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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ベーベル平原の戦い(7)

 バリバリバリィイーーーーーーー!!


 凄まじい雷鳴を轟かせてオーマの放った雷が上空に迸る。

威力も申し分なく、魔法を喰らったワイバーン達は一瞬で黒焦げになって地面に落ちて行く。

だが____


「「グゥウウウアアアアア!!」」


 オーマは一流の魔導士で決して凡庸ではないが、オーマでも上級魔法の効果範囲は数十メートルが限界で、数百メートルにまで広がった敵飛行部隊の全てを打ち落とすというのは不可能だ。

ヤトリの風魔法に合わせていれば、風に乗って雷も広がり、ワイバーン達全てをヤトリの暴風から逃れる前に打ち落とせていただろう。

だが、ハツヒナの魔法に気を取られてしまい、完全にそのタイミングを逃してしまった。


「クソッ!!何やってんだ!!」


オーマは自分の迂闊さを呪う____。

 もし、攻撃を抜けたワイバーンによって味方に被害が出たらどうなるだろうか?

ワイバーンに殺られるとしたら、味方の前衛だろう。つまりハツヒナの部下だ。

ハツヒナの言葉を遮って勝手に行動した挙句、ハツヒナの部下たちを死なせてしまったとなれば、その後にどんな目に遭うか・・・。

許される訳もなく、悲惨な事になる未来しか見えない。

 オーマは、ウザネの射貫くような殺気や先程のハツヒナ尋常ならざる殺気を思い出し、背筋を凍らせた。


(クソッ!!仕留めきれない!どうする!?どうすればいい!?この状況からどうやって____)


