准魔王との戦い(4)
「超振動砲___発射!!」
____ビャォオオオオオオオオ!!
「ヒャーーー!!」
4時の方向から飛んできた攻撃魔法に、ジェイルレオは用意していた防護魔法を発動する。
(ヒャ・・念には念を入れておいて良かったわい・・・・・・ッ!?)
万が一に備えて用意しておいた風の防護魔法で、何とか敵の攻撃を防げたと思っていたが、今度の相手の攻撃は自身の魔力を上回っており、押され始める。
「うぬぬぬぬぬ!?この力!こちらが戦巫女か!?」
自分以上の魔力を持っている相手と分かり、ジェイルレオはこちらが戦巫女だと断定する。
そうなると、その前の自身と同等の風の攻撃魔法を使用した者は何者なのかと気にはなるが、今はそれどころではない。
「___グレイトフル・ハリケーン!」
魔道具の杖の力を借りてなお押し切られそうになっているジェイルレオは、空いる手で更に風の防護魔法を発動し、相手の攻撃魔法を押さえ込もうとする。
「ぬ!?・・・こ、これでも無理だというのか!?」
魔道具を使って強化した上級魔法2発でも相手の攻撃を押さえ込めず、ジェイルレオはびっしょりと冷たい汗をかく。
追い込まれたジェイルレオは、自身の切り札を使う事を決断した。
「・・・少々早いが仕方が無いの・・・レジネスハート起動!」
ジェイルレオは自身の心臓に埋め込んである、自身最高傑作の魔道具“レジネスハート”を起動した。
切り札を使うにはまだ早いと思うが、全体の足を止めて魔法の打ち合いに応じ、打ち合いに負けた挙句、この超級の攻撃魔法を受ければ、被害は甚大になる。
何より自分の得意分野で負けたとあっては、魔導士としてのプライドが許さない。
ジェイルレオは魔族としてのプライドは持っていないが、魔導士としてのプライドは魔族の中で誰よりも高い。
自身の魔力を大幅にブーストする“レジネスハート”の効果でもって、ジェイルレオは二つの防護魔法をさらに強化した。
____ズゴォオオオオオオ!!
「ヒャーーー!!」
____バシィイイイイイ!!
“レジネスハート”で魔力をブーストし、相手の攻撃をなんとか相殺することに成功する。
「はぁ・・はぁ・・ヒャ・・ヒャ、ヒャハハハハ!」
苦戦こそしたものの、何とかこの打ち合いに勝利する事ができて、ジェイルレオは歓喜する。
「よし!反撃じゃ!魔法砲撃準備!方角は10時!」
この打ち合いの決着をつけるため、部下に敵部隊を攻撃するよう指示を出す。
そして自分は、戦巫女の攻撃に対応するため、4時の方角を警戒しながら再度防護魔法の準備に入る。
「___何じゃ?」
ジェイルレオが戦巫女の次の攻撃を警戒していると、その視線の先にチカチカと光るものが目に入った。
「ま、魔法?」
ジェイルレオの頭の中で、そう疑問が過り思わず呟いてしまう。
そして、まるでその声に応えるように、戦巫女の居る方向から魔法を発動する声が聞こえた。
「ケラウノス!!」
____バチバチバチィイイイ!!
ジェイルレオが呟いた疑問の答えは現実という結果で返って来た。
相手の放った電撃が、木の枝の様な不規則な線を描き、ジェイルレオ達を包み込む。
「グォオオオオオおお!!?」
凶悪な電撃を体に浴びて、ジェイルレオは鈍く低いうめき声を上げる。
(い、いかん!これは・・・この威力と規模はッ!!)
電撃上級魔法に身を焦がされながらも、ジェイルレオには状況を把握する余裕があった。
だが、そのジェイルレオが把握した状況には余裕が無かった。
相手の電撃魔法は、部下達に甚大な被害を与えていたのだ。
(__やはり!)
ジェイルレオは元々の魔法抵抗力も高く、身に着けた魔道具でさらに魔法防御力を上げている。
そのため、ジェイルレオは防護魔法を使わなくても、この電撃魔法に耐える事ができた。
だがジェイルレオの周りの者達は違う。
敵の電撃魔法は、直径30メートルにも及ぶ範囲で、ジェイルレオを中心に護衛の上級魔族5体、スカルメイジ2小隊、そしてグレイハウンド部隊の約半分を巻き込んでいた。
その中で、スカルメイジ20体と、巻き込まれたグレイハウンド達は即死しており、グレーターデーモンも重傷を負う。
戦闘続行が可能なダメージで済んでいたのは、ジェイルレオとアルケノン・ミノタウロスだけだった。
ジェイルレオは、自分以外の遠距離攻撃が可能な者達が殺られて、冷たい汗を流し、焦り始める。
(くっ!こうなれば距離を詰めるしかないわい!)
