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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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トウカイ道偵察

 トウカイ道_____。


 アマノニダイからオウミに向かう魔族部隊がいるとの報告があった街道の名だ。

スカーマリスの都市からアマズルの森を通ってアマノニダイの都市をつないでいた街道で、昔はスカーマリスに住んでいた人間達がアマノニダイのエリストエルフと交流するために利用していた。

元はしっかり整備された道だったのだが、スカーマリスが魔族に支配され、准魔王のジェイルレオがスカーマリス南東部とそこに面したアマズルの森の北東部を管理するようになると、百数十年もの間その管理は杜撰であったため、今現在は街道の名残は殆ど無く獣道と化している。


 迎撃部隊としてトウカイ道にやって来たオーマ達は、勇者候補であるヤトリとサレンの二人を斥候として先行させる____。


 獣道と化しているトウカイ道の道を二人は苦も無くスイスイと進んで行く。

二人共、エルフとして森になれている上、狩猟を通して隠密行動も磨き抜かれているため、この程度の獣道には時間も足も捕られない。

 そして、二人共最高クラスの魔導士である。

二人は気配を殺しながら進むだけではなく、高度な魔法も同時に駆使している。

ヤトリは音と風を操り音と匂いを消し、サレンは探知魔法で周囲を索敵しながら街道を進んでいた。

 この両者の魔法を駆使した隠密行動は、帝国最高の隠密部隊バグスのカラス兄弟も顔を青くすることだろう。

相当な者でない限り二人の隠密行動を看破することはできないはずだ。

実際、今この二人の隠密を見破っているのは一人だけである。

 そうして、昼からオーマ達と別行動で先行していた二人は、二刻ほど過ぎて日が傾きそうになった頃、スカーマリス魔族部隊を補足するのだった___。



 「止まってください!ヤトリさん!」

「ッ!?___見つけたか!?」

「はい。この先約4キロメートルの地点です。数は報告通り2000ほど。動いていないので野営しているかと」

「ここから4キロ先で野営・・・この先にはサヤマ湖という湖があったな・・・そこか」

「どうしますか?」

「サレンはここから敵戦力を量ることができるか?」

「さすがに無理です。私はヤトリさんほど魔法の範囲拡大に長けていませんから、相手の魔力などを量るならもう少し近づかないと」

「分かった。なら、もう少し近づこう」

「大丈夫ですか?敵に索敵魔法の長けた者が居れば見つかるかもしれませんよ?」

「大丈夫だ。敵の居る方向が分かっていれば、音や匂いを消すだけでなく探知阻害もできる」

「・・・・・」

「ん?どうした?」

「本当に便利ですよね。ヤトリさんの能力って・・・」

「・・・・お前が言うなよ」


 少し緊張感に欠ける会話をしてしまいながらも二人は更に距離を詰めて行った___。

 そして敵に見つかることなく、相手との距離が約1キロというところまで来ると、そこで足を止めた。

森での生活になれている二人にとって、1キロというところまで距離を縮めれば、魔法での索敵は勿論、肉眼でも相手を補足するのは難しくない。


「・・・やっぱり野営していますね」

「あいつら・・・魔族の癖に一丁前にテントなんかも作っているぞ。生意気な」


 二人の視界に入って来たのは、森の木の枝や葉などを使って簡易的なテントを作って野営している魔族達の姿だった。


「魔獣が多い・・・でも、テントなんかも作っているという事は、知性の高い魔族も居るはずですよね?」

「ああ・・・。後、やっぱ罠で確定だ。あの野営地、獣の骨とかが散乱している。数日はここに居たって事だ。オウミを強襲する気は無かったんだ」

「わざと見つかって、こちらを待ち伏せ____というわけですね」

「サレン。この距離ならどうだ?」

「イケると思います。やってみます」


 そう言うとサレンは魔法術式を展開する。

風属性では現在自分達を隠しているヤトリの隠術魔法と競合する恐れが有る為、土属性の探知魔法を使う。


「・・・上級と思われる魔力量の存在が多数居ますね・・・・・あ!かなり強大な魔力を持った存在が二人!以前戦った魔王軍幹部のディディアルと同等です!」

「スカーマリス魔族の長達か!?」

「一番大きいテントです!今、出てきます!」

「____ッ!!」


 言われてヤトリは、隠術の魔法をもう一段階強化して身を隠す。

そうしてサレンの言っていたテントに目を凝らすと、テントから二体の魔族が出て来たのを確認した。


(___ッ!?・・・こいつら・・・)


