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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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トウエツ街道到着

 オーマたち迎撃部隊は、作戦会議を終えて支度を整えると夜の内に出発した。

敵部隊を補給線手前で待ち伏せするならば、トウカイ道のもと来た道を戻っていては間に合わない。

そのため森を突っ切って、補給線として利用しているトウエツ街道に出る必要が有る。

 日中でも日があまり差さない薄暗い深い森。夜中であれば前も足下も見えず、間違いなく迷うはずなのだが一行は明かりも点けずに難なく進んで行く。

ヤトリが先頭を進み、風魔法で皆に行く方向を示しながら進んでくれていたからだ。

そのおかげで、誰一人として逸れることなく森を進み一夜明けて昼になる頃には、オーマ達は予定通りトウエツ街道に出る事ができた。

 目的のトウエツ街道に出ると、オーマはミクネに頼んで直ぐに斥候に出てもらう。

オーマと打ち解けてきているミクネは快くこれを引き受け、一時間ほどで敵部隊の位置と部隊編成を把握して戻って来た____。



 「戻ったぞ、オーマ」

「ご苦労だったな、ミクネ」

「お安い御用だ。それより、敵は予定通りトウエツ街道に入っていた。あの進軍速度なら後30分ほどでここを通るだろう」

「敵の編成は?」

「先頭に戦槌赤熊が250。その後ろにヘルハウンドが50。その両サイドにオークが100ずつだ」

「主力は戦槌赤熊か・・・」



 戦槌赤熊せんついあかぐまとは“クマ”と呼ばれているが獣人に属する魔物で、森__特に金属が採掘できる山の麓の森で、10数体ほどで群れをつくり集団生活を送る中級魔族だ。

顔が熊で、肩と背中に毛が生えているが、それ以外の首から下は人型で赤色の体をしている。

 赤い皮膚を持った3メートル位の筋骨隆々な大男が、クマの毛皮を被っている様な見た目だ。

 その見た目通りパワーがあり、手に持っている手作りの両手斧や戦槌で巨木も薙ぎ倒す。

人間ならどれほど鍛えた者でも、防護魔法を使用しない限り耐えることは出来ないだろう。



(殆ど獣人での編成で、強襲向きなのはヘルハウンドの50だけ・・・これは、こっちの部隊も誘っているのかもな・・・)


 元々ミクネを釣るための作戦と編成なのだから、この敵部隊も補給線を目指しながらもミクネを迎え撃つ準備があると思っていた方が良いのかもしれない。

オーマはその事を頭の片隅に置いて、ミクネの話の続きを聞く。


 「___それで、そのヘルハウンド部隊の後ろに敵指揮官だ」

「元魔王軍幹部のスカーマリス魔族の長だな。どんな見た目だ?」

「白い獅子の獣人だ。装備も白い魔導士のローブで、成金みたいにジャラジャラ装飾品を一杯身に着けている。めちゃくちゃ目立つから直ぐに分かるはずだ」

「そうか・・・」


ただの好みで最上級魔族が装飾品を身に着けているとは思わないので、オーマはその装飾品は魔道具だと考え、その事も頭の片隅に置いて警戒しておく。


「そんで、そいつの前にアルケノン・ミノタウロスが3体。後ろにグレーターデーモンが2体護衛についている」

「上級魔族5体とはまた・・・さすがだな。そしてアルケノン・ミノタウロスとは珍しい・・・」


 アルケノン・ミノタウロス_____。

 牛の顔を持ち8メートル位の巨体を持つ獣人魔族に、ミノタウロスという中級魔族が存在する。

中級なのだが凄まじく剛力で、魔法を使わない素の膂力ならばパワー系の上級魔族にも匹敵するため、中級でありながら戦闘能力は非常に高い。

単純に魔法が使えないから中級魔族に分類されてしまっているだけの獣人だ。

 このミノタウロスの上位種になり、上級魔族に分類されるのがアルケノン・ミノタウロスだ。

 オーマが珍しがるように、ファーディー大陸では滅多にお目に掛れない魔界に住む獣人魔族で、体格はミノタウロスより小さく6メートル弱だが、肉体の膂力も耐久力もミノタウロスを上回る。

その上、魔法も使用でき、それも炎属性と土属性の2種を高い練度(帝国基準で大体STAGE4(放出)くらい)で使用でき、魔導士としての能力も高い。

遠距離魔法攻撃は出来ないが、中距離・近距離の魔法攻撃に加え、防護魔法も二属性を巧みに扱うので、特に接近戦は上級魔族で最強格である。

 更にはミノタウロスとは違い、背中に大きな蝙蝠羽が生えているため空も飛べる事ができ、空中戦も可能で戦場を選ばない。

攻守とも汎用性の高い有能な獣人魔族である。


「敵指揮官はかなり用心深い奴なんだな」

「それも有るだろうが、見た目通りの魔導士タイプなんだろう。接近戦に持ち込まれないようにするための護衛って感じだ」

「言い方を変えれば、遠距離での戦いが得意ってか?」

「多分な」


言われて思い返してみれば相手の陣形は、ヘルハウンドを中央に置いてその両サイドに汎用性の高いオーク部隊を配置するあたり、敵は相手を襲うというより、襲われた時に自分に近寄らせないための陣形にしているとも捉える事ができる。


(それだけあの白獅子の獣人は自分の魔法に自信が有るのか?それともミクネが襲ってくることを想定しているのか?)


