悪女の狩り(2)
オーマは上級魔族2体相手に、老獪な戦い方でミクネの魔法術式の時間を稼ぎ、2体を同時に仕留められるようにお膳立てをして、後はミクネが魔法を撃つだけで済むようにしてくれた。
「ミクネ!今だ!!」
「さすがだな!行くぞ!」
お互いがすぐに役割分担し、魔法が撃てるタイミングと、敵にスキが出来るタイミングが上手く合わさる。
この二人の共同作業に心地良ささえ感じながら、ミクネは魔法を発動しようとした。
だがその時、召喚していた風神と雷神との繋がりが途絶え、事態は急変するのだった____。
「ッ!?何だと!?」
「どうした、ミクネ!?」
「え?あ!しまっ___!?」
ミクネは風神と雷神の異変に動揺して、グレーターデーモンを仕留めるタイミングを逃す。
慌てて魔法を発動するも、一体は仕留めたが一体は軽傷で回避されてしまった。
「あっ!ご、ごめ____」
「____アクロス・サンダー!」
「____ガッ!?」
だが、オーマが中級の電撃魔法を速攻で叩き込みフォローを入れる。
ミクネの攻撃を躱すのに手一杯だったグレーターデーモンは、これを回避する余裕が無く被弾する。
直撃させれば相手を感電させ、動きを止められる雷属性は中級の速攻でも効果は抜群で、グレーターデーモンは感電して動けなくなり地面に落ちた。
「ミクネ!」
「ああ!はぁああああ!!」
ミクネは直ぐにグレーターデーモンとの距離を縮め、追跡の為に強化していた潜在魔法を更にもう一段強化して、ガンッ!!と飛び蹴りでグレーターデーモンの顎をかち上げて首の骨を砕いた_____。
グレーターデーモンの死亡を確認して戦闘が終了すると、オーマは直ぐにミクネの下へと駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?ミクネ!?」
「オーマ・・・ああ、すまない。助かった」
「いいって別に。ベーベル平原での借りが返せて良かった。それより____」
「あ、ああ。実は、風神と雷神との繋がりが途絶えたんだ」
「なっ!?・・それって」
「死亡した」
「嘘だろ・・・」
オーマは驚きで言葉を失ったと同時に、ミクネが動揺した事に納得がいった。
風神と雷神、どちらも人類なら最高クラスになる魔導士の力を持っており、魔法技術だけで言えばオーマ以上の力を持っている。
簡単に倒せる相手ではないし、何より魔族側にはグレイハウンドしかいない筈だ。
仮にジェイルレオが召喚したグレイハウンドの群れ全120匹に襲われても返り討ちに出来るだろう。
今この状況には、風神と雷神が倒されるような要因は無いはずなのだが・・・・。
「近くにアマノニダイの巫女か誰かが居て、魔物と間違えたとか?」
「巫女は、厄払いの為にアマノニダイの村々を回っている事も有るから、この近くに私以外の巫女が居る可能性は有る。でも、アマノニダイの者が風神と雷神に手を出すことは無い。巫女は勿論、アマノニダイ軍人達の間でも、私の風神と雷神は知られている」
「そうか、そうだよな・・・。ならミクネ、ウェイフィーやヤスナガ達と連絡を取ってみてくれ」
「ああ、分かった」
この状況を理解する事もそうだが、何より本当に風神と雷神が殺られたのならウェイフィー達の身も危ない。
直ぐにウェイフィー達の安否確認のため、ミクネは通信魔法を飛ばした____。
「____ダメだ。シマズは応答しない」
ミクネが通信魔法を飛ばすと、ヤスナガ達ツクヨミ偵察隊とは繋がって、現在はヘルハウンドを追撃しつつ近隣の村々の様子も見て回っていて、特に異変は無いとのことだった。
だが、シマズからは応答は無く、ウェイフィー達サンダーラッツ工兵隊の安否は分からなかった。
「ウェイフィー達に何かあったのかも・・・」
「くそっ!そんなバカな!この状況で、そんな事・・・」
だが実際、風神と雷神が死亡している以上、ウェイフィー達も襲われた可能性を否定できない。
仲間達の事を思うと、オーマは冷静でいられなかった。
そんな心配と苛立ちを見せるオーマに、ミクネが覚悟したように口を開いた。
「・・・やはり戻ってみるしかない。オーマ、ウェイフィー達のところに戻ってくれ」
「だ、だが、一人であいつを相手にするのは・・・」
「私なら大丈夫だ。この森も庭みたいなものだし、魔力が尽きかけているジジイには負けない」
「・・・・・」
