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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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准魔王との戦い(2)

 准魔王シーヴァイスの合図で5体のソル・リザードマンが、ハツヒナを囲むように湖の中から姿を現す。


「「ギャギャギャギャーーー!!」」


「____小賢しいですわ」


雄叫びを上げながら短めの槍を突き立ててこようとするソル・リザードマン達に、ハツヒナは普段より低めのトーンで捨て台詞を吐きながら重心を落として構える。

そして、魔法術式を展開____


「___白銀」


RANK2の金属性の錬成魔法で、ハツヒナは一振りの白銀の刀を造り上げる。

速攻ができる低級の魔法ゆえ、錬成された白銀の刀は、特殊な能力が有るわけでも強度が有るわけでもない、ごく普通の銀の刀であった。

だが___


「フッ!」

「ギッ!?______」


____キンッ!


 優雅ながらキレのある動作で繰り出されたハツヒナの抜刀術は音速を超えて、ソル・リザードマンがバラバラになってから刀が鞘から抜かれる音が響いた。

ハツヒナはその刀を鞘から出す抜刀術一閃で、襲ってきたソル・リザードマン5体を全て物言わぬ肉片に変えてしまった。


「このような雑魚をけしかけて来るなんて舐められているのかしら?」


 ソル・リザードマンを切り捨て、体を起こしながらハツヒナはそう冷たく言い放つ。

余裕の態度に見えるが、内心ではちゃんと追撃の可能性を考慮して、警戒心は残していたつもりだった____


「いえ、その様な事はまったく___」

「___ッ!?」


追撃を警戒していたハツヒナだったが、シーヴァイスはその予想を上回る速度で距離を詰めて来ていて、既に攻撃態勢に入っていた。


「はあっ!!」


___ブンッ!!


シーヴァイスの人間形態は魔族の中では小柄であるが、人間にとっては長身である。

 シーヴァイスは、その体格を活かし、長い脚を大きく回して蹴りを放つ____。

大きく弧を描くシーヴァイスの回し蹴りは、遠心力によって十分な重量を生みながらも先程のハツヒナの音速を超えた抜刀術に負けず劣らず速かった。


「___っ!」


ハツヒナは攻撃の打ち終わりを狙われたが、なんとかシーヴァイスの攻撃に防御を間に合わせる。


____ガィイイン!!


刀と脚の衝突でありながら金属同士がぶつかったような甲高い音が鳴り響く____。

両者とも凄まじい衝撃を受けるが、吹き飛ばされたのはハツヒナだけだった。


「____しまっ!?」


 最上級魔族であるシーヴァイスのフィジカルの強さを考えれば、防御を間に合わせただけでは、こうなってしまうのは仕方が無い。

だがハツヒナはそうは思わず、苛立ちを見せる。


(これでは追撃が!)


ハツヒナの苛立ちの理由は、先程の衝突で自分だけが吹き飛ばされた事では無く、態勢が崩される程吹き飛ばされたことによって、次のシーヴァイスの追撃を防ぐのが難しくなったからだった。


____バチバチバチィイイイ!!


「なっ!?」


追撃が気になってシーヴァイスの方を見てみれば、シーヴァイスは予想通り追撃の魔法の準備をしていた。

だが、準備している魔法はハツヒナの予想を上回るモノだった。


(雷属性!?海洋系の魔物は殆どが水属性のはず。その対極にある雷属性を使える!?しかも下は湖だというのに、このタイミングとは!)


 ハツヒナは、シーヴァイスが海洋系の魔物でありながら雷属性を扱える事に驚くと同時に、それを使用するタイミングにも驚いていた。

 雷属性が扱えるならば、下は湖で、ハツヒナはその湖に浸かっているのだから、簡単に感電させられる。

タメを必要としない低級の電撃魔法でも不意打ちとして十分な効果が期待できるはずだ。

だがシーヴァイスはそれをせず、ソル・リザードマンに強襲させ、自身が肉弾戦で追撃をしてから電撃魔法という手順を踏んだ____それは何故か?

いきなり電撃魔法を放っても、ハツヒナは対応できると思っていたのだろう。

つまりは、“念には念を入れて”確実にハツヒナに電撃魔法を叩き込む手順を踏んだのだ。


(この者は___!)


