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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ナタリア城

 ___ナタリア城(バルドール城)。


 ナタリア城は、30メートルはあろうかという、高く厚い城壁に囲まれている。

その周囲の地形は、ベーベル平原同様にバルドールの手によって沼地にされており、岩場も多い。

この数多くの岩場は、不自然なほどナタリア城の城壁から一定の距離を置いてナタリア城を囲う様に点在しているため、人為的に置かれたものだというのが分かる。

 記録によればナタリア城は、二百年ほど前は栄華を極めていた国の城だったので、このような岩場を設置するとは考えられない。そのため、まず間違いなく魔族の手によるものだろう。

岩場に魔獣を潜ませ伏兵にするためか、或いは岩場の幾つかにトラップが有るのだろうか?

トラップにしても魔法的なモノの可能性だって有る。

攻める際は、十分に注意が必要だろう。

 更にその他に、元はこの城の住人だったと思われる者達の人骨が至る所にある。

地面に無造作に捨て置かれているモノから、地面に刺さっている杭に貫かれているモノ、城壁に吊るされているモノもあり、数は数える気にもならないほどで、草木一つ無い汚泥や苔の濁った景色に、その人骨が薄汚れた白い模様を描き、視覚的に不快感を抱いてしまう景色を作っている。

 これらは食料として食い散らかしたのだろうか?それとも、自分達の力を誇示するために見せしめだろうか?

残虐な悪魔ならただ単に“遊んだ”という可能性も有る。

ただどちらにしろ、知性の高い上級魔族が居る場合は、これらも罠になっている可能性が有る。

アンデットの罠だ____。

あの人骨がいつ動いて生者に襲い掛かって来てもおかしくは無い。

こちらも岩場や沼地と合わせて警戒しなければならない。


 人骨や汚泥といったもので埋め尽くされているナタリア城の空気は、その景色から想像できる通り・・いや、その想像を超えて汚泥臭、死臭、腐敗臭、獣臭の混じった悪臭を放っており、この悪臭は、数百メートル離れた場所で野営している帝国軍のところまでも届いており、兵士達を不快にさせていた。


「悪趣味だ・・・全て。もし魔王大戦に敗北したら、この大陸全てがこの様な世界に変るのか・・・反吐が出る」


 ジョウショウは、帝国軍の野営地から少し離れた丘の上でナタリア城を一望しながら、不快な景色と悪臭に顔を歪めて心底不快だと吐き捨てる。

だが、それも暫の間の事。

ジョウショウは気を取り直すと、指揮官の頭に思考を切り替えて、不快な景色を戦場として観察する。


「さすがに主要な拠点だけあってベーベル平原のときよりも“質の良い”獲物が居てくれているな」


 ナタリア城の警護には、ベーベル平原のときにいた魔獣の上位種などもおり、目視しただけでも以前より敵の質が良く、精鋭が揃っていると分かる。

 例えば、歩兵には前回の主力だったリザードマンの他に、その上位種でリザードマンより一回り体格が大きく、燃える様な赤い皮膚を持ったハイリザードマン。

同じく、前回歩兵として戦場に居たゴブリンの上位種、ゴブリンを支配し使役する豚の獣人オーク。さらにその上位種である象の獣人エレファントマン。

そして、8メートルから10メートルにもなる大型の上級魔族、サイクロプスと、歩兵は大幅に強化されている。

 飛行部隊も同様に強化されており、前回いたフェイク・フェニックス、ワイバーンの他にも、急降下で獲物を取るのを得意とし、風魔法を扱うヘルコンドル。さらに、そのヘルコンドル上位種で、10メートル近い大きさの上級魔獣に分類される大型の飛行魔獣ボマー・ヘルコンドルも加わっている。

 その上、リッチ、スカルメイジ、イビルメイジといった魔術師タイプのアンデットや悪魔の姿も見え、所々でそれらの部隊指揮官と思われるグレーターデーモンも十体近く確認でき、兵種や連携、統率といったものまで前回の比ではなく強力な軍が編成されており、一目見ただけでも切り崩すのが困難だと分かる。

 だが、そんな屈強な魔族達を見据えながらも、ジョウショウは不敵な笑みを浮かべ狩る側の姿勢を崩さず、“質の良い”獲物だと、その魔族たちをあくまで“素材”として見ている。


「兵士はともかく、城の設備や施設などには真新しい物は見られない・・・。この作戦でスカーマリスに入る前にバグスに調べさせた時と変わっていない・・・。我々がベーベル平原からここまで来るのに数日。それなりに時間は有ったはずだ・・・なめているのか?」


