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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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准魔王との戦い(13)

 「あのジジイ・・・やっぱり生きていたか・・・」


 オーマは敵指揮官が生きていた事に対して、そこまで驚いてはいなかった。

元魔王軍幹部で、あれだけレアな魔道具を持っているのならば、生き残るのは予想の範囲内だった。

むしろ、オーマにもミクネにもまだ十分に余力が残っているのだから、敵指揮官に重傷を負わせ、グレーターデーモンをしとめて孤立させる事ができて御の字という判断だった。

 唯一の気が掛かりは、敵指揮官が完成させている召喚魔法術式だ。

その術式は、先程ミクネから攻撃を受けながら作っていた時より、明らかに一回り大きくなっていた。

恐らく、魔力を飛躍的に向上させる魔道具で防護魔法と飛行魔法だけでなく、召喚魔法もブーストしたのだろう。


「気を付けろ!ミクネ!」

「ああ!分かっている!オーマもな!防護魔法の準備をしておけ!」


相当な強さの魔族を召喚してくると思われ、オーマだけでなく、ミクネさえも警戒していた。


(確かに、ミクネの心配をしている場合じゃないな。あの術式の規模・・・俺より格上の魔族の可能性だって有る)


オーマは変に格好つけずに、素直にミクネの助言に従い防護魔法の術式を展開した_____。




 「ガ・・・ガフッ・・ガ・・な、何という事じゃ・・・」


ジェイルレオはズタズタに切り裂かれた体の傷を手で庇いながら、下に居る二人を見下ろしている。

その顔の表情には誰から見ても分かるほどの憎悪が宿っていたが、ジェイルレオはその憎悪の半分は自分に対して向けていた。


「おのれ・・このわしともあろう者が・・・・・出し惜しみしていなければ、こんな余計な出費はせんで済んだものを・・・」


 ジェイルレオはミクネの大技を食らう直前にもう一つレアな魔道具を使用していた。

それは、左手首に着けた腕輪、“飛翔の腕輪”だ___。

 その名の通り、飛行魔法が発動できるレアな魔道具だ。

 ジェイルレオは自身の持っている魔道具で、防護魔法と飛行魔法を発動しつつ、虎の子のレジネスハートでそれらをブーストして、大ダメージを負いながらも死ぬ事無くミクネの攻撃魔法を乗り切っていた。

ただ、ここで使った魔道具は、レジネスハート以外はまた使用できる類いのモノではなく、その時限りの物だった。


「くぅううう・・・泣きたいわい。こんな戦いで、これほど魔道具を使う事になるとは・・・」


 ジェイルレオは重傷を負った己の体など気にせず、失った魔道具の事ばかり気にしていた。

それは、潜在魔法で回復できるダメージと比べて、明らかに手痛い出費となったからだ。


「また一から材料を集めねばならん・・・」


帝国とアマノニダイに睨まれながら、また新たに魔道具の材料を集めるのは骨が折れる作業だった。


「おまけに・・それに取って代わるものもないしのぉ・・・・」


 代わりとなる戦果も無く、ただ魔道具を消費しただけ・・・。

その事実にジェイルレオは悔しい思いを抑えきれないでいた。

 ____そう、ジェイルレオは既に、“研究素材”を手に入れる事を諦めている。

先のミクネの大技の魔法術式を見た時から、グレーターデーモンは助からず、護衛がいなくなって自分が孤立することが分かっていた。

 そして、護衛が一人も居なくなり自分一人となれば、この二人相手に勝機は無いという事は、百年の月日で腑抜けたジェイルレオにだって理解できる事で、最早、研究素材を手に入れるどころではない。

 戦っても勝てないなら退却するだけだ。

ジェイルレオには、バルドールの様に戦いや勝利に対するプライドもなければ、シーヴァイスの様に任務に対して使命感が有るわけでもない。

 戦闘意欲に貧しく、物事を出し惜しむ性格のジェイルレオが退却を決断するのは直ぐだった。

だからこそ、召喚魔法もレジネスハートでブーストしたのだ。

 その分を防護魔法の強化や、飛行魔法の強化に当てれば、もっとダメージを抑える事も出来た。

だがそれをしても、護衛を失って無手の状態では、たとえ魔道具があっても退却するのは難しいだろう。

だからこそ、退却のスキを作るため、ダメージを負う覚悟で召喚魔法もブーストしていたのだ。


「おい!どうした白猫ぉ!下りて来ないのか!?ならこっちから行くぞ!」

「ね、猫じゃと!?小娘ぇ!貴様、誰に何と言っておる!?魔王様より一軍を預かっていた事も有るこのジェイルレオに何を言うかッ!!」

「うっさい!!魔族の癖に粋がるな!それより!その召喚魔法、使うならさっさと使え!!私達は次が有るんだ!お前の相手だけしてる暇は無い!!さっさと続きを始めないか!そうじゃないならさっさと死ね!!」