出てきたのは成金の様に身を飾っている白い獅子の獣人と、黒いタキシードを着た青白い肌の美麗な男だった。


「ヤトリさん・・・あの二人、かなりの強さです」

「ああ、私にも分かった。肌で感じたよ・・。クソッ!舐めていた。元魔王軍幹部なんて大したこと無いと思っていた」


 ヤトリは自身の考えを改める。

ヤトリは、心の底でスカーマリス魔族の長の強さなど上級魔族に毛の生えた程度の高が知れる強さだと思っていた。

だが、ヤトリの視界に入って来た二人は、上級魔族からかなり逸脱した力を持つ者だと肌でも感じ取れる。

一対一ならばともかく、二対一や他の上級魔族なども一緒に相手にするとなれば勝利するのは危うい、そうヤトリの勘が訴えている。

 実を言うと、ヤトリは敵を見つけたら、“サレンと二人でそのまま倒してしまおう”などと考えていた。

サレンと自身の強さならイケると考えていたが、どうやらその考えは浅はかだったようだ。


「やっぱり、ヤトリさんを誘き出して仕留めるために、それなりの戦力を用意していましたね・・・敵の強さも編成も分かりましたし、戻りましょう」

「いや、待ってくれ。あれだけの戦力なら敵のこれからの動きも探りたい。盗聴できるか試してみる」

「可能でしょうか?あのレベル・・・特に白い獣人の方はかなりの魔力を持っています。探知や探知阻害の魔法にも長けているのでは・・・」

「分からない。でも、探知阻害の掛かったテントの外に居る今なら何か聞けるかもしれない」

「分かりました」


そういう訳で、今度はスカーマリス魔族の長二人の会話を盗聴するべく、ヤトリは風属性の盗聴魔法を発動する。


 そして魔族の長二人の会話を聞くことに成功した____。



 「____わしが奴らの後ろに回るのか?」

「はい・・・バルドール城の通信兵から連絡がありました。現れた帝国軍の数が、ベーベル平原のときより千以上は少ないと」

「ベーベル平原の死傷者分を引いても少ないのじゃな?」

「はい。・・というより、ベーベル平原の戦いでは帝国は殆ど被害が出ていません」

「ヒャッヒャッ!そうじゃったな!なら、こちらに兵を回して来たという事じゃな」

「それに戦巫女の姿も無いそうです。こちらに来るのでしょう」

「作戦は成功という事じゃな」

「はい。これならば私と老公二人で待つ必要はありません。老公には兵を500程連れてトウエツ街道を通って、敵の補給線を叩いてからバルドール城を攻める敵軍を背後から攻撃してもらいたいのです」

「わしは構わんが、二人で戦巫女と源流の英知を迎え撃つのではないのか?お主一人ではキツかろう?」

「まあ、それはそうですが・・・ですが敵は思っていた以上にこちらに兵を割いて来ました。私の予想ではアマノニダイ軍の500が来ると思っていたのですが、敵は帝国軍の一兵団を回してきています。それで私と老公が負けるとは思いませんが、勇者候補を仕留められる保証も無くなりました」

「ならば補給を断ってから、敵背後に回ってバルドール達に加勢した方が良いと?」

「はい。あの二人とバルドール城が残れば、その後も勇者候補を相手に勝算が立ちますから」

「確かにな・・・だが、主は大丈夫か?あの小娘二人相手では、たとえ主でも死ぬかもしれんぞ?」

「・・・では老公が代わってくださいませんか?」

「ヒャッヒャッヒャッ!まっぴらごめんじゃ。この老体に鞭は打たんでくれ」

「ならば私が迎え撃つしかないでしょう。幸い、ここには湖もあります。深さも十分です。ならば勝てないまでも、生き延びる自信はあります」

「なるほどの。確かにわしより主が相手する方が生存率は高そうじゃ。では、バルドール城にはわしが行くとしよう。いつ出れば良い?」

「明日の朝には出発して頂かないと、バルドール城の戦いに間に合わないかもしれません」

「そうじゃな。では今夜中に支度して明日出るとしよう」

「よろしくお願いします____」


 話が終わると、タキシードの魔族が白獅子の獣人に一礼して二人は別行動に移った。

 ヤトリはそれを確認すると、盗聴魔法を解除し、サレンと目を見合わせた。


「急いで戻りましょう。別行動をする部隊を叩くなら、先回りしなくてはならないはずです」

「ああ、そうだな。魔力はまだ持つか?」

「もちろんです」

「愚問だったな。よし、じゃー行こう」

「はい!」


敵の作戦を把握した二人は、来た時同様に隠術魔法と探知魔法を駆使して、“一つの影に見送られながら”もと来た道を戻って行った_____。

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