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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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准魔王との戦い(25)

 バルドールは爆発的な速度で、ジェネリーとの距離を一気に詰める。

ウザネと戦った時とは違い、潜在魔法を使用しているので、バルドールの速度は先程とは段違いだった。


「ッ!?」


4メートルという身長に、重さは数トンという巨体でありながら、その速度は音速を超えており、ジェネリーを驚愕させた。


「____フン!!」


 バルドールはそこから横薙ぎの一閃を放つ。

さっき迄の力任せの暴力ではなく、今度の斬撃は無駄がなく洗練されている。高度な剣術だった。

 バルドールは自身が超一流の剣士である事を証明する。

それと同時に、バルドールが剣で“技”を使う時は、自分と対等以上の相手と戦う時を決めているので、ジェネリーの強さも魔族の中でも超一流だという証明でもあった。


「はあ!!」


____ギィン!!


 バルドールに強敵と認められたジェネリーは、それに応えるかの様にバルドールの速度に反応し、バルドールの剣技を受けてみせる。

これはスピードとパワーが互角である証明なのだが、バルドールは他の事にも気が付いていた。


(反応速度も人間____いや、魔族の比じゃねぇ!間違いなく、こいつの潜在魔法は神経まで強化できる!)


 ジェネリーの力の一端を解明したバルドールは、そのままジェネリーの戦力を探るため追撃に出る。


「おらぁあああ!!」


____ガギギギギッギギン!!


先程までの暴力的な攻撃から一転、技を使いだしたバルドールは、流れる様な動きで攻撃をつなげる。


「____ッ!こいつ!見かけによらず!」


 自分の倍以上の大きさでありながら、小回りの利いた連撃を繰り出してくるバルドールに、ジェネリーは再び驚きつつも、なんとかその全てに対応する。

そして、その連続攻撃が終わるスキをついて、鋭い一撃を見舞った。


「おう!!」


____シュリン!


 ジェネリーの一撃がバルドールに当たる瞬間、金属が擦れる音が鳴った。


「受け流しだと!?」


 音の正体は、ジェネリーの一撃をバルドールが大刀で受け流した音だった。

刀も肉体も自身の倍以上あるバルドールに綺麗に受け流されて、ジェネリーは三度驚き、動揺しただけでなく大きくのけぞってスキを作ってしまった。

剣技の速度と膂力は互角でも、技術はバルドールの方が数段上だった。


「おらぁ!!」


 この絶好の機会を真剣になったバルドールが逃がすことは無い。

バルドールは決して油断する事なく確実にジェネリーに痛打を与えるため、大振りにならない様にコンパクトで鋭い突きの一撃を放つ。

その鋭い一撃は、閃光の様な速さでありながら正確で、ジェネリーの心臓を完璧に捉えていた。


「ぬぅ!」


 だがジェネリーも負けてはおらず、潜在魔法で強化した肉体で超反応を見せ、回避行動をとる。

ジェネリーは急所を外すことに成功し、腕にダメージこそ負うものの、致命傷を避けることに成功した。


「チッ!大した奴だ」


バルドールはやや苛立つ口調だったが、本物の勇者と認めた相手がこの程度で致命傷になるとは思っていなかったのか、そこに驚きはなく、頭の中は冷静だった。



 だがバルドールはこの後、ジェネリーに驚愕し冷静さを奪われることになる____。



 ジェネリーはダメージ受けながらも、怯むことなく魔法術式を展開して反撃に出た。


「はぁああああ!!」

「ぬう!?」


 ジェネリーは魔法を発動し、その剣に炎を宿らせる。

その火力は、速攻の攻撃魔法でありながら並の魔導士の上級魔法に値するものだった。


「ハッ!」


 バルドールはそれに対して気にすることなく強く踏み込んで大刀を振るった。


 リザードマンの最上位種であるバルドールはリザードマンと違い、その鱗自体に魔力が宿っているため、魔法防御力が高い。シーヴァイスと同じである。

更に、土属性と水属性に対して耐性の高い肉体の上、炎属性とそこから派生した金属性の魔法も扱えるため、これらの属性に対しても高い耐性を持っている。

鱗の物理防御力と魔法防御力、そして肉体の属性の耐性の高さのおかげで素の防御力が高いバルドールは、防護魔法を使わずともダメージを負う事はそうそう無い。

ジョウショウが使役している叢原火の様な幻獣クラスの火力でない限り、バルドールの肉体が火傷を負うことは無いだろう。


____ガキィイイン!!


「___う!?」

「ハハッ!」


 刃が合わさると、ジェネリーが苦悶の表情を見せた。

攻撃を受けた不十分な態勢から片手で無理矢理に反撃したジェネリー攻撃より、連続攻撃の勢いをそのまま活かしたバルドールの一撃の方が、威力が勝っていたのだ。

ジェネリーもそれが分かっていたから魔法で補おうとしたわけだったが、バルドールには通用しなかった。


 これにより、バルドールは勢い付く。


(このまま押し切ってやる!!)


