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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
173/359

准魔王との戦い(5)

 「「グゥウオオオオオオ!!」」


 ジェイルレオの指示で突撃を開始した戦槌赤熊達は、その巨体で地面を揺らし、木々を薙ぎ倒してヤスナガ隊との距離を縮めていく。


「「ピギーーーーー!!」」


 そして、木々が薙ぎ倒されてできた道からオーク部隊が後に続いた。

その数はおよそ450。それに対するヤスナガ隊は100人ほど。

魔族の方が個で上回る上、数も魔族側が有利な状況。

だが、ヤスナガ隊の面々に恐怖の色は無い。


「ハイロック・アーマー展開!!」


「「了解!!」」


ヤスナガの号令で、兵士達100人全員が誰一人として乱れることなく魔法を発動し、集団魔法の効果を最大限に得る。


 帝国の言う“兵の数”とは、魔法の連携も含む。

単に人数が多いだけでは、相手を恐れる理由にはならないのだ。

“より良い連携をより多くの人数で___”これが出来てこその“兵の数”なのだ。


「「うぉおおおおおおお!!」」


「「グゥウオオオオオオ!!」」


 ヤスナガ隊は、集団魔法で強化された防護魔法をその身に纏い、相手との数と体格差に恐れず、躊躇する事無く敵陣に飛び込んだ___。


____バコォオオオオン!!ゴゴゴゴン!!


 両軍が雄叫びを上げて衝突すると、岩が砕ける様な音が森に鳴り響く。

砕けていたのは戦槌赤熊たちが持っている武器の方だった。

これは当然の結果といえる___。


 ヤスナガ隊の集団魔法が強力だというのが理由なのだが、この集団魔法を強力たらしめているのは“知識”だ。

 帝国東方軍は、帝国軍内で最も魔族の知識に明るいのが特徴だ。

 その東方軍が持つ魔族の情報量は、他の軍の様に魔族の個体名や能力、修得している魔法だけではなく、持っている魔力量や体力も詳細に調べ尽くしている。

つまり、東方軍の兵士達は、スカーマリスの魔族に対して、どれくらいの防御力で相手の攻撃を防げるか、どのくらいの攻撃で相手の防御を突破できるか等も知っているのだ。


 ヤスナガは、戦槌赤熊の攻撃に対して、どれくらいの防護魔法を使えば防げるのかを知った上で、集団魔法を実行していたのだ。

個体によって多少の個人差はあれど、そうそう致命的な誤差など生じるはずも無い。

そのためヤスナガ隊は殆どダメージを負う事無く、一方的に戦槌赤熊にダメージを与えて行くのだった___。


「「グゥウオオオオオオ!!」」


 とは言え、防御に集団魔法を使用しているため、ヤスナガ隊の攻撃力はそこまで高くはない。

そのため、戦槌赤熊はどの個体も簡単には倒れず、戦意が衰える様子もなかった。

 ヤスナガ隊が中々敵の数を減らせずいると、敵の両翼だったオーク部隊が追い付いてきてしまい、ヤスナガ隊を包囲し始める。


「「ピギーーーー!!」」


オーク部隊の隊長は、多少は考える知恵が有るのか、自分達より強い戦槌赤熊が苦戦しているのを見るや、攻撃手段を魔法に切り替える。

てんでバラバラの魔法術式なので、集団魔法の効果は得られていないが、総勢200のオークたちの攻撃魔法はヤスナガ隊にとって致命的だろう。


「「うおーーー!!」」


「そうだ!先ずは足からだ!体力と動きを削って行くぞ!!」


「「了解!!」」


 オーク部隊が魔法で狙っているにも拘わらず、ヤスナガは気にすることなく兵士達に戦槌赤熊への攻撃指示を出す。

