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チート勇者ろうらく作戦  作者: 脆い一人
第四章:烈震の勇者ろうらく作戦
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ベーベル平原の戦い(3)

 ハツヒナの東方防衛軍第二師団の力によって、魔族側は前衛のリザードマン部隊が壊滅的なダメージを負っていた。


「いかん!左翼右翼ともに上がれ!後衛部隊も全部隊前進!」


 魔族軍指揮官のグレーターデーモンは、この事態に慌てて指示を飛ばす。

正直なところ、先程の爆発を見た時点でリザードマン部隊は捨てざるを得ないと考えているが、間を置いては再びあの爆発を起こされる恐れがある。

そう考えた上で乱戦に持ち込むため、遊撃の飛行部隊だけを残し、残りの全軍を前に出した。


「リザードマン部隊を捨ててはバルドール様に申し訳ないと思うが、負ければそれどころの話ではない」


 己が主人バルドールは、たとえ犠牲が出たとしても勝利を手にした者には寛大だ。

理由は、あまり戦術や戦略に対してこだわりが無く、種族関係無く弱者は淘汰されると考えているからだ。

 だが、敗北した者に対しては容赦がない。

バルドールは負け犬を飼うつもりは無いと公言している。

もし敗北すれば、被害を抑えて無事に帰還できたとしても、指揮官のグレーターデーモンはバルドールの手によって殺されるだろう。

 最初の間合いの取り合いで相手指揮官に上を行かれて、敗北を匂わせる先制攻撃を受けてしまったグレーターデーモンは、皮肉にも神にすがるような気持で指示を出していた。

だが、指示を出した後に空を飛んで上空から戦況を確認すると、また自分より相手が上を行っている事を知る羽目になるのだった____。





 「ウザネ様!敵前衛の両翼、後衛の全部隊が前進してきました!」

「こちらの左翼は?」

「異常なし!予定通りです!」

「そうか、分かった。報告ご苦労。では、そのまま予定通りに進めろと___」

「___了解」


ウザネに報告を終えた通信兵は、そのままウザネの指示を自軍左翼の通信兵に送る___。

 ウザネの方はというと、自分が指揮する右翼と共に前進しながら、敵軍に邪悪な笑みを浮かべていた。

事前の作戦会議で、ハツヒナの先制攻撃も、その後に敵が乱戦に持ち込むであろうことも知っていたウザネは、最初から中央のハツヒナ軍と共に軍を進めており、更にはハツヒナ軍の攻撃規模も把握していた為、ハツヒナが先制を行う前もその後も前進し続けていたおかげで、中央に寄ってくるように向かってくる敵軍両翼とハツヒナ軍との間を陣取ることに成功していた。


「四列横隊!魔法術式も同時に展開し、迎撃準備!」


「「了解!!」」


 ウザネの号令で、東方遠征軍第二師団は魔法術式を展開しながら列を作って、敵軍両翼に対してハツヒナ軍の壁となる。

 その流れはスムーズで、両サイドに分かれていながらもウザネはしっかりと指揮できていた。

また、その東方遠征軍第二師団の兵士達の動きも見事なものだった。

 ウザネの指揮力、遠征軍の練度、ハツヒナ軍の先制を活かすことによって、ウザネもまた、敵指揮官の一歩先を行き、迫ってくる敵軍両翼に対して迎撃態勢を整えて見せたのだった。