「まだだ!!」

「え?」


頭の中で混乱しているオーマを正気に戻したのは、ヤトリの叫び声だった。


「私に任せろ!」

「ヤトリ!?」


 ヤトリはオーマにそれだけ言うと、今発動している魔法とは別で、新たな魔法術式を展開した。

新たな魔法術式で分かる魔法の規模・威力とも、残った飛行部隊を一掃するのに十分なものだというのが分かる。

だが・・いや、分かるからこそ___


「無茶だ!!」

「・・ぐ」


さすがに上級魔法を範囲拡大して使用しているところに、更に新しく強力な上級魔法を範囲拡大して撃とうというのは、肉体に相当な負担になる。

常人なら身を亡ぼすほどで、サレンでも上級魔法を複数打ち出すならタメが必要になる。

それを溜め無しで連続して撃とうというのだから、ヤトリでも相当な負担になるのは間違いない。


「おい!止めろ!ヤトリ!身が持たないぞ!」

「~~~ッ!っはあぁあああ!!」


オーマがヤトリの身を心配して止めるように訴えるが、ヤトリは構わず術式を練り上げた。

そして、速攻で上級魔法を範囲拡大した一撃を撃ち放った___


「____行けぇ!!真空斬波!!」


ヤトリの叫びと共に魔法が発動すると、幾百もの真空波が空を舞い、ワイバーンを中心に残った敵飛行部隊を切り裂いていく。

まるで刀でバターを切ったかの様に、敵の飛行魔獣達は翼、皮膚、肉、骨と、その体を滑らかにスライスされて、下の戦場に血の雨を降らせて死んでいった。

 ヤトリは見事に数百メートルもの広範囲に及ぶ上級魔法の二連撃をやってのけたのだった。


「マジかよ・・・・・」


 オーマはヤトリの広範囲上級魔法二連撃を目の当たりにして、先程ハツヒナのRANK3の魔法を見た時以上に驚愕していた。


「っ_____」

「あっ!お、おい!ヤトリ!?」


さすがに肉体への負担が大きかったのだろうヤトリは、フラついて倒れそうになる。

オーマは咄嗟にヤトリの肩を掴んで、その体を支えた。


「お、おい!大丈夫か!?」

「ああ・・大丈夫だ。ちょっと貧血になっただけだ。心配するな」

「・・たく、無茶しやがる」

「・・・お前が言うな」

「え?」

「お前も私のために無茶したろ。お前、絶対にホウジョウに恨まれたぞ」

「・・・・」

「そこにきて、お前の失敗でホウジョウの部下を死なせてみろ、お前はただじゃ済まないだろ」

「あ・・・」

「私のために無茶をした奴を悲惨な目に合わせてたまるか」

「ヤトリ・・・」


ヤトリが自分の心配をしてくれて体を張ってくれたというのが分かり、オーマはヤトリに対して初めて温かい感情が芽生えた。


「だからって、こんな無茶は・・・」

「ん?なんだ、お前。自分は無理するくせに他人には無理するなって言うタイプか?それは独りよがりだぞ」

「う・・・」


ヴァリネスやサレンと同じ指摘されて、オーマは何も言えなくなった。


「ヤ、ヤトリ・・・その」

「・・・ミクネ」

「え?」

「ミクネでいい・・・」

「・・・・」


ヤトリなりにオーマに心を開いているという事なのだろう。

今のオーマにはそのヤトリの気持ちが素直に嬉しかった。


「そ、その・・あ、ありがとうな・・ミクネ」

「おう・・・。もともとこの遠征で私に参加した欲しかったんだろ?なら頼ってくれていい・・わ、私は・・」

「ん?」

「私はオーマ、それにサンダーラッツに興味がある」

「・・・・・」

「だから頼ってくれていい・・特別にな」

「・・・分かった。そうさせてもらおう。ありがとうミクネ」


二人はお互いに見つめ合いながら頷いた。

ヤトリ、そして今回はオーマも、お互いに心を開き始めた瞬間だった____。




 「決まりだな・・」


空飛ぶ魔獣達が死滅していく様子を見ながらジョウショウは呟く。


「あの様子では、オーマ達の作戦も順調だろうな」


尋常ではない威力と規模の魔法を見て、ヤトリがちゃんと連携に加わっているのが事実であると分かる。

ジョウショウとしては一安心だった。

自身に直接任された任務ではないとはいえ、自身が関わって第一貴族の任務が上手く行かない、などという事はジョウショウのプライドが許さない。


「そんな事になれば、我が主のマサノリ様に顔向けができんからな」


それにオーマの担っているろうらく作戦が上手く行かなければ、この地で他の作戦を行う意味も無くなってしまう。


「グレーターデーモンを含めた残りの敵部隊もハツヒナとウザネの部隊だけで十分だろう・・・。次はいよいよ魔族の長とご対面かな?」


 この戦いに自分の出番は無いと悟ったジョウショウは、もう頭の中で次の戦場について考え始めた___。






 遊撃の飛行部隊を失った事で、魔族軍はいよいよ打つ手が無くなり、指揮官のグレーターデーモンは元々血色の悪いその顔をさらに青くしていた。


「い、一体どうすれば・・・て、撤退か?い、いや、そんな事をすればバルドール様に・・だが、どうする?」

「報告!味方の後衛部隊の被害甚大!突破されます!!」

「なっ!?」


指揮官のグレーターデーモンが頭を悩ませているうちに、帝国軍は魔族軍の後衛も撃破してしまった。


「お、終わりだ・・・・・」


グレーターデーモンは戦の敗北と、自身の死を悟った・・・。


 その後、そのまま指揮官のグレーターデーモンとその護衛部隊を蹴散らした帝国軍は、このベーベル平原での戦いでも、ほとんど被害を出すことなく完勝したのだった____。






 「で、出番が無かったわね・・・」

「余裕で完勝してしまいましたね」

「うーん、さすが対魔族軍と呼ばれる東方軍。魔族との戦いでは帝国軍でも頭一つ抜けているな」

「でも、ちょっとくらい出番が欲しかったですね」

「いーじゃん、いーじゃん、楽できて」

「よ、良いのでしょうか・・・私、こっちに来てから、まだ何もしていないのですが・・・」

「それはご主人様だけじゃありませんよ・・・私もです。ぶっちゃけ暇です」

「まあまあ二人共、次こそは出番が有るわよ・・・多分だけど」


今回まったく出番が無かったヴァリネス達は、複雑な思いで完勝して勝鬨を上げる東方軍を眺めていた____。






 「・・・・・」


東方軍が勝鬨を上げて喜びを表現している最中、ハツヒナはその輪に入ることなく、無表情にヤトリとオーマが居る方向を見ていた。


「許しませんわ・・・あの二人」


その声は小さく、すぐに東方軍の勝鬨にかき消されてしまう・・・。

だが、その小さな呟きには、尋常ではない殺気が込められていた。


(長年コンタクトを取り続けた私の手は払うというのに・・・あの男とは嫌がることなく手を引かれて・・・屈辱だわ。お互いの距離を縮めてから___なんて面倒なことは止めますわ・・あの小娘はすぐにでも調教しなければ・・・。作戦だって、結果としてミクネを帝国の駒に出来れば良いのですもの・・・あの男でなくても良いはず。ただ問題は、他の娘のことが有る以上、あの男に危害を加えるのが難しいという事・・・・・どうしましょうか?)


ハツヒナは無表情のまま、内側でドス黒い感情を沸き立たせ考える。


(そうですわ!あの男に危害を加えられない“だけ”ですわ!・・・私としたことが、こんな簡単な事に気が付かないなんて・・・頭に血が昇り過ぎですわね)


ここでハツヒナは初めて自傷気味に笑みを浮かべ、感情を表に出した。


(あの男が無理なら、あの男以外を標的にすればいいのですわ・・・そう、あの男の近しい者達・・・例えば、サンダーラッツの幹部達とか・・・・・フフフ♪)


今後の楽しみが出来たハツヒナは、先程の自称気味な笑顔を邪悪なものに変えて笑うのだった___。

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