフィーが言葉を続けた。


「不意打で風神と雷神が・・麻痺・・・打たれ・・・皆、動けない・・・私には毒の耐性が・・・」


 RANK2の樹属性を持つウェイフィーは、他の兵士達より毒に対して耐性が高い。

そのおかげで、動けないながらも声を出すことは出来ているのだろう。


「私達を襲ったのは・・多分・・・復讐・・・団長には・・・手を出せないから・・・」

「ッ!?だからウェイフィー達を!?」


 言われてオーマは、ベーベル平原の戦い後からのハツヒナの言動を振り返る。

自分に対して殺気を放った事、ミクネにアプローチしていたのに止めた事、この作戦でウェイフィー達工兵隊を同行させたいと言った事だ。


「ぜ・・全部・・・」


 全部この為だったのだろう。

オーマを憎み、貶めたいが、クラースから作戦を任せられているオーマに手を出す訳にはいかない。

だから、その仲間であるウェイフィー達を狙ったという訳だ。

オーマの中で、過去のハツヒナの不可解な言動の謎が全て氷解した_____。


「あ、あの野郎・・・!!」


 事情を聴いて、頭の中で整理が付いてくると、オーマは腹の底でマグマを煮えたぎらせる。

オーマが今にも爆発しそうになっていると、ウェイフィーが落ち着かせようと、必死に声を出す。


「ダメ、団ちょ・・・罠・・」

「え?わ、罠ってどういう・・・」

「本当の狙いはミクネ・・・」

「ッ!?」

「だから・・私達、生きている・・・団長を・・ミクネから引き離せ・・・」

「なん!?」


 全ては、この機会に乗じてオーマに復讐し、ミクネをものにするために動いていたという訳だった。


(ヤスナガ達もグルか?・・・いや。それならもっと良いタイミングがあったし、それにヤスナガの言動には違和感が無かった・・・奴が俺より腹芸が達者な可能性は否定できないが・・・それでもハツヒナの単独行動じゃ・・・いや、でもハツヒナがここに来ているという事は、サヤマ湖でツクヨミを置いてきているって事だし・・・って!サレンは!?サレンは無事か!?)


 怒りで我を忘れそうになっていたオーマだったが、疑問を出しているうちに冷静さを取り戻す。

そして、サレンの事も思い出し、思い悩む。“これからどうする?”と。

 ハツヒナの追跡、ミクネとサレンの安否確認、ウェイフィー達の保護、ヤスナガ達の追求、やるべき事がいくつも出て来て再びオーマを困らせる。

どうすべきかと問う様にオーマがウェイフィーの顔を覗くと、ウェイフィーはオーマの疑問を察していたかの様に言葉を出した。


「ミクネのところへ行って・・団長」

「な!?だ、だが、ウェイフィー」

「でも、団長が出来る事・・・他にない」

「う・・・」


 それはそうである_____。

サレンの安否を確認するには通信魔法が必要だが、オーマは使えず、シマズも動けない。

ならミクネと合流するしかない。

ウェイフィー達の保護にしても、オーマには解毒が出来ないし、一人で50人を運ぶのは不可能だ。

現実的に、ウェイフィーが言う様に、今のオーマに出来る事はミクネの加勢に行くことだけし、何よりそれが最優先事項だろう。

だが、それでも仲間の悲惨な状況を目の前にして、そうだと割り切れるオーマではなかった。

 そんなオーマにウェイフィーは言葉を続ける。


「あんな奴にミクネを好きにされたくない・・・私・・・ミクネを仲間だと思っているから・・・」

「ウェイフィー・・・」


 ミクネと同じ言葉と理由で助けに行けと言われて、オーマは胸が締め付けられる思いだった。

 ろうらく作戦を仕掛けておきながら、ミクネを仲間と呼ぶのは偽善だろうが、それでもウェイフィーの言葉にウソは無い。

もし仮に、オーマ達がろうらく作戦をしていないで、ミクネと出会えていたとしたら、普通に仲間になれたと、お互いに第一印象は最悪だった時とは違い、今ではそう思える。


 オーマの中で覚悟が出来るのに、そう時間は掛からなかった。


「分かった。俺はハツヒナを追ってミクネと合流する。必ず戻ってくるから」

「行ってら・・・私達は・・大丈夫だから」

「ああ!行ってくる!」


 こんな森の中で、身動き一つ取れなくなっていて大丈夫なワケは無いのだが、オーマはウェイフィーの言葉の意味ではなく、言葉を言った意味を理解し、背中を押される。


(待ってろよ!ミクネ!)


