准魔王との戦い(9)
サレンが中級レベルではあるが速攻ができる炎属性の魔法をシーヴァイスの顔面に叩き込む____。
ダメージを与えるというよりは隙を作るための目潰し効果を狙った攻撃だった。
そうしてシーヴァイスの顔を炎で覆うと、サレンは空を飛びながら距離を取りつつ次の攻撃の準備に入った。
サレンは怒っているものの、シーヴァイスが危険な相手であるという認識は捨てていなかった。
挑発され、怒りで取り乱しているように見えたサレンだったが、その戦い方はちゃんと計算されたものだった。
「____チッ!」
挑発に乗っていたわけでは無いと分かって、シーヴァイスは舌を鳴らした。
だがシーヴァイスもサレンを危険視していた為、自分の思い通りの展開にならなくても動じてはおらず、風属性の魔法術式を完成させていた。
_____ビュォオオオオオオオ!!
シーヴァイスは中級の風魔法で突風を巻き起こす。
このシーヴァイスの攻撃も、先程のサレンの目潰し同様に、ダメージを与えるためのモノではない。
飛行している際に態勢を崩されると、態勢を立て直して飛行を維持するために更なる魔力が必要となる。
シーヴァイスはサレンの飛行魔法に負荷を掛けて、サレンの魔力を削る作戦をとった。
「クッ!」
サレンは突風にあおられながらも風魔法で飛行状態を維持する。
その分シーヴァイスの想定通り、魔力は消費され、ただでさえ魔力の消費が激しい飛行魔法に更なる負担が掛かり、サレンの魔力を激しく消費させていく。
だが、だからといって湖に入る訳にもいかず、飛行魔法の解除はできない。
さすがのサレンでも、湖に入ってシーヴァイスの電撃魔法を食らえば感電してしまうだろうし、麻痺して動けなくなればシーヴァイスから一方的な攻撃を受けて殺されてしまうだろう。
仕方なく飛行状態を維持しながら反撃に出るしかなかった。
そうして、手痛い出費を払いながらもサレンは術式を完成させてシーヴァイスに上級魔法を叩き込んだ。
「ダイヤモンド・ショット!」
____ズドドドドドド!!
「甘い!」
_____ズドォオーーーーーーーー!!
「____クッ!」
シーヴァイスの風魔法の打ち終わりのスキを突いたサレンだったが、シーヴァイスのウォーターブレスによってその攻撃を弾かれてしまう。
「まだ!」
だがそれを見越していたサレンは、もう一つ術式を展開しており直ぐに追撃の一撃を放った。
「フレイム・レーザー!」
「アクア・レーザー!」
____ゴッゴォウッ!!ズドォオオオオン!!
サレンの追撃の炎の魔法を、シーヴァイスも今度は魔法術式の完成を間に合わせ、水属性魔法で迎撃した。
魔法の打ち合いならばサレンの方が有利のはずだが、飛行し続ける事で一手塞がり、さらにシーヴァイスはサレンほどの術式速度では無いものの、その魔法攻撃の間にウォーターブレスを挟むことによってこの差を埋める。
シーヴァイスは地形の有利と自分の特技を駆使して、本来不利なはずの魔法の打ち合いを五分の展開にまで持って行った。
そして____
「グゥウオオオオオオ!!」
シーヴァイスはその巨体を素早く動かしサレンとの距離を縮めて体当たりを行う。
「____ッ!!」
まるで高速列車の様なその突撃を、サレンは辛うじて逃げ切った。
だが____
「グゥウオオオオオオ!!」
____ザァッッパァアアアアアアアアン!!
シーヴァイスは、サレンが避けたと見るや、すぐさま尾ヒレをバタつかせ、水しぶきを上げた。
「あうっ!?」
シーヴァイスの巨体と人外の筋力で打ち出された水しぶきは、まるで散弾銃の様で、並みの水属性魔法を凌駕する威力があり、サレンの肉体をえぐった。
サレンの装備している魔導士のローブは魔法防御力だけでなく、物理防御力も高く、サレンも潜在魔法で肉体を強化していたが、それでも内臓を圧し潰されてゴボッと息を吐きだした時には血が混ざっていた。
(肉弾戦じゃ勝負にならない!)
