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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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不安を覚える会議

 准魔王シーヴァイスはジェイルレオを見送った後、自身の天幕に戻る。

探知阻害の魔法が掛けられた天幕でシーヴァイスは一人、ようやく息を付けるはずなのだが天幕の中で寛ごうとせず、姿勢を正してから誰も居ないはずの天幕で話しかけた。


「予定通りに行きました。明日、ジェイルレオは目的地に出発します」

「はい♪ご苦労様、シーヴァイス。ここまで大変だったわね」


 誰も居ないはずの天幕でシーヴァイスが話し掛けると、子供の様に無邪気で明るいトーンでありながら色香の漂う女性の声で返事が返って来た。

そしてそれと同時に、何もない虚空から浮かび上るかの様に声の持ち主であるリデルが姿を現した。

 現れたリデルに対して、シーヴァイスは臣下の礼を取ってから、口を開いた。


「大変などという事はございません。最早あの三人はプライドだけの馬鹿どもですから・・誘導するなど容易い事です。・・・それで、勇者候補の二人は?」

「ええ、ちゃんと聞いてくれていたわ」

「そうですか、それは良かった」


明るい口調で話すリデルに対して、シーヴァイスはやや硬い口調でそう答える。


(あの二人の隠密行動を看破するだけでなく、監視までできるとは・・・)


シーヴァイスは冷たい汗を流していた。

 あの二人が居た事は、ジェイルレオは勿論、事前に知らされていたシーヴァイスでさえ、指示通りにジェイルレオと話している間ずっと探し続けていたが、二人を見つける事はできなかった。

その強さを見込んで配下に加わったとはいえ、リデルのその実力に内心で恐怖を覚えた。


 「それにしても意外と簡単だったわね。あの子達は全く不思議に思わなかったのかしら?自分達がここに辿り着いたタイミングで都合よく探知阻害の魔法が掛けられている天幕の外で作戦の指示を出していた事に」

「難しいでしょう。あの二人が使っていた隠術魔法と索敵魔法はかなり高度なモノのようですから、それらを看破して見張っていた者が居たとは思わないでしょう」

「貴方は二人に気付けなかったものね♪」

「ッ・・・はい」


図星を付かれてシーヴァイスは一瞬苛立つ。

 そして、自身のその内心をリデルに悟られたくなくて話題を変えた。


「ジェイルレオ・・・大丈夫ですか?」

「どういう意味?私があの老人一人狩れないとでも思っているの?」

「いえ、そうではありません。貴方が目的を達する前に、奴が帝国に狩られる可能性を言っているのです」

「大丈夫じゃない?あの爺さんはちゃんと腑抜けているからヤバくなったらプライド捨てて逃げるわよ」

「だと良いのですが・・・」

「大丈夫よ♪貴方は気にしなくても。万が一のときでも私一人で上手くやるわ。貴方こそ色気を出さずに、用が済んだらさっさと逃げなさい」

「心得ております」


そう言って頭を下げ、再び戻した時には既にリデルの姿は無くなっていた。

居なくなっていた事に気付く事ができなかったシーヴァイスは、やや自称気味に苦笑いした。

だがそれも一瞬の事で、直ぐに気を取り直すと明日明後日には遭遇するであろう帝国軍を迎え撃つため、自身も準備に取り掛かった_____。






 「オーマさん!」

「オーマ!」

「二人共戻ったか!?」


 日が沈んで、今日の進軍を止めて野営していたオーマ達のところに、斥候に出ていたヤトリとサレンが戻る。

オーマは無事に戻った二人に笑顔を見せて出迎えた。


「良かった・・・二人共無事だったか」

「はい」

「何だ?心配していたのか?私とサレンが森で敵に見つかるわけが無いだろう」

「そうやって生意気な事言うから心配になるんだよ」

「何だと!?私のどこが生意気だ(笑)」

「全部に決まってんだろ(笑)」

「フフフ♪」


 再開早々にオーマとミクネは喧嘩を始めてしまう。

だが、二人共笑顔で、以前の様にトゲトゲしいものでは無く、それは心を開いた者同士の軽口に変わっていた。

その雰囲気と二人が仲良くなった事が嬉しくて、サレンも思わず笑みをこぼしていた。


 「楽しそうにしている最中申し訳ないのですが___」


「「ひっ!?」」


音も気配も無く突然現れたハツヒナに、三人は本気でビビッてしまった。


(こいつはナチュラルに存在感が希薄なんだよ)


