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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ベーベル平原の戦い(6)

 「ハツヒナ様、オーマ団長は少し焦っていただけだと思います。実際時間は有りませんし、我々も左翼側へ参りましょう」

「・・・そうですわね」


 サレンはオーマをフォローする様な口調でハツヒナを誘い、共に自軍左翼側に向かって走り出す。

この時には、ハツヒナの気配にも表情にもオーマに対する感情は見えなくなっていた。

それが逆に心が読めず、サレンは不安になったが、何とか自分を奮い立たせていた____。






 「お、おい・・オーマ」

「あん?」

「大丈夫なのか?お前のさっきの態度・・・お前の立場じゃー・・・」


同盟国の人間として帝国の事情を知るヤトリは、平民の立場で第一貴族を雑に扱ったオーマの事が心配な様子だった。


「・・・別に大丈夫だ。気にするな。それより、お前はハツヒナが苦手なんだろ?」

「え?あ、ああ・・・」

「じゃー、ああするしかないだろう。時間も無かったし・・」

「う、うん・・・」

「そんなに気に病むなよ。それより気持ちを切り替えろ、もうすぐだ。俺一人じゃー、どう頑張ってもあれだけの飛空部隊は叩けない。当てにさせてもらうぞ」

「あ・・ああ!」


 オーマとヤトリは改めて顔を見合わると、気持ちを切り替えて走る速度を上げた。

そうして会話を終えると、十秒もしない内にサレン達と挟撃できそうなポイントまで到達した。


「この辺りで良いか!?」

「ああ!相手は上空に居る奴らだけだ!遠慮はいらないよな!?」

「もちろんだ!お前の風魔法に合わせて俺の電撃魔法を乗せる。タイミングは俺が合わせるから思いっきり行け!」

「分かった!」


ヤトリは気合の入った返事と共に、敵飛行部隊を叩くため魔法術式を展開する。

そこに込められた魔力はヤトリ一人で敵を殲滅できそうなほど強力なものだった。


(やっぱすげぇ!こいつ!)


その圧倒的な魔力にオーマは一瞬気圧されるが、すぐに自信も気合を入れ直して、自身最強の魔法を発動するべく魔法術式を展開した_____。






 「この辺りでよろしいですか?サレンさん」

「はい!良いポジションかと!」


オーマとヤトリがポイントに到達して魔法の準備を始めたのとほぼ同時に、サレンとハツヒナも挟撃ポイントに到達していた。


「確かサレンさんは、基本の四属性を全て扱えるとか」

「はい」

「では、できるだけ規模の大きい風魔法をお願いいたしますわ。それに私が追撃で合わせますから」

「分かりました!」


本音を言えばサレンはハツヒナがどんな攻撃をするつもりなのか聞きたかったが、先程の一件を気にしてハツヒナを刺激するのは避けた。


「はぁあああ!」


サレンは気を取り直して風属性の上級魔法を広範囲で繰り出せるように術式を構築していく。


(ハツヒナ様は___)


術式に注意しながらも、サレンは周囲に気を配りながらハツヒナの様子も見る。

そうしてサレンの視界に入ったハツヒナはサレンと同じく魔法術式を展開していた。


(___あの術式は!?)


ハツヒナが展開している術式の色は濁ったような鶯色。

だが汚らしい感じでは無く、むしろその輝きはハツヒナの美貌と和服の戦闘服とマッチして、壮大で厳かな雰囲気を放っていて神々しささえある。


(あの魔法の属性は何!?)


サレンは、自身でも見た事の無い属性の魔法術式と、ハツヒナの美しい姿に目を奪われてしまう。


「サレンさん、集中なさい」

「は、はい!」


惚けていたのをハツヒナにたしなめられて、サレンはすぐに意識を取り戻す。


(見ればわかる事だもんね)


自分に向けて放たれるわけでは無いのだから見て確認すれば済む。

自身にそう言い聞かせ、サレンは自身の魔法術式に集中して術式を完成させた。


「行けます!」

「こちらも準備完了ですわ!撃って下さいませ!」

「はい!グレイトフル・ハリケーン!」


サレンは、自身で扱える最強の風属性攻撃魔法を最大規模で発動した。


______グゥウウオオオオオオオオオ!!


______グゥウウオオオオオオオオオ!!


 サレンが魔法を発動すると、ヤトリがそれに合わせたのだろう、右翼側からも凄まじい暴風が発生した。

両サイドから発生した暴風は、敵飛行部隊をすっぽりと効果範囲に入れることができ、ハーピィ達はもちろん、強く大きい翼を持つフェイク・フェニックスやワイバーン達の動きも止めて、その旋風で肉体を切り裂いていった。

とはいえ、今だ戦闘不能になる個体は少ない。だがすぐに、ハツヒナとオーマの追撃が入る。


 先に追撃の魔法を発動したのはハツヒナだった___。


草烏頭万尖そううずまんせん


ハツヒナが魔法を発動すると、数千、いや数万はあろうかという長さ10センチほどの青紫色の細い針が発射され、サレンの起こした暴風に乗って、敵飛行部隊へと襲い掛かった。


(針?じゃーハツヒナ様の属性はヴァリネスと同じ金属性?いや、違う!ハツヒナ様が展開した術式は金属性の光じゃなかった・・まさか、その上!?)