 そしてミクネの下へと駆け出した_____。






 ジェイルレオを追跡するミクネは焦りを覚え始めていた。

 オーマと二手に分かれて暫く、いよいよ空が赤く染まり、森の中は薄暗くなる。

完全に陽が落ちて辺りが暗くなれば、例え風魔法で臭いを追っても追跡は難しくなり、もしサレン達が敗北していたらサヤマ湖で仲間と合流されてしまう。

そうなれば捕獲は勿論、撃破する事も難しくなる。タイムリミットは近い____。

 オーマやウェイフィー達の事を思うと、後ろ髪を引かれる思いも有ったが、今現在のこの状況では戻れるわけもなくひた走る。


「_____見つけた!」


その甲斐あってミクネは、陽が半分沈みかけたタイムリミットギリギリのところで、ジェイルレオの姿を捉える事ができた。


「行くぞ!」


 ジェイルレオに追いついたミクネは、即座に奥の手を使う事を決断し、懐から魔道具である数珠を取り出した。

その効果はシンプルかつ強力で、魔法術式の展開速度を一度だけ倍にできるという代物で、強力な魔法や多彩な魔法を持つ者にとって、大変有意義なアマノニダイに伝わる秘宝だ。


「ぬっ!?」


ミクネが強力な魔法準備に入ると、ジェイルレオは直ぐに気が付いた。

だが遅い___。ミクネはその魔法具を用いて魔法術式を展開し、一気に術式を完成させて魔法を発動した。


「グレイトフル・ハリケーン!」


____ズゴォオオオオオオオ!!


「っ!?」


 上級魔法のグレイトフル・ハリケーンを範囲拡大して、ミクネは放つ。

まだ両者との間に距離は有ったが、絶対に逃がさないという意思を込めたその魔法は、余裕でジェイルレオを効果範囲に収めている。


「レ、レジネスハート起動!!」


不意打にも近いミクネの速攻に、魔法術式を展開している時間を貰えなかったジェイルレオは、否応なしにレジネスハートの使用を迫られる。


____ズドォオオオオオオオン!!


 お互いの魔法がぶつかると、激しい爆発音と共に暴風が吹き荒れる。


「ぬおっ!?」


 暴風はジェイルレオの巨体さえ簡単に持ち上げ、数メートル後方まで吹き飛ばした。

吹き飛ばされてゴロゴロと転がりながらもジェイルレオは、次に備えて魔法術式を展開する_____だが、これも遅かった。


____タンッ!


「!?」


 四つん這いで地面を見ているジェイルレオの視界に、細い足が現れる。

顔を上げれば、距離を縮めいたミクネが既に攻撃モーションに入っていた。


「なんじゃと!?」


 ジェイルレオは驚き慌てつつも、魔法での防御は間に合わないと判断し、魔道具を使用してガードする。

ミクネはその防御魔法の上から躊躇すること無く、拳を振るった。


「はぁああああ!!」


____ズガガガガガガガン!!


「ぬ!?ぬぅうううう!?」


 小さい体と細い手足から繰り出されるミクネの連撃は、4メートル近い巨体のジェイルレオを地中に沈めそうな勢いでジェイルレオの体を防御魔法ごと圧し潰していく。

 そして、そうしながらもミクネは、次の魔法の準備を始めている。

これに合わせてジェイルレオも防御しながら魔法術式を展開するが、ミクネが展開している術式の規模と魔力を見て、自分の魔法だけでは防ぎ切れないと思い知らされて、ここでも魔道具の使用を余儀なくされた。


(まずい!まずいぞい!)


 もう魔力も魔道具も底を尽きかけているというのに、容赦なく魔力と魔道具の消費を強いられていく展開に、ジェイルレオは焦り、恐怖を覚える。

だが何とかしようにも、ミクネの猛攻の前に、防御で手が塞がってしまう。

 何より打つ手が無い。

この状況を打破できる唯一のカードはレジネスハートのみだったが、先の一撃を防ぐ際に使ってしまい、魔力を補充しなければ使用できない状態で、この戦いの中での使用は不可能だ。


「振動砲!!」

「ッ!?」


 ミクネはここで自身の最も得意とする魔法を発動する。

魔法を含むあらゆる物を破壊するミクネの超振動は、ジェイルレオに抵抗する事さえ許さず、ジェイルレオの魔法と魔道具を粉砕した。

これにより、ジェイルレオの魔力と魔道具の底が遂に尽きる。


「決める!」


ジェイルレオの魔力と魔道具の底が尽きたのを確信したミクネは、再び潜在魔法で肉体を強化して連撃を加える。


「がっ!?・・ぐ・・・がはぁ!!がっ_____」


完全に無防備になったジェイルレオは全く抵抗できず、ミクネの暴風連撃を浴びてあっという間に体力も削られる。


「エアロ・プリズン!」

「_____」


最後に風のトラップ魔法を発動し、ミクネはジェイルレオの捕獲に成功した____。

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