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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ベーベル平原の戦い(5)

 「そうなると残りは___」


シマズがそう言ったのを合図に、全員の視線がオーマに集中する。


「オーマ殿。サレンさんはこう言っておりますが、オーマ殿はよろしいのですか?」

「・・・・・」


 正直なところ、オーマには三人の意図が全く分かっていなかった。

それだけでなく、ハツヒナが何故こじつけの様な理由でヤトリと二人で戦いたがっているのかも分かってはいない。


 だが、すでに答えは出ていた。


 サレン達やハツヒナの意図が見えない・・・いや、そもそもオーマはこの一連の流れでサレン達やハツヒナを見ていなかった。

見ていたのは____


「う・・・」


____ヤトリだった。

どういう訳かは分からないが、ヤトリはサレンとハツヒナが交渉している間、半ベソを欠きながらオーマに視線を送っていたのだ。


(仕方ねーなぁ・・)


普段強気なヤトリに、そんな弱気な視線を向けられてはオーマに断る事などできなかった。


「はい。私も同行し、微量ながらサポートいたします。ここの部隊の指揮はフィットプットに任せておけば大丈夫でしょう」

「ほっ・・・」


ヤトリはこの状況で、“唯一ハツヒナと同行することを賛成しなかった”オーマが同行すると言ってくれたことに胸を撫で下ろした。

もちろんサレン達は、ヤトリにもっとオーマへ気持ちを向けてもらうために狙ってやった。


「では決まりですね。ならば急ぎましょう。結構話し込んでいたせいで、すでに戦況は変わっています」


 戦況を確認すると、戦いは帝国軍がほぼ無傷で敵軍前衛を殲滅し、敵軍後衛を迎え撃つ準備に入っていた。

敵が遊撃を使うなら、自軍後衛と帝国軍前衛が接触する直前か直後だろう。

ならば、少数精鋭とはいえぐずぐずしてはいられないだろう。


「では参りましょう。こちらは既に部下への指示は終わっておりますわ」

「了解です。ウェイフィー、シマズ、ここを頼む」

「いってらっしゃい」

「了解です」

「では、ヤトリさん。魔法を解除しますが、暴れないでくださいね?」

「分かっているよ・・・」

「おい、焼き・・・ヤトリ」

「ん?」

「行くぞ」

「お、おう・・」


オーマは少し気まずさを感じながらもヤトリにもしっか声を掛けた。

そのことが嬉しかったのか、ヤトリはオーマに反発しなかった。


「ふふ・・」

「・・・・」


その様子を、サレンは微笑ましく、ハツヒナは無表情という正反対の感情で見守った後、オーマ達と共に前線へと駆け出した____。




 「何とか上手く行きましたね」

「うん。即興だったけど、良い連携だったと思う」


 ウェイフィーとシマズは、走り去る四人の背中を見送りながら、自分達の仕事に満足していた。


「サレンさんの活躍が大きいですね」

「うん。成長していた」


サレンの心の成長に、ウェイフィーは友人として心から喜んでいた。


「でも何故ハツヒナ様は、あそこまでヤトリさんと連携を取りたかったのでしょう?」

「さあ?でも好都合だった」

「はい」

「シマズも頑張った」

「そうですか?私は特には・・・」

「一兵士の立場じゃ第一貴族に意見を言うのも大変」


基本的に第一貴族から問われない限りは、口を挟んではならないのが帝国の常識だ。


「お安い御用ですよ、これくらい。それに・・・」

「それに?」

「多分、今日はもう出番が無いと思いますので」

「・・・確かに。でも一応」

「はい。一応」


何となくこの後の展開が見えているので、自分達にはもう出番が無いと理解しつつも、持ち場に戻るのだった____。




 オーマ、ハツヒナ、サレン、ヤトリの四人は、四人とも潜在魔法で肉体を強化して疾風の如く戦場を駆け上がる。


「おい、魔・・オーマ」

「ん?どうした?」

「_____」


サレンは風属性の通信魔法の応用で、オーマにだけ聞こえるように話し掛けてきた。


「その・・・すまん。お前・・」

「別にいいって。嫌な奴と戦場に立ちたくない気持ちは俺にも分かる」


これまで、傲慢な上司と生意気な部下に振り回されてきたオーマには、分かる過ぎることだった。


「なんだ!?私のことか!?」

「ちげーよ・・・(ていうか、自覚あったんだな・・・)」

「じゃー誰だ?」

