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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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准魔王との戦い(10)

 シーヴァイスの大きな瞳が、サレンが展開している七色の魔法術式を捉える。


(勝負に出たか!?)


 シーヴァイスはそう判断する。

互角の勝負が続き、サレンの魔力がどんどん吸い上げられているこの状況なら妥当な判断だろう。

 あの魔法封じの魔法が決まれば状況は一変する。

 シーヴァイスが信仰魔法を封じられたなら、風を起こしてサレンの飛行魔法の邪魔ができなくなるどころではなく、電撃魔法が撃てなくなるので、湖に電気を通すこともできないため、飛行魔法自体使用する必要が無くなる。水深が深くなっているが、初歩の土属性なんかで足場を作れば魔力の消費を抑えられてしまう。

そうなっても戦えるには戦えるが、シーヴァイスが不利になる事には変わりがない。


(もしそうなれば撤退するだけなのだがな・・・とはいえリデル様の命もある。ここは限界まで奴の魔力を削りに行くべきだ!)


幸い、サレンは魔力を消費している上、飛行魔法と防護魔法を使用しながら術式を展開しているので、その術式速度は普段のサレンからは考えられないほど遅い。

 それを見て決心したシーヴァイスは、これまで以上の猛攻に出た____。


____ビュォオオオオオオオ!!


「____ッ!?」


____ズドォオーーーーーーーー!!


「ぐぅ!」


シーヴァイスは風魔法で突風を起こしてサレンの動きを鈍らせると、そこにウォーターブレスを叩き込む___。

今まで散々やって来たコンボだが、これに加えて上級魔法の追撃も加える。


「レールガン!」


____ゴウッ!ゴゴウッ!!


「あう!?」


貫通力のある電撃上級魔法のレールガンを三連打____。

雷属性では防護魔法を貫かれれば感電してしまうため、サレンは防護魔法の強化を余儀なくされる。

魔力は激しく消耗され、源属性魔法の術式の完成は更に遅くなる。


「ハッハッハーー!!行くぞ!!」


 そんなサレンの様子を見て、手応えを感じたシーヴァイスは、込み上げてくる笑みを吐き出すと、更なる猛追を見せた。

 ズドォオーーーーーーー!!とウォーターブレスを発射し、再びサレンを釘付けにする。

そこに今度は自慢の巨大をうねらせて、木々を薙ぎ倒すほどの荒波と水しぶきを上げる。

 そしてその間に作っていた魔法術式も発動___。

水属性の最上級魔法アクア・メテオで強力な水弾を空から降らせ、風の上級魔法グレイトフル・ハリケーンで竜巻を起こす。

シーヴァイスは、波・雨・風を起こし、大嵐を生み出した。

その攻撃は最早、“攻撃”ではなく、“災害”と呼べるものだった。


「きゃああああ!!?」


 サレンは源属性の魔法術式は何とか維持するものの、防護魔法を突破されダメージを負った。

 だが、“大災害”の二つ名を持つシーヴァイスの攻撃はこれで終わりでは無かった。


「ケラウノス!!」


ここでシーヴァイスは更に上級電撃魔法で追撃する。


____バリバリバリィイイイイ!!


「____!!」


 嵐の中で大きな落雷音が鳴り響く___。

シーヴァイスの轟雷は、直撃を受けたサレンの悲鳴だけでなく源属性魔法術式もかき消した。

そして雷が止むと、サレンは辛うじて飛行魔法を維持し宙に浮いているが、感電し大きなダメージを負って動けなくなっていた。


「とどめだ!!」


あと一押しと確信したシーヴァイスは、とどめに渾身のウォーターブレスを発射した____。


____ズドォオーーーーーーーー!!___バシィイイイイイイイン!!


 ウォーターブレスが直撃する寸前で、サレンは持ち直して防護魔法を間に合わせた。

だが無情にもシーヴァイスのウォーターブレスは、その防護魔法を貫いてサレンに被弾した。


「_____ッ!?」


 ウォーターブレスを食らったサレンは、飛行を維持するどころかピクリとも動か無くなって、真っ逆さまに落下してボチャン!と湖の中に落ちてしまった____。


「ハハッ!」


 力尽きて湖に落下したサレンを見て、シーヴァイスは快活に笑った。

勝ち誇った笑みに見えるが、これはそうでは無い。


(ウソを付け!貴様の魔力はまだ底をついていないだろう!?油断させるための罠だな!)


 シーヴァイスは、リデルからサレンのタルトゥニドゥ探索での戦闘データを貰っている。

そのため、サレンの魔力がまだ尽きていない事も、サレンの身に着けている魔導士のローブが物理防御力も高い事も、サレン自身の肉体がその見た目からは想像できないほどタフネスであることも知っていた。

 相手の策だと判断したシーヴァイスは、そうは行くかと、すぐさま雷属性の魔法術式を展開し、湖にいるサレンを感電させるため、電撃魔法を発動した_____。


「___ぬ!?」


 だがシーヴァイスの魔法は発動しなかった。

思わぬ不測の事態が発生したが、この事にシーヴァイスが動揺したのは一瞬だけだった。


(間に合わせたのか!?)


サレンが湖に落ちたのは演技であり作戦だ。ならば、この結果はそういう事なのだろう。


(奴が飛行魔法を解除したのは、油断させるだけではなく、一つの術式に力と意識を集中するためか!)