サレンはダメージを受けながらも、飛行魔法を強化してすぐ距離を取る。
また手痛い出費をしたが、肉弾戦では勝負にならない以上、これも仕方が無かった。
(____どうする?)
肉弾戦は無理_____。
得意の魔法の打ち合いは、互角にまで詰められているこの状況・・・・・サレンには戦略が求められる。
サレンは距離を取りつつ今度は防護魔法を展開して、シーヴァイスに勝つための策を練り始めた。
_____ビュォオオオオオオオ!!
シーヴァイスは、サレンが距離を取ると直ぐに、風属性の魔法を発動する。
そうして、先程と同じ様にサレンの魔力を削りに行った。
(何をするつもりかは知らんが、魔力が尽きてしまえば、それまでだ!)
_____ズドォオーーーーーー!!___バシィイイイイイイイン!!
突風を起こしてサレンの動きを鈍らせた後は、口をサレンに向けてウォーターブレスを発射する。
ウォーターブレスはサレンが発動していた強力な防護魔法に弾かれるも、大きくサレンの魔力を削ることに成功していた。
「___ッ!ファイヤーボール!」
シーヴァイスの攻撃後の僅かなスキを突いて、サレンは速攻で炎魔法を撃ちこんだ。
___ドドン!!___バシィイン!
サレンのファイヤーボールは、シーヴァイスの鱗に当たると同時に消え失せる____。
ファイヤーボールが撃ちこまれたシーヴァイスの鱗には焼け跡すら残っていなかった。
サレンの速攻は並みの魔導士の攻撃魔法を上回る威力が有るのだが、シーヴァイスには全くダメージになっていなかった。
(ダメ・・・やっぱり上級レベルの魔法をしっかり溜めて撃ちこまないと、あの鱗は貫けない・・・あ!でも!)
_____ビュォオオオオオオオ!!
「___ック!」
シーヴァイスは再度同じ攻撃を行い、執拗にサレンの魔力を削りに行く。
恐らく、この次にはシーヴァイスお得意のウォーターブレスがやってくるだろう。
(それを狙う!!)
だが今度は、サレンはカウンターを用意してそのウォーターブレスを待ち構える。
シーヴァイスは風魔法の打ち終わりに、また口を開けてウォーターブレスを打とうとした____。
「今!」
それを待っていたサレンはシーヴァイスがウォーターブレスを打つ前に、シーヴァイスの口の中に速攻のファイヤーボールを撃ち込んだ。
(口の中なら!)
強固な鱗を打ち破るには、しっかり溜めた上級・最上級魔法が必要と判断したサレンは、鱗の無い口の中へと魔法を撃ちこむ作戦に出た。
____ドドン!___ドォオオオオオン!!
「____ッ!?」
シーヴァイスの口の中でサレンの炎魔法が爆発する____。
「やった!」
そう心の中で思ったサレンだったが、シーヴァイスと目が合った瞬間に、直ぐにその考えを捨てた。
口の中を焼かれたというのに、シーヴァイスの瞳には苦痛も動揺も見られず、闘志がみなぎっていたのだ。
ダメージは無い____。理由は分からなかったが、一瞬でそう判断し直したサレンは、すぐさま回避行動をとった。
_____ズドォオーーーーーー!!
そしてサレンの予想通り、ダメージの無かったシーヴァイスの口からウォーターブレスがされ、サレンが先居た場所には水の線が突き刺さっていた。
(____そうか!だからウォーターブレスも!)
シーヴァイスの攻撃を回避しながら、サレンは先程の攻撃が効かなかった理由に気が付いていた。
体内への魔法攻撃が通用しない理由なんて一つしかない___。
仮にサレンが思い当たった理由以外だったら、もうサレンにそれを知る術も時間も無いため、この戦いは敗北するだろう。
(なら、一か八か!)
このままでは敗北。他の理由も思い当たらない。他の理由を探している間、シーヴァイスの攻撃を防ぐ魔力も残っていない。
ならば、ここで勝負に出るしかない。
サレンは覚悟を決めて、シーヴァイスとの決着を付けるべく、七色の魔法術式を展開した____。