准魔王との戦い(20)
ジョウショウの速攻上級魔法での連続攻撃にしびれを切らしたメテューノは、状況を変えるための一手を打つ。
「ボマー達!盾になって前へ出な!!」
「「グゥエエエエエエ!!」」
命令されたボマー・ヘルコンドルたちは、直ぐにその大きな翼を羽ばたかせ、炎属性の攻撃に強い土属性の中級防護魔法ハイロック・ウォールを発動して、自身の前に岩の壁を作りながら前に出る。
そして、この場で一番の巨体を活かして、ヒノカグヅチの砲撃隊とジョウショウの攻撃を防ぐ壁となった。
だがこの動きを読んでいたのか、ジョウショウの方はそれを見て不敵に笑った。
「お前らの事は知っているぞ____突撃隊!攻撃開始!!」
「撃てぇーーーー!!」
___ズゴォオオオオオオオ!!
帝国はスカーマリス魔族の情報を十分に持っており、当然ボマー・ヘルコンドルの情報も持っている。
そのため、ジョウショウは予めボマー・ヘルコンドルの動きを想定して、ヒノカグヅチの突撃隊にだけ風属性の集団攻撃魔法の準備をさせていた。
____ボゴォオオオン!!ボゴォオオオン!!
ヒノカグヅチ突撃隊の攻撃がボマー・ヘルコンドル達の岩の壁を斬り砕く____。
だが、今度はメテューノがそれを見て不敵な笑みを浮かべた。
「ッハハ!知ってたよ!行けぇ!」
メテューノも相手の動きを読んでいたのか、準備させていたグレーターデーモン達に合図を出す。
「ハイロック・ウォール!」
「ハイロック・ウォール」
「______!」
「______」
前に出てきたグレーターデーモン部隊は、ボマー・ヘルコンドルたちと同様に土属性の防護魔法を使って盾となる。
「チィ!残りの部隊も攻撃開始!」
「「撃てぇ!!」」
ジョウショウはこれに対応するべく、残ったヒノカグヅチの全部隊に攻撃命令を出し、グレーターデーモン部隊の盾を壊しに行く。
____ボゴォオオオン!!ゴゴゴゥッ!!
ヒノカグヅチ各隊の集団魔法により、ファイヤーボールが敵に向かって放たれる。
「「グォオオオオオオ!!」」
「「グゥエエエエエエ!!」」
高い魔力と速度を誇るヒノカグヅチの集団魔法は非常に強力だった。
だが、上級魔族の中でも高い魔力を持つグレーターデーモン、そして岩の壁を砕かれても巨大でタフな肉体を持つボマー・ヘルコンドルたちを押し切ることは出来なかった。
グレーターデーモン部隊とボマー・ヘルコンドル部隊は、全員が重傷を負いながらも、メテューノ達主力が攻撃に転ずるスキを作って見せたのだった。
「今だ!散開して別々に打つよ!!」
「クゥェエエエエ!!」
「グォオオオオオオ!!」
このチャンスを逃すまいと、メテューノ、バズ、アパトの三体は、ジョウショウの3連射対策の為、別々の方向に分かれて攻撃態勢に入る。
魔族側は、メテューノ、バズ、アパトの攻撃で三手に対して、帝国側でこれに対応できるのはジョウショウと速攻を終えて次弾の準備ができているヒノカグヅチ砲撃隊の二手で帝国側は一手足らず、魔族側三体の内いずれかの攻撃を受ける事になる。
「砲撃隊は敵指揮官を狙え!」
「了解!撃てぇーーー!!」
____ドンドドンドンドンドン!!____ゴウッ!!
この状況に対してジョウショウが取った選択は、砲撃隊にはメテューノへ攻撃をさせ、ジョウショウ自身はバズへの攻撃を選択した。
よりにもよって、敵を感電させて麻痺効果を与える雷属性を持つアパトをフリーにしてしまう。
「親父!!やれ!!」
「クゥェエエエエ!!」
____ズドーーーーーーーー!!
フリーになったアパトがサンダーブレスを発射する。
「ふぅ・・・まさか、私の奥の手を使う事になるとはな。腐っても元魔王軍幹部だな・・・」
迫りくるサンダーブレスを前に、ジョウショウはため息をこぼす。
それから、懐から一つの魔道具を取り出した_____。
ジョウショウの取り出した魔道具は、“善女竜王”と呼ばれる掌サイズの黄金の蛇の彫像で、雨神の力を封じてある魔道具だ。
アマノニダイの国宝の一つでもあり、長年アマノニダイと交流してきたトウジン家の直近であるホンダ家だからこそ持つことを許されている逸品である。
「行け___」
ジョウショウが善女竜王を発動すると、彫像から大量の水が溢れ出し、空中で竜の姿を形作る。
その水竜はサンダーブレスを受けると、そのまま水の中に雷を取り込んだ。
「____ハッ!!」
これに続けてジョウショウは風の攻撃魔法を速攻で発動する。
バズをフリーにする行いだが、危険は承知の上だ。
バシィイイイイン!と音を立てて、電気が流れる水竜がジョウショウの風魔法によって砕け散る。
「グ!?」
「____ガッ!?」
「「グゥエッ!?」
空中で弾けたその電流水は、近くに飛んでいたグレーターデーモン部隊とボマー・ヘルコンドル部隊にまでおよび、グレーターデーモン達を感電させた。
「今だ砲撃隊!狙え!!他の部隊は防御へ移行!!」
「「了解!」」
____ドドドドドド!!
ヒノカグヅチの砲撃隊が速攻攻撃を行い、感電して身動きの取れない敵部隊に集団魔法のファイヤーボールを叩き込む。
もともと重傷を負っていた上、感電して無防備な状態で攻撃されれば、タフな上級魔族でも無事では済まず、ボマー・ヘルコンドル部隊、グレーターデーモン部隊は全滅する。
これでメテューノは自身の部隊の全ての上級魔族を失い、残すはバズ、アパト、フェイク・フェニックス部隊となった。
「だが報酬は十分さ!!」
メテューノはその事に後悔は無かった。
何故ならこの状況こそ、メテューノが部下を犠牲にしてでも手に入れたかった状況だからだ。
ジョウショウは風魔法を使い、砲撃隊は速攻のファイヤーボール、他の部隊は防御と、結果としてメテューノ、バズの二体がフリーとなり、ジョウショウを仕留める絶好のチャンスが巡って来た。
「ここで決める!!バズ!」
「グォオオオオオオ!!」
メテューノとバズの二人は急降下しながら準備していた術式を完成させる。
降下先はもちろんジョウショウだ。
(この男はここで確実に仕留める!!)
「ヤルングレイプ!」
「グォオオオオオオ!」
メテューノは雷の爪、バズは風の刃の魔法を発動し、突撃する。
ジョウショウの力とヒノカグヅチの力を見て、そう何度もチャンスをくれる相手ではないと、これまでの戦いで十分に理解したメテューノは、このチャンスを確実にものにするため接近戦を選択する。
「___ぬ!?」
音速で接近してくるメテューノとバズに気が付いたジョウショウは、咄嗟に身構える。
(無意味だ!!)
ジョウショウの防御は構えこそ達人のそれだったが、防護魔法の準備は出来ていない。
身に着けている東方の武者鎧は高い防護魔法が付与されているが、今回ばかりは相手が悪い。
何よりメテューノが選んだのは雷属性。ジョウショウとて無防備で食らえば感電する。
そうなれば、メテューノとバズ相手に生き残るのは不可能だろう。
「勝負ありだ!!」
距離、タイミング、威力、属性、どれをとっても問題無し。
メテューノは勝利を確信し、一条の刃となってジョウショウに襲い掛かった_____。
_____バリバリバリバリィイイイイイ!!
______________________________________________。
_____ジャリ。
メテューノの口の中で異質な食感が広がる。
(な、なんだい?これ・・・土?)
どうやら口の中に土が入っているらしい。
(勢い余って地面に突っ込んじまったみたいだね)
“絶対にこのチャンスをものにすると意気込んだせいでブレーキを掛けそこなった”____メテューノはそう思った。
(ふぅ・・・私としたことが、はしゃぎ過ぎたね・・・)
だがこの分ならあの男も無事じゃないだろう。たとえ生きていてもバズかアパトが殺しているはずである。
(どれ、結構手こずったし、一目死体を拝んでから帰ると_____!?)
ここでメテューノはようやく自分の体の異変に気が付いた_____。
(あれ?体が動かない。何故?・・ってか口の中の土が・・・あれ?)
____体を動かせない。更には口の中の土も吐き捨てることが出来ない。
(ど、どうなってんの!?)
何故自分がこんな事になっているのか分からず、メテューノは焦り始めた。
(ッ!____ンッ!・・・ンン!!____よ、よし・・・)
少しずつ体が動かせるようになって来た。
その事で少しだけ安心したメテューノは、ゆっくりとぎこちない動きで顔を上げた・・・。
「____あ?」
顔を上げて見た景色にメテューノの思考が止まる____。
メテューノの視界に入っている光景はメテューノの理解を超えていた。
(バズ?動いていない・・・死んでいる?フェイク・フェニックスも・・・あれ?あいつらまだ生きてたはずじゃ・・・)
メテューノの視界に入っている景色は、地面に突っ込む前まで生きていたはずのバズとフェイク・フェニックス部隊の無残な死体と___
「へぇー・・・本当に無事だったのですね。ジョウショウ閣下は本気で大丈夫と仰っていましたが、内心では心配していたのですよ」
「・・・あ?」
膨大な魔力で雷を身に纏う一人のメイドだった____。