オーク部隊を無視する理由は勿論、オーク部隊に気付いていない訳でも対応する余裕が無いからでもない。

必要ないからだ____。


_____ビュォオオオオオオオ!!


_____バチバチバチィイイイ!!


オーク部隊が魔法を繰り出そうとする前に、風神雷神の援護射撃が届く___。


「「ピギーーーー!!」」


 2体の強力な大精霊の上級魔法により、オーク部隊は攻撃を止められ、包囲しつつあった陣形も崩される。

そして、魔法術式の展開速度で風神雷神に追いつけないオーク達は、魔法を使おうとする度に風神雷神に先を越されて上級魔法を撃ち込まれ、どんどんその数を減らしていった。


「チィッ!愚か者共め!敵の援護が強力なら散開するなり何なりすれば良かろうが!」


 ジェイルレオは、オーク達ではそんな臨機応変な対応は出来ないと頭では分かっているのだが、一方的に倒されて行く姿見て、思わず愚痴をこぼしてしまう。


「あの援護射撃をどうにかせねば!____っと!」


___バシィイイイイイイイン!!


 オーク達の方に気を置いていると、間髪入れずに逆方向から攻撃が飛んでくる。

気を逸らしていたとはいえ、存在を忘れたわけでは無いため、ジェイルレオは苦も無く防いで見せる。

だが鬱陶しいことに変わりはないため、舌を鳴らして顔を歪めた。


(チィッ!わしをここに釘付けにして兵を削る作戦か・・・戦槌赤熊は相手が防護魔法に比重を置いておるから、しばらくは持つはず。ならば、あの援護射撃でオーク達が殺られるまでが勝負か・・・)


相手の作戦を読み取り、ジェイルレオはそう判断する。

 あの援護射撃でオーク部隊が全滅すれば、そのまま戦槌赤熊の部隊も攻撃されて敗北する。

逆に、オーク部隊を残して敵の援護射撃を止める事ができれば、オーク部隊も攻撃に加わって敵部隊を撃破できるだろう。


「囮もせねばならんし、躊躇っている暇は無いのう」


 現在の状況を判断し終えたジェイルレオは、自ら囮役を務めるべく、攻撃魔法の術式を展開しながら懐から新たな魔道具を取り出した。

 それは赤黒い血の色をした藁人形だった。

 これもジェイルレオの自作の魔道具、“醜愛の証明”という呪術が掛けられた魔道具で、自分が受けたダメージを呪った相手に肩代わりさせるという魔道具だ。


「ナパームぅ!」


 準備ができるとジェイルレオはすぐさま魔法を発動し、戦槌赤熊部隊と戦っている敵部隊に向かって、味方が巻き込まれるのもお構いなしに上級魔法を撃ちこんだ。


「グレイトフル・ハリケーン!」


味方を巻き込む攻撃に躊躇が無かったのは、防がれると読んでいたからだ。

そして、そのジェイルレオの読み通り、ジェイルレオの攻撃は戦巫女がいると思われる方向からの風の防護魔法で防がれた。


「レールガン!!」


さらに同じ方向から電撃魔法も飛んできて、正確にジェイルレオの顔面を捉えて来た。


「ふん!もう一人居るのは分かっておったわ!」


だがこれも読んでいて、“醜愛の証明”を用意していたジェイルレオにダメージは無い。


「今じゃ!行けぇい!」


 囮を全うしたジェイルレオは、ここで部下に突撃命令を出す。

ジェイルレオが指示を出すと、護衛のアルケノン・ミノタウロス3体が空から、生き残ったグレイハウンド20体が地上からオーク部隊を攻撃している敵に向かって突撃を開始した。


 アルケノン・ミノタウロスは空で何者にも邪魔されず進むことができ、グレイハウンドはその敏捷性で苦も無く入り組んだ森を進んで行く。

両隊とも、先程の戦槌赤熊達の突撃とは比べ物にならないほどの速さで距離を縮めると、10秒もしない内に、巫女装束を身に纏った鳥人の女性と竜人の女性(風神と雷神)を発見した。