隠密としてではなく、育ちの良さで物音を立てない動作が身についているのだろう。


「・・・如何なさいました?」

「あ、いや・・何でもありません」

「そうですか、それでしたらお二人には戻って早々で申し訳ありませんが、早速作戦会議に入りたいのですが____」

「あ、そ、そうですよね。了解いたしました」

「よ、よし!じゃー私が他の連中を呼んで来てやろう!サレン、行くぞ!」

「え?あ、は、はい!」


ハツヒナと絡みたくないミクネは適当な理由を見つけて、その場を離れていった。


(あいつ・・そんな避け方は露骨だろう・・・今更だけど)


ミクネの分かり易い拒絶に、オーマの方がヒヤヒヤしてしまい、思わずハツヒナの顔色を窺ってしまう。


「・・・どうされました?オーマ殿?」

「あ!あ、い、いえ・・・何でもありません」

「そうですか。ではお二人が主なメンバーを集めてくださるようですから、私達は先に会議用の天幕に行きましょう」

「は、はい・・・」


だが、ハツヒナにはミクネの態度を気にする様子は全く無かった。

オーマはハツヒナのその態度に違和感を覚えながらも、ハツヒナと共に皆が集まる天幕へと移動した。


 それから暫くして、軍議用の大きい天幕に、ハツヒナ、オーマ、サレン、ミクネ、ウェイフィー、そしてツクヨミの部隊長達が集まると、作戦会議が始まった____。




 「____報告は以上になります」

「そうですか、お二人共ご苦労様でした」

「ありがとうございます」

「敵の動きは大体予想通りでしたね、ハツヒナ様」

「ええ。ですが戦力はこちらの予想以上ですわ。やはりツクヨミを連れてきて正解でしたわね。アマノニダイ軍の500ではこの戦力の相手は厳しかったでしょう」

「兵数2000に魔王軍幹部二人ですからね」


 ハツヒナが話している間、ミクネはずっと気配を殺して黙っている。

そして、サレンも同じ様にしている。

他の者達も第一貴族のハツヒナに発言を許されない限り口は開けないので、会話は終始オーマとハツヒナで行われた___。


 「それに500人では、補給線を狙う部隊に人数を割けば、戦力は不十分なものになっていたでしょう」

「味方の数が少なくなればなるほど、こちらが不利ですからね」

「かといって片方ずつ相手にする、という訳にはまいりませんわ。迎撃をどちらか一方に絞れば、もう一方にオウミか補給線を狙われますから」

「では部隊を割いて、同時に迎撃するのですね?」

「そうなりますわ。片方が相手の誘いに乗ってサヤマ湖付近で待ち伏せする部隊を。もう片方が迂回して補給線を狙う部隊の迎撃ですわ」


 ハツヒナの提案した作戦に、オーマは直ぐに頭の中で編成を考える。


(湖近辺で待ち伏せする部隊の方が1500と数が多い。こちらに多くの兵を割くのは当然だよな。補給線を狙う部隊には可能な限り少数で先回りして、待ち伏せする・・・普通に考えれば、湖への部隊にはツクヨミを。補給線を狙う部隊にはウェイフィー達を、可能であればツクヨミの一部隊も向かわせるといった感じか・・・)


 この辺りの考えは会議でもこうなるだろうと思うので、オーマは余り心配していない。

そして、魔族の長が二手に分かれる以上、こちらもミクネとサレンを別々にする必要が有るだろう。

これも妥当な判断だと思うので、あまり気にしていない。

 そんな事より何より心配な事が____


(ハツヒナとミクネだ・・・)


 今までの事を考えれば、恐らくハツヒナは、また自分がミクネと行動すると言い出すだろう。

ミクネとしては・・・いや、オーマにとってもハツヒナをミクネに近づけたくは無い。

できれば二人は別々にしたいところだが、総大将のジョウショウ相手にも自分の意見(というより性癖)を通す第一貴族のハツヒナ相手に、オーマにそれが出来るだろうか?

