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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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罠に向かって(後半)

(一体なんだというのだ、ホウジョウ?ヤトリを口説く機会などいくらでも作れるだろうに頑なに己が行くと言って聞かん。・・・他にも目的が有るのか?)


 余りに自分勝手に話を進めるハツヒナに、ジョウショウはさらに疑惑を深めていく。


「・・・・・」


 シュウゼンの方は、釈然としない様子ながら口を閉ざした。

共同作戦とはいえ、アマノニダイは兵員を帝国軍の十分の一も動員していない。

我が儘を言える立場では無いのだ。

そのため、総大将のジョウショウが認めたのならば、それ以上は口が挟めなかった。



 (何なんだ?ハツヒナの奴・・・・嫌な予感がする・・・)


ハツヒナがウザネとシュウゼンの申し出を断わった事で、オーマもジョウショウ同様にハツヒナが是が非でもミクネと共に迎撃に出るつもりでいると感じ、その事に亡霊に取りつかれたかと思うほどの悪寒に晒されていた。

 数日前の作戦会議で、ナナリーから聞いたハツヒナの本性と性癖を考えれば、警戒するのは当然だろう。


(・・・まさか、これに乗じてミクネをレイプするとかじゃないだろうな?・・・いや、さすがにそこまでは・・何より無理だろう・・・いや、でも・・・)


 オーマはハツヒナが自身の欲望に従ってヤトリに危害を加える可能性を考える___。



 普通に考えて、ハツヒナがヤトリに危害を加える事は極めて難しいはずだ。

ヤトリは帝国の同盟国の要人であり、勇者候補の一人なのだ。手を出すこと自体ありえない。

 だが、この“勇者候補”というのが、逆にハツヒナが行動に移す可能性を生むのだ。

 帝国・・いや、第一貴族は勇者と勇者候補を手駒にしたがっている。

だから勇者候補の扱いに関しては慎重だし、彼女たちを攻略するオーマに多大な権限を与えている。

だが言い換えれば、手駒に出来るのならば手段は問わないという事、どんな手段でも良いという事。

第一貴族のハツヒナがオーマに代わってヤトリを垂らし込めるなら、それでも良いという事でもある。

この作戦は、勇者を手駒にするためにオーマを利用しているのであって、第一貴族が直接手綱を握れるなら別にオーマは居なくても良いのだから。

ならばハツヒナが、自分のモノになるまでヤトリに危害を加え続ける可能性だって有る。


 ハツヒナがヤトリを襲う可能性は否定できるものではない。


 そして肝心なのが、ハツヒナにヤトリを倒す力が有るか?という事だ。

 これも普通に考えれば無理だろう。

ヤトリは勇者候補___。類いまれなる才を持つ超級魔導士で、間違いなくハツヒナより力が有る。


(普通に考えて大丈夫の様に思えるが、油断はできん・・・)


 オーマは先のベーベル平原で見せたハツヒナの能力を思い出す。


 信仰魔法RANK3の薬物属性___。

多種多様な薬と毒を作成できる属性で、その恐ろしさは既存に無い薬物も作れるという点。


 この、“既存に無い”という範囲はどれほどなのか?


 例えば、相手の魔力を封じる毒とか・・・サレンの様にそこまで行かずとも、魔力を低下させる毒といった既存に無い、常識外の毒まで作れるとしたら勝敗はどうなるだろうか?

それ以前に、先の戦いで使った麻痺毒がヤトリに通用する可能性だって十分に高い。

そして、狡猾さでは圧倒的にハツヒナの方が上なので知恵比べは分が悪い。

可能性を考えれば考えるほど、ハツヒナVSヤトリの戦いの勝敗は見えなくなっていく。

ハツヒナの持つ性格と能力は、たとえ勇者候補であっても確実に勝利できるとは言い切れないのだ。


(やはり、ここは何としてでも俺とサレンだけでも同行すべきだな・・・)