「な!?・・・な、なんちゅう小娘じゃ・・・挑発するにしても言葉を選ばんか・・・」


ミクネの言葉が、あわよくば召喚魔法を発動する前に切り込むスキを作る挑発と分かってはいるが、年端も行かぬエルフの小娘に言われっぱなしなのは、分かっていても不快だった。


「ふん!ならば望み通り使ってやるわい!行けぇい!!」


ジェイルレオは半ばミクネの挑発に乗るような形で召喚魔法を発動した____。


「「ッ!?」」


 地面に大きく浮かび上がった魔法陣___そして浮かび上がる四足獣のシルエット____。

 ジェイルレオの召喚魔法陣から現れたのはグレイハウンドの群れだった・・・。


「・・・・は?」


 オーマは頭にクエスチョンマークを浮かべ、それをそのまま口から出した。

 どんな強力な魔物が現れるのかと、上級防護魔法まで用意して警戒していたが、現れたのはこの大陸でも良く見かける中級の魔獣だった。

 グレイハウンドは決して弱くは無いが、あまりにファーディー大陸で知られるようになったため、その能力と生態は帝国軍人でなくても知っている者が多く、一般的にもあまり脅威とされていない。

オーマからすれば完全に格下の相手だ。そのため、オーマは肩透かしを受けた。

 召喚された数は約120でそれなりの数だが、それでもミクネと二人____いや、ミクネ一人でも範囲拡大した上級魔法一発で一掃できるだろう。


 ジェイルレオの意図が分からず、一瞬オーマの思考が停止する____。


 ミクネの方を見れば、ミクネもオーマと同じ様に不可思議といった表情をしていた。

そして相手の意図を探ろうと、ジェイルレオの方を見てみれば、ジェイルレオは勝ち誇ったような顔をしていた。


「まさか・・・」


  その表情でオーマは察する_____。

 勝機の薄い者が追い詰められた状態で勝ち誇っているときはいつだって____


「散れぇい!グレイハウンド共!全力でこの場から離れ、近くの村々を襲うのじゃ!!」

「何ぃ!?」

「野郎ぉ!やっぱりか!!」


 ジェイルレオのその言葉をきっかけに、その場に居る全ての者達が動き出した_____。


 ジェイルレオはそのまま逃亡。


 グレイハウンド達は命令通り、近隣の村々を襲うため、四方八方に散らばる。


 ミクネはグレイハウンド達を攻撃するため、魔法術式を展開。


 オーマはそれの制止だ。


「待て、ミクネ!!今からじゃ間に合わない!それより通信魔法を飛ばせ!」

「っ!?そうか!分かった!____おい!シマズ!聞こえるか!?」

「___ミクネ様!?どうしました!?」


向こうの作戦は上手く行っているのか、通信魔法は直ぐにつながり、シマズからの返事が返ってきた。


「シマズ、こっちは敵指揮官を追い詰めたが、そいつが退却するためにグレイハウンドの群れを召喚して四方の放ちやがった!このままじゃ近隣の村々が襲われちまう!!」

「ッ!?分かりました!こちらの戦闘はほぼ終了しています。工兵隊、ツクヨミ共に迎撃に向かわせます!数は!?」

「約120だ!頼む!」

「了解!___」


事態を直ぐに把握したシマズは、他の味方と連絡を取るために通信を切った____。


「オーマ!」

「よし!俺達はジェイルレオを追うぞ!」

「え!?で、でも!」

「ジェイルレオが村を襲ったらどうする!?奴を抑えられるのはお前だけだ!」

「そ、そうか。そうだな」

「村なら大丈夫だ!皆が必ずやってくれる!信じろ!」

「ああ、分かった!行こう!」


アマノニダイ住民が襲われそうになって動揺するミクネを励ましつつ、オーマはミクネと共にジェイルレオの追撃に移った___。





 このオーマ達の事態を、二人の女性が別々の所で見ていた。


 「チャンスね___」

 「好機ですわ___」


そして、二人で示し合わせたかのように、そう呟いた____。

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