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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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准魔王との戦い(1)

 オーマ達がトウエツ街道で敵を迎え撃つ準備をしている頃、サヤマ湖に向かったハツヒナとサレンの部隊も目的地に到着する。



 サヤマ湖は横2キロメートル、縦10キロメートルの湖面面積20平方キロメートルの大きさで、アマズルの森の北東から南西に向かって楕円形の形で伸びている。

深度は北東側が浅く、人間の子供の膝下位の深さで、南西に向かって深くなっていき、最も深い所で40メートルにもなる。



 ハツヒナ達がサヤマ湖の北東側に到着すると、敵魔族部隊が湖の浅瀬で、泥と木材を使って柵や塀、丘といった簡単な防衛設備を築き上げて迎え撃つ準備をしていた。


「どうですか?サレンさん?」

「___はい。魔法による罠はありません」

「そうですか。なら、複雑な仕掛けをする時間も無かったでしょうから、特に警戒する必要は無いですわね」

「はい。相手も“無いよりはマシ”くらいで作ったのではないでしょうか」


 サレンの言う通り、実際にその柵や丘の上に待機している魔族は、リザードマンの弓兵部隊やスカルメイジの魔術部隊くらいで決して人数は多くなく、歩兵の殆どが防衛設備の手前で陣を形成している。

何より、指揮官の黒いタキシードを着た色白の男も防衛設備の手前、敵部隊の先頭で待機していた。


「“無いよりはマシ”___ですか。強度も無く、魔法も掛かっていない柵や塀など無いのと同じなのですがね」


末尾に“舐められたものだ”が付きそうな口調でハツヒナはそう言いながら、湖に足を踏み入れて進んで行く。

そしてサレンとツクヨミもそれに続いた。


「ああ、サレンさん。湖の深さには気を付けてくださいませ。サヤマ湖の北東側は基本的に浅いですが、突然深くなっているところもございます」

「分かりました。ハツヒナ様」


 ハツヒナの話では、サヤマ湖の北東側でも、人ひとりがスッポリ入ってしまうほどの深い部分が落とし穴の様にあるという。

敵が造った何の工夫も無い柵や塀などより、自然の方が帝国軍にとっては怖いのかもしれない。


 ハツヒナ達は足元に気を付けながら、敵との距離を120メートルくらいの所____ハツヒナがツクヨミを指揮する上で最も間合いを取りやすい距離まで来て立ち止まる。

 すると、それに合わせ、今度は魔族軍の指揮官である黒いタキシードの男が、一人ザブザブと音を立てて無防備に歩み寄って来た。


「・・・ハツヒナ様、あれは何のつもりでしょうか?」

「交渉・・もしくは舌戦かしら?」

「こ、攻撃しますか?」

「クスッ・・とても素敵な提案ですわ、サレンさん。ですが、帝国貴族の者として真正面で対峙して対話を望む者に手を加えたとあっては国の恥ですわ。私は国家の“格”というのも背負っておりますから、私が行って参りますわ」

「わ、分かりました。申し訳ありませんでした。無粋な提案をしてしまって・・・」

「フフッ・・とんでも無い事でございますわ、サレンさん。個人的にはサレンさんの提案には賛成ですもの。では、行って参りますわ。ただ、罠の可能性も有りますから気は抜かないようにお願いいたしますわ」

「分かりました。お気をつけて」


 ハツヒナはサレンにそう注意を促すと、今度は後ろを振り返ってツクヨミの隊長達にも目で訴える。

それを受けて頷く隊長達を確認すると、ハツヒナも一人、殆ど水音を立てることなく静かに敵指揮官との距離を縮め始めた。

 二人の距離が縮まって行き、互いの距離が5メートル程の所まで来ると、両者は足を止める。

 そこで黒いタキシードの魔族指揮官の方が、穏やかさと色気のある声で自己紹介を始めた。


「初めまして。スカーマリスの魔族達を束ねる准魔王が一人、シーヴァイスと申します」

「初めまして。ドネレイム帝国東方防衛軍第二師団師団長、ホウジョウ・ハグロ・ハツヒナと申します。スカーマリスの魔族を束ねる方は“准魔王”という敬称で呼ばれるのですね」

「はい。スカーマリスを支配している者は、元は種族の垣根を越えて魔王様より一軍を預かっていた者達です。それゆえ、他の種族や部族の長の様に“長”という敬称は用いません。さりとて魔王様を差し置いて“魔王”も名乗れませんので、この様な敬称を使っております」

「他の魔族の長と呼ばれる者達と違って、気品のある方ですわね。さすが元魔王軍幹部の方ですわ」

「帝国貴族の方にそう言って頂けるのは光栄にございます。帝国貴族の方とは100年ほど前に少し言葉を交わした程度ですが、皆様が貴方様のように気品と威厳がございました」