「ゴォアーーー!!」

「見つけおったか!?ならば、散開して敵を叩け!」


 敵を見つけたアルケノン・ミノタウロスは散開して、3体別方向から距離を縮めていく。


「「グルルウルルルルウウ!!」


グレイハウンドもアルケノン・ミノタウロスとほぼ同じ速さで距離を縮めている。


「「ピギーーーー!!」」


 更にオーク部隊もヤスナガ隊を攻撃するべく再度魔法術式を展開していた。


 空からのアルケノン・ミノタウロス、森からのグレイハウンド、そしてオーク部隊と、風神と雷神は複数の選択肢を迫られる。

だが、2体とも迷うこと無く召喚主の命令を実行した。


_____ビュォオオオオオオオ!!


_____バチバチバチィイイイ!!


「「ピギーーーー!!」」


 風神雷神が取った行動はオーク部隊への攻撃。

自分達に向かってくる敵を無視して、味方への援護を行った。


「「グゥウオオオオオオ!!」」


「「ガァオオオオオオオン!!」」


 オーク部隊への攻撃を行った事で、風神と雷神は一時的に無防備になる。

そのスキを逃すわけが無いと、アルケノン・ミノタウロスとグレイハウンド部隊は、一気に距離を縮めるため加速した。


「___今!」


 警戒を解いて両隊が加速したその瞬間、少女の声が響きわたり、その合図で木々の物影や地面から帝国軍の兵士達が飛び出して来た。

合図を出したのはウェイフィーで、姿を見せたのはサンダーラッツの工兵隊だった。

そして、物陰から出てきたウェイフィー達は、準備しておいた魔法の罠を発動した____。


 工兵隊が魔法を発動すると、先ず地面が光り、地面のあちこちに硬い石でできたトラばさみが現れ、グレイハウンド部隊を捕えていった。


「「ギャンギャン!!」」


「よし!」


トラばさみで身動きが取れなくなったグレイハウンド達を見て、通信兵のシマズも姿を見せる。

そして風の上級攻撃魔法の術式を展開。そのまま一気に術式を完成させて、グレイハウンド部隊に叩き込んだ。


 アルケノン・ミノタウロス達には、大木を利用して作り、設置してあった巨大なスリングショットから、2立方メートル程の大きさの土の塊が発射された。

飛ばされた土の塊は大きくて重量もあるため、あまり速度は出ておらず、アルケノン・ミノタウロス達は防ぐまでもなく、難なく旋回してこれを躱した。


「キャプチャー・バイン!」


 だが、アルケノン・ミノタウロス達が土の塊を避けるため旋回して速度が落ちた瞬間、今度はウェイフィーが魔法を発動する。

すると、工兵隊が飛ばした土の塊から、木の根がスゴゴゴゴッ!と勢いよく生えて、アルケノン・ミノタウロス達の足や翼を絡め捕った。


「「グゥウオオオオオオ!!」」


木の根に捕らえられたアルケノン・ミノタウロス達は、3体とも土の塊の重さに引っ張られて地面に落下していった____。


「よし!____もしもし!?」


グレイハウンド部隊に大ダメージを与え、アルケノン・ミノタウロス達が地面落ちたのを確認したシマズは、そこで一旦グレイハウンド部隊への攻撃を中断し、通信魔法を飛ばした___。


「____ヤトリ様ですか!えっ!?あ・・あ、はい。で、ではミクネ様。こちらの作戦は成功です。団長にお伝えください」

「___分かった。ならこっちも行動を開始する。次からは変な遠慮せず、最初から“ミクネ”って呼べよ。じゃあな」


 そう言って、ミクネはシマズとの通信を終える。


「ったく、遠慮しやがって、シマズの奴・・・。オーマ、ウェイフィー達は成功した」

「フフ・・・そうか、なら勝負に出よう。行くぞ!ミクネ!」

「おう!!」


 シマズから作戦の第二段階が成功した報を聞いたオーマは、作戦の最終段階、つまり“敵指揮官の撃破”のため、ミクネと共に白い獣人のもとへと駆け出した___。

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