先の一件で恨まれている事は百も承知だが、ここは引き下がるわけにはいかないだろう。

 オーマは恐れ、緊張しながらも、覚悟を決めてハツヒナとの舌戦に臨んだ___。


「発言失礼します。ハツヒナ様、その迎撃部隊には私とサレンの二人も加えてはいただけないでしょうか?」

「もちろんですわ」

「ヤトリの能力を考えれば、サレンは____え?」

「クスッ・・・どうなさいました?オーマ殿?」


 あっさり許可したハツヒナに、オーマは呆気にとられる。

そして、そんなオーマにハツヒナは優しい笑みを向けてくれる。

その笑みには敵意や恨みといったネガティブな感情は見えず、純粋に呆然としているオーマが可笑しい様子だった。


(え?・・“もちろん”と言ったか?何故?ヤトリに危害を加える気は無い?何だコイツの気配は?悪意が全く無い・・・本当に戦略的に自分が行くべきと判断した?いや、そんなはずは・・・)


自身の覚悟が空回りしたのと相まって、ハツヒナの即答にオーマは返事が出来なかった。


「おい!どうした!ハツヒナ様が聞いておられるぞ!答えないか!!」

「___はっ!も、申し訳ありません!何分、私とサレンの二人は、ハツヒナ様の夜統騎士団と連携したことが無かったので、直ぐに色よい返事がいただけるとは思っておりませんでした!」


ウザネに叱られてオーマはとっさに言い訳する。

やや厳しい言い分だったが、ハツヒナは気にする事なく、いつもの優雅な笑みを見せていた。


「フフッ・・ご安心を、オーマ殿。私のツクヨミにそのような心配は無用ですわ。ちゃんと鍛えてありますから。それに、オーマ殿もサレンさんも歴戦の強者。私達の足手まといになるなどとは少しも思いませんわ。お二人の事、頼りにさせていただきます」

「か、過分な評価かと思いますが、そう言って頂けて光栄にございます」

「___チッ!」


ウザネが嫉妬でいつもの様にオーマを睨みつけてくる。

だが、オーマは今ハツヒナの様子が気になっていて、ウザネの方を気にする余裕が無かった。

ハツヒナの真意を覗き込むように様子を窺っているオーマに、今度はハツヒナからの申し出があった。


「それで、オーマ殿」

「は、はい?」

「ものは相談なのですが、先のヤーマル砦で工作を行った、雷鼠戦士団の工兵隊も連れてはいけませんか?」

「えっ!?」


思いもよらないハツヒナの提案に、オーマは驚きを隠せず、思わず声が出てしまった。


「し、失礼しました・・・」

「クスッ・・お気になさらずに。それで理由ですが、ツクヨミはそこまで工作が得意ではありませんし、先のヤーマル砦での工兵隊とヤトリさんの連携はバグスに引けを取らない見事なものでした。敵の待ち伏せも可能性にある以上、隠密が得意な人員も欲しいのですわ」

「は、はあ・・・」


ハツヒナの言い分は、至極真っ当に聞こえるものだった。

だが、オーマにはどうしてもその言い分を素直に聞き入れる気にはなれなかった。

むしろ、気持ちの上では連れて行きたくないとすら思うほど嫌な予感を覚えていた。


(でもだからって、断る理由も無いよな・・・。というより、断れる立場じゃないんだが・・・実際、ヤトリを守るならウェイフィーとシマズも居た方が心強いし・・・)


ハツヒナの真意のほどは分からないが、実際に戦場にウェイフィー達を連れて行けるのは大きな利点であり、これを自ら拒否する理由も無いはずである。

オーマは少し躊躇いながらも心に決めた。


「いかがです?雷鼠戦士団は前回の様に副団長の方が指揮できるでしょう?なら問題は無いと思いますが?」

「はい、分かりました。では、私の工兵隊も連れて行きましょう」

「ありがとうございますわ。これで問題は解決ですわ。ね?ジョウショウ閣下?」

「ああ・・・」


さっさと作戦を決めて笑顔を見せるハツヒナに、ジョウショウは三度の生返事を出した。


(これは・・・念のため、マサノリ様に打診しておいた方が良いな・・・)


結局、ジョウショウの事すら置いて作戦を決めてしまったハツヒナに、ジョウショウもオーマ同様に不安をぬぐえなかった。


 作戦会議が終わると、オーマ達迎撃部隊はその日の内に支度を整えて出発した。

それからジョウショウ達ナタリア城攻略部隊も翌朝には出発する。

そして、両軍とも一日かけて進軍すると、出発して二日目には目的地に到着し、オーマ達迎撃部隊はオウミに向かう敵部隊への攻略、ジョウショウ達攻城部隊はナタリア城への攻略をそれぞれ始めるのだった___。

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