「それは___」


オーマは頭の中で帝国の貴族達が思い浮かべる。だが、それは今ヤトリに話せる人物たちでは無い。


「___行くぞ」

「あ!?お、おい!?」


それだけ言って、オーマはスピードを上げて先に行ってしまった。


「・・・本当に・・・誰なんだよ・・・」


何かを期待するかのように、ヤトリは呟いた___。





 「敵飛行部隊も動き出しました!」


四人が前に上がって、前衛の部隊と合流し始めた頃、敵指揮官は予想していた通り飛行部隊を動かして来た。

 サレンに言われて前方上空を確認すると、ハーピィが中央に、その両サイドにフェイク・フェニックスとワイバーンが並び、帝国軍前衛中央に向かって来ていた。

 再び魔法の発動と、敵との接触のタイミングを合わせる作業が必要になるわけだが、少数で超級の魔導士もいるオーマ達サイドが圧倒的に優位だ。


「でも、ハーピィはともかく、フェイク・フェニックスとワイバーンには少し工夫がいるかしら?」

「そうですね。その二種は中級魔族の中ではかなりタフですから、威力が下がる広範囲の魔法では倒しきれないかもしれません」

「だから、私がやると・・・」

「ヤトリさん」

「だー!もう!分かってるって!」


ヤトリはまだ心の中で、“私一人で行ける!”を残していたが、サレンの言葉に渋い顔をしながらも従った。



 ハーピィ、ワイバーン、フェイク・フェニックスの三種の魔族。

三種とも中級魔獣に分類されるのだが、ワイバーンとフェイク・フェニックスは中級でも上位に位置し、上級魔獣に近い高位の魔獣だ。

 ワイバーンは幻獣最強の竜族の血が流れている種族で、肉体の強さが他の魔獣の比ではない。

少なくとも、今回の戦場に現れている敵軍の中では、グレーターデーモンを除けば一番強い種族になる。

 また、フェイク・フェニックスは、ベヒーモスと同じ生物兵器で、上級悪魔達が幻獣王フェニックスを模して造ったとされ、その性能は本物よりは格段に劣るものの、炎属性の魔法を多彩に扱い、魔法防御力も高く、毒などの状態異常に対しても高い耐性を持ち、更には肉体の再生能力まで持っているので、カラフルで美しい見た目からは想像できないほど打たれ強く、中級魔獣の中でも屈指のタフネスを誇っている。



 「ワイバーン、フェイク・フェニックスは最初の一撃で仕留めないと面倒なことになりますわ。どうでしょう?私達で更に二手に分かれて攻撃するというのは?」

「賛成です。二手に分かれて両サイドから挟撃するのが有効でしょう」

「では、ヤトリさんと私が左手側、サレンさんとオーマ殿が右手側から攻撃するという事で___」

「異議あり!そんなのダメだ!!」


ハツヒナの提案に反対の声を上げたのは、やっぱりヤトリだ。


「あら?どうしてですの?この場合は二手に分かれた方が___」

「そこじゃない!すっとぼけるな!なんで私がお前とペアを組まなきゃならないんだ!絶対に嫌だ!!」

「えー・・ですが___」

「申し訳ありません!ハツヒナ様!ここは私とヤトリで右手側に向かいます!」

「え?」


ハツヒナがヤトリを言いくるめようと話し出そうとしたその時、オーマは二人の間に強引に割り込んだ。


「敵はもう目の前。ここで長々と話している暇は有りません。ヤトリはまだ帝国軍に馴染んでいませんので、ハツヒナ様と連携するのは気まずいでしょう!私が連れて行きます!」

「あ、ちょ・・」

「行くぞ!ヤトリ!」

「え?あ、お、おい」


オーマは、やや早口でハツヒナに畳み掛けると、そのままヤトリの手を取って自軍右翼側へと駆け出した。


「な・・・なんですの・・・なんですの!?」


ハツヒナは少しの間呆気に取られていたものの、自分の話を殆ど無視するようなオーマの態度に沸々と怒りがこみ上げて来ていた。


(何なんですの!?あの男!?あり得ませんわ!平民の分際で!!ミクネを連れ出しただけでなく、私に対してあんなぞんざいな態度!)


ハツヒナは我を忘れて、ヤトリの手を取って走るオーマの背中に殺気を叩き込んだ。


(絶対に許しませんわ!!)


((うわっ!?))


それは、ハツヒナが理性を無くしたほんの一瞬の事だったが、オーマ達三人にはハッキリと伝わった。


(・・・・恨まれたな・・・)


オーマは、ハツヒナがヤトリに何故そこまで執着するのか理由こそ分からないものの、ハツヒナが完璧に自分と敵対したことを自覚した____。

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