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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
192/358

准魔王との戦い(24)

 ______バギャアアアアアン!!


「ぬっ!?」


 ブルードラゴンナイツを囲っていた鋼の板が粉々に砕け散る。

そして、そこには一人の赤髪の女騎士が立っていた。

その美しく堂々たる姿は、バルドールのトラップ魔法を破壊したインパクトもあって勇ましく気迫があり、キラキラと輝く割れた金属片が彼女を神々しく見せていて、ブルードラゴンナイツの兵士達から見て、その登場の仕方と姿は、正に“ピンチの時に現れた救世主”と言えた。


「・・・・・」


 それに対してバルドールは、先程までブルードラゴンナイツに見せていた笑みを消して、その女騎士を睨みつけていた。

怒ったり、驚いたりしているのではなく、新たに現れた人間のその姿を冷静に観察している。

 バルドールは帝国の装備に詳しくない(というより興味が無い)が、ぱっと見ウザネと同じ位の豪華さと魔力が付与されているように見えていた。


 バルドールは警戒している____。


 バルドールはその見た目に反して、魔法も巧みだ。

バルドールの錬成した鋼の板は、並の者が壊せるような代物では無い。

それをたった一人の人間が粉々に砕いて見せたのだ。となれば、いかに人間を見下しているバルドールとて、警戒しない訳にはいかなかった。

何よりバルドールの最上級魔族としての勘が、この人間に危険信号を発信していた。


「てめー・・・何もんだ?」


 バルドールは女騎士を鋭く睨みながら、刺す様に質問した。


「ウザネ殿!!」

「ジェ、ジェネリー殿!」

「・・・・・・」


 肝心のジェネリーの方は、バルドールを無視して、ウザネの所に駆け寄っていた。


「ウザネ殿!大丈夫ですか!?」

「ああ・・私も部下達も無事だ」

「それは何より」

「まったく、情けない限りだ」

「何をおっしゃるか。ジョウショウ閣下も危険な相手だと仰っていたではないですか。他の指揮官なら私が来る前に死者が出ていたでしょう」

「___おい」


自分を無視したジェネリーに、バルドールはすぐ後ろに立って静かに声を掛けた。


 そして____


「シカトしてんじゃねーーー!!」


バルドールは爆発した____。

 魔法で強化した大刀を、渾身の力を込めて振り下ろす。

相手をいたぶるといった気持ちは無い。

危険な相手だから早めに潰す___といった考えも無い。

ただただ相手の態度にムカついて、その怒れる気持ちのまま振るう暴力だ。


____バチュゥウウン!!


 バルドールの豪速の一撃をジェネリーは振り向きざまに素早く剣で受け止めた。

両者の刃が合わさると、ピストルを撃った時の様な爆発音が鳴り、火花が飛ぶ____。


「ぬっ!?」

「!?・・こいつ」


 バルドールは目を見開いて、驚きの表情を見せていた。

ジェネリーは、バルドールの渾身の一撃を片手で受けていたのだ。

その事に、バルドールの表情は驚きからすぐに警戒に戻った。

 ジェネリーの方も、実は片手で受けるだけではなく、そのまま相手の武器ごと切り払うつもりだったため、自身と互角の膂力を持ったバルドールを警戒しながら、鋭く睨みつけた。


「ウザネ殿・・・この者は____」

「ああ、そいつがこの城の主、バルドールだ。そして貴方の“標的だ”」

「そうですか、この者が・・・」

「あ?“標的”だと?こいつ・・・」


 ウザネの“標的”という単語にバルドールは一瞬目を細めた。


「バルドールと言ったか?魔族とはいえ一国の長なのだろう?そのわりに背後から一撃とはずいぶんだな?」

「ナメた態度とった礼儀知らずな奴が偉そうなこと言ってんじゃねー」

「ナメた態度?ああ、そうか。すまなかった。味方が心配だったのでな、許せ。では、ちゃんと自己紹介しよう_____フッ!!」

「ッ!?」


 ジェネリーが気合を入れて剣を持ち上げると、ガキィイン!!と音が鳴り、バルドールが弾かれる。

そのまま攻撃されるのはマズイと、ジェネリーの強さを本能的に感じ取ったバルドールは、後ろにステップしてジェネリーとの間に距離を置いた。


「こいつ・・・」


 “この俺様を押し返しやがった____!”と、心の中でバルドールは更に警戒心を強めた。

 自分が力で押し返される事など、生まれて初めての事だった。

生まれながらの強者であるバルドールは、人間どころか魔族の中でも力負けしたことが無かった。

屈強なストーン・バジリスクやアルケノン・ミノタウロスといった上級魔族はもちらん、魔王軍幹部にも成れる最上級魔族相手にも力だけは負けたことが無かった。例外は魔王のみだ。