「あら、お上手ですわね」

「本心にございます。約100年、殆ど交流は無く敵対する間柄ですが、これだけ長い年月が経つと、敵対している相手であっても、尊敬できる相手ならば友の様に親近感が沸くものです」

「そうですか。我ら帝国は種を超えて寛容な精神を持つべきとの教えがございます。魔族とはいえ、種を超えて友と呼んでいただける事は光栄ですわ。___ですが、それならば何故その友のいる土地に足を踏み入れているのか不思議でなりませんわ」


 途中まで相手に合わせて穏やかな口調で話していたハツヒナだったが、途中から“茶番はいい加減しろ”とでも言うかの様に、声のトーンと周囲の空気の温度を下げて相手に詰め寄った。

シーヴァイスはそれに合わせて少しだけ挑発的な表情と声で返答した。


「それはもちろん自衛のためです。むしろ聞きたいのはこちらの方・・何故ヤーマル砦を落として我らの領地を侵したのですか?」

「我々はある人物・・いえ、一体の魔族を探しているのですわ」

「ほう?」

「あなた方准魔王を支配している者ですわ」

「その様な者は居りません。スカーマリスでの魔族の序列は准魔王が一番上で、准魔王同士は対等です」

「では、そんな准魔王さえ手玉に取れるような者は?」

「居ない___とは断言できませんか・・・もし居たとしたら、我々准魔王では気付けないでしょう」

「クス・・そうですわね。では質問を変えます。魔力の観測や探索に優れた魔法や能力を持つ者は?」

「・・・どれ程“優れた”者でしょう?」

「ここからタルトゥニドゥくらいの距離でも魔力を観測し、相手の力量を量れる者です」

「居りませんね」

「隠すと為になりませんわよ?」

「本当ですよ。それほどの距離で魔法が観測できるとなると、魔界広しと言えど、最上級魔族のヴァサーゴくらいしか居りません。そして、ヴァサーゴはスカーマリスには居ません」

「それを使役して召喚できる者は?」

「居りません。最上級魔族は魔王様以外の存在ではまず使役できません。我ら准魔王でも不可能です」

「もう一度申し上げます。隠すと為になりませんわよ?」

「もう一度お答えいたします。本当ですよ」

「・・・・」

「・・・・」


 問答を終えて両者の間に少しだけ沈黙が流れる。

そして、ハツヒナが溜め息でその沈黙を破ってから口を開いた。


「ふぅ・・・そうですか、では本当なのかどうかはもう問いませんわ。今、この場にその者を用意できないのでしたら同じ事ですもの・・・。せっかく友と呼んで頂けたのに申し訳ございませんが実力行使で参ります」

「交渉決裂ですね」

「交渉?していましたの?する気があった様には見えませんでしたが?」

「ハハッ!おっしゃる通り!ですが、それはそちらも同じでしょう?」

「さあ?案外、平和的に済んでいたかもしれませんわよ?」

「これはお人が悪い・・・我ら魔族以上だ」

「褒め言葉として受け取っておきますわ」

「ええ、どうぞ遠慮なく受け取ってください。ついでに____こちらも受け取って頂けませんか?」


 シーヴァイスはそう言うと、指をパチンと鳴らして合図を出した。


_____ズゥウウウオオオオオオ!!


「___ッ!?」


シーヴァイスの合図で、ハツヒナの周囲に渦ができる。


「罠!?いや、伏兵!?」


離れて二人の様子を見ていたサレンが叫ぶように声を上げる。


____ザパァ!!


その声に応えるかのように5体の魔物が姿を現した____。


「「ギャギャギャギャーーー!!」」


「ソル・リザードマン・・・」


ハツヒナは小声で自分に襲い掛かって来た魔物の名を呟いた。



 ソル・リザードマン___。

 リザードマンの上位種ではなく変異種で、リザードマンと同じ中級魔族に分類される。

身体は平均で1.5メートルと小柄である。

当然リザードマンと同じ爬虫類型の獣人なのだが、海洋哺乳類のイルカのように滑らかでゴムの様な肌触りの皮膚を持っていて、背びれや尾ひれも付いている。

そのため、魔物に詳しくない達の間では、リザードマンの変異種とは知らずに“半魚人”と呼ぶ者もいる。

また、軟体生物の様に体が柔らかいため、小柄な体格と相まって身を隠すのが上手く、30~40センチ程度の浅瀬の泥の中にも身を潜ませる事ができる。


 「あんな浅い水の中に潜むことができるなんて!?」


ソル・リザードマンを初めて見たサレンは、敵が浅瀬に潜んでいた事に驚きながらも体は無意識に反応していて、ハツヒナの援護に向かうべく駆け出していた。


「「続けーーー!!」」


そのサレンの咄嗟の動きに触発され、ツクヨミの隊長達も突撃の指示を出し、帝国軍は突撃を開始する。


 こうして、准魔王との戦いの火ぶたが切って落とされるのだった____。

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