戦巫女にも備えなければならいため、召喚魔法で手を塞ぐわけにもいかず、今以上の手数は増やせない。
ジェイルレオは作戦を変更し、前衛の戦槌赤熊部隊と両翼のオーク部隊に突撃命令を出すことを決める。
「「うおおおおおお!!」」
「ぬぅ!?」
ジェイルレオの決断は即決だったものの、相手の想定通りの展開だったためか、既に帝国軍の一部隊が突撃して来ており、魔法の準備も始めていた。
「いかん!突撃じゃ!!」
「「グゥウオオオオオオ!!」」
「「ピギーーーー!!」」
相手に先手を許す結果になったジェイルレオは、慌てて突撃指示を出した____。
「___ああ。分かった。風神と雷神はそのまま砲台として使ってくれて構わない。じゃあな____」
魔法での通信を終えて、ミクネはオーマの方を振り返る。
「シマズからだ。ヤスナガが予定通り突撃を開始したって」
「そうか、分かった」
オーマはミクネからの報告を受けて、作戦の第一段階、“遠距離攻撃の打ち合いで相手の陣形を崩す”が成功したことを確認し、ほっと一息つく。
そのプレッシャーから解放されたオーマの様子に、ミクネは優しい笑みを浮かべていた。
「フフッ・・これで後は私達があの白獣人を抑え込んでいれば作戦は上手く行くはずだ。フフッ、やったな!さすがオーマだ」
「何言ってんだよ。どう考えたってミクネが召喚した風神と雷神のおかげだろ」
「お?そうか?まあ、そうだろうな!アハハハハ♪」
「おう?調子に乗ったかぁ?なら今の発言は撤回だ」
「アハハハハ!そう言うなよ!私に頼って損は無いぞ♪」
「___ったく(笑)」
自信満々にそう言ってくるミクネに、オーマは苦笑いを見せるも、その発言自体は否定しなかった。
実際に、ここまで作戦が上手く行ったのは、ミクネがSTAGE7(召喚)の技術で召喚した、風神こと風を司る大精霊シナツヒコと、雷神こと雷を司る大精霊タケミカズチの活躍が大きい。
どちらとも上級魔獣に匹敵する身体能力と、各々の属性の魔法をSTAGE6(付与)まで扱える技量がある。
そのため、雷神のタケミカズチなんかはオーマより強い雷魔導士である。
(正直、複雑な気分だ・・・)
召喚された存在が2体とも自分より強者であることに、召喚者が勇者候補と理解していながらオーマは複雑な気持ちになってしまう。
しかも、この2体の精霊は対になっているらしく、ミクネは風属性しか扱えないにも拘わらず、タケミカズチという雷属性の精霊も使役する事ができるそうだ。
(チート過ぎるだろ・・・)
それを聞いた時のオーマの感想は言語化するのも難しい。正に“言葉を失った”というやつだった。
身体能力、魔法能力、隠密能力、とほぼ全てのスキルとステータスに隙が無いヤトリ・ミクネ。
そんな彼女の唯一の弱点が“一つの属性しか扱えない”という事だった。
レインとの一件でも分かる通り、やはり扱える属性が一つだと、戦場で不利になる場面が多いのだ。
だがこれも、ミクネの風神雷神召喚によって穴埋めされる。
(ミクネが本物の勇者じゃねーの?)
ミクネの魔導士としての完成度の高さに、オーマは今まで出会った勇者候補達と同じ様な感想を抱いてしまう。
だが、本物の勇者の最有力であるサレンの力を見た後でもそう思ってしまったので、ミクネの評価はまた特別と言える。
(まあ、でも他の勇者候補の力を見たら、やっぱり同じような感想が出るんだがな・・・全員非常識だし。でもこれで全員が本物の勇者じゃなかったら___)
____本物の勇者の力とはどれ程になるのだろうか?
この作戦を任されてから、非常識な力ばかりを目にして来て、驚きの連続だった。
多少は慣れてきてはいるが、それでもいい加減にして欲しいとも思ってしまう。
とはいえ、まだ候補は残っているのだが・・・。
「おい!オーマ!」
「___ハッ!な、何だ?ミクネ?」
「何だじゃない。まだ作戦中だぞ?ボーッとするな。もうすぐヤスナガの部隊が敵と接触する。私達の仕事をするぞ!」
ミクネのチート能力に気を取られていたオーマをミクネが現実に呼び戻す。
オーマが我に返って戦場を見てみれば、森の木々の隙間から敵部隊が距離を縮めており、ヤスナガの部隊がそれに合わせて集団魔法の準備をしているのが視界に入って来た。
「ああ、そうだったな。すまん、ミクネ。行こう!」
「おう!」
オーマは気を取り直して、ヤスナガの部隊を援護するべく、敵指揮官の白い獣人を牽制するため、新たな魔法術式を展開するのだった____。