 今考えている編成で言えば、湖で待ち伏せする部隊にはツクヨミを当てるためハツヒナが居た方が良いだろうし、補給線を狙う部隊には隠密行動をとるので、サレンより隠密が得意なミクネが居た方が良いだろう。

順当に考えてそうすべきとは思うのだが、そんな正論で黙る相手ではない事はこれまでで証明済みだ。


(どうにか説得しなくては・・・)


 そう考え、ふと視線を移すと、サレンとウェイフィーが何やら訴える様にオーマに視線と送って来ていた。

その視線で、オーマは直ぐに意図を察する。

サレンもウェイフィーも、“ミクネを守ろう!”と言っている。


(あの二人も考えている事は同じか・・・)


ならば二人の援護・・特にハツヒナでも無下にできないサレンの援護があれば説得できるだろうか?

 オーマはそこまで考えると、ハツヒナが何かを言いだす前に自分が主導権を握った方が良いと考え、自分の意見を口にした。


「こちらも二手に分かれるのでしたら、補給線を狙う部隊には私の工兵隊とミク・・ヤトリを中心に、隠密が得意な部隊で先回りし、湖で待ち伏せする部隊には人数が多いので、ハツヒナ様に指揮を執って頂いてツクヨミの方々に対応して頂くのが良ろしいかと・・・」

「そうですわね。私もそれが良いと思っておりましたわ。では、湖に向かう部隊の指揮は私が。補給線へ向かう部隊の指揮はオーマ殿にお任せします」

「___は?」


反論が来ると思っていたオーマは、自分の意見をあっさりと肯定され呆気に取られてしまった。

完全に予想外で、見ればサレンとウェイフィー、そしてミクネも目を見開いて驚いていた。


「どうなさいました?」

「あ、い、いえ、私の様な者の意見をハツヒナ様に認めて頂けて嬉しさのあまり言葉を失っておりました・・・」


オーマは、自分でも苦しいと自覚しつつも、何とか言い訳を絞り出した。


「クスッ、そのように謙遜なさる必要はございませんわ。・・ただ、そうですね。サンダーラッツとヤトリさんの実力を疑う訳では無いのですが、もう少し人数が居た方が良いでしょう。相手に魔王軍幹部がいるのですから、ヤトリさんの魔法を見破る探知や索敵の魔法を持っているかもしれません。私のツクヨミの偵察部隊も連れて行ってくださいませ。ヤスナガ、よろしいですわね?」

「畏まりました。オーマ団長、ヤスナガ・ジンと申します。よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

「では編成も決まりましたし、他に何もなければ解散としましょう。敵が明日の朝に出るのでしたら、オーマ殿達には今日中にトウエツ街道へ向かって頂かないといけませんから」

「そ、そうですね・・・」

「では会議を終わりにします。お疲れさまでした」


「「お疲れさまでした」」


予想外にも、作戦はオーマの望んでいた通りにあっさりと決まり終了した。

 この後、オーマは不思議に思って出発の準備をしている最中もそれとなくハツヒナの様子を窺っていたが、ハツヒナがミクネに言い寄るようなことは無かった。

オーマはその事に言い表せぬ不安を抱きながらも、ミクネ、ウェイフィー、シマズと工兵隊50人。そしてツクヨミ偵察隊の100人とその隊長であるヤスナガ・ジンを連れてトウエツ街道に向かうのだった____。

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