 サレンは湖に落ちた瞬間から、静寂の魔法一点に絞って術式を展開していた。

そして、その術式速度が、シーヴァイスの電撃魔法の術式速度より速かったという訳だ。

上級・最上級魔法を連発したのが悔やまれる。

その所為でシーヴァイスの電撃魔法の術式展開の立ち上がりが遅れ、相手に一手先を行かれてしまった。

とはいえ、それが無ければサレンを畳み掛ける事も出来なかっただろう。

ならば、結果は同じだったという事だ。

最後の最後で、魔導士としての技量の差が出る結果となった。


(やるな・・・さすが歴代の勇者と同じ能力を持つ勇者候補だ・・・)


だが悔やんでいても仕方が無い。それに____


(まだ武器は残っている!)


 シーヴァイスの武器は信仰魔法だけでは無い。

そして何よりこの戦いのシーヴァイスの勝利条件はサレンを倒す事では無い。


(一撃加えて離脱する!)


シーヴァイスは撤退する隙を作るため、体をうねらせて先程と同じ様に波しぶきを起こす準備をする。


「____ッ!?」


それからウォーターブレスを打とうとした所でシーヴァイスの動きが止まった。


(な、何故だ!?何故打てない!?)


シーヴァイスは、信仰魔法だけでは無く、ウォーターブレスも打てなくなっている事に気が付いた。

更に言えば、シーヴァイス自慢の鱗からも魔力が失われていた。

 今度の不測の事態には、シーヴァイスは激しい動揺を見せた。


(せ、潜在魔法も封じられているだと!?バカな!?)


 シーヴァイスのウォーターブレスは、体内で圧力を掛けて発射する事であの速度と貫通力が出し、上級魔法に匹敵する破壊力を生んでいる。

そして体内で圧力を掛ける際には、潜在魔法RANK5(内臓)で体内を強化している。

そのため潜在魔法が使えなければウォーターブレスは使えないのだ。


(奴の力は信仰魔法を封じるだけでは無かったのか!?)


 シーヴァイスは、サレンの魔法封じの技は信仰魔法だけに適用されるものだと思っていた。

だからこそ勝負に出たのだ。潜在魔法さえ使えれば、勝てなかったとしても撤退はできると思っていたからだ。

だが、それが勘違いだったと最悪のタイミングで知る事になってしまった。

相手の力量を見誤るという致命的なミスをしていた事に今更気づき、激しく後悔する。

そして、そのミスだけでなく、今この場で動揺して動きを止めるというミスも犯してしまった。


 シーヴァイスを追い詰めた少女は、そのスキを逃す人物ではない____。


「ハイエアロ・プリズン!!」

「なっ!?」


____ザァッッパァアアアアアアアアン!!


サレンのトラップ魔法によってシーヴァイスは旋風の牢獄に捕らわれ、湖の中から空中に引き上げられた。

シーヴァイスのその巨体も、魔力を生めず、魔法に対して無抵抗になってしまえば、サレンの魔法にあらがうことは出来なかった。


「クッ!」


シーヴァイスは、グォン!グォン!と水から出されたウナギの様に体をうねらせて、風の牢獄から脱出しようとするが脱獄できず、濡れた体から水をバシャバシャと飛ばすだけだった。


____ザザーーーン!


 サレンが土属性魔法で大岩を作って湖の中から上がってくる。

そしてその次の瞬間には、シーヴァイスに止めを刺すため巨大な土属性の魔法術式を展開し始めた。


「____ぬぅう!」


 静寂の力とトラップ魔法を維持しながらの術式展開は遅い。

シーヴァイスはその間に何とか脱獄しようと必死に暴れるが、無情にも時間だけが過ぎていく____。


 そしてサレンの術式が完成し、シーヴァイスの最後の瞬間がやって来た。


「ダイヤモンド・コンストラクション」


サレンが土属性の最上級魔法を発動すると、空中にいくつもの金剛石の塔が造られる。

人を簡単に収容できるサイズで、魔法で造られた金剛石の要塞のそれは、シーヴァイスの巨体を貫くのにうってつけの槍となる。


____ズドドドドドドドン!!


「ガフッ!!」


サレンの魔力で造られた金剛石の槍は、シーヴァイスの無力化した鱗を簡単に突き破り、シーヴァイスを串刺しにした。


(ガァ・・・ア・・アア・・・・・フ・・フフッ・・・相手の力量を見誤るとは・・焼きが回ったものだ・・・・この百年で腑抜けたバルドール達を軽蔑していたが、俺も似たようなものだったか・・・・)


シーヴァイスは、自分の失態を素直に認めて、自身の最後を受け入れる。




 そしてシーヴァイスの瞳から光が消えた____。




「ウィンド・サーチ」


 完全に絶命したと思われるが、サレンは念を押し、索敵魔法でシーヴァイスの生死を確認する。

そして死亡を確認してから魔法を解除した。


___ダァッッパァアアアアアアアン!!


________________________。


風のトラップ魔法が解けてシーヴァイスの体が無造作にダラリと落ちて湖に沈んで行った。

 水しぶきが上がり、波が起こり、大量の水がサレンに掛かる。

サレンはそれを避けようともしなかった。

既にずぶ濡れだったから今更ともいえるが、そういう理由では無かった。


「・・・・・・」


サレンは湖から上がり、一番近くの木に体を預けると、そのままズルズルとへたり込んでしまった。


「もう・・・ダメ・・・・」


それだけ言うと、サレンはそのまま深い眠りに落ちた____。


 サレンの魔力と体力に限界が来ていた。

恐らく今日はもう目を覚まさないし、覚ましたとしても今日明日は戦闘を行うのは不可能だろう。

シーヴァイスは命こそ落としたが、リデルの任務を遂行する事には成功していたのだった。

 サヤマ湖での一戦は、サレンもシーヴァイスもどちらも、兵を失いながらも勝利するのだった____。

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