 この城の主、恐らくこの戦場で総大将を務めている者は、特別に城を強化・補強をする必要は無いと判断したという事だ。

油断してくれるのはありがたいが、下に見られているという事実に、ジョウショウは多少不快感を抱いた。



 帝国は城攻めが得意だ。

 理由として兵の数や経験値なども挙げられるが、一番の大きな理由はやはり魔術だ。

魔法技術が発達した近代戦争の攻城戦においては、攻め手側にとっても守り手側にとっても魔法が最大の要因となる。

兵士の装備、食料の保存方法などに使用したり、城の防衛設備や攻城兵器といった物にも強化する上で魔法を付与したりと、様々な用途に魔法は使われている。

そして、こういった魔法技術に帝国は最も長けている。

 だが、何と言っても攻城戦で帝国が有利になれるのは、集団魔法の扱いに長けているからだ。

殆どの国の兵士が十数人でしか行えない集団魔法を、帝国は百~千もの規模で行う事ができ、その集団魔法の威力は、魔法で強化された破城槌などの攻城兵器よりはるかに強力で、持ち運ぶ手間も無い。

 通常、城門の破壊には数日、もしくはそれ以上の時間を費やすことになる。

だが、集団魔法を使えば、早ければ数時間で城門を破壊でき、城の強度と兵の戦力次第では一日で落とせることだってあるほどだ。

 何年も帝国と戦ってきたスカーマリス魔族なら、帝国の魔法技術の凄さも知っているはずである。

にも拘らず、城の防衛設備に何の補強もしていていないという事は、人間を下に見ているからなのだろう。

 確かに、上級魔族によって強化された城門は補強などしなくてもかなり硬く、たとえ帝国軍でも突破には時間が掛かる可能性が有る。

そして、魔法だけでなく、様々な固有の能力を持つ魔族は、人間やエルフより相手を翻弄し、陣形を崩す術に長けている。

集団魔法は強力だが、魔力量とタイミングを合わせなければ効果が発揮できない。

それを崩す方法を魔族は持っていると言える。

 魔族相手に城を落とすために集団魔法を使うとなると、伏兵を警戒したり、特殊効果を持つ相手に対策したりと、防御に人員を回す必要が出てきて、集団魔法を使う人数が減る。

もしそれを怠って、陣形を崩されでもしたら、個人の力量で勝る魔族にあっという間に戦いの流れを持って行かれてしまうだろう。

ましてベーベル平原より強い個体で上級魔族、魔法部隊などもいる今回は、部隊の陣形は命綱ともなり、これを維持することは絶対条件といえる____。

 といった具合に、魔族側の戦力を考えるとナタリア城を落とすのは容易ではなく、魔族側に自信が有るのも頷ける。



 この自信は、決して自惚れとは言えないのではないか?



(ふん・・・自惚れだよ)


 ジョウショウは自信があるという魔族達にそう断言する。

 帝国・・ジョウショウからすれば今説明したことは、やっぱり“そんな事は百も承知”という事なのだ。

ジョウショウ配下の帝国東方軍は、対魔族に特化した軍団。当然、このナタリア城に集結している魔族達も分析し、対策は出来上がっている。

上級魔族とはいえ、今更恐れる相手ではない。

 それに今回は勇者候補も居る。

ジェネリーとレインならば、初見の魔族相手にも力でねじ伏せ無双するだろうし、帝国の集団魔法を上回る彼女たちの攻撃魔法は城壁や城門とて容易に破壊できてしまうだろう。


(最も、あの二人の使いどころは別だがな・・・)


 これがただの攻城戦ならば、二人を前に出して敵兵を蹂躙しつつ城門を破壊させ、後は城内に兵を流し込めば陥落できるだろう。

だが、この戦いでの一番の目的は城を落とす事では無い。

 一番の目的は、ディディアルを操った存在の調査、情報収集だ。

つまり、スカーマリス魔族の長の捕縛こそが目的である。

斥候の報告で、それらしい魔族の存在を二体確認している。この二体を生け捕るのだ。

恐らく魔王軍幹部だったであろう者達、未知数の最上級魔族の捕縛____勇者候補の二人を使うなら、ここ以外に無いだろう。

万が一、他所で勇者候補を使用して、二人の力に魔族の長達が恐れをなして逃げられでもしたら目も当てられない。

勇者候補の投入は、敵魔族の長が現れた時にするのが良いだろう___。


「____決まりだな」


 色々な要素を考え、作戦を決めたジョウショウは、考えるのを止めて自軍の野営地に戻る。

野営地に戻るとジョウショウは直ぐに、ウザネ、シュウゼン、ヴァリネス、レイン、ジェネリー、ハツヒナ軍の副団長と、主だったメンバーを集め、作戦会議を開いた。

 そして、作戦会議を行った次の日、ジョウショウは全軍にナタリア城への攻撃命令を出した____。

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