確かに、追い付けさえすれば、ジェイルレオ相手にミクネが勝利する可能性は高い。
何よりオーマとミクネでは、ジェイルレオ相手の追跡も戦闘もミクネの方が向いている。
というよりオーマ一人では、ジェイルレオ相手に追跡するのも戦闘で勝利するのも難しい。
どちらかがウェイフィー達の下に戻るなら、オーマしかいない訳だが、オーマはミクネを一人にする事に難色を示していた。
そんな様子のオーマに、ミクネは穏やかな表情を見せながら言った。
「仲間が心配なんだろ?私もそうだ」
「え?」
「ウェイフィー達のこと、仲間だと思っているんだ、私は。だから頼む。私の為にも行ってくれ」
「ミクネ・・・」
自身もジェイルレオに村が襲われないか気が気じゃないだろうに、ミクネは穏やかな表情でそう言って、気丈に振る舞ってくれた。
オーマはそのミクネの気遣いだけでなく、ウェイフィー達の事を“仲間”と呼んで心配してくれた事に嬉しさがこみ上げてきて、任務を忘れてミクネに感謝し、その気持ちを無下にしてはいけないと思った。
「____分かった。ならここで二手に分かれよう。俺はウェイフィー達と合流する。ジェイルレオはミクネに任せる・・・気を付けろよ、ミクネ」
「ああ、あのジジイのことは任せろ。オーマこそ気を付けろよ。風神と雷神を倒した奴なら、かなりの手練れだ」
「ああ、十分に気を付けるよ」
そう言って二人はそこで分かれた____。
オーマは、最後にシマズから報告があった地点を目指して、元来た道を戻る。
「待ってろよ!ウェイフィー!シマズ!」
自身の潜在魔法を限界まで上げて、オーマは疾走する。
当然魔力が足りなくなるが、魔力の回復薬を惜しむことなく使用して、突き進む。
そうする事で、オーマはジェイルレオを追跡していた時の半分の時間で元来た道を戻り、最後にシマズが言っていた地点に辿り着いた。
そこからオーマは休むことなく、ウェイフィー達の捜索を開始する。
ヤスナガから聞いたウェイフィー達が追撃に向かった地点、ミクネから聞いた風神と雷神との繋がりが途絶えた地点、それらを参考にしながらオーマはウェイフィー達を探す____。
「くそ、どうして・・・」
探索を始めて直ぐに、オーマは嫌な予感を覚える______“静かすぎる”、と。
ウェイフィー達工兵隊50人とグレイハウンドが戦っていれば、かなり離れた場所からでも分かるはずである。
だというのに、辺りからは何も聞こえて来ない。
(こちらには来てない?・・いや、そんなはずはない)
周りには小動物の気配すら無い_____。
グレイハウンドかウェイフィー達が来たから、この場を離れたに違いないだろう。
(だから絶対にこの近くに_____!?)
戦闘の痕跡くらいは在るだろうと思ったところで、オーマはグレイハウンドの死体を発見した。
直ぐに近づいて、死体を確認する。
(傷口・・・何か鋭利な物で突かれた跡がある。砂が付いている・・・間違いない)
土属性の攻撃魔法によるものだろう。ならば、ウェイフィー達工兵隊の仕業に違いない。
来た方向は間違っていないと確信したオーマは、更に慎重に探索を続ける。
オーマは潜在魔法で神経までは強化できない。
けれども、大事な仲間を探すため、オーマはどんな些細な音や変化も逃すまいと集中していた。
その結果、その声を聞き取る事ができたのだった。
「・・ちょ・・・」
「___ッ!?ウェイフィー!?」
幻聴かと思えるほどのか細い声だったが、オーマは聞き間違いではないと確信できた。
ウェイフィーの声だと分かり、声のした方向に向かって駆け出した。
「ウェイフィー!?」
「だ・・だん・・・ちょ」
辿り着いた先で、オーマは倒れているウェイフィーと数人の工兵隊員を見付け出した。
オーマはウェイフィーが死んでなかったことに安堵しながら、駆け寄った。
「ウェイフィー!大丈夫か!?何があった!?」
「だ・・・ちょ・・・ごめ・・」
「謝らなくていい!それより他のメンバーは!?グレイハウンドは!?アマノニダイの村は!?」
「ごめん・・・団・・長・・・いきなり襲われて・・・村は大丈夫。私達と一緒に襲われて・・死んだ」
「あ!?どういう事だ!?ウェイフィーを襲った奴が、グレイハウンドも倒したって事か?ウェイフィーを襲ったのは魔族じゃないのか!?」
「は・・・ハツヒナ」
「____なっ!?」
犯人の名を聞いて、オーマは驚愕し、頭が混乱し過ぎて固まってしまうのだった____。