 アルケノン・ミノタウロスは、グレーターデーモン程は魔法の練度が高くないため、攻撃魔法は近距離・中距離でしか使えない。

となれば、相手勢力で遠距離魔法攻撃が可能なのは指揮官の白獅子の獣人と、その護衛のグレーターデーモン2体だけである。


(・・・なら、遠距離での魔法の打ち合いは、こちらに分があるか?)


 指揮官の白獅子の獣人の魔法技量は未知数だが、恐らくミクネほどではないだろう。

ミクネを誘い出すという敵の動きを見る限り、そう予測できる。

 そしてグレーターデーモン相手なら、オーマはグレーターデーモンより先に上級魔法を叩き込んで、魔法の打ち合いで勝つ自信がある。

サンダーラッツの隊長でもクシナとウェイフィーなら、グレーターデーモンとの魔法の打ち合いに勝利できるだろう。

ツクヨミのヤスナガの力量は分からないが、第一貴族の部隊の隊長を務める者なら勝算はあるように思える。


「ヤスナガさん」

「呼び捨てで構いませんよ、オーマ団長。貴方の方が立場は上ですし、何より私は平民ですから」

「そうか。じゃー、ヤスナガ。君は遠距離での魔法の打ち合いで今回の相手に勝つ自信はあるか?」

「敵指揮官の白い獣人はまだ見たことが無いので分かりません。まあ、評判通りの元魔王軍幹部なら厳しいでしょうね。ですが、それ以外の相手なら勝つ自信はあります。それ以外といっても遠距離の魔法攻撃ができるのはグレーターデーモンくらいでしょうが」


なら完全に遠距離での打ち合いはこちらに分があると言える____。


「ついでに聞きたいのだが、接近戦ならどうだ?」

「遠距離と同じですね。白い獣人以外の魔物が相手で、一対一なら誰にも負けません」

「・・・グレーターデーモンやアルケノン・ミノタウロスにもか?」

「はい」

「すごいな、君は・・・」


 いくら帝国が強いと言っても、上級魔族相手に一対一で勝てる者はそう多くない。

サンダーラッツでもオーマとヴァリネスだけだろう。

他のサンダーラッツの面子では、連携して戦わない限り、勝利をものにするのは難しい。

タルトゥニドゥでの戦いからでも分かるように、不意を突かれれば一撃で戦闘不能になる事だって有るのだから。


「東方軍の隊長クラスなら皆そうですよ。私だけじゃありません」

「さすが対魔族軍という訳だな」

「はい。むしろ、私はオーマ団長やフィットプット隊長と戦う方が怖いですね」

「世辞が上手いな」

「本心ですよ。サンダーラッツの実力を知らない連中や第二貴族は貴方の事を“ドブネズミ”などと馬鹿にする者もおりますが、私は北方遠征軍の強さを知っているつもりです」

「はは・・・そうか、ありがとう」


以外にも自分に好感を持ってくれていた事に驚きつつ、それならば尚の事かっこ悪い姿は見せられないと、オーマは頭の中で必死に作戦を考えた。


 そして____


「____よし!」

「決まったか?オーマ?」

「ああ。やっぱり初手は工兵隊の罠や不意打ちではなく、遠距離魔法攻撃にする」

「ミクネに頼る作戦?」

「その通りだ、ウェイフィー。相手に魔族の長がいる以上、こちらの勝利のカギはミクネになるだろう。そしてミクネの力を攻撃で最大限に活かすなら、ミクネに一番槍をやってもらうのが良い」


隠密としてではなく、多人数戦での攻撃でミクネを活かすなら、やはり広範囲・高威力の魔法を初手で使うのが良いだろう。乱戦など距離が近い状態では味方を巻き込む可能性が有る。

距離のあるうちにミクネを使うべきだとオーマは判断した。


「ああ、任せてくれ!!」

「よし!なら、初手でミクネを中心に遠距離魔法攻撃を行い、敵陣形を切り崩す。それから____」


 オーマの決定に、ミクネは胸を張ってやる気十分に返事した。

そのミクネの姿を今のオーマは好ましく受け止める。そして、そのまま自身の作戦を皆に伝える。

 オーマの作戦の説明が終わると、異を唱える者は誰も居らず、全員がオーマの作戦に賛成した。

皆が自分達の役目を理解すると、直ぐに迎撃の準備に入り、准魔王の居る敵部隊を待ち構えるのだった____。

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