表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
194/358

准魔王との戦い(26)

 「デーモン・ドゥエル・イン・オール・アトロシティ(全ての暴虐に魔王は宿る)」


 バルドールの最強魔法はシンプルで、自身の持つ大刀を最大限まで強化する補助魔法だ。

最硬に鋭利な刃になり、軽量化もされて羽の様な軽さになる。

おまけに防護魔法を突破する魔法耐性も備える。

これにより、バルドールの大刀は、エルフの秘術が込められた防具さえ切り裂く武器となり、バルドールの膂力と合わさって、ドラゴンでさえ一撃で葬る事ができるようになる。

人間に使うには、明らかにオーバースペックな魔法だ。


____ズドンッ!!


 バルドールの金属性魔法で強化された大刀は、ジェネリーの潜在魔法で強化されている肉体をも切り裂き、刃が体に入り込むと、ジェネリーの左肩から下腹部まで下りてきた。


「があ!!・・あ、ああ・・・・・」


 ジェネリーは下腹部から上が二手に分かれ、右半身と左半身をビラビラさせながら、大きくよろめいた後、ドシャッ!と地面に沈んだ____。




 「ハ、ハハ・・・ハハハ・・・ハーハッハッハーー!!」


 地面に沈んだジェネリーを見て、バルドールは歓喜の雄叫びを上げる。

その感情には勝利できた喜びと、もう強敵と戦わなくてよいという安堵があった。

あっさり決着が付いたように見えて、その実、バルドールの中ではギリギリの戦いだった。

 自身の奥の手のアシッド・ペスト・ブレスで時間を稼いでからのデーモン・ドゥエル・イン・オール・アトロシティで武器を強化しての自身最強の一撃。

もし、これが通用し無かったら、バルドールに勝ち目はなかった。

“もし、自身最強の一撃でも絶命させられなかったら___?”

“もし、こちらが魔法を発動する前に、ジェネリーが戦闘に復帰していたら___?”

ありえる相手だけに、勝った今でも想像すると震えが起きる。


「認めてやるぜ・・・ちっぽけな人間共の中にあって、勇者だけは特別だった・・・って・・よ?」


人間とは言え、自分を追い込んだ相手ならばと敬意を払い、弔いの言葉を述べようとしてバルドールは止まる。


 ジェネリーの体の異変に気が付いたのだ。


「あ?・・・え?何故?」


心底不思議だったのか、バルドールは今までの強い口調はどこにも無く、間の抜けた声を出してしまっていた。


 魔力が上がっている____。


 体はピクリとも動いていないのに、ジェネリーの体から魔力が溢れて来ていた。

おかしい・・・逆なら分かる。死んだ直後なら痙攣して体が多少動くことも有るだろう。

だが、絶命して魔力が高まることなど有り得ない。

人間、エルフ、魔族、全ての生き物にとって不可思議な出来事だ。


「う・・うわ・・・うわああ・・・・」


高まる魔力は遂にバルドールの魔力をも上回り、そこから更に高まって行く。

死んでいるはずなのに自分以上の魔力を絞り出すジェネリーに、バルドールは悲鳴の様な狼狽え声が無意識に出ていた。


_____ズゴォオオオオオオオ!!


「「ッ!?」」


 突如としてジェネリーの体から火柱が上がる。

バルドールたち最上級魔族の最上級魔法や、帝国軍の精鋭による集団魔法ですら比較にならないほどの火力。

 今度はバルドールだけでなく、その場にいるウザネ達ブルードラゴンナイツとバルドールの近衛である上級魔族達も気が付いて、驚愕の表情を浮かべていた。


「な、何だ!?一体全体なんだってんだ!!」


 ついに我慢できなくなって、バルドールは叫び始める。

だが、そのバルドールの叫びに応える者は一人もいない・・・答えられるわけが無かった。

 そして炎が収まると、その答えの代わりに、ジェネリーが全快した姿で立っていた。


「え?死んだんじゃ・・・・生きていた?・・・え?どういう・・・」

「ふう・・・やはり私は未熟だな・・・どうしても戦い方が不格好になってしまう。レインやサレンの様には行かないなぁ・・・」


 目の前の現実を受け止められていないバルドールを他所に、ジェネリーは一人、呑気に反省を呟いていた。


「よし!戦るか!」

「・・・あ?」

「ん?どうした?続きを始めよう。バルドール」

「続き?つ、続きって・・・死んだんじゃねーのか?」

「ああ。死んだぞ。そして蘇った。これが私の能力だ。分かったか?分かったなら続きだ」

「よ、蘇った・・だと?」


 ジェネリーは未だに理解ができていないバルドールに、自分の能力の答えをサラリと答えた。

だが、答えを聞いてもバルドールには理解できていなかった。

パニックのままで一向に戦う様子が無いバルドールに、ジェネリーは痺れを切らしてめんどくさそうに答えた。


「だからぁ!私は死なないのだ!再生能力と蘇生能力を持っている!不死身なのだ!分かったか!?」

「そ、蘇生能力?・・・不死身?」

「そうだ!だから生き返った。さあ、続きだ」

「______」


 バルドールは再び声を失った。

今度は理解できない事に対してではなく、理解できたことに対してだ。


(ふ、不死身だとぉ!?何なんだそりゃ!!そんなの有りか!?魔王様ですら不滅の存在では無いんだぞ!?そんな力在るわけ___!?)


