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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
163/358

罠に向かって(前半)

 ベーベル平原の戦いが終わって五日が過ぎ、到着した補給部隊から補給を終えて、帝国東方軍とサンダーラッツは次の目的地であるナタリア城(バルドール城)へ向けて出陣した。

道中で問題が起きなければ、出発から三日後の夜か、四日後の昼には到着する予定で、五日後にはナタリア城の攻略に移れるはずだった。

だが、予定通りに進んでいた一行に、出陣して二日目の夜に問題が発生するのだった____。




 「____失礼します!ジョウショウ閣下!」

「・・・どうした?」


いつも報告に来る兵士の来たタイミングやその様子で、大体の内容に見当がつくジョウショウたったが、今回は思い当たることが無く、日が暮れた後というのも有って少し警戒した様子だった。


「ハッ!アマノニダイのシュウゼン様が緊急で面会を望んでおります!」

「シュウゼン殿が?」


来訪者の人物の名を聞いて益々見当がつかないジョウショウは、眉間のシワをさらに深くして返事した。


「・・・通せ」

「ハッ!」


ジョウショウの許可を得て、兵士の案内でシュウゼンがジョウショウの天幕に入ってくる。

その表情は強張っており、焦りも混じっているとジョウショウは読み取った。


「夜分遅くに申し訳ありません。ジョウショウ様」

「謝らないでくれ、シュウゼン殿。貴公と私の仲ではないか。それで?如何なされた?随分と慌てている様子」

「は、はい。実は____」

「____ッ!」

「______」

「______」

「___です。如何いたしましょう?」

「分かりました。・・・誰か!」


 ジョウショウはシュウゼンから事情を聴くと、すぐに人を呼んで、主だったメンバーを招集する様に指示を出した。

 そして数分後、ハツヒナ、ウザネ、オーマの三人。そして、最初は招集に難色を示しながらも、招集理由が同じエリストエルフのシュウゼンからの報告と聞いて、ヤトリもジョウショウの天幕に集合した___。




 「オウミ方面に向かう魔族の部隊を発見した?」


報告を聞いてウザネは不思議そうな表情を見せた。


「何故オウミ?あの地には戦略的に有意義な事は何もないと思いますが・・・」

「ウザネさん」

「ハツヒナ様?」

「オウミはヤトリさんの故郷ですわ」

「あ・・・・」

「・・・・・」


それを聞いてヤトリの方へ視線を移せば、ヤトリは口から血が出るほど歯をギリリッと鳴らして怒りを顕わにしていた。


「____クソッ!!」

「ま、待て!ミクネ!」


オーマは嫌な予感がしていたので、爆発するように駆け出したヤトリを何とか体を張って止めることが出来た。


「は、離せ!オーマぁ!オウミは私の故郷だ!魔族なんぞに潰されてたまるかぁ!!」

「落ち着けって!これはお前を釣るための罠だ!」

「その通りですわ、ヤトリさん。オウミ方面には戦略的に価値のある地域はございません。これはこの軍の主力である貴方を誘き寄せる為の罠ですわ」

「そんな事分かっている!!だからといって放って置く事なんて出来るか!!あそこにまともな戦力は無いんだぞ!!」

「だからといって、慌てて飛び出したって相手の思うつぼですよ!」

「シュウゼン殿の言う通りだ!とにかく落ち着けって!」


荒ぶるヤトリを、オーマ、ハツヒナ、シュウゼンが必死に宥める。


(面倒な・・・)


 その様子を、ジョウショウは表情こそ変えずに呆れていた。


(・・・やはりヤトリは呼ぶべきでは無かったか?)


ジョウショウは頭の中で一瞬そんな風に思ってしまった。

 正直、こうなる事は予想の範疇だった。

それでもジョウショウがヤトリを呼んだのは、単純に後々自分の故郷が襲われたことを黙っていたと思われたら恨まれ、ろうらく作戦に支障が出る可能性が有ったからだ。


(仕方が無いか・・まあ、予想通りであって、予想外ではないからな・・・)