 バルドールには、単純な腕力だけなら、魔王を除いて自分が一番だという自負がある。

そんな自分の渾身の一撃を真っ向から受け止める人間が現れたのだから、驚くのも無理は無いだろう。


「私の名はジェネリー・イヴ・ミシテイス。帝国北方遠征軍第二師団所属、雷鼠戦士団の団長オーマ・ロブレムに仕える騎士だ」

「雷鼠・・・サンダーラッツの事か?」


 バルドールの頭にメテューノの言葉が蘇る。


「ほう?ご存じか?その通りだ。それで?そちらは?名はウザネ殿から聞いたが、礼儀と言うなら自己紹介いただきたいものだ」

「・・・・・・」


 バルドールは一瞬、「人間に名乗る名なんぞねぇ!!」と吐き捨てそうになったが、その考えを止めて自己紹介した。


「・・・元魔王軍、第一魔獣師団団長バルドールだ。今は准魔王という肩書で、スカーマリスのこの地域一帯を治めている」

「元魔王軍幹部・・准魔王か。なるほど、間違いなく私の標的だな。教えて頂き感謝する」

「標的か・・・フン、この俺様を獲物扱いとはな・・・」


 種族としてのプライドが高いバルドールにとって屈辱的な事のはずなのだが、今のバルドールには怒りやムカつきも無い。

むしろ、ジェネリーに一定の敬意を払ってさえいるようだった。


 その理由は____


(こいつが勇者だな)


____これだった。


 ここまで強いと、もう、そうとしかバルドールには思えなかった。

魔王に次ぐ膂力を持つ自分と互角の人間。そんな人物は、魔王と同等と謳われる勇者以外に居ないと確信できた。


(なるほど、帝国は他にも勇者の素質を持つ奴を抱えていやがった・・・シーヴァイスの奴が言っていた通りってワケか・・・この戦いが押されるのも仕方がねぇ。こいつが本物だろうしな。恐らくディディアルを殺ったのもこいつだろう・・)


 バルドールの中で色々と答えが出る(本当は違うが)。

そして、表情からは怒りも余裕も狂気も消えていた。

その表情は真剣そのもの。


(どんな手を使ってでもぶっ殺す____!!)


ジェネリーを本物の勇者だと判断して、意識がスカーマリスを治める准魔王から、魔王に忠誠を誓う魔王軍幹部のものになる。

 更に意識が変わると、バルドールの中で、戦いのモチベーションも一気に切り替わる。

最上級魔族としてのプライドのためや、准魔王としてスカーマリス領を守るためではなく、魔族全体の勝利の為に戦おうとしていた。


(この勇者を倒せば、この大陸に魔族の時代が来る!!)


 勇者を倒せば、魔王によるこの大陸の統治が行われる_____。

それを己の手で成すのは、結果として最もバルドールのプライドを満たす事になるのだ。

 バルドールは、この勇者を倒すことに自分の全てを掛けると決め、プライドも暴力への信奉も捨てて、知恵を使って作戦を考え始めた。


(勇者とはいえ人間だ。本当に素の力で俺様に敵う筈はねぇ、潜在魔法の力だろう・・どこまで極めてやがる?魔王様に匹敵するなら人間の枠の中じゃねぇだろう・・・部下を使って調べるか?最悪この戦いに負けても、こいつを殺せれば最終的には魔王軍の勝利になる。俺を含め、ここに居る全員の命を捨てる価値は有るが・・・いや、コイツの強さによっては、上級魔族じゃ力量を量る事すら出来ないかもしれねぇ。____なら!)


バルドールの中で作戦が決まる.


「お前ら!お前らはこの女以外の連中を殺れぇ!!」


「「御意!!」


 バルドールの檄で後ろに控えていた、上級魔族達が動き出した。


「来るか!?応戦するぞ!!」


「「了解!!」」


 魔族側の動きを見て、ウザネも迎え撃つためにブルードラゴンナイツに号令を出す。


「ウザネ殿!」

「ジェネリー殿!こちらの心配は無用!貴方はバルドールに集中しろ!」

「そこの女の言う通りだ!行くぜ!!」


 バルドールは再び爆ぜる様に勢いで飛び出し、ジェネリーに襲い掛かった____。

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