 バルドールの頭の中に“勇者”の単語が再度過る。

歴代の魔王たちでも、不死身の存在になった魔王はいない。

だが、魔王すら滅ぼせる存在なら或いは_____と。


「・・・・・かよ・・・」

「ん?」

「・・・めて・・・かよ・・・」

「む!?」


 ブツブツと何を言っているかは聞き取れない。

だが、少しずつ怒気と魔力が高まっているのをジェネリーは察知し、素早く構え、攻撃魔法の術式を展開した。


「認めてたまるかよぉーーーーー!!!」


 バルドールは三度、爆ぜる様に駆け出した。

不死身の力____魔族からしても規格外のジェネリーの能力を、バルドールは否定する。

魔王ですら持ちえない力を人間が持つなど、バルドールの種としてのプライドが許せなかったのだ。


「ガァアアアアア!!」

「フッ!」


_____ズガガガガガガガギィイン!!


 バルドールが狂った巨獣の如く猛攻を仕掛ける。

それに対してジェネリーは、落ち着いて冷静にその暴風の様な連撃全てを受けきって見せる。

先程とは打って変わって攻撃が当たらなくなって、バルドールは焦り始める。


「な、何故だ!?何故当たらねぇ!?」

「え?・・・ああ、そうか・・・」


 バルドールの疑問に対して、ジェネリーは一瞬だけ困惑するも、直ぐに状況(バルドールの状態)を理解した。

バルドールの攻撃が当たらなくなったのは、バルドール自身が雑な攻撃をしているからだ。

先程ジェネリーを圧倒し驚かせたバルドールの洗練された剣技は、今は見る影もない。

バルドールは自分でそれに気が付いていなかった。

 正確に言えば、バルドールは気付く事を拒否しているのだ。

気付けば、認めてしまう事になってしまう。

“准魔王である自分が目の前の人間に恐怖している”____と。

それを認めたくなくて、目を背けるために“種としてのプライド”を拠り所にして、無理矢理自分を奮い立たせていただけだった。

なんてことは無い、バルドールは恐怖で錯乱しているのだ。


(____これまでだな)


 これに気が付いたジェネリーはこの勝負の行く末を悟り、攻撃魔法術式を止めて、防護魔法術式に切り替える。


「インフェルノ・アーマー!」

「くらえ!!」


____ズゴォオオオオオオオ!!


 ジェネリーが、防護魔法を発動した後、直ぐそこにバルドールのアシッド・ペスト・ブレスが襲い掛かった。

バルドールの吐いた黒いブレスは、ジェネリーの業火の鎧によって蒸発する。

まるで、バルドールの次の攻撃が分かっていたかの様な動きだった。


「な!?何だ!?貴様は未来を見通すこともできるのか!?」

「あーあ・・・」


 単純に我を忘れて攻撃が読みやすくなっていただけなのだが、今のバルドールはそれに気付かず、“不死身の力を持っているなら、未来を見通すこともできるのでは?”などと考えてしまい、こんな発言をしてしまう。

そんな事はジェネリーにはできないし、厳密にいえば不死身なのも魔力が続く間だけ(ただしその魔力は超膨大)なのだが、今のバルドールには、その事に気付く事も、探ることもできなくなっていた。

 この相手はもう無力化するだけだ___。ジェネリーは心の中でそう思った。


「覚悟しろ!バルドール!!」

「ヒィッ!?・・お、お前ら!何している!?俺様を助けろぉ!!」


「「ぎょ、御意!!」」


命令を受けた近衛の上級魔族達は、恐怖で錯乱しているバルドールの姿に動揺しながらも援護に入る。


「ウザネ殿!」

「分かっている!全部隊!攻撃開始!!」


「「うおおおおおおお!!」」


上級魔族の動きに反応して、ウザネもすぐにブルードラゴンナイツに指示を出す。

そして、両軍入り乱れる乱戦へともつれ込む____。


 ブルードラゴンナイツ50人対上級魔族20人。

個の強さを考えれば、魔族側が有利だろう。

だが、恐怖に支配された指揮官とそれに動揺する兵士達に、その有利が当てはまるわけはなく、この両軍の衝突は帝国側が一方的な展開で戦闘を運んで勝利した。


 そして、そこで総大将であるバルドールの捕獲に成功する。


 総大将の捕縛____。

力による支配を行う魔族にとって、総大将は自分達の拠り所でもある。

その総大将が生け捕りにされたとあって、魔族側の動揺はすさまじいものだった。

 更にそれに続いて、もう一つの拠り所であるメテューノも生け捕りにされたと分かると、残った魔族達は完全に戦意を失い、軍の統制もできなくなり崩壊する・・・。

 ジョウショウ率いるナタリア城攻略組による攻城作戦。

それは、僅か二日で敵総大将二人を捕縛し、城を制圧するという結果で終わるのだった____。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