ジョウショウは面倒に思いながらも、ヤトリに対して声を掛けた。


「ヤトリ様、ご安心ください。この魔族部隊にはちゃんと迎撃部隊を送ります」

「本当か!?ジョウショウ!?」

「はい、もちろんです。この魔族部隊はハツヒナ達が言う様にヤトリ様を誘う囮でしょうが、だからといって放っておけば厄介な事になります。報告ではその魔族部隊が発見された位置は、オウミ方面に抜ける道というだけではなく、迂回して我らの背後にも回れる位置でもあります。我らの背後も取れ、オウミを襲う事も出来る絶妙な位置にいるのです」

「敵は、“誘いに乗ってこなければ、オウミを襲うことも、背後を取ることも、補給線を潰すことも出来るからな?”と言っているのですわ」

「我らが戦力を割いて迎撃部隊を送る他ないように仕向けています。・・・この指揮官は頭が良い」

「その通り。ですので、どちらにせよ迎撃部隊を差し向ける必要が有るのです。そして、その迎撃部隊にはヤトリ様にも加わって頂くことになります」

「城攻めを前に多人数は割けられませんし、割けたとしても大人数の行軍では追いつけないかもしれません。魔獣は基本的に人間より身体能力が高いですから」

「そういう事ですわ。ですから、落ち着いて座ってくださいませ、ヤトリさん」

「・・・分かった。ならさっさと決めてくれ」


総大将のジョウショウが迎撃部隊を送るという事で、ヤトリはしぶしぶ納得し席に着き直した。

 そうして作戦会議が始まると、ハツヒナが、ヤトリの“さっさと決めてくれ”という願いを叶える様に直ぐに意見を出した。


「では、ここは私が参りますわ」

「ハツヒナ様!?」

「・・・・・」


ハツヒナの発言に、ウザネは意外だという反応を見せ、ジョウショウはその真意を量るかの様な視線を送った。


「・・・ハ、ハツヒナ様自ら、ですか?」

「はい。敵はヤトリさんを釣ろうというのですから、別働隊とはいえ、それなりの戦力のはず。下手な戦力では足手まといになるでしょう。ここは、私とその直属の月読命ツクヨミで迎撃いたします。これにヤトリさんを加えれば、戦力として申し分ないはずですわ」


 今回参加している帝国の兵団を見れば、確かにハツヒナの夜統騎士団(ナイトマスターナイツ、通称月読命ツクヨミ)は、ジョウショウ直属の炎統騎士団(フレイムマスターナイツ、通称火之迦具土神ヒノカグツチ)に次いで精強な兵団だろう。

差し向ける兵数を一兵団とするならば妥当ではある。


「し、しかし何もハツヒナ様が行かずとも・・ハツヒナ様のお手を煩わせるならば、私の青龍騎士団で___」

「ウザネさん。いくら東方軍では防衛軍と遠征軍に差は無いとは言っても、やはり向き不向きが有りますわ。攻城戦ともならば主力は貴方の遠征軍第二師団になりますわ。ね?ジョウショウ閣下?」

「・・・まあな」


ハツヒナの真意が見えないジョウショウは短く答えるだけだった・・・。


「ね?ですから私が参りますわ」

「は、はあ・・・」

「お、お待ちを!」

「シュウゼン殿?」

「私に行かせていただけませんか?連れてきた兵は500と少ないですが、アマズルの森での戦いならば地の利を活かせて優位に戦えます!」


ウザネの申し出が終わると、今度はシュウゼンからの申し出があった。

だが、ハツヒナはシュウゼンに対しても譲る気は無い様子だった。


「シュウゼン殿・・・自領を侵す者を己の手で打倒したいという気持ち、このハツヒナには痛いほど理解できますわ。ですが、それを認めるのは難しいですわ」

「な、何故ですか!?」

「今回のスカーマリス侵攻は、目的はどうであれ帝国とアマノニダイの共同作戦ですわ。ここでシュウゼン殿が自軍を連れてアマノニダイに戻れば、“敵前逃亡”、“共同作戦で自分達の都合を優先した”と非難されるかもしれません。ね?ジョウショウ閣下?」

「・・・まあな」

「ぬ・・・」


 ちゃんと事情を説明すればそんな声は上がらないし、上がったとしてもどうにでもできる。

ジョウショウは内心、シュウゼンの提案の方が真っ当だと思っていて、元々はジョウショウもシュウゼンとヤトリを向かわせるつもりだった。

だが、ハツヒナがどうして執着するのか理由が分からず、先程同じ生返事になってしまっていた___。

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