サレンは初見ながらハツヒナの使用した魔法の属性の答えを導き出した。



 ハツヒナの使用した属性は、“薬物”属性____。

RANK2の金属性か樹属性から派生する、帝国の基準でRANK3に位置する高ランクの信仰魔法で、ハツヒナは金属性から派生し使用できるようになった。

 薬物属性の特徴は、あらゆる生物にとって毒となる物質や、薬となる物質を作成できることだ。

 毒や薬といったモノは他の属性でも性質変化を使用したり、樹属性ならば薬草や毒草を錬成したりすれば、その効果を得ることが出来る。

 RANK3の薬物属性がこれらと大きく違うのは、金属性でヴァリネスがヌティール合金というオリジナルの金属を錬成できるのと同じように、薬物属性も既存にないオリジナルの薬物を錬成できるという点だ。

 この一点だけが大きな特徴なワケだが、この一点が薬物属性の凶悪さを物語るのだ。

 既存にない薬物を作れるという事は、既存にある解毒剤や毒耐性を持つ肉体では防げない薬物を作れるという事でもある。

 例えば、世間に出回っている狩り用の麻痺毒と同じ効果を生む麻痺毒を錬成したとして、それがオリジナルの配合ならば麻痺毒の解毒剤では回復できない。

練度を上げて、薬物の錬成パターンを増やせば、強い毒耐性を持つ生物に対しても解毒不可能な毒を錬成することも可能になるという恐るべき魔法である。

 事実、高い毒耐性を持つはずのフェイク・フェニックスがハツヒナの針に打たれると、痙攣を起こして動けなくなっていた。

サレンとヤトリの起こした暴風の中で動けずに、その風に吹かれて地面に叩き落されれば、大抵の個体は死に至るだろう。

仮に地面に落ちて生き残れたとしても、通常の方法では解毒不可能な麻痺毒を撃たれている以上動けないまま、いずれ心臓麻痺を起こして死ぬ事になる。

ハツヒナの針が風に乗って魔獣飛行部隊を襲った時点で勝負は着いていたといっても良い。




 「す、すげぇ・・・」


オーマの居る位置からでは砂なのか針なのかまでは判別できなかったが、フェイク・フェニックスに表れた症状でオーマはハツヒナの能力を悟り、驚愕していた。


(RANK3の薬物属性・・・初めて見た。他の第一貴族もあれ位のRANKの信仰魔法を扱えるのだろうか・・・。いやいや、そんなはず・・・だが・・)


 オーマは他の第一貴族たちもハツヒナと同等の魔導士ではないかと疑問を持った。

 魔法の才に関しては、出生や出身、血統といったものは関係が無い___というのが定説である。

なので、オーマの心配は杞憂かとも思えるが、オーマはこの考えを否定する。

 何故ならば、その定説を唱えているのが帝国の第一貴族だからだ。

であるならば、自分達の地位を盤石にするために、ウソの定説を唱えている可能性だって有る。

 本当は、出生や子作りの時に魔法の才を与える方法や、もっとシンプルに実はそこまで才能が無くてもRANKを派生させる技術が有るのかもしれない。

もし、そうして魔法を上達させる技術や知識の肝心な部分を第一貴族たちだけが独占していたならば、反乱軍にとって脅威となる。


(世の魔法の才の定説が事実なら冷静に考えて、カスミはともかく帝国三大貴族が代々あれだけの高位の魔導士であるというのは不自然だ。第一貴族たちだけが持つ高位の魔導士になる知識や技術が有ると考えた方が自然だ・・・だが、どうする?)


 そうだといっても、それを調べる事も手に入れる事も、オーマの立場では容易な事ではない。

いや、正直に不可能と言ってしまっていいかもしれない。

ハツヒナの実力を見て、オーマは頭を抱えてしまっていた。


「オーマ!?」

「___ハッ!?あ!しまっ・・!?」


 すっかり考え込んでしまい、ここが戦場である事を忘れていたオーマは、ヤトリの声で現実に戻ってくる。

見れば、数十体のワイバーンがヤトリの暴風を抜けて帝国軍の前衛に向かって行くところだった。


「くっ!ケラウノス!!」


 完全にタイミングを逃したオーマは、慌てて自身最大最強の魔法を繰り出すのだった____。

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