 先程まで力比べは互角だったが、腕にダメージを負って片手になっている今のジェネリー相手なら押し勝てると、バルドールは大刀の柄を握る手に力を込めて、自重を乗せて大刀を押し込もうとした。だが____


「あ?・・・・・ああ!?」


 グググッと押し込めていた刀がピタリと止まり、ロックされたように動かなくなった。

 そしてバルドールは驚愕した。

ジェネリーに刀を押し込めなくなった事に対して驚いたのではない。その理由は直ぐに分かった。

理由は、ジェネリーが片手ではなく両手で剣を握って踏ん張っていたからだ。

バルドールが驚いたのは、両手を使っている事ではなく、両手が使えている理由に対してだった。


(か、回復してやがる!!)


先程バルドールから受けた突きで、並の者ではもう二度と使い物にならないほどの重傷を負っていたにも拘らず、ジェネリーの腕は既に回復していた。


(この一瞬で!?潜在魔法の再生力でか!?バカな!?)


 バルドールは、ジェネリーを人の領域を超えた存在だと認識していた。だから肉体再生ができるレベルの潜在魔法の力を持っていること自体には驚いていなかった。

驚いたのはその回復の速さで、突きで腕を抉ってから、数秒しか経っていないのに、ジェネリーの腕は全快しているのだ。


「___の野郎!!」


 だがバルドールも百戦錬磨。

驚いていたのはほんの一瞬で、ジェネリーの異常な回復速度を見るや、直ぐに奥の手を使う決断をした。


「ガァハアアアアアア!!」

「なっ!?」


____ボジュウウウウ!!


 バルドールはジェネリーとの鍔迫り合いの状態から、大きく口を開けて黒い霧の様なブレスを吐いた。

 バルドールの奥の手、アシッド・ペスト・ブレス____。

魔力を帯びたアダマンタイトすら融かす強烈な酸と、生物が体内に取り込むと内臓を腐らせてしまう物質を含んだ、内側からでも外側からでも相手を即死させられる猛毒のブレスだ。

力に頼るバルドール自らが卑怯と思って、本当の強敵と戦う時しか使わないと決めていた奥の手だった。


「ぐわぁああああ!!」


 肉体の外側を酸で焼かれ、内側を猛毒で腐食させられて、ジェネリーは人とは思えない絶叫で苦しさを訴えた。


「ジェネリー殿!?」


 その声は周囲の者達にも届き、帝国兵や上級魔族達の注目を集めた。

そして両陣営の表情は、はっきりと明暗が分かれた。

ウザネ達帝国側の表情は、切り札であるジェネリーが重傷を負った事に対する絶望の暗。

魔族側は自分達の主人の勝利を確信した明だった。

 だが、当のバルドールの表情はどちらでも無く、魔法術式を展開しながらジェネリーを観察していた。


(あれだけの再生速度を持ってんなら、これだけでは死んじゃくれねぇだろう・・・こいつを殺るなら、一撃で命を刈り取らなきゃならねぇ!!)


 ジェネリーの回復力を知ったバルドールには、奥の手のアシッド・ペスト・ブレスでも致命傷にならないと予想していた。

事実、食らえば即死のはずのアシッド・ペスト・ブレスを受けてもジェネリーは苦しんでいるだけで、死んではいない。直に回復するだろう。

これで出来るのは時間稼ぎだけだ。

自分の奥の手が時間稼ぎにしかならない事に少しだけ消沈するも、バルドールはその稼いだ時間で勝利をものにするため、自身最高魔法の準備をする。


(・・・どっちが速い?)


 これ以上の時間を稼ぐ手段が無い以上、もし自分が魔法を発動する前にジェネリーに回復されれば、ジェネリーとの戦いで、バルドールが自身の最高魔法を使う事は極めて難しくなる。

この勝負は、自分の術式速度とジェネリー回復速度、どちらが速いかで決まるとバルドールは思った。



「・・・・・くっ」


 先程まで暴れながら絶叫していたジェネリーが叫ぶのを止める。

そして、酸で融けてフラフラになっていた足下も、今はしっかりしている。

ジェネリーの戦闘回復は目前だった。


 だが、バルドールの方が一手早かった。


「ハハッ!もらったぁあ!!」


 バルドールは即座にその魔法を発動して、ジェネリーに渾身の一撃を叩き込んだ_____。

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