 ウザネたち帝国軍右翼の前に居るのはゼオノトプス部隊。

ゼオノトプスは、オーマ達遠征軍のレザーアーマーの材料にもなる黒く硬い皮膚を持ったサイに似た魔獣だ。

体高2メートル、体長5メートルもあり、重さも5トンとかなり重く、中型魔獣と大型魔獣の中間くらいの体格をしている。

そんな体格に硬い皮膚が黒光りしている様は、まるで黒い装甲戦車だ。

特筆すべき能力は無いが、シンプルに硬く重く強い。

その重量感のある突進だけで、並みの者ならば足が竦んでしまうだろう。

 だがウザネは、そんな魔獣が黒い津波となって襲ってくるのを視界に入れつつ不敵に笑っていた。


「ふん・・・迎撃開始だ!」

「了解!」


ウザネの指示が通信兵を通して各部隊に回ると、各部隊から集団魔法が飛んだ。


「マッド・リンク発動!」

「ウォーター・リンク斉射!」


「よし!次だ!」


「ストーム・ウィンド撃てぇ!!」

「ファイヤー・ウェーブ発射!!」


 四列横隊の東方遠征第二師団は、手前の列から順に土属性、水属性、一呼吸おいて風属性、炎属性の集団魔法を飛ばした。

地面に泥を敷く“マッド・リンク”と水を敷く“ウォーター・リンク”で、地面の泥濘をさらに深くして、突進してくるゼオノトプスの足を鈍らせる。

 そうすると、前のゼオノトプスから速度が落ちていき、ゼオノトプス部隊は詰まって渋滞を起こす。

そこにピタリとタイミングが合った、“ストーム・ウィンド”と“ファイヤー・ウェーブ”の複合攻撃を叩き込む。

風の旋風で強化された炎が業火となってゼオノトプス達に襲い掛かった____。



 「「ンボォオオオオオ!!」」


ゼオノトプス達は、自慢の硬い皮膚を焼き剥がされて、低音の金管楽器の様な低く響くうめき声を上げ、混乱に陥る。

闘争心を無くさず帝国軍に向かって行く者、業火の苦しみで逃げようとする者、反応は個々で様々だったが、ゼオノトプス部隊のほぼ全員が深くなった泥濘に足を取られて思うように動けず、その場でのたうつように死んでいく。

 また、ウザネとは反対の左翼の東方遠征軍第二師団も、副師団長の号令の下、敵左翼のグレイトホーン部隊を同じ方法で迎撃して圧倒的優位に立っていた。





 「団長・・・」

「ああ、ウザネ軍もやるな」

「すごいですね。やはり属性が多いと、集団戦でも多彩な戦い方ができるのですね」

「それに魔獣達の進軍速度、反応速度、すべて熟知していますね」

「ぐぬぬぬぬ・・・」


ハツヒナ軍の戦いぶりを見ていたのと同様に、サレン、ウェイフィー、シマズは再び感心の声を上げる。

今度はオーマもだ。

 だが案の定、ヤトリはまたも反発してくるのだった。


「フンッ!そんなに褒められることか?」

「えー・・・」

「ですが、かなりの連携ですよ?」

「はい。一般の戦場では滅多に見れません」

「だとしても、さっきの奴らよりは雑魚だろう」

「まあ・・それは、そうだな」


 ヤトリのこの意見にはオーマも同意だった。

東方遠征軍第二師団を二手に分けていたからと言い訳もできるが、それでも迎撃態勢を整えるのに若干のタイムラグがあった。

敵の前衛がゼオノトプスとグレイトホーンだったから間に合ったが、もっと足の速い後衛のグレイハウンドとハイエルフ・タイガーが前衛だったら、こちらの攻撃の前に味方の最前列が噛みつかれていた可能性が有る。

だからこそオーマも、“素直に”感心できたのだ。


「ですが、どちらにせよホウジョウ師団長もニジョウ師団長も、敵指揮官の上を行っています」

「兵士のクオリティも連携によって、魔獣達を超えています」

「確かに・・・このまま決めてしまいそうだな」

「出番がない」

「んだとぉー!?じゃー、私は何しにここに来たというのだ!?」

「あ、いや・・・」

「しまった」


ヤトリに詰められてオーマ達は困惑する。

ヤトリが、自分を戦場に誘っておきながら自分に出番が無いと分かったら不満を漏らす人格だと理解していたのに、その事態を引き起こしてしまった。


「い、いや、無いかもと言っただけで、無いとは言い切ってないぞ?」

「そ、そうですよ!」

「まだ決着はついていない」

「そうだ。まだ敵は飛行能力を持った遊撃を備えている。まだどう転ぶかは分からない・・・」


四人は必死に“まだ決着はついていない、出番は有る”とヤトリを宥める。

内心で、“いやぁ・・もう出番は無いだろうー・・・”と思いながら。


「本当か?なんか表情からして無理言ってる感がすごいぞ?」

「ほ、ホントウダ」

「皆ヤトリさんを頼りにしていますから、きっと声が掛かります・・・多分」

「何だ?最後聞き取れんかったぞ?」

「ヤトリさんに戦ってほしいと思っているはずと言ったのです!本当です!」

「・・・さっきは止められたが?」

「それは作戦を無視して突っ走ろうとするから」

「その通りだ。お前の力そのものは皆当てにしているよ」

「魔王・・・本当か?」

「魔王言うな。でも本当だ、焼き鳥」

「焼き鳥言うな・・・ふん。ま、まあ、そういう事なら当てにされるまで待ってやろうじゃないか」


「「ほっ・・・」」


四人にヨイショされて頬を少しだけ赤らめながら納得したヤトリに、オーマ達は一安心する。

だが、その一安心は本当の意味での一安心だった。


「あら、待たなくても大丈夫ですわ、ヤトリさん♪早速当てにさせていただきますから♪」

「___ピッ!?」


そう言って現れたのは、味方中央の指揮をしているはずのハツヒナだった。

満面の笑みを浮かべて歩み寄って来たハツヒナの登場で、一同に(特にヤトリに)緊張が走る。


「ハ、ハツヒナ様!?」

「どうされたのですか!?」

「どうしたも、こうしたも、戦場でヤトリさんにお声がけしているのですから、ヤトリさんの力を当てにしてですわ♪」


そう言ってハツヒナは邪悪な気配と自身の欲望を押し殺してヤトリに微笑んだ____。

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