その手間を惜しまない念の入れようと、こちらに対する警戒心は、シーヴァイスが他の魔族とは違う事をハツヒナは認めざるを得なかった。


(この念の入れよう・・・この用意周到ぶり・・・他の自惚れた傲慢な魔族とは違いますわね。この者の相手は高い代償を払う事になりそうですわ)


 雷属性は、まともに受ければ感電し動けなくなり、更なる追撃を許すことになってしまう超攻撃的な属性だ。

ハツヒナは一応防護魔法を発動するが、タメの無い防護魔法で最上級魔族の攻撃魔法を受けるのは厳しいだろう。

ハツヒナは味方が援護に来るまでの間一・二発はシーヴァイスの攻撃を受ける覚悟をした。


(これはこれで好都合ですしね・・・)


 ハツヒナが覚悟を決めたのと同時に、シーヴァイスの方も上級魔法の術式を完成させる。


「速い・・・」


 ハツヒナは感心するように呟く。

人間の雷撃魔導士なら、例え最高クラスのオーマ・ロブレムでさえこの倍は掛かるだろう。

シーヴァイスの魔導士としての実力が伺えるものだった。

 元魔王軍幹部として人智を超えた力を見せつけたシーヴァイスは、そのままハツヒナの防護魔法と心臓を貫く電撃上級魔法を撃ち放った____はずだった。


「____ヒリアイネン・バロ!」

「ッ!?・・・サレンさん!?」

「・・・何だと?」


シーヴァイスが上級魔法を発動したのとほぼ同時に、距離を詰めたサレンも静寂の力を発動し、シーヴァイスの魔法を封じる事に成功した。


「・・・・これほどの力をこの時間で間に合わせるとは・・・」


シーヴァイスも初めて経験したサレンの“源流の英知”の力に、ハツヒナと同じく感心する様に呟き呆然としていた___。


 「お見事ですわ。サレンさん」


ハツヒナは少しだけ名残惜しんで、サレンに賞賛の言葉を贈る。

それから直ぐに防護魔法を解除し、シーヴァイスに反撃するための攻撃魔法の術式を展開した。


「自身の力に奢る魔族が多い中、その用意周到ぶりは見事でしたわ。でも、これでチェックメイトですわ」


RANK3の薬物属性の魔法術式を作りながらハツヒナはシーヴァイスに死刑宣告する___。

 だがシーヴァイスは、サレンからハツヒナの方にツィと視線だけを移し、フッと不敵に笑った。


「いや、源流の英知の手が塞がったのなら、そちらがチェックメイトだ___」

「・・・は?」


シーヴァイスにそう言われてハツヒナが驚いたのは一瞬だけだった_____いや、一瞬だけしか驚かせてもらえなかった。


______ザパァア___ズバンッ!!


「がは!?」


 水から上がった一つの影___。

先程のソル・リザードマンどころか、ハツヒナの抜刀術やシーヴァイスの体術より速い。

 ハツヒナは殆ど反応できず背中を斬り付けられて、これまでの人生で発した事が無い鈍い声を上げた。


「ハツヒナ様!?」


「「ハツヒナ様ぁ!?」」


サレンとツクヨミの隊長達が悲鳴を上げる。

これがハツヒナが最後に聞いた音だった____。


 振り返ってみれば、アマノニダイの民族衣装に似た黒装束を身に纏った一体の鬼が居た。


「か・・閑々忍者・・・」


これがハツヒナが最後に発した言葉だった____。


 暗殺特化のその上級魔族は、そのまま音も無く、動きの鈍ったハツヒナの懐に入り、手に持っている短刀をスゥとハツヒナの肉体に沈めた・・・。

これがハツヒナが最後に感じた感触だった____。


 音も無く入って来た短刀によってハツヒナの体は、操り人形の糸が切れた様に肉体の自由が失われた。

そしてハツヒナはそのまま大の字にバシャン!と音を立てて湖に姿を消した___。


「ハツヒナ様!!」


「「ハツヒナ様ぁ!!」」


「フッ・・総員突撃!!」


「「グゥウオオオオオオ!!」」


 再びサレンとツクヨミの隊長達が悲鳴を上げる。だが無情にもハツヒナがその声に反応することは無かった。

その悲鳴の後に響いたのは、指揮官を失った相手を一掃するためのシーヴァイスの攻撃命令と、魔物達の雄叫びだけだった____。

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