准魔王との戦い(19)
メテューノが召喚した雷竜の名はアパト____。
魔界にもファーディー大陸にも存在しない異世界の幻獣であり、雷竜種の王族の一体だ。
通常幻獣は契約魔法(信仰魔法STAGE7)でないと召喚できない。これは魔族も同じだ。
だが、メテューノは炎属性、風属性、雷属性を持ってはいるが、STAGE7まで届いているのは風属性だけだ。
通常、これならメテューノは風属性以外の契約魔法を扱うことは出来ないはずである。
それにも関わらずメテューノが雷属性のアパトを召喚できたのは、この二人が本当の親子関係にあるからだ。
その親子の絆によって契約魔法を可能にしているという訳だ。
メテューノが“親父”と叫んだのは、そういう仇名なのでは無く、実の父親だからだ。
実の父親である雷竜王アパトの召喚_____。
これがメテューノの切り札だった。
雷竜の王族であるアパトのサンダーブレスは、例えば帝国一の雷魔導士であるオーマの上級魔法では比較にならないほどの威力を持っており、一撃で叢原火の火炎車輪を全て破壊しただけでなく、叢原火本体にも致命傷を与えて無力化していた。
「ゲェ~・・・」
「___チィ!」
それに対して、今度はジョウショウが舌を鳴らして苛立ちを顕わにする。
そこには、これまでの様な戦いを楽しむ余裕は見え無くなっていた。
「・・・叢原火がこうも容易く殺られるとは・・雷竜の召喚だと?舐めていた訳では無いが、ここまでの芸当が出来るとはな・・・・」
ジョウショウは、このまま叢原火を攻守の軸にして戦いを組み立てようとしていた。
だが、その当てが完全に外れてしまう。
そのことでジョウショウの次の動きが一瞬出遅れる____メテューノはそのスキを逃さない。
「落とせ!!」
「「グゥエエエエエエ!!」」
ボマー・ヘルコンドルが動き出す。
風属性のヘルコンドルと違い、その上位種であるボマー・ヘルコンドルは炎属性と土属性を扱える。
飛行系の魔物では珍しい土属性を持つボマー・ヘルコンドルは大岩を錬成し、上空からそれらを大量に投下していく。
「ばら撒け!!」
「「ゴォェエエエエエ!!」」
次のメテューノの指示で動いたのは左右に散開していたヘルコンドル部隊だ。
小隊ごとにヒノカグヅチの上空を旋回しながら、風属性の攻撃魔法を発動する。
「爆撃!!」
「「グォオオオオオオ!!」」
メテューノは更に声を上げ、今度はフェイク・フェニックス部隊を動かす。
フェイク・フェニックス達は自身の最も得意な炎属性の攻撃魔法をヒノカグヅチに向けて発動した___。
____ボゴォオオオン!ボゴォオオオン!_____ズゴォオオオオオオオ!!
_____ゴウッ!ゴゴォウ!!
空からの落石、旋風、業火が降り注ぐ。
メテューノの精鋭飛行部隊の本格的な魔法の連続攻撃は、この大陸の魔導士達から見ても非日常に感じ、卒倒したくなる様な地獄の光景を作り出した。
「チィッ!持ちこたえろ!」
「魔力を上げるぞ!」
「「おう!」」
メテューノの飛行部隊の連続攻撃にヒノカグヅチはダメージを負い、魔力を激しく消費するも、一致団結して何とか持ちこたえる。
「親父!!」
「クェエエエエエエエエ!!」
そこに止めを刺すためアパトがサンダーブレスで追撃しようとする。
「それはさせん!」
これにジョウショウが反応する。
上級魔族や他の魔物の攻撃ならばともかく、叢原火を一撃で葬ったアパトの攻撃を受ければ、例えヒノカグヅチでも無事では済まない。
そのため、ジョウショウはアパトの攻撃を阻止できるように備えていた。
____ゴウッ!!
アパトがサンダーブレスを発射するかというところで、ジョウショウのフレイム・レーザーがアパトの顔面に直撃する。
「ッェエエエエエエ!!」
アパトのサンダーブレスはフレイム・レーザーで顎をかち上げられて明後日の方向に飛んでいき、ジョウショウはヒノカグヅチを守ることに成功する。
「だが____」
だが防御が成功しただけではジョウショウの顔は晴れなかった。
理由は簡単で、アパトと同じくヒノカグヅチの防御を単体で突破できる存在がもう一体いるからだ。
そして、その存在である竜の翼を持ったハーピィは既に魔法術式を完成させている____。
(やはり・・あの規模と魔力では____くそが!)
竜翼のハーピィの魔法術式を見て、ジョウショウが心を腐す。
その魔法術式は、ジョウショウが予想していた通り、ヒノカグヅチの防御を突破するのに十分な魔法であると判断できた。
(どうする!?切り札を使うか!?いや、多少の犠牲はやむなしか!)
任務を優先するのであれば、ヒノカグヅチに多少の犠牲が出るのは仕方が無いとジョウショウは判断する。
ジョウショウは心の中で厳しい判断をして、竜翼のハーピィの攻撃に備える。
「行くぞッ!!」
「___!?あれは!?」
竜翼のハーピィが魔法を発動すると、空中に巨大な魔法陣が出現し、ズゴゴゴゴ!と音を立てる。
そしてそこから、鳥の翼と獅子の顔、羊の角と蠍の尻尾を持った、3メートルほどの体長がある一体の幻獣が姿を現した。
風の霊獣バズ___。
アパトほどではないが、メテューノが風属性で召喚できる中で最強の幻獣であり、メテューノのもう一つの切り札だった。
「召喚魔法だったか・・・」
竜翼のハーピィが使用した魔法は、またも召喚魔法だった。
その事にジョウショウは意外だと感じながらも、どこか安堵する声を漏らした。
メテューノはこの機会に、召喚魔法で更に手数を増やす作戦に出た。
上級魔族の攻撃さえ防ぎ切るヒノカグヅチの防御を突破するには、強力な手駒があと一つは要るだろうと判断したのだ。
この事自体は何も間違いでは無いのだが・・・。
「フッ・・・大助かりだ」
ジョウショウにとっては都合が良かった。
正直、あの場面でメテューノに攻撃魔法を撃たれていた方が被害も出ていだろうし、その後も陣形が崩されて苦戦することになっていただろう。
(自分の態勢を整えるために好機を逃すとは・・・やはり、元魔王軍幹部といっても長い年月で日和ったか・・・)
このメテューノの一手で、相手に勝負勘が衰えていると感じたジョウショウは、自分達の勝利をここで確信する。
そして、手を上げてヒノカグヅチに号令を出し、勝負に出た____。
「全軍!攻撃に移るぞ!砲撃隊は速攻で牽制!遊撃隊は風!残りは炎で準備!」」
「「了解!」」
____ズドドドドドドドドドゥ!!
ジョウショウの命令が飛ぶと直ぐに部隊後方の砲撃隊が速攻集団魔法で牽制射撃を行う。
「各自散開!各々で攻撃しな!」
この攻撃に対してメテューノは部隊を散開させる。
魔族は“個”の能力が強みで散開してバラついても戦えると判断したのだろうが、この場合は作戦も指示も雑と言えるだろう。
事実、上級魔族、バズ、アパト、メテューノという主力にはダメージが無いものの、全滅したワイバーン部隊に代わって前に出てきたヘルコンドル部隊からは死傷者が出る。
「フン!構わないさ!」
だが、それらはメテューノ想定の範囲らしく、メテューノに気にする様子は無い。
メテューノは自分の目的のためならば、部下を犠牲にする事など何とも思わない。
そんな性格ゆえ、ヒノカグヅチの防御を突破できなかった時点で、ヘルコンドル部隊とフェイク・フェニックス部隊の事など、もう捨て駒にしか思っていなかった。
そんな連中より、敵に致命打を与えられるバズとアパトをどう使うかという事にメテューノは頭を使う。
そして____
「そのためには・・・」
そのためには警戒すべき相手が一人だけいる____。
「フレイム・レーザー!」
ジョウショウから再び速攻上級魔法がメテューノ、バズ、アパトを狙って3連射で飛んでくる。
「___チィ!」
「まだまだぁ!」
ジョウショウは更に3連射を行う。
____ゴゴゴゥッ!!
「クゥェエエエエ!!」
「ゴォアアアアアア!!」
ジョウショウの連続攻撃に、3体とも大したダメージは負っていないが、中々攻撃に転ずる事ができない。
「チッ!あいつ!本当に人間かい!?」
上級魔法の速攻での3連射など、上級魔族は勿論、最上級魔族でもそうは簡単にはできない芸当である。
しかもそれを連続で続けるなど尋常ではない。とっくの昔に魔力切れを起こすか、肉体に負担が掛かり過ぎて自滅していてもおかしくない。
だというのにジョウショウはフレイム・レーザーの3連射を撃ち続けている。
ここが勝負所と判断して無茶をしているのか、それとも余裕が有るからなのか・・・。
(余裕なんてあるわけがない!もうすぐ弾切れのはずだ!今すぐそのメッキを剥がしてやる!!)
ジョウショウの攻撃をめんどくさそうに躱しながら、メテューノは